労働者には、憲法上、団体行動権が保障されています。
では、具体的には、団体行動とはどのようなものであり、どのような保護が与えられているのでしょうか。
今回は、争議行為や組合活動及びその正当性について解説していきます。
目次
団体行動権とは
団体行動権とは、労働者の団体が労働条件の実現を図るために団体行動を行う権利です。
団体行動権には、争議権と組合活動権があります。
争議行為とは、使用者の業務の正常な運営を阻害する一切の行為です。労働者の集団がその主張の貫徹を目的として行います。例えば、ストライキ、怠業、ピケッティング、職場占拠、ボイコットなどがあります。
組合活動とは、争議行為以外の団体行動です。
厚生労働省による「平成30年労働争議統計調査の概況」によると、争議行為を伴う争議は、平成20年では「112件」ありましたが、平成30年では「58件」にとどまっており減少傾向にあります。
争議行為を伴う争議の行為形態別件数を見ると、平成30年では、「半日以上の同盟罷業」が「26件」、「半日未満の同盟罷業」が「42件」、「怠業」が「3件」、「その他」が「1件」となっています。
(出典:厚生労働省 平成30年労働争議統計調査の概況)
※争議行為を伴う争議で複数の行為形態を伴う労働争議(例えば「半日未満の同盟罷業」と「半日以上の同盟罷業」が併存する場合など)について、「争議行為を伴う争議」の計は、行為形態間で重複する部分を除いて計上されているので、行為形態別の数値の合計とは必ずしも一致しません。
(出典:厚生労働省 平成30年労働争議統計調査の概況)
法的保護の内容
刑事免責
正当な争議行為や組合活動については、刑法上の違法性がなく、刑罰を科されません。具体的には、正当行為として違法性が阻却されることになります。
労働組合法1条(目的)
2「刑法…第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。」
刑法35条(正当行為)
「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」
民事免責
使用者は、正当な争議行為や組合活動により、損害を受けたとしても、労働組合又は組合員に対し損害賠償を請求することはできません。債務不履行や不法行為の成立要件である違法性が否定されるためです。
民事免責については、明文では、争議行為に限定されて規定されていますが、組合活動についても民事免責を肯定するのが通説です。
労働組合法8条(損害賠償)
「使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。」
不利益取扱いからの保護
正当な争議行為や組合活動を理由として、労働組合員を不利益に取り扱った場合には、当該不利益取り扱いは公序良俗(民法90条)に反するものとして無効になり、更に不法行為として損害賠償請求が認められる場合があります。
争議行為の正当性
争議行為の正当性は、①主体の正当性、②目的の正当性、③開始時期・手続の正当性、④態様の正当性を検討して判断されます。
①主体の正当性
主体の正当性は、当該争議行為を遂行した者が団体交渉の主体となりうる者か否かにより判断されます。
②目的の正当性
目的の正当性は、団体交渉上の目的事項のために遂行されたか否かにより判断されます。
③開始時期・手続の正当性
団体交渉を経ない争議行為は、原則として、正当性が否定されます。ただし、交渉における話合いが尽くされた後でなければ行うことができないとはされていません。
争議行為が予告を経ずに行われた場合には、正当性を否定する方向の事情となります。
争議行為が平和義務・平和条項違反して行われた場合は、正当性を否定する方向の事情となります。
④態様の正当性
労務の完全な不提供(ストライキ)又は不完全な不提供(怠業)という消極的態様については、原則として正当性が認められます。
不法に使用者側の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為については、正当性が否定されます。
暴力の行使は、正当性が否定されます。
経営者の私宅において私生活の自由や平穏を侵害するような行為は、正当性が否定されます。
<フェア・プレーの原則>
信義則上、争議行為の開始には、その内容、開始時期、期間などを相手方に明らかにすべきであり、その終了に際しても時期を明確に通告するべきとされています。
組合活動の正当性
組合活動の正当性は、①主体、②目的、③態様の正当性を検討して判断します。
①主体の正当性
未組織労働者も、労働条件や待遇の維持改善のための団結活動であれば、団体行動権の保護を受けるとされています。
労働組合員の活動は、機関決定や指示に基づかずに自発的に行われた場合には、正当性が問題となることがあります。
②目的の正当性
組合活動については、団体交渉に関連した活動に限定せず、サークル活動や社会活動、政治活動等についても保護の対象になるとするのが多数説です。
③態様の正当性
就業時間内の組合活動は、原則として正当性が否定されます。但し、就業規則や労働協約上許容されている場合、慣行上許容されている場合、使用者の許諾がある場合には、正当性が肯定されます。
使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、使用者がその利用を許さないことが当該物的施設につき有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、正当性が否定されます(最判昭54.10.30民集33巻6号647頁[国鉄札幌運転区事件])。