会社からの解雇が不当だと考えているものの、どのような証拠を集めればいいのかがわからないと悩んでいませんか?
結論としては、不当解雇の証拠としては、労働者は以下のような証拠を集めるべきです。
ただし、これらの証拠を集めるにあたっては、証拠の意味を理解した上で、具体的にどのようなやり取りを証拠に残しておくべきかを知っておく必要があります。
あなたが解雇されるまでには、いくつかの段階があります。そして、その段階ごとに、証拠に残しておくべきやり取りがあるのです。
更に、不当解雇の証拠を集める場合には、その証拠の集め方に注意する必要があります。その集め方によっては、「証拠として使うことができない場合」や「それ自体が解雇理由となってしまう場合」があるのです。
また、解雇について、証拠を集めているのはあなただけではありません。会社も、解雇を正当化する証拠を集めています。そのため、あなたは、どのような発言や行動をすると不利になるのかを知った上で、慎重に行動する必要があります。
私自身が日々業務を行う中で、「もう少し早めにご相談いただければ、より充実した証拠を集めることができたのに」と感じることが多かったので、この記事を通じて多くの方に不当解雇の証拠の集め方を伝えることができればと考えております。
今回は、不当解雇の証拠を集めるために必要な知識について、誰でも実践できるように詳しく、かつ、わかりやすく解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、不当解雇の証拠についての悩みが解消して、あなたが何をすればいいのかが明確になるはずです。
解雇された場合に「やるべきこと」と「やってはいけないこと」は、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
不当解雇をされた場合に証拠が必要な理由
不当解雇をされた場合に証拠が必要となる理由は、裁判の構造にあります。
日本の裁判では、双方の主張につき争いがある場合には、証拠を元にどちらの言い分が正しいかが判断されることになります。
会社は、通常、あなたを解雇する前に多くの証拠を集めています。
例えば、会社があなたの解雇が正当である理由として、「指導記録」を出してくることがあります。
「指導記録」は会社が作成した文書ですので、事実が誇張されていたり、誤った事実が記載されていたりすることがよくあります。
この場合に、あなたが「会社の指導記録が矛盾している証拠」や「会社の指導が誤っていた証拠」を出すことができれば、有利に裁判を進めることができます。
他方で、あなたが客観的な証拠をもっていなければ、「指導記録」が信用できるかは尋問等で判断されることになり、結果的に「指導記録」のとおりの事実が認定されてしまうこともあります。
つまり、実際には、あなたの解雇が不当なものであったとしても、裁判所に不当と認めてもらえるかは、「会社が持っている証拠」と「あなたが持っている証拠」に左右されるのです。
このように不当解雇の裁判では証拠が重要な意味を持つことになります。
不当解雇の証拠の種類
不当解雇の証拠には、いくつかの種類があります。
例えば、以下の4つに分類をするとわかりやすいかと思います。
⑴ 労働条件がわかる証拠
⑵ 解雇理由がわかる証拠
⑶ 解雇事由の有無に関する証拠
⑷ 解雇後の賃金や慰謝料の証拠
そして、それぞれの分類ごとに労働者が集めるべき証拠の例をあげると以下のとおり整理することができます。
それで順番に説明していきます。
労働条件がわかる証拠
・雇用契約書
・労働条件通知書
・求人票
・給与明細
・就業規則と賃金規程
労働条件がわかる証拠は、解雇が不当かどうかを判断する上で、前提となる情報がわかる証拠です。
例えば、これらの証拠から以下のような事実を裏付けていくことになります。
① 入社日はいつか(長期間勤務しているのか)
② 雇用期間は定められているか
③ 求められている資格や経歴(採用の際にどの程度の能力が期待されていたか)
④ 職種や勤務場所は限定されているか(配置転換は可能かどうか)
⑤ 毎月の給与はどのくらいか(高い能力が期待されるほどの給与が支払われているか)
⑥ どのような場合に解雇するとされているか
①定年制を前提にこれまで長期間勤務していた場合には、解雇が認められるかについては、特に厳格に判断される傾向にあります(東京地決平成13年8月10日労判820号74頁[エース損害保険事件])。
②有期契約期間中の解雇の場合には、「やむを得ない事由」が必要とされており、解雇が認められるかについては厳格に判断されます(民法628条)。
③専門的な資格が必要とされていたり、中途採用でこれまでの経歴が重視されていたりする場合は、能力不足の基準となる「能力」も高いものとされる可能性があります。
