外資系企業から突然PIPを行う旨を伝えられて困っていませんか?
PIPというのが、どういうものなのかよくわからない方も多いですよね。
PIP(Performance Improvement Program)とは、業務改善プログラムのことをいいます。
具体的な目標を設定して、一定期間ごとに目標を達成できているか否かの確認を行い、達成できていないと退職勧奨、解雇、降格等の不利益措置を課される傾向にあります。
PIP自体は労働者の能力を向上させるために開発されたプログラムであり悪いものではありませんが、近年、外資系企業が不利益措置を課すための手段として悪用するケースが増えています。
すなわち、達成不可能な課題を課して、これを達成できなかったことを理由に退職に追い込むようなやり方です。
労働者としては、会社側からPIPを行われてしまった場合には、不利益を被ることがないように適切に対処していく必要があります。
また、万が一、PIPを未達になった場合には、退職勧奨、解雇、降格等の不利益措置を課される傾向にありますので、この段階に至ってしまった場合には弁護士に相談することを検討しましょう。
PIPを未達になってしまったらかといって、安易に会社から提示された合意書や承諾書等にサインすることは避けるべきです。
実際、会社から提示された退職合意書にサインをしてしまってから相談に来る方や自分で交渉をしてしまった後に相談に来る方もいらっしゃいますが、もっと早く相談に来てほしかったと感じる事例が後を絶ちません。
この記事をとおして、少しでも多くの方がPIPを利用した退職の追い込みによる被害を受けることがなくなればと思います。
今回は、外資系企業のPIPとは何かを説明したうえで、未達の場合にどうなるのか、及び、PIPを行われてしまった場合の対処法を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、PIPを行われてしまった場合にどのように対処すればいいかがよくわかるはずです。
外資系のPIPについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
外資系企業におけるPIPとは
外資系企業におけるPIP(Performance Improvement Program)とは、業務改善プログラムのことをいいます。
具体的な目標を設定して、一定期間ごとにどう目標を達成できているか否かの確認を行い、達成できていないと退職勧奨、解雇、降格等の不利益措置を課される傾向にあります。
例えば、ある日、人事から面談を設定されます。
そして、面談に赴くと、あなたの成績が芳しくないことを伝えられ、PIPを行う旨を伝えられ、その説明を行われます。
多くのケースでは、PIPプログラムに関して、「目標」や「期間」、「未達の場合の不利益措置」等を記載した書面を交付され、それにサインするように求められます。
PIP開始後、1週間ごとなど定期的にミーティングを行い、目標の達成具合などを共有したり、目標達成に向けたアドバイス等がなされたりすることが多いです。
なお、昨今、PIPに応じるかどうか労働者に選択肢を与える方法も見受けられます。
例えば、PIPに応じるか、退職勧奨を受けるか選ぶように申し向けられるものです。
労働者は2択のどちらかを選ばなければいけないと思ってしまいがちですが、退職勧奨に応じるかどうか労働者の自由ですし、とくに通常のPIPと異なるところはありません。
PIPについては、外資系企業で行われることが多いですが、日本企業で行われることもないとはいえません。
また、PIPという名称がつけられていなくても、解雇前に業務改善指導を行ったうえで改善が見られないことを理由に解雇するという手法は、日本企業においてもよく見られます
例えば、業務改善指導書などを交付されて、いくつ改善すべき点が指摘されます。そして、一定期間後に業務改善指導書に記載された事項が改善されていないなどとして、解雇を言い渡されるのです。
ただし、外資系企業のPIPに比べて、日系企業の業務改善指導は、具体的な改善目標が設定されていなかったり、どう目標を達成するためのフォロー体制が不十分であったりというケースが多いように感じます。
そのような意味において、日系企業でも業務改善指導が行われることは多いですが、業務改善プログラムと言えるほどの手厚い対応が行われることはあまり多くないといえるでしょう。
なぜ外資系はPIPを行うのか?PIPの目的
外資系企業がPIPを行う目的は、本来、当該労働者の業務を改善する点にあります。
ただし、近年、PIPが労働者を退職に追い込む手法として悪用されることが増えてきました。
日本の法律では、解雇を行う前に十分に業務改善の機会を与えたことが必要となります。PIPを行い、同条件を達成できなかったことを十分に業務改善の機会を与えた証拠として提出されるのです。
また、PIPを行うことにより、労働者の自尊心を削ぎ、転職活動を促し、自ら退職するように仕向けられることもあります。
以上のように、現在、外資系企業においては、労働者を解雇する際の証拠とする目的や自主的に退職させる目的でPIPが用いられる傾向にあります。
外資系のPIPは、嫌がらせのように感じる方もいるでしょう。
上記のように会社側は、労働者を退職に追い込む目的としてPIPを用いる傾向があり、そのように感じてしまうこともやむを得ないことかもしれません。
