解雇は不当となるケースが多いと聞いたものの、その根拠となる「判例」や「法律」がわからないと悩んでいませんか?
解雇については、「解雇権濫用法理」が判例として確立し、これが労働契約法上も明文として規定されるに至っています。
つまり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当といえない解雇は濫用として無効となるのです。
ただ、そうは言っても、「合理性」や「相当性」という言葉では、どのような場合に濫用に当たるのかがわかりにくいですよね。
あなたがされた解雇が不当かを検討するには、解雇理由ごとに具体的な判例の傾向を分析する必要があります。
加えて、実際に、解雇が不当であるとされた場合に、どの程度の賃金や逸失利益、慰謝料を請求できるかについて判例の傾向を知っておくことは、見通しを立てる上で重要です。
今回は、解雇と戦うために知っておくべき判例について整理して説明していきます。
この記事で紹介されている判例は以下のとおりです。
この記事を読めば不当解雇の判例の傾向がよくわかるはずです。
目次
解雇権濫用の判例と法律
解雇の判例としては、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇の効力が争われた事件に関して、
最高裁において「客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効である」と判示されたものがあります。
(参考判例1:最判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁[日本食塩事件])
それ以降、「客観に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない解雇は無効になる」との判例法理が確立しています。
そして、平成15年には、労働基準法に解雇権濫用法理が明記されました(旧労働基準法18条の2)。
現在では、労働契約法が制定されたことにより、上記の規定は労働基準法から労働契約法に移され、解雇権濫用法理は「労働契約法16条」により規定されています。
労働契約法16条(解雇)
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
解雇の条件については以下の記事で詳しく解説しています。
懲戒権の濫用については、労働契約法15条により以下のように規定されています。
労働契約法15条(懲戒)
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
そのため、懲戒解雇については、この労働契約法15条により懲戒権濫用法理が適用されます。
判例では、懲戒をするには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておき、これを労働者に周知させる手続きを取ることが必要とされています。
(参考判例2:最判平成15年10月10日労判861号5頁[フジ興産事件])
解雇理由ごとの判例
あなたがされた解雇が不当かを検討するには、解雇理由ごとに具体的な判例の傾向を分析する必要があります。
解雇理由としてよくあるものの例を挙げると以下のとおりです。
・勤務成績不良
・経歴詐称
・業務命令違反
・無断欠勤
・パワハラやセクハラ
・飲酒運転
・会社の経営不振
それでは、順番に判例の傾向を説明していきます。
勤務成績不良
判例は、成績不良を理由とする解雇について、労働者に求められている職務能力を検討した上で、①職務能力の低下が労働契約の継続を期待することができない程に重大なものか、②会社が労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か、③今後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を総合考慮して、正当性を判断します。
(参考判例3:東京高判平成25年4月24日労判1074号75頁[ブルームバーグ・エル・ピー事件])
また、定年まで勤務を続けていくことを前提に長期間にわたり勤続してきた場合には、成績不良を理由とする解雇の判断基準を通常よりも厳格となる傾向にあります。
長期間勤務した事案の判例として、「それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていること」を必要とするとしたものがあります。
(参考判例4:東京地決平成13年8月10日労判820号74頁[エース損害保険事件])
勤務成績不良を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説します。
経歴詐称
経歴詐称を理由とする解雇は、重要な経歴の詐称に限られる傾向にあります。
そして、判例は、「重要な経歴」とは、偽られた経歴につき通常の会社が正しい認識を有していたならば、求職者につき労働契約を締結しなかったであろう経歴と解しています。
複数の経歴事項を偽った場合には、その全部を総合して重要な経歴を偽ったと言えるかが判断されます。
(参考判例5:東京高判昭和56年11月25日判タ460号139頁[日本鋼管鶴見造船所事件])
経歴詐称を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
業務命令違反
判例は、業務命令違反を理由とする解雇について、就業規則所定の「業務命令を拒否したとき」に形式的に該当するだけでは足りず、より実質的に、当該行為が、その性質及び態様その他の事情に照らし、重大な業務命令違反であって、会社の企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは、その現実的な危険性を有していることが必要であるとしています。
(参考判例6:東京地判平成24年11月30日労判1069号36頁[日本通信事件])
業務命令違反を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
無断欠勤
無断欠勤を理由とする解雇は、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」というのが正当性を判断する上でのメルクマールとなります。
