解雇された場合に退職金がもらえるのか・いくらになるのかについて悩んでいませんか?
解雇された後は、会社からの賃金が支払われなくなってしまいなすので、少しでも多くの退職金が欲しいですよね。
結論から言うと、解雇された場合であっても、退職金規程に従い、退職金を請求できる可能性があります。
しかし、会社によっては、労働者に十分な知識がないのをいいことに、労働者からの請求がない限り、十分な退職金の支給をしない場合があります。
あなたが解雇された場合に十分な退職金を請求するためには、退職金のルールを理解したうえで、正しい手順で請求していく必要があります。
また、会社によっては、懲戒解雇の場合には退職金を支給しないなどの規定を設けていることがあります。
しかし、このような規定があっても、懲戒解雇であれば、常に退職金を支給しなくてもよいというわけではありません。
裁判例は、このような規定の適用を一定の場合に制限しています。
このように解雇された場合であっても、退職金を請求できる可能性があるのですが、実際には、「解雇されてしまったので、どうせ退職金はもらえないだろう…」と勘違いしてしまっている人・あきらめてしまっている人が非常に多いのです。
今回は、解雇の退職金についての考え方を説明したうえで、十分な退職金をもらうための手順を解説していきます。
誰でもわかるように簡単に説明していきますので、最後まで読んでくださいね。
具体的には、以下の流れで説明してきます。
この記事を読めば解雇された場合に退職金で損をすることがなくなるはずです!
目次
解雇で退職金なしは違法?
退職金規程があるのに、解雇という理由のみで、退職金を支払わないことは、原則として、許されません。
まず、前提として、退職金の支給義務を定めた法律はありません。
しかし、会社は、退職金規程がある場合には、これに従い、退職者に対して、退職金を支給する義務があります。
退職金規程としては、例えば、以下のような規定が置かれていることがあります。
第〇条(退職金の支給)
「勤続〇年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。…」
解雇された場合であっても、労働者が退職したことに変わりないので、定年や辞職により退職した場合と同様、退職金が支給されるのが原則です。
そのため、解雇だから退職金を支給しないということは、原則として、許されないのです。
ただし、会社によっては、懲戒解雇の場合には、退職金の不支給や減額を定めていることがあります。これについては、後ほど、説明いたします。
解雇の場合の退職金はいくら?
解雇の場合の退職金の金額は、一律ではありません。
あなたがいくらの退職金をもらえるかを知るには、退職金の金額の考え方を理解する必要があります。
以下では、解雇の場合の退職金の金額の考え方について、
・退職金の金額は退職金規程次第
・会社都合か自己都合かは解雇事由次第
・不当解雇の場合でも退職金の金額は同じ
・いきなり解雇された場合でも退職金の金額は同じ
の順番で説明していきます。
退職金の金額は退職金規程次第
まず、退職金の金額については、特に法律上の決まりはありません。
各会社で定められている退職金規程に従って計算されることになります。
例えば、定額制(勤続年数ごとに支給金額が決まっている場合)のもとでは、支給金額については、以下のような規定が置かれている場合があります。
このように退職金の金額については、会社ごとに異なり、退職金規程次第となります。
退職金の制度については、以下の記事で詳しく解説しています。
会社都合か自己都合かは解雇事由次第
退職金の金額は、会社都合退職と自己都合退職で区別されていることがあります。
例えば、基本給連動型(基本給に退職金支給率及び退職事由係数を乗じることにより、退職金額を算出する方法)のもとでは、支給率について以下のような規定が置かれていることがあります。
この規程によると、勤続年数が5年以下の方が退職した場合には、会社都合退職では1か月分の基本給が、自己都合退職では0.8か月分の基本給がもらえることになります。
「会社都合」と「自己都合」については、ハローワークで失業保険を受給する際に用いられることが多い概念です。
失業保険の受給の場合には、解雇については、原則として、会社都合退職として扱われます。ただし、例外的に労働者の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合、つまり重責解雇の場合には自己都合として処理されます。
しかし、退職金については、会社によっては、退職金規程で自己都合退職と会社都合退職に該当するケースを明確に規定している場合があります。
このようなケースでは、整理解雇のような場合にだけ会社都合退職として扱われ、普通解雇や懲戒解雇は自己都合退職として扱われることがあります。
そのため、自己都合退職と会社都合退職のいずれで計算するかについては、解雇事由次第です。そして、通常、退職金規程でこれらの区別が明確に規定されている場合にはこれに従い、退職金規程これらの区別が明確に規定されていない場合には重責解雇を除き会社都合退職として、退職金を請求することになります。
失業保険受給の際に解雇が会社都合となるケースについては、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の場合でも退職金の金額は同じ|解決金等をもらえることはある!
