付加金とはどのようなものか知りたいと悩んでいませんか?
付加金は専門的な用語ですので、聞きなれない方も多いですよね。
付加金とは、一定の金銭の未払いについて、会社への制裁として、更に同一金額の支払い義務を負わせるものです。
つまり、労働者は、付加金と未払金銭で合計2倍の金額を支払ってもらえることとなります。
労働基準法上、裁判所は、労働者の請求により、雇用主に付加金を命じることができるとされています。
付加金の対象となる金銭は以下の4つです。
金銭1:解雇予告手当
金銭2:休業手当
金銭3:割増賃金(残業代)
金銭4:年次有給休暇に係る賃金
ただし、以下のようなケースでは、付加金は支払われません。
ケース1:訴訟外の交渉で解決した場合
ケース2:労働審判で解決した場合
ケース3:控訴審で未払いの金銭が支払われた場合
ケース4:未払いの悪質性が低い場合
付加金は必ず認められるわけではなく、裁判所に一定の裁量がありますので、どのような場合に付加金が認められるのかについては、裁判例を分析する必要があります。
実は、付加金が実際に会社から支払われることはほとんどありませんが、付加金を上手く活用することで未払いの金銭をスムーズに支払ってもらうことができます。
この記事をとおして、付加金がどのようなものかについて知っていただければと思います。
今回は、付加金とは何かを説明したうえで、労働基準法上の根拠や付加金の対象となる金銭、除斥期間や遅延損害金を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、付加金とはどのようなものかがよくわかるはずです。
目次
付加金とは
付加金とは、一定の金銭の未払いについて、会社への制裁として、更に同一金額の支払い義務を負わせるものです。
つまり、労働者は、付加金と未払金銭で合計2倍の金額を支払ってもらえることとなります。
読み方は「ふかきん」です。
未払いに対して制裁を定めておくことにより、企業が任意で支払うことを促すことになります。
例えば、未払い残業代が250万円認められる場合には、同じ金額の付加金が認容される可能性があり、最終的に会社は500万円の支払いを命じられることがあります。
~最三小決平27.5.19民集69巻4号635頁~
同判例は、付加金の趣旨について、以下のように判示しています。
「その趣旨は、労働者の保護の観点から、上記の休業手当等の支払義務を履行しない使用者に対し一種の制裁として経済的な不利益を課すこととし、その支払義務の履行を促すことにより上記各規定の実効性を高めようとするものと解されるところ、このことに加え、上記のとおり使用者から労働者に対し付加金を直接支払うよう命ずべきものとされていることからすれば、同法114条の付加金については、使用者による上記の休業手当等の支払義務の不履行によって労働者に生ずる損害の填補という趣旨も併せ有するものということができる。」
付加金の根拠は労働基準法114条
付加金の根拠は、労働基準法114条です。
労働基準法114条
「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第7項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から2年以内にしなければならない。」
付加金の対象となる金銭4つ
付加金は、一定の金銭の未払いの場合にのみ命じることができます。
未払いがある場合でも対象となる金銭でなければ、裁判所が付加金を命じることはできません。
具体的には、付加金の対象となる金銭は以下の4つです。
金銭1:解雇予告手当
金銭2:休業手当
金銭3:割増賃金(残業代)
金銭4:年次有給休暇に係る賃金
それでは、順番に説明していきます。
金銭1:解雇予告手当
解雇予告手当というのは、会社が労働者に対して予告をしないで、いきなり解雇する場合に、支払わなければならない手当です。
会社は労働者を解雇する場合には、原則として30日前に予告をしなければならないとされています。
この予告を怠る場合には、不足する日数分の手当を支払わなければなりません。
解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
金銭2:休業手当
休業手当とは、雇用主に落ち度があり労働者を働かせることができない場合に支払う手当のことです。
労働基準法26条では平均賃金の60%を支払わなければならないとされています。
休業手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
金銭3:割増賃金(残業代)
割増賃金とは、残業代のことです。