④職種や勤務場所が限定されている場合には、配置転換が難しくなりますので、会社が配置転換を検討することなく解雇をした場合であっても、正当化する事情となる場合があります。
⑤給与が高い場合には、能力不足の基準となる「能力」も高いものとされる可能性があります。また、解雇された場合には、解雇後の賃金も請求をしていくのが通常なので、その金額を決めるうえでも大切な証拠となります。
⑥就業規則や雇用契約書で解雇事由とされている事由に該当しない場合には、解雇が濫用とされる可能性が高くなります。
解雇理由がわかる証拠
・退職勧奨の際に交付された書面
・退職勧奨の際の録音
・解雇通知書又は解雇予告通知書
・解雇を言い渡された際の録音
・解雇理由証明書
解雇理由がわかる証拠は、会社があなたを解雇した理由がわかる証拠です。
解雇理由がわかる証拠には、以下の3つの意味があります。
・あなたが準備して防御を図るための機会になる
・後から解雇理由を変更しにくくなる
・後から解雇理由を追加しにくくなる
あなたが準備して防御を図るための機会になる
解雇理由がわかる証拠は、あなたがどのような証拠を集めればいいのか、どの点に重きをおいて準備をしていけばいいのかがわかる証拠となります。
例えば、会社が「令和●年●月●日の業務ミス」が「就業規則●条●項の能力不足」に該当すると言っている場合には、あなたが本当に業務ミスをしたのかどうかについての証拠集めることになります。
また、そのような業務ミスがある場合でも、それがどのような経緯によるものなのかを説明することで、「能力不足」には該当しないと主張することも考えられます。
このように解雇理由がわかる証拠は、不当解雇を争う方針を決めるうえで重要な意味があります。
後から解雇理由を変更しにくくなる
「当初の解雇理由」と「後から出された解雇理由」が異なるような場合には、会社の解雇理由に説得力がないことになります。
例えば、解雇の際に、会社は「君は感じが悪いから解雇する。声も小さいし会社の雰囲気が悪くなる。」と言っていたとします。
しかし、実際には、そのような理由で解雇することは難しいので、会社は顧問弁護士などに相談して、全く異なる解雇理由を主張してくることがあります。
このような場合に、当初の会社側の発言を記録しておけば、会社が後から出してきた解雇理由は、企業から排除するための後付的な理由に過ぎないことを説得的に説明できます。
このように解雇理由についての証拠を獲得しておくことにより、会社は後から解雇理由を変更しにくくなるのです。
後から解雇理由を追加しにくくなる
当初解雇理由としていなかった事由については、少なくとも解雇において会社は重視していなかったと判断される可能性があります。
そのため、会社は、後から、解雇理由を追加しにくくなるという意味があります。
解雇事由の有無に関する証拠
・業務改善指導のメールやLINE、チャット、録音
・人事評価書
・昇格や降格に関する書面
・始末書
解雇事由の有無に関する証拠は、あなたに解雇事由があるかどうかを判断するための証拠です。
会社が主張している解雇理由について検討して、あなたに解雇事由がない場合には、解雇は不当なものとなります。
例えば、会社が業務ミスを主張している場合に、あなたがそのようなミスをしていないことを裏付ける証拠があれば、会社の主張は説得力を失うことになります。
他にも、会社が能力不足を主張している場合に、あなたが前回の査定において昇給しているのであれば、通常、能力が不足している人を昇給させませんので、会社側の主張は説得力を失うことになります。
このように解雇事由の有無に関する証拠は、不当解雇の争いに際して中心的な証拠となるものです。
解雇後の賃金や慰謝料の証拠
・解雇の撤回や業務指示を求める通知書等
・暴言や暴力、嫌がらせ等の日記やメモ、メール、録音、写真
・うつ病や適応障害の診断書
解雇後の賃金や慰謝料に関する証拠は、不当解雇の際に請求していく権利についての証拠です。
不当解雇を争う場合には、併せて、解雇後の賃金や慰謝料を請求していくことがよくあります。
これらに関する証拠についても集めておくといいでしょう。
それぞれについて説明します。
解雇後の賃金に関する証拠
解雇後の賃金を請求するには、あなたが就労の意思を有していることが前提となります。
つまり、あなたは、会社から業務を命じられた場合には、これに応じる意思を有していること必要となるのです。
就労の意思は、必ず争点になるわけではありませんが、「解雇から長期間経過している場合」や「あなたが再就職している場合」に問題となることがよくあります。
就労の意思は明示する必要はありませんが、争点を減らすために、あなたに就労の意思があることを証拠に残しておきましょう。
