残業代請求が認容された場合や和解がなされた場合には、支払われる金銭に関する社会保険料や税金は、どのように処理することになるのでしょうか。
今回は、残業代請求に関する社会保険料や税金について解説します。
残業代請求が判決で認容された場合
残業代請求を認める判決の認容金額
裁判所は、残業代請求が認められる場合には、社会保険料の労働者負担分並びに所得税を控除しない金額につき、支払いを命じる判決をします。
そのため、労働者は、判決に基づき、未払残業代全額について強制執行をすることができます。
各保険料及び税金
残業代請求が認容された場合、労働者の賃金額が増額となるため、未払残業代があった期間をもとに算定される社会保険料や税金の金額も増額となる場合があります。ただし、社会保険料を徴収する権利は、2年を経過したときは、時効により消滅します(労働保険の保険料の徴収等に関する法律41条1項、健康保険法193条、厚生年金保険法92条)。
使用者は、残業代請求が認容された場合において、労働者に対して、未払残業代があった期間をもとに算定された社会保険料の労働者負担分費用の差額について、請求をすることができます。
また、使用者は、判決に基づき強制執行により未払残業代を回収された場合であっても、源泉徴収義務を負います。そのため、使用者は、税務署に労働者の所得税分を納税する義務を負うことになります。使用者は、税務署に労働者の所得税分を納めた場合には、労働者に対して、求償できるとされています(所得税法222条)。
もっとも、未払い残業代全額につき労働者が支払いを受け、その後、使用者に対して社会保険料の労働者負担分や所得税の源泉徴収分を支払うというのでは、手続き煩雑となります。そのため、使用者は、判決後、労働者に対して、社会保険料の労働者負担分や所得税の源泉徴収分を控除した上で、任意に支払いをする場合があります。
付加金と税金
付加金については、一時所得として課税されます。
和解の場合
和解の場合、多くは、解決金という名目で、使用者から労働者に対して金銭の支払いがなされます。
解決金という名目であっても、実質的に賃金としての性質を有する場合には、社会保険料や源泉徴収される所得税の算定にも影響することになります。もっとも、使用者は、解決金という名目での支給する場合には、通常、使用者は賃金の実質を有しないものとして処理する傾向にあります。そのため、社会保険の給付額との関係で賃金として扱ってもらいたい場合には、賃金という名目で和解条項に規定しておくべきでしょう。