不当解雇の場合でも退職金の金額は、通常、変わりません。
ただし、解雇を争う中で、あなたが退職に応じることを内容とする和解が成立する場合には、通常の退職金に加えて、解決金の支払いをしてもらえることがあります。
解決金の相場は、賃金の3か月分~6か月分程度と言われています。
不当解雇の場合の解決金については、以下の記事で詳しく解説しています。
いきなり解雇された場合でも退職金の金額は同じ|解雇予告手当をもらえることはある!
いきなり解雇された場合でも退職金の金額は、変わりません。
ただし、会社は、解雇をする場合には、30日以上前に予告をしなければなりません。
解雇の予告を怠った場合には、怠った日数×平均賃金により算定した解雇予告手当の支払いが必要となります。
そのため、いきなり解雇された場合でも、退職金の金額が増えるわけではありませんが、解雇予告手当を請求できることがあります。
解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
懲戒解雇と退職金の不支給・減額
懲戒解雇の場合には、会社によっては、退職金の不支給や減額の条項を設けていることがあります。
例えば、退職金規程に、以下のような規定が置かれているケースです。
第〇条(退職金の支給)
「…ただし、第〇第〇項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。」
このような規定がある会社では、懲戒解雇であることを理由に、退職金を支給してくれなかったり、退職金の金額を少なくされたりすることがあります。
しかし、このような規定がある場合であっても、懲戒解雇における退職金の不支給や減額が常に許されるわけではありません。
裁判例では、退職金の不支給・減額が許されるのは、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られるとされています(東京高判平成15年12月11日労判867号5頁[小田急電鉄事件])。
退職金には、これまであなたが働いた賃金の後払いとしての性格もあるため、懲戒解雇されたからといって、直ちに不支給にすることは相当ではないと考えられているのです。
そのため、懲戒解雇された場合であっても、退職金を請求できる可能性があります。
懲戒解雇と退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
整理解雇と退職金の上乗せ
整理解雇の場合には、退職金について通常の退職よりも有利に扱ってもらえる可能性があります。
具体的には、以下の2つの点において、通常よりも多い金額をもらえる可能性があります。
・希望退職の募集の際の特別退職金の加算
・退職事由を会社都合として計算
順番に説明していきます。
希望退職の募集の際の特別退職金の加算
まず、整理解雇の際には、希望退職の募集の際にこれに応じることで特別退職金が加算されることがあります。
会社は整理解雇をしようとする際に、事前に、希望退職の募集が行うことがあります。
なぜなら、会社は、整理解雇をする前に解雇を回避する努力をしなければならないとされているためです。
そして、希望退職の募集では、労働者がこれに応じるインセンティブとして、通常の退職金に、特別退職金を上乗せして支給されることがあります。
そのため、あなたが会社に整理解雇される前に自分から退職に応じるような場合には、退職金が加算されるケースがあるのです。
退職事由を会社都合として計算
次に、整理解雇の場合には、会社都合退職として、自己都合退職の場合よりも、有利に退職金を計算してもらえることがあります。
整理解雇とは、あなたに落ち度がない場合に経営上の必要から解雇が行われるものです。
整理解雇が「会社都合退職」となることについては明らかであり、これはどの会社でも同じでしょう。
そのため、「会社都合退職」と「自己都合退職」で退職金の金額に差を設けている会社では、整理解雇の場合には、退職金を多くもらえることになるのです。
退職勧奨の際の特別退職金
退職勧奨の際には、通常の退職金とは別に、特別退職金が支払われることがあります。
退職勧奨というのは、会社が労働者に対して自ら退職するように促す行為のことです。
あなたは、退職勧奨に応じる義務は全くありませんので、退職勧奨に応じたくなければこれを断ることができます。
そのため、会社は、労働者を説得するための材料として、特別退職金の提案をすることがあるのです。
特別退職金の相場は、賃金の3か月分~6か月分程度であることが多いですが、決まりはありません。外資系企業などでは高額の特別退職金が出されることも珍しくありません。
退職勧奨の際の特別退職金の金額や交渉の仕方については、以下の記事で詳しく解説しています。
特別退職金については、以下の動画でも詳しく解説しています。
解雇された場合に退職金を請求する手順
会社は、あなたを解雇した場合には、「解雇なので退職金を払わない」などと言ってくることがあります。