具体的には、不当解雇されたら、早めに、会社に対して、「解雇の撤回と解雇日以降の業務の指示を求める」旨を内容証明郵便に配達証明を付けて送付しておくべきです。
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
慰謝料に関する証拠
慰謝料を請求するには、「解雇が悪質であること」や「会社が解雇は濫用であることに気づけたこと」、「あなたが大きな精神的苦痛を受けていること」が必要となります。
例えば、あなたが解雇の撤回を求めることで、会社は解雇が不当ではないのか専門家に確認したり、考え直したりする機会があったことになりますので、「濫用であることに気づけた」といいやすくなります。
また、あなたが嫌がらせを受けている場合には、解雇が悪質であることをうかがわせる事情となります。
更に、解雇が原因でうつ病を発症したような場合には、あなたが大きな精神的苦痛を受けていることが推認されることになります。
不当解雇の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
不当解雇の証拠を集める4つの方法
不当解雇の証拠を集める方法には、以下の4つがあります。
方法1:メールやLINE、チャットを印刷・スクリーンショットする
方法2:会話や発言を録音する
方法3:出来事をメモや日記に記録する
方法4:会社にある資料の開示を求める
それでは、順番に説明します。
方法1:メールやLINE、チャットを印刷・スクリーンショットする
不当解雇の証拠を集める方法の1つ目は、メールやLINE、チャットを印刷・スクリーンショットすることです。
メールやLINE、チャットには、会社とのやり取りがそのまま文章として残っていますので大切な証拠となります。
これらの記録については、早めに保存しておかないと、消えてしまったり、後から確認することが難しくなったりすることがあります。
そのため、早めに印刷やスクリーンショットをしておくことが重要なのです。
スクリーンショットをする際には、その会話をした日付がわかるように撮るようにしましょう。
スクリーンショットをする方法は以下のとおりです。
・Androidをお使いの方
→電源ボタンと音量小ボタンを同時に押す
・iPhoneをお使いの方
→Face ID搭載モデル:音量を上げるボタンとサイドボタンを同時に押す
→Touch IDおよびサイドボタン搭載モデル:サイドボタンとホームボタンを同時に押す
→Touch IDおよびトップボタン搭載モデル:トップボタンとホームボタンを同時に押す
・windowsをお使いの方
→windowsキー+Print Screenキーを同時に押す
・Macをお使いの方
→Command+shift+3を同時に押す
方法2:会話や発言を録音する
不当解雇の証拠を集める方法の2つ目は、会話や発言を録音することです。
会話や発言については、記録に残しておかないと、後から「言った、言わない」の問題になりがちです。
会話の内容については、実際には、当事者が感じているものとは大きく異なることもあります。
そのため、どのような会話をしたのかを明確にしておくために重要な会話は録音しておくのが確実なのです。
録音をする際には、データを移動することができる媒体で行うようにしましょう。
スマートフォンのアプリなどで十分に確認せずに録音するとデータ移動ができないことがあります。このような場合、裁判所に証拠として提出する際に困ることになるのです。
以下の動画で退職勧奨の録音について詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
方法3:出来事をメモや日記に記録する
不当解雇の証拠を集める方法の3つ目は、出来事をメモや日記に記録することです。
社長や上司からの咄嗟の発言については、録音が難しいことがありますよね。
そのような場合には、早めに出来事をメモや日記に記録するようにしましょう。
メモをする際には、日時や発言した者、発言の内容を具体的に記録しておくことが大切です。
方法4:会社にある資料の開示を求める
不当解雇の証拠を集める方法の4つ目は、会社にある資料の開示を求めることです。
証拠によっては、「会社に保管されているもの」や「会社が発行するべきもの」があります。
例えば、以下のような証拠です。
・雇用契約書
・労働条件通知書
・給与明細
・就業規則と賃金規程
・解雇理由証明書
解雇理由証明書の交付を求める方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の証拠になり得る6つのやり取り
不当解雇の証拠を集めようとしても、どのようなやり取りが証拠になるのかがわからないと困ってしまいますよね、