しかし、判例では、2週間以上の欠勤についても解雇が無効とされることがあります。
例えば、判例は、3カ月の無断欠勤を理由に懲戒解雇された事案につき、無断欠勤が会社代表者による暴行が原因であったことを考慮し、懲戒解雇を無効としています。
(参考判例7:福岡高判昭和50年5月12日労判230号54頁[紫苑タクシー事件])
無断欠勤については、以下の記事で詳しく解説しています。
会社の経営不振
会社の経営不振を理由とする解雇については、判例では、以下の4つの要素が考慮される傾向にあります。
①人員削減の必要性
②解雇回避努力
③人選基準と人選の合理性
④手続きの相当性
(参考判例8:東京高判昭和54年10月29日[東洋酸素事件])
経営不振を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
試用期間満了による本採用拒否や内定取り消しの判例
解雇に準じて考えられているものとして、「試用期間満了による本採用拒否」や「内定取り消し」があります。
これらについても、それぞれ判例を紹介していきます。
試用期間満了による本採用拒否
試用期間とは、一定期間労働者を働かせることで、採用時に知ることができなかった適格性等を正確に判断する期間です。
試用期間満了による本採用拒否は、雇い入れ後における解雇に当たるとされています。
本採用拒否については、通常の解雇と全く同一とはいえないので、本採用拒否の方が通常の解雇よりも広く認められるとされています。
具体的には、試用期間満了による本採用拒否は、採用決定後における調査の結果により、または、試用中の勤務状態等により、①当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、②そのような事実に照らしその者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが客観的に相当である場合に認められます。
(参考判例9:最判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁[三菱樹脂事件])
ただし、実際の判例では、本採用拒否の場合にも、通常の解雇と同程度に正当性が厳しく判断される傾向にあります。
試用期間満了による本採用拒否については、以下の記事で詳しく解説しています。
内定取り消し
内定について、判例は、明確な時期に所定の事由が発生しない限り入社させる旨の内定通知書が交付されている場合には、その時点で入社日を始期とする雇用契約が成立しているとして、試用期間と同様に判断する傾向にあります。
つまり、内定取り消しについては、雇い入れ後における解雇に当たると考えていくのです。
そのため、判例は、内定の取り消し事由は、①採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、②これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られるとしています。
(参考判例10:最判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁[大日本印刷事件])
内定取り消しについては、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇による慰謝料金額の判例
判例における不当解雇の慰謝料の相場は、
です。
判例は、不当解雇の慰謝料を判断するに当たっては、以下の事情を考慮する傾向にあります。
・悪質性の高さ
・労働者の落ち度
・解雇により精神疾患等の発症
・名誉毀損の程度
・再就職までにかかった期間
以下では不当解雇の慰謝料の判例を3つ紹介します。
不当解雇による慰謝料については、以下の記事でも詳しく解説しています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
懲戒解雇等の懲戒処分の内容を会社入口に掲載された事案[慰謝料50万円]
業務命令違反を理由とする懲戒解雇等の懲戒処分の内容を会社の入り口に掲載された事案において、
貼り紙の内容は虚偽であること、貼り紙は誰でも見ることができる状態で掲示されていたこと等を考慮して、
の慰謝料が認められました。
(参考判例11:札幌地判平成15年5月14日裁判所ウェブサイト)
継続的に暴行・暴言が行われていた事案[慰謝料100万円]
他の従業員から継続的に暴行・暴言を受けていた事案において、会社はこれを止めなかったばかりか、暴行・暴言を受けていたものを解雇する旨を通告したことについて、
暴言の内容・態様、解雇前の賃金受給状況等を総合勘案して、
の慰謝料が認められました。
(参考判例12:名古屋地判平成16年7月30日裁判所ウェブサイト)
仕事を取り上げられた、うつ病との診断もなされた事案[慰謝料150万円]
仕事の取り上げなどの嫌がらせの後、事業部が閉鎖することに伴う人員の整理により解雇された事案について、
一連の嫌がらせにより食欲不振や不眠を訴えるようになったこと、精神的ストレスから全身にじんましんが出たとこと、その後も症状は改善せずうつ病との診断もなされ、数か月にわたり医師のカウンセリングを受けていること、解雇により事実上退職を余儀なくされたこと等を考慮し、
の慰謝料が認められました。
(参考判例13:東京地判平成14年7月9日労判836号104頁[国際信販事件])
不当解雇後の賃金の判例
労働者は、不当解雇をされた後に業務をしていなかったとしても、「債権者の責めに帰すべき事由」による場合として、解雇後の賃金を請求することができます(民法536条2項)。
解雇が無効とされた場合には、その後に働くことができなかった原因は会社にあることになるためです。
民法536条(債務者の危険負担等)
2「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
不当解雇後の賃金の判例については、以下の2つの問題点をおさえておくべきです。
・解雇後に他社で働いていた場合の収入の控除
・解雇後の賃金と就労の意思
それぞれについて説明していきます。
解雇後に他社で働いていた場合の収入の控除