このような場合には、あなた自身が退職金を支払ってもらうための行動を起こさないと、退職金を手に入れることができません。
法律上は、退職金が支払われるべき場合であっても、それを実現するためには行わなければいけないことがあるのです。
あなたが解雇された場合に十分な退職金をもらうためには、以下の手順で対処しましょう。
手順1:退職金規程の確認
手順2:退職金の計算
手順3:退職金の請求
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
順番に説明していきます。
手順1:退職金規程の確認
退職金を請求するための手順の1つ目は、退職金規程の確認です。
退職金を請求できるかどうか・退職金の金額を知るためには、退職金規程を確認する必要があります。
まずは、社長や上司に対して、「退職金規程を見せてください」と口頭でお願いしてみましょう。
退職金規程を見せてもらえた場合には、コピーを取らせてほしいとお願いしてみましょう。コピーを禁止された場合には、「退職金を支給する旨」と「退職金の計算方法」が規定された箇所をメモしましょう。
これに対して、退職金規程を見せてもらえなかった場合には、退職金規程には周知義務があることを伝えて、改めて開示するように求めましょう。
退職金規程は、就業規則の一種であり、労働基準法により、これを周知する義務が定められているためです。
労働基準法第106条(法令等の周知義務)
「使用者は、…就業規則…を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。」
メールや書面などの、証拠に残る方法で開示を求めるのがいいでしょう。
もしも、それでも退職金規程を見せてもらえないのであれば、労働基準監督署に相談することを検討しましょう。労働基準監督署は、労働基準法違反の事実について、調査や指導をする権限があるためです。
手順2:退職金の計算
退職金を請求するための手順の2つ目は、退職金の計算です。
退職金の計算方法については、退職金規程に記載に従うことになります。
自己都合や会社都合により金額が異なる場合があることについては、先ほど説明したとおりです。
手順3:退職金の請求
退職金を請求するための手順の3つ目は、退職金の請求です。
手順2で計算した退職金の金額を支払うように会社に対して請求しましょう。
証拠に残るように内容証明郵便に配達証明をつけて請求するのがよいでしょう。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順4:交渉
退職金を請求するための手順の4つ目は、会社と交渉をすることです。
退職金を請求すると会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
手順5:労働審判・訴訟
退職金を請求するための手順の5つ目は、労働審判・訴訟です。
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判は、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
解雇を争う場合の退職金の受領
解雇を争う場合の退職金請求については、注意をする必要があります。
「解雇が濫用であるとして無効であるとする主張」と「解雇が有効であること前提とする退職金請求」は矛盾するためです。
何らの留保をせずに退職金を請求してしまうと、解雇の承認として、その後解雇を争うことが難しくなってしまう場合があります。
ただし、解雇を争う場合であっても、以下のケースでは、退職金を受領しても解雇を承認したことにはならないとされています。
・解雇に対する異議を留保しつつ退職金を受領したケース
・生活費として受領する旨留保して受領したケース
・従業員として仮の地位を定める仮処分をした後に受領したケース
そのため、万が一、解雇を争う際に退職金を受領する場合には、これらのケースを参考に解雇を承認したとされないように注意しましょう。
各ケースについて説明していきます。
解雇に対する異議を留保しつつ退職金を受領したケース
退職金を受領しても解雇を承認したことにはならない場合の1つ目は、解雇に対する異議を留保しつつ退職金を受領したケースです。
裁判例は、「依願退職届を出したり、解雇予告手当、退職金等を受領した場合には、解雇を承認しない旨明確にその意思を表示する等その他の方法により、解雇の効力を明かに争う旨の反証のない限り、解雇を承認したと認めるのほかはない。」としています(東京地決昭和25年4月11日労民1巻1号54頁[大林組事件])。