不当解雇の証拠になり得るやり取りとしては、例えば、以下の6つがあります。
やり取り1:就業規則の開示をしてもらえないやり取り
やり取り2:ミスの内容や改善方法の指摘が不明確なやり取り
やり取り3:あなたが配置転換等に協力的な取り
やり取り4:退職勧奨の面談に関するやり取り
やり取り5:あなたへの暴言や暴力、嫌がらせを伴うやり取り
やり取り6:解雇理由に関するやり取り
それでは順番に説明していきます。
やり取り1:就業規則の開示をしてもらえないやり取り
不当解雇の証拠になり得るやり取りの1つ目は、就業規則の開示をしてもらえないやり取りです。
就業規則は、労働者に周知されていなければ、その効力は生じません。
例えば、社長や上司に対して、就業規則の場所を聞いたり、開示を求めたりして、会社がこれに応じてくれない場合には、周知されていないこと基礎づける事情となります。
そのため、会社が就業規則を周知していない場合には、その内容があなたに不利なものであったとしても、その効力を争うことができる可能性があるのです。
就業規則の周知については、以下の記事で詳しく解説しています。
やり取り2:ミスの内容や改善方法の指摘が不明確なやり取り
不当解雇の証拠になり得るやり取りの2つ目は、ミスの内容や改善方法の指摘が不明確なやり取りです。
会社は、労働者を解雇する前に、通常、業務改善の機会を与えなければなりません。解雇は将来的な予測も考慮したうえであなたを雇用し続けることが難しい場合に認められるためです。
会社からミスの内容が具体的に指摘されていなかったり、改善の方法を教えてもらえなかったりするような場合には、業務改善の機会が十分に与えられていたとはいえません。
例えば、会社から交付された指導書を見ても記載が不明確である場合には、会社に対して、「何月何日のどのようなミスを指しているのか」「どのように改善すればいいのか」を尋ねてみましょう。
会社によっては、「それは自分で考えるんだ」などと言って、まともな回答をしてくれないことがありますが、このような会社の対応は解雇が濫用となる方向の事情となります。
このようにミスの内容や改善方法の指摘が不明確であるやり取りは、業務改善の機会が不十分であることの証拠となるのです。
業務改善命令については、以下の記事で詳しく解説しています。
やり取り3:あなたが配置転換等に協力的なやり取り
不当解雇の証拠になり得るやり取りの3つ目は、あなたが配置転換等を求めているやり取りです。
会社は、あなたを解雇する前に、他の職種や勤務場所であれば雇用を維持することができないかを検討する必要があります。
解雇は、これを回避するための方策を講じたうえでの最終手段であるべきと考えられているためです。
特に、あなたが、現実的な可能性のある職種や勤務場所を示して、配置転換に協力する姿勢を示しているような場合には、会社としても、これを無視することはできません。
そのため、あなたが配置転換等に協力的な姿勢を示しているのに、会社がこれを全く検討しない場合には、解雇回避のための措置が不十分であった証拠となるのです。
やり取り4:退職勧奨の面談に関するやり取り
不当解雇の証拠になり得るやり取りの4つ目は、退職勧奨の面談に関するやり取りです。
退職勧奨とは、会社があなたに対して自主的に退職するように促すものです。
多くの場合、退職勧奨の際に面談の機会を設けられることになり、会社があなたに退職してほしいと考えている理由を告げられます。
そして、退職勧奨の段階では、会社によっては、顧問弁護士に相談せずに行っていることも多く、「会社の本音」や「不利な事実」が包み隠さずに発言されることも多いのです。
例えば、「君は感じが悪いから前々から退職してほしいと考えていた。」などの発言がなされたとします。
解雇をするには客観的に合理的な理由が必要とされているので、主観的な理由による解雇は許されません。
以上のとおり、退職勧奨の面談に関するやり取りは、あなたが解雇を争う上での手掛かりになることもあるのです。
退職勧奨とは何かについては以下の記事で詳しく解説しています。
やり取り5:あなたへの暴言や暴力、嫌がらせを伴うやり取り
不当解雇の証拠になり得るやり取りの5つ目は、あなたへの暴言や暴力、嫌がらせを伴うやり取りです。
会社によっては、あなたが退職勧奨に応じないと、あなたを会社から排除するために様々な嫌がらせを講じてくることがあります。
例えば、「いつまで会社にいるんだ?」などとの発言をされることもありますし、ひどいと上司から暴力を振るわれることもあります。
また、よくある嫌がらせとしては以下のようなものもあります
・長期間の自宅待機を命じて孤立させる
・出社させて仕事を与えない