PIPにおいて達成不可能な目標を課すことは、「過大な要求(業務上明らかに不要な事や遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)」(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針[令和2年厚生労働省告示第5号])として、職場におけるパワーハラスメントに該当する可能性があります。
そのため、明らかに達成不可能な目標を課された場合には、事業主に過大な要求である旨を指摘して、遂行可能な目標にするよう求めていくことが考えられます。
外資系におけるパワハラについては、以下の記事で詳しく解説しています。
外資系企業のパワハラについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
外資系企業のPIPに関する裁判例
外資系企業のPIPに関する裁判例として、ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京地判平成24年10月5日判時2172号132頁、東京高判平成25年4月24日労判1074号75頁)があります。
まず、同事案では、労働者は、会社から、平成19年から平成21年までの各年度末評価及び平成21年12月以降のPIP(第1回~第3回)において、繰り返し、配信記事の本数を増やす必要性について指摘を受けたり、配信すべき記事本数を課題として設定される等していました。
これらの事実からすれば、会社の主観的評価として、当該労働者が配信する記事本数が不十分であると評価されていたものと認められると判示されています。
しかし、他方で、当該会社の記者が原則としてムーバー記事や速報記事の毎日の執筆に加えて少なくとも1週間に1本程度の独自記事の執筆が義務付けられていたことを認められず、当該労働者による配信記事本数の少なさが原告と被告との間の労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるとまでは認められないとされています。
また、アクションプランや各PIPにおいて設定された配信記事本数に係る課題について、当該労働者は、独自記事の本数については全て達成し、ムーバー記事についても、第1回PIPにおいては目標数に遠く及ばなかったものの、第2回、第3回の各PIPにおいては目標数を達成するか又はそれに近い数値に及んでおり、この点についての被告の指示に従って改善を指向する態度を示していたと評価し得ると判断しています。
加えて、当該会社は、当該労働者の執筆に係る記事内容の質の問題について、前記の各評価で抽象的に指摘したり、PIPにおいて月1回「Best of the week」に提出できる程度の独自記事を提出するという課題を設定するに止まり、当該労働者の記事内容の質向上を図るために具体的な指示を出したり、当該労働者との間で問題意識を共有した上でその改善を図っていく等の具体的な改善矯正策を講じていたとは認められないと判示しています。
当該裁判例は、最終的に解雇は客観的に合理的な理由を欠くものとして無効と判断しました。
外資系企業からPIPを行われた場合の対処法6つ
外資系企業からPIPを行われてしまった場合には、適切に対処しなければ不利益措置を課されてしまう可能性があります。
PIPが業務改善の機会を与えるものであり、かつ、未達の場合には改善可能性がないことの証拠として提出される可能性を踏まえたうえで、対応を行うことになります。
具体的には、以下の6つの対処法があります。
対処法1:ミーティングを録音する
対処法2:PIPが出されるに至った具体的な出来事を明らかにする
対処法3:達成目標や期間などの修正を求める
対処法4:目標を達成するための具体的な指示を求める
対処法5:業務改善を行った証拠を残す
対処法6:改善の意思と理由を示してサインしない
それでは、各対処法について順番に解説していきます。
対処法1:ミーティングを録音する
PIPを行われた場合の対処法の1つ目は、ミーティングを録音することです。
PIPのミーティングでは、会社側からPIPを行う理由や改善の目標、方法等の説明が行われるのが通常です。そして、労働者側からも疑問点や意見が出されることになり、これに対して会社側が真摯に回答を行ったり、具体的な回答を拒否したりすることになります。
どの程度具体的な指導がなされたかということは、業務改善の機会を十分に与えたかどうかにかかわるものであり、労働者側に有利な証拠となることもあります。
また、労働者側が真摯に改善の意欲を示しているのであれば、改善可能性があったことを示す証拠にもなります。
そのため、PIPが行われた場合には、それ以降のミーティングについては録音した方がいいでしょう。
退職勧奨の録音については、以下の記事で詳しく解説しています。
退職勧奨の録音については、以下の動画でも詳しく解説しています。
対処法2:PIPが出されるに至った具体的な出来事を明らかにする
PIPを行われた場合の対処法の2つ目は、PIPが出されるに至った具体的な出来事を明らかにすることです。
会社側はパフォーマンスが期待に達していないことを理由にPIPを行うことが通常です。
しかし、期待に達していないという部分の理由が明らかにならなければ、労働者としても改善が困難です。
そのため、何月何日のいかなる業務上の出来事、若しくは、やり取りを根拠として、パフォーマンスが期待に達していないとするのかを明らかにしてもらいましょう。