労働基準法37条は、1日8時間・週40時間を超えて働いた場合、週1日の法定休日に働いた場合、午後10時~午前5時の間に働いた場合には、割増賃金を支払わなければならないとしています。
割増賃金の計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
金銭4:年次有給休暇に係る賃金
年次有給休暇に係る賃金とは、年次有給休暇を取得した場合に支給される賃金のことです。
年次有給休暇の賃金については、以下の3つの計算方法のいずれかにより支払わなければなりません。
方法1:平均賃金で計算する方法
方法2:通常の賃金で計算する方法
方法3:健康保険法上の標準報酬日額相当額で計算する方法
年次有給休暇については、以下の記事で詳しく解説しています。
~通常の賃金に付加金はない~
意外に思われるかもしれませんが、通常の賃金に付加金はありません。
労働基準法上、付加金の対象とされているのは上記の4つの金銭のみだからです。
例えば、会社が基本給の未払いをして、判決でこれを労働者に支払うように命じられたとしても、付加金までは命じられません。
その基本給の未払いが悪質なものであったとしても、これは変わりません。
付加金が支払われないケース4つ|実際はほとんど支払われない
付加金が支払われることは、実際にはほとんどありません。
会社側は最終的に付加金を支払うことになりそうな場合には、控訴審までの段階で未払いの金銭を支払ってくるためです。
以下では、付加金が支払わないケース4つを紹介します。
ケース1:訴訟外の交渉で解決した場合
ケース2:労働審判で解決した場合
ケース3:控訴審で未払いの金銭が支払われた場合
ケース4:未払いの悪質性が低い場合
それでは順番に説明していきます。
ケース1:訴訟外の交渉で解決した場合
交渉で解決した場合には、付加金は支払われません。
付加金は裁判所が命じるものですが、訴訟外の交渉には裁判所は関与しないためです。
ケース2:労働審判で解決した場合
労働審判で解決した場合には、付加金は支払われません。
付加金は裁判所が命じるものであり、労働審判委員会は付加金を命じることができないためです。
ケース3:控訴審で未払いの金銭が支払われた場合
控訴審で未払いの金銭が支払われた場合には、付加金は支払われません。
雇用主が事実審(=控訴審)の口頭弁論終結時までに、未払金の支払を完了した場合には、裁判所は付加金を命じることができないとされているためです(最一小判平26.3.6労判1119号5頁[甲野堂薬局事件])。
仮に第1審判決で付加金の支払いが命じられた場合でも、控訴審において雇用主が未払金を支払い付加金の取り消しを求めた場合には、裁判所は付加金の支払いを命じることができなくなります(東京地判平28.10.14労判1157号59頁[損保ジャパン日本興亜事件])。
そのため、第1審で敗訴して付加金の支払いを命じられた雇用主の多くは控訴審で未払い金銭の支払いをしてきますので、最終的に付加金の支払いが命じられることは少ないのです。
ケース4:未払いの悪質性が低い場合
未払いの悪質性が低い場合には、付加金は支払われません。
付加金はあくまでも裁判所が命ずることが「できる」ものにすぎず、未払いがあれば必ず認められるというわけではありません。
裁判所は、対象となる金銭の未払いがあり、悪質性が高い場合に限って、付加金を命じる傾向にあります。
付加金の重要裁判例8選とその傾向
付加金は必ず認められるわけではなく、どのような場合に付加金が認められるのかについては、裁判例を分析する必要があります。
付加金はあくまでも裁判所が命ずることが「できる」ものにすぎず、裁判所に一定の裁量があるためです。
具体的には、裁判例は、以下のような事情を考慮したうえで、付加金を命じるかどうかを判断しています(松山石油事件参照)。
・労働基準法違反の程度や態様
・労働者の不利益の性質、内容
・違反に至る経緯
・その後の会社の対応
例えば、以下の裁判例が参考になります。
朝日急配事件|名古屋地方裁判所昭和58年3月25日
江東運送事件|東京地判平成8年10月14日
松山石油事件|大阪地判平成13年10月19日
ゴムノナイキ事件|大阪高判平成17年12月1日
Aラーメン事件|仙台高判平成20年7月25日
H会計事務所事件|東京地判平成22年6月30日
コーダ・ジャパン事件横浜地判平成28年9月29日
アートコーポレーションほか事件|東京高判令和3年3月24日
それでは、各裁判例について順番に説明していきます。
朝日急配事件|名古屋地昭和58年3月25日労判411号76頁
貨物自動車の運転手が未払い残業代を請求した事案です。