・出社させて他の人が嫌がる仕事を命じる
このような会社からの嫌がらせは解雇の悪質性を裏付けることになります。
解雇に際しての嫌がらせについては、以下の記事で詳しく解説しています。
やり取り6:解雇理由に関するやり取り
不当解雇の証拠になり得るやり取りの6つ目は、解雇理由に関するやり取りです。
解雇されたらすぐに解雇理由証明書を交付するように請求しましょう。
そして、解雇理由証明書に記載された事実が不明確である場合には、具体的に解雇理由を示すように改めて求めましょう。
すなわち、解雇理由について、「誰が、いつ、誰に対して、どこで、どのような」行為をしたのか、その行為が「いかなる解雇事由」に該当するのかを会社に特定させるべきです。
先ほど説明したように、解雇理由を会社に示してもらうことで、以下のような効果があるのです。
①あなたが準備して防御を図るための機会になる
②後から解雇理由を変更しにくくなる
③後から解雇理由を追加しにくくなる
不当解雇の証拠を集める際の3つの注意点
不当解雇の証拠を集める場合には、その証拠の集め方に注意する必要があります。
その集め方によっては、「証拠として使うことができない場合」や「それ自体が解雇理由となってしまう場合」があるのです。
具体的には、不当解雇の証拠を集める際には、以下の3つの点に注意しましょう。
注意点1:社会的に相当性を欠く態様による収集は行わない
注意点2:就業規則等で禁止されている方法は行わない
注意点3:日常業務に支障が出ると注意されたらやめる
順番に説明していきます。
注意点1:社会的に相当性を欠く態様による収集は行わない
不当解雇の証拠を集める際の注意点の1つ目は、社会的に相当性を欠く態様による収集は行わないことです。
無断で録音した音声データについても、原則として、民事訴訟法において証拠として利用することは禁止されていません。
しかし、裁判例では、「著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的事由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ない」とされています(東高判昭52.7.15判時867号60頁)。
例えば、不当解雇の証拠については、以下のような態様で集めると、証拠として利用することにつき問題とされる可能性があるので注意しましょう。
①持ち出し禁止の会社書類の原本を盗む
②上司や社長のパソコンに無断でアクセスしてデータを勝手にコピーする
③秘密性の高い会議を盗聴・録音する
証拠を集める際に、社会的に相当か疑問を感じたら、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
注意点2:就業規則等で禁止されている方法は行わない
不当解雇の証拠を集める際の注意点の2つ目は、就業規則等で禁止されている方法は行わないことです。
会社によっては、「顧客の個人情報を保護する関係」や「精密機器等を使用している関係」で、会社内での録音や撮影を禁止していることがあります。
このように就業規則で禁止されている行為については、これを行うと会社とのトラブルの原因になります。
そのため、就業規則で禁止されていない方法で証拠を集めるようにしましょう。
注意点3:日常業務に支障が出ると注意されたらやめる
不当解雇の証拠を集める際の注意点の3つ目は、日常業務に支障が出ると注意されたらやめることです。
あなたが日常業務のやり取りを無断で録音していると、会社から業務に支障が出るので辞めてほしいと注意されることがあります。
裁判例には、会社には、労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、労働者に対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるとして、これに反して録音を継続した事実につき解雇を有効とする事情として考慮したものがあります。
(参照:東京地立川支判平30.3.28労経速2363号9頁[甲社事件])
そのため、会社から日常業務に支障が出ると注意されたら、ひとまず日常的なやり取りを録音することは控えておきましょう。
上記のように証拠集めを禁止・注意されたような場合には、他の方法により証拠を収集する必要があります。
まず、会社側に証拠がある場合については、その資料の作成者や作成日、タイトルなどを控えておき、裁判所をとおして会社に開示を求めるなどの然るべき手続きにより取得しましょう。
次に、自分で証拠に残しておく必要がある場合については、メモや日記に残したり、その内容をメールで会社に確認したりする方法により証拠に残すようにしましょう。
不当解雇の証拠がなくても諦めるには早い!