解雇後に他社で働いていた場合には、他社からも収入を得ることになります。他社から収入を得ているのに、更に解雇後の賃金を請求することは、二重取りになってしまいますので一定程度制限されます。
判例は、解雇された労働者に解雇期間中の中間収入がある場合には、その収入が副業的であって解雇がなくても当然に取得し得るなど特段の事情がない限り、その収入があったのと同時期の解雇期間中の賃金のうち、同時期の平均賃金の6割(労基法26条)を超える部分については、控除の対象になるとしています。
(参考判例14:最判昭和37年7月20日民集16巻8号1666頁[米軍山田部隊事件])
解雇後の賃金と就労の意思
解雇が不当な場合であっても、その後の賃金を請求するには、あなたが会社で働く意思(就労の意思)をもっていることが必要とされています。
あなたに働く意思がなければ、解雇後に働くことができなかったのは、会社の責めに帰すべき事由によるものということはできないからです。
判例は、解雇後に会社を設立して代表取締役を営んでいる事案について、就労の意思を否定したものがあります。
(参考判例15:東京地判平成9年8月26日労判724号48頁[オスロ―商会ほか事件])
解雇後の再就職については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇による逸失利益の判例
先ほど説明したように、労働者は、解雇が不当であっても、会社で働く意思を失ってしまった場合には、それ以降の賃金を請求することはできません。
しかし、解雇の悪質性が高い場合には、賃金を請求できない代わりに、賃金相当額の損害賠償請求をできることがあります。
判例は、不当解雇と因果関係を肯定できる賃金に関する逸失利益の範囲は、特段の事情が認められない限り、通常、再就職に必要な期間の賃金相当額に限られるとしています。
(参考判例16:東京地判平成23年11月25日労判1045号39頁[三枝商事事件])。
再就職までに必要な期間は、解雇されなかった場合に当該会社に勤務できたはずの期間、年齢からみた再就職の難易度、離職票の交付時期などを考慮して判断されます。
会社が解雇予告手当の支払いを拒絶し、離職票の交付もかなり遅れているという事案では、再就職までの期間は、解雇予告期間に加えて数か月必要があると認定されて概ね給与の3か月分の逸失利益が認められました(前掲三枝商事事件)。
また、解雇により約20年間続いてきた会社からの収入を断たれて、その年齢からも再就職が困難との事案では、給与の6か月分の逸失利益が認められました(参考判例17:東京地判平成19年11月29日労判957号[インフォマーテック事件])。
以上のように、不当解雇されてしまい、その会社で働く意思を失ってしまった場合でも、悪質性が高い場合には、具体的事情により再就職までに必要な期間の逸失利益として、給与の3か月分~6か月分程度の損害賠償請求が認められる可能性があります。
判例と異なる判断がされることはある?
判例と異なる判断がされることがあるか否かについて、見通しを立てる上で以下の2つの視点が重要となります。
・判例の射程が及ぶかどうか
・判例か裁判例か
順番に説明していきます。
判例の射程が及ぶかどうか
あなたの事案では、判例の理由となった事実関係と異なる部分がある場合には、別の判断になる可能性があります。
判例についてはその射程があるためです。事実関係が異なるために、事案によってはその判例の適用範囲外であることがあるのです。
そのため、当事者は、自分に不利な判例とは事実関係が異なることを、自分が有利な判例と事実間関係が近いことを、説得的に主張していくことになります。
このように判例の射程が及ばない場合には、その判例と異なる判断になることがあります。
判例か裁判例か
判例と言っても、いくつかの種類があります。
大きな分類としては、①最高裁判所の「判例」と、②地裁や高裁の「裁判例」があります。
①最高裁判所の「判例」については、裁判所の最終的な判断となりますので、先例的価値も大きくなります。
これに対して、②地裁や高裁の「裁判例」については、基本的にはその事例限りの判断ですので、先例的価値も限定的なのです。
このように判例と言ってもその種類によって、裁判所への影響力が異なります。①では判例変更がなされない限りは同一の判断になる可能性が高く、②では判断の上で参考としてもらえる可能性はありますが同一の判断にならない可能性もあるのです。
不当解雇の判例を知りたい場合は弁護士に相談しよう
不当解雇の判例を知りたい場合には弁護士に相談することがおすすめです。
自分で事案に即した判例を探そうとしても、日ごろから判例を読み慣れていないと難しいですし、判例のポイントを読み違えてしまうことも多いでしょう。
判例は、日々新しいものが出てきていますので、不当解雇の判例を知りたい場合には、解雇に注力している弁護士に相談するべきです。
重要なのは、その判例を踏まえて、あなたがどのように行動したほうがいいかです。弁護士に相談すれば、実際に不当解雇を争った経験などから、注意点について丁寧に助言してもらえるはずです。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、不当解雇の判例を知りたい場合には、弁護士に相談することがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、解雇と戦うために知っておくべき判例について整理して説明しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とされます。
・試用期間満了による本採用拒否及び内定取り消しについても、雇い入れ後における解雇に当たるとされています。
・判例における不当解雇の慰謝料の相場は、50万円~100万円程度です。
・解雇後に他社で働いていた場合には、更に解雇後の賃金を請求することは、二重取りになってしまいますので一定程度制限されます。
・労働者は、解雇が不当であっても、会社で働く意思を失ってしまった場合には、それ以降の賃金を請求することはできません。ただし、解雇の悪質性が高い場合には、賃金を請求できない代わりに、賃金相当額の損害賠償請求をできることがあります。
この記事が不当解雇の判例について悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。