会社が36協定を締結せずに残業を行わせ、残業代の支払いを怠っていることを考慮し、会社に付加金の支払いを命じました。
なお、同裁判例は、「被告に右のような割増賃金の未払額の支払義務がある以上、その未払につき被告の責に帰することを不相当とするような事情がない限り、附加金の支払を免かれないと解すべきである」とも判示しており参考になります。
江東運送事件|東京地判平成8年10月14日労判706号37頁
タンクローリー車の入庫誘導、防犯巡回、監視、閉門後の事務などの業務を行っていた者が未払い残業代を請求した事案です。
単に労働基準法その他の労働法規及びその運用に関する正確な知識を欠如していたことの結果であるのに過ぎないこと、被告の認識を前提にすれば割増賃金を支払う必要性がないと認識してもそれ自体が必ずしも不当であるとは言えないこと等を考慮し、付加金の支払いを命じませんでした。
松山石油事件|大阪地判平成13年10月19日労判820号15頁
マネージャーとして雇用され、給油サービスステーションで給油,車両点検などの作業に従事していた者が未払い残業代を請求した事案です。
当該裁判例は、まず「付加金の支払請求については,使用者による同法違反の程度や態様,労働者が受けた不利益の性質や内容,前記違反に至る経緯やその後の使用者の対応などの諸事情を考慮してその支払の可否及び金額を検討するのが妥当である」と判示しました。
そのうえで、長期にわたって未払の状態が続いていたとしつつも、以下の事情を考慮して付加金の支払いを命じませんでした。
・被告では労基法違反を認識しないまま被告内部においては手当の支給についてマネージャーと一般職とを区別して扱っていたこと
・管理職手当については、一般職の手当と比べて高額な金額を設定(マネージャーの(ママ)については管理職手当の方が基本給よりはるかに高額である。)こと
・労基署の調査以降、就業規則を改定(ママ)して、賃金体系を整えたとの事情があること
ゴムノナイキ事件|大阪高判平成17年12月1日労判933号69頁
工業用ゴム製品・合成樹脂製品の販売等を業とする会社で、生産管理及び納期のデリバリーを担当していた者が未払い残業代を請求した事案です。
裁判所は、まず「付加金の支払を命じるか否かについては,裁判所に裁量権があり,使用者に付加金の支払を命じることが酷であると認められるような場合には,付加金の支払を命じるのは相当ではないと解される。」と判示しました。
そのうえで、以下の事情を認定したうえで、付加金の支払いを命じました。
・タイムカードを導入しないなど自ら出退勤の管理を怠っていたこと
・そのため相当長時間の超過勤務手当について手当が支給されずに放置されていたこと
・現に,労働基準監督署からその旨の是正勧告も受けていること
Aラーメン事件|仙台高判平成20年7月25日労判968号29頁
ラーメン店で調理補助、ホール係をしていた者が残業代を請求した事案です。
内容証明郵便によって時間外手当を請求されたのに誠意ある対応をしてこなかったことを考慮し、付加金の支払い命じました。
H会計事務所事件|東京地判平成22年6月30日判タ1348号146頁
税理士法人に正社員として勤務していた者が、未払い残業代を請求した事案です。
本件訴訟提起後には、労働基準法に則した時間管理を的確に行おうとしていることが窺えるがとしつつも、
本件訴訟提起前は、管理監督者ではないことが明らかな従業員が、かなりの時間外労働をしても、僅かな例外はあるにせよ、基本的に割増賃金を支払わない運用をしていたことは明らかであるとして、付加金の支払いを命じました。
コーダ・ジャパン事件|横浜地判平成28年9月29日労判1218号67頁
運送会社でトラック運転手兼配車係として勤務していた者が未払い残業代を請求した事案です。
別件の労働審判で残業代を支払っていないと指摘され、給料の費目変更を行ったことについて、
弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談せずに、残業代を支払っていないように見えるのを防ぐため、小手先の形式的な措置を取っただけであり、残業代の不払いは、悪質と言わざるを得ないとして、付加金の支払いを命じました。
アートコーポレーションほか事件|東京高判令和3年3月24日
引越作業に従事する従業員が未払い残業代を請求した事案です。
第1審では付加金の支払いは命じられませんでした。
しかし、控訴審は、第1審によって、未払時間外割増賃金等が一部存在することや未払に対する法律上の主張に理由がないとの判断が示されているにも関わらず、その後も支払拒絶を継続しており、控訴理由に照らしても合理的とは言い難いことを考慮し、付加金の支払いを命じました。