不当解雇を争う場合には、証拠があることは重要ですが、証拠がないからといって諦める必要はありません。
不当解雇を争う場合には、「あなたが解雇権濫用と評価される根拠となる事実の主張立証」を、「会社が解雇権濫用との評価が障害される事実の主張立証」をする必要があるとされています。
しかし、実際には、あなたは、平素の勤務状況に問題がなかったことを概括的に主張(立証)すれば足り、解雇を行った会社が合理的な理由について主張立証することを求められる傾向にあります。
このことから、裁判では、あなたは、会社が主張してきた解雇理由に対して、反論をしていくという構図になるのが通常です。
そのため、不当解雇の証拠がない場合でも、会社の主張する事実や証拠に説得力がないことを説明できれば、解雇を争える可能性もあるのです。
もしも、不当解雇を争えるか不安がある場合には、弁護士に相談してみましょう。
会社も解雇の証拠を集めていることに気を付けよう!
不当解雇を争う場合には、証拠を集めているのはあなただけではありません。
会社は、労働者の方を解雇しようとする場合、顧問弁護士に相談するのが通常です。その際に、会社は、顧問弁護士から、解雇にはどのような証拠が必要であるか、どのように集めればいいのかなどの助言を受けます。
そのため、解雇をする場合には、会社も、解雇を正当化する証拠を集めているのです。
具体的には、会社は、以下のような証拠を集めていることが多いので注意しましょう。
・指導記録又は行動記録
・退職勧奨の面談の際の録音
・あなたのSNSへの投稿
・あなたの業務用PC・携帯電話の履歴
・あなたが送信・受信した業務メール
・他の従業員からの聴取書
・始末書や反省文、指導書
・解雇予告手当の受領書
・退職金に関する申請書
順番に説明していきます。
指導記録又は行動記録
会社は、解雇の事実につき、「指導記録又は行動記録」をベースに主張してくることがよくあります。
会社は、解雇の数か月前から、あなたの行動を一つ一つ記録していることが多いのです。
例えば、「業務時間中にあなたが退席した時間や回数」、「業務時間中にスマートフォンのアプリで遊んでいたこと」、「あなたが遅刻したこと」、「業務上の細かいミス」などが記録されています。
このような些細な事情も積みかねられれば、解雇の正当性を判断する際に、あなたの不利に考慮されてしまうこともあります。
そのため、日常の業務についても、会社に見られているということに注意して行動するようにしましょう。
退職勧奨の面談の際の録音
会社は、退職勧奨の面談の際に録音していることがよくあります。
その際に、あなたが「他の会社で働くことが決まっている」と言ったり、「この会社で働き続けるつもりがない」と言ったりすると、あなたに不利な証拠として使われてしまうことがあります。
このような発言をすると、会社から、就労の意思がないと主張されたり、退職に合意していると主張されたりするのです。
そのため、退職勧奨の面談の際には録音されている可能性があることに注意しましょう。
あなたのSNSへの投稿
会社は、あなたのSNSへの投稿を監視している場合があります。
業務時間中にSNSへの投稿を行っていると業務をサボっていた証拠として提出されることがあります。
また、解雇後に、あなたが「実は会社に戻りたくないと投稿している場合」や「会社に仕返しをしたいので訴訟を提起すると投稿している場合」にも、証拠として提出されることがあります。
そのため、SNSへの投稿は会社からみられている可能性があることに注意しましょう。
あなたの業務用PC・携帯電話の履歴
会社は、あなたの業務用PCや携帯電話の履歴を確認することがよくあります。
業務用PCや携帯電話で、業務と関係ない「WEBページの閲覧」などはしないようにしましょう。
よくある例としては、解雇される前に会社から仕事が振られなくなり、暇な時間が多かったので、業務時間中に転職サイトを閲覧するようなケースです。
このような履歴も証拠として提出されることが多いことに注意しましょう。
インターネットの私的利用については、以下の記事で詳しく解説しています。
あなたが送信・受信した業務メール
会社は、あなたの業務メールを確認していることがよくあります。
業務メールを私用で利用することは控えておきましょう。
他の従業員からの聴取書
会社は、解雇を正当化する証拠として、他の従業員の方から事情聴取を行い、聴取書を証拠として提出してくることがあります。