これらを明らかにするように求めても、会社側が具体的な回答をしないようであれば、そのような会社側の態様自体が十分に業務改善の機会を与えていない証拠となります。
対処法3:達成目標や期間、不利益措置の修正を求める
PIPを行われた場合の対処法の3つ目は、達成目標や期間などの修正を求めることです。
会社から出された目標が課題であるにもかかわらず、それに異議を唱えないでいると、目標に同意していた等の反論を招くことになります。
達成できなかった後になって初めて目標が過大であったと主張しても、事前に目標の修正を求めていた場合に比べて説得力が低いでしょう。
また、「達成できなかった場合には解雇となることに承諾する」等の過大な不利益措置が記載されていた場合には、その部分については削除を求めることが考えられます。
そのため、目標や期間、不利益措置が不当である場合には、PIPが開始される前に、その目標は過大すぎる、その期間だけでは目標の達成が難しい、改善する意欲はあるが解雇を承諾することはできないなどと、説明して修正を求めましょう。
対処法4:目標を達成するための具体的な指示を求める
PIPを行われた場合の対処法の4つ目は、目標を達成するための具体的な指示を求めることです。
目標を設定するだけで、それを達成するためのプロセスを示さないということになれば、十分に改善をサポートしていたとは言えず、業務改善の機会があったとは認められないことがあります。
例えば、その目標を達成するために、具体的に現状の業務課遂行につきどの点をどのように改善すればいいのかを尋ねてみましょう。
対処法5:業務改善を行った証拠を残す
PIPを行われた場合の対処法の5つ目は、業務改善を行った証拠を残すことです。
目標を達成できなかった場合であっても、業務改善を行った事実が認められれば、改善を指向する態度を示していたとして、解雇は認められないことがあります。
PIPを行われた後は、業務の遂行に関してどの点をどのように変更したのかを記録しておき、また、改善を試みた証拠を小まめに残しておきましょう。
対処法6:改善の意思と理由を示してサインしない
PIPを行われた場合の対処法の6つ目は、改善の意思と理由を示してサインしないことです。
会社側が過大な目標や困難な期間、不当な不利益措置を修正してくれない場合には、PIPにサインしないことが考えられます。
ただし、理由を示さずにサインをしないだけですと、PIPを拒み改善の意欲がなかったとして、解雇の理由とされてしまいます。
そのため、PIPにサインしない場合には、別途メールなどで、改善の意思がある旨を明確に示したうえで、PIPのうち承諾できない部分を理由とともに具体的に示しておきましょう。併せて、どのような内容に修正すればサインすることができるか等を記載しておくことも考えられます。
外資系企業におけるPIP未達の場合の末路
外資系企業におけるPIPにつき目標未達の場合には、不利益措置を課される傾向にあります。
具体的には、会社から以下のような措置を課されることが多いです。
末路1:退職勧奨
末路2:解雇
末路3:降格
それでは、順番に説明していきます。
末路1:退職勧奨
PIP未達の場合の末路の1つ目は、退職勧奨です。
退職勧奨とは、会社側が労働者に任意の退職を促すものです。
会社によっては、退職に応じることを条件に一定のパッケージ(特別退職金)を提案してきます。
特別退職金とは何かについては以下の記事で詳しく解説しています。
特別退職金については、以下の動画でも詳しく解説しています。
外資系企業の退職勧奨におけるパッケージの相場は、賃金の3か月分~1年半分程度です。
外資系企業のパッケージの相場については、以下の記事で詳しく解説しています。
これに対して、退職勧奨に応じない場合には、解雇を行う旨を仄めかされ、解雇されると経歴に傷がつく等の心理的な圧力をかけられることが多いです。
外資系企業における退職勧奨のパッケージについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
末路2:解雇
PIP未達の場合の末路の2つ目は、解雇です。
解雇とは、会社側が労働者の同意なく一方的に労働者を退職させることを言います。
解雇は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当と言えなければ、濫用として無効になるとされており、厳格な条件があります。
会社側は、PIPの達成状況等を解雇の証拠として提出していきます。
外資系企業の解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
末路3:降格
PIP未達の場合の末路の3つ目は、降格です。
降格とは、役職や等級が引き下げるものであり、それに伴い賃金は下がってしまうことがあります。
ただし、賃金の減額については根拠が必要とされており、役職や等級を引き下げる場合でも、賃金規程や給与テーブルから、なぜその賃金になるのかを説明できなければなりません。
また、賃金を50%近く減らすなど、大幅な減額は濫用として無効となる傾向にあります。
減給処分が違法となるケースについては、以下の記事で詳しく解説しています。
PIP未達による退職勧奨又は解雇は早めに弁護士に相談
PIPを達成できず退職勧奨や解雇に至ってしまった場合には、早めに弁護士に相談することがおすすめです。