付加金の除斥期間(≠時効)は3年
付加金の除斥期間は3年です。
つまり、裁判所への申し立てをした時点で給与の支払日から3年を経過している部分については、請求することができません。
2020年3月までは2年とされていましが、民法改正の影響で2020年4月以降は3年とされています。
労働基準法上は5年とされていますが、当面の間は3年とされています。
労働基準法第143条
2「第百十四条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「五年」とあるのは、「三年」とする。」
除斥期間とは、権利を行使しないまま一定の期間が経過することで、その権利が消滅するという制度です。
時効と異なり、内容証明郵便等で未払い割増賃金の支払いを催告したとしても期間の計算は中断されません。
また、時効と異なり、会社が3年を経過していることを援用するかに関わらず、裁判所は申立時点で3年が経過している部分については支払いを命じることができません。
付加金の遅延損害金は判決確定日の翌日から年3分
付加金の遅延損害金は、判決確定日の翌日から年3分となります(最一小判昭43.12.19集民93号713頁)。
付加金は判決が確定して初めてその支払義務が生じるものであるためです
付加金を請求する際の訴状の記載(請求の趣旨と訴額)
付加金を請求する際には、忘れずに訴状に記載する必要があります。
労働者からの請求がなければ、裁判所は命じることができないためです(最三小判令和元年12月17日)。
以下では、付加金を請求する際の請求の趣旨と訴額を順番に説明していきます。
付加金の請求の趣旨
付加金の請求の趣旨は以下のとおりです。
被告は、原告に対して、金●万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え
付加金の金額を計算する際には、申立時点で3年を経過している部分については請求できず、対象となるのは法外残業のみで法内残業は対象とならない点に注意が必要です。
なお、付加金には、仮執行宣言はつけられません。
付加金の訴額
付加金については、訴額には含まれません。
民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又は違約金の請求に含まれるとされているためです(最三小決平27.5.19民集69巻4号635頁)。
付加金と労働審判
付加金は、労働審判を申し立てる際にも請求するのが一般的です。
確かに、労働審判で付加金の支払いが命じられることはありません。しかし、労働審判時点で付加金の支払いを請求しておくことにより、除斥期間を止めることができます。
労働審判に対する異議が申し立てられると、労働審判申し立ての時に訴え提起があったものとみなされるためです(労働審判法22条1項)。
労働審判の申し立ての際に付加金を請求する場合の申立の趣旨は以下のとおりとなります。
相手方は、申立人に対して、金●万円及びこれに対する本案判決確定の日の翌日から支払い済みまで年3分の割合による金員を支払え
労働審判では付加金を命じることができないため、遅延損害金の起算日については「本案判決確定の日の翌日」となります。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
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まとめ
以上のとおり、今回は、付加金とは何かを説明したうえで、労働基準法上の根拠や付加金の対象となる金銭、除斥期間や遅延損害金を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・付加金とは、一定の金銭の未払いについて、会社への制裁として、更に同一金額の支払い義務を負わせるものです。
・付加金の根拠は、労働基準法114条です。
・付加金の対象となる金銭は以下の4つです。
金銭1:解雇予告手当
金銭2:休業手当
金銭3:割増賃金(残業代)
金銭4:年次有給休暇に係る賃金
・付加金が支払わないケースは以下の4つです。
ケース1:訴訟外の交渉で解決した場合
ケース2:労働審判で解決した場合
ケース3:控訴審で未払いの金銭が支払われた場合
ケース4:未払いの悪質性が低い場合
・付加金の除斥期間は3年です。
・付加金の遅延損害金は、判決確定日の翌日から年3分となります。
この記事が付加金とは何かを知りたいと考えている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。