他の従業員の方も、会社で勤務している以上、事情聴取を断りにくいのです。
事情聴取は、あなたの上司だけではなく、同僚や後輩からも行われる可能性があります。
解雇を相談する場合には、会社の同僚などではなく、守秘義務を負っている弁護士などの専門家に行った方がいいでしょう。
始末書や反省文、指導書
会社は、あなたを解雇する前に、通常、「始末書や反省文、指導書」を積み重ねて、これを証拠とします。
これらを記載する場合には、事実と異なる記載をしないように注意しましょう。
例えば、あなたが業務ミスをしていないにもかかわらず、ミスをしたと認める記載をしてしまうと、会社に証拠として使われることがあるのです。
始末書等を記載する際の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
解雇予告手当の受領書
会社は、解雇予告手当をあなたが受け取った場合に、その受領書を証拠として出してくることがあります。
あなたが解雇予告手当を受領したことを理由に「解雇を争っていなかった」、「就労の意思がなかった」などと主張してくるのです。
よくあるのが面談の際に、封筒に現金をいれて解雇予告手当として交付されるケースで、その場で受領書に署名押印をすることを求められます。
もしも、会社が解雇予告手当を渡そうとしてきた場合には、「解雇は無効なので受け取れません」と受領を拒否しましょう。
解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
退職金に関する申請書
会社は、あなたが退職金に関する申請書を提出した場合にも、その書面を証拠として提出してくることがあります。
退職金についても、解雇予告手当と同様、解雇が有効であることを前提とするものなので、あなたがこれを請求すると、解雇の無効を主張することと矛盾してしまいますので注意しましょう。
退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇については弁護士に相談しよう!
不当解雇については、弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士に相談すれば、どのような証拠を集めた方がいいのか助言をしてもらうことができますし、裁判で争った場合の見通しについても教えてもらうことができます。
また、弁護士に依頼した場合には、あなたの代わりに、会社に対して証拠の開示を求めたり、裁判所をとおして証拠を集めたりしてもらうこともできます。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに弁護士に相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、不当解雇については、弁護士に相談することがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、不当解雇の証拠を集めるために必要な知識について、誰でも実践できるように詳しく、かつ、わかりやすく解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・不当解雇の証拠については、以下のとおり整理することができます。
・不当解雇の証拠を集める方法には、以下の4つがあります。
方法1:メールやLINE、チャットを印刷・スクリーンショットする
方法2:会話や発言を録音する
方法3:出来事をメモや日記に記録する
方法4:会社にある資料の開示を求める
・不当解雇の証拠になり得るやり取りとしては、例えば、以下の6つがあります。
やり取り1:就業規則の開示をしてもらえないやり取り
やり取り2:ミスの内容や改善方法の指摘が不明確なやり取り
やり取り3:あなたが配置転換等に協力的な取り
やり取り4:退職勧奨の面談に関するやり取り
やり取り5:あなたへの暴言や暴力、嫌がらせを伴うやり取り
やり取り6:解雇理由に関するやり取り
・不当解雇の証拠を集める際には、以下の3つの点に注意しましょう。
注意点1:社会的に相当性を欠く態様による収集は行わない
注意点2:就業規則等で禁止されている方法は行わない
注意点3:日常業務に支障が出ると注意されたらやめる
この記事が不当解雇の証拠をどのように集めればいいのか悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。