また、裁判例には、「一般に解雇の意思表示を受けた労働者が使者用に対し進んで退職を申出で、退職金を受領した場合は特段の事情のない限り当該解雇について争をやめる旨同意したものと推認せられるのであるが、その際右被解雇者がなお解雇の不当を争う旨の留保を附して形式的に右手続をなし、使用者も右留保を承認した場合は、その労働者が、解雇の当否を争い、労働委員会等にその救済を求める権利は未だ失われないことはもちろんである。」としたものもあります(東京地決昭和27年7月29日労民3巻3号253頁[中労委救済申立却下決定取消事件])。
生活費として受領する旨を留保して受領したケース
退職金を受領しても解雇を承認したことにはならない場合の2つ目は、生活費として受領する旨留保して受領したケースです。
裁判例は、「申請人…が…失業保険金を受領し、…被申請会社が供託した退職金を受領したことは当事者間に争がなく、被申請会社は、右のような行為は暗默に解雇を承認した行為であると主張するけれども、申請人本人…訊問の結果によれば、右申請人…は被申請会社に対し生活費として受領する旨の意思表示をしていることが疏明される。失業保険金も右と同様の趣旨と考えられるから、この点に関する被申請会社の主張は採用できない。」としています(仙台地判昭和25年5月22日労民1巻3号391頁[日本冷蔵事件])。
従業員として仮の地位を定める仮処分をした後に受領したケース
退職金を受領しても解雇を承認したことにはならない場合の3つ目は、従業員として仮の地位を定める仮処分をした後に受領したケースです。
裁判例は、「債権者らが、債務者の主張するように予告手当並びに退職金を受領したことは当事者間に争のないところであるが、解雇の承認は、解雇の意志表示によつて生じた係争を終了させる旨の意志表示、乃至は雇傭契約の合意解約の意志表示で、当事者間の契約と解すべきものであり、予告手当退職金の受領が暗黙に右意志表示のなされたことを推定せしめる場合のあることは、これを否定し得ないが、債権者らが退職金等を受領したのは、いずれも本件仮処分申請後のことであることは当事者間に争のないところであつて、右解雇の効力を争つている時のことであるから、他に右意志表示を暗黙になしたことをうかがうに足る事情の疎明のない限り、右退職金の受領のみをもつて、解雇を承認したものと推定することはできないものと言わねばならない。」としています(東京地判昭和26年11月10日)。
解雇された場合の退職金は弁護士に相談しよう
解雇された場合の退職金は弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に相談すれば、あなたが退職金を請求できるかどうかやその金額を確認してもらうことができます。
また、弁護士に相談すれば、退職金の他にも「未払いの残業代」や「解雇の慰謝料」など、請求することができる権利がないかを併せてチェックしてもらうことができます。
更に、弁護士に依頼すれば、会社が解雇を理由に退職金の支払いを拒む場合や減額を主張してくる場合でも、あなたの代わりに交渉してもらうことができます。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、解雇された場合の退職金請求については、弁護士に相談しましょう。
まとめ
以上のとおり、今回は、解雇の退職金についての考え方を説明したうえで、十分な退職金をもらうための手順を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・退職金規程があるのに、解雇という理由のみで、退職金を支払わないことは、原則として、許されません。
・解雇された場合の退職金の金額については、会社ごとに異なり、退職金規程次第となります。
・懲戒解雇された場合には、退職金が不支給・減額となることがあります。ただし、どのような場合でも不支給・減額が許されるわけではなく、裁判例は、労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があるかを慎重に判断する傾向にあります。
・整理解雇の場合には、以下の2つの点において、退職金について、通常よりも有利に扱ってもらえる可能性があります。
①希望退職の募集の際の特別退職金の加算
②退職事由を会社都合として計算
・あなたが解雇された場合に十分な退職金をもらうためには、以下の手順で対処しましょう。
手順1:退職金規程の確認
手順2:退職金の計算
手順3:退職金の請求
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
・解雇を争う場合には、何らの留保をせずに退職金を請求してしまうと、解雇の承認として、その後解雇を争うことが難しくなってしまう場合がありますので注意しましょう。
この記事が解雇されて退職金が支給されずに困っている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
労働問題を解決する情報は、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。参考:労働問題に関する記事一覧|法律相談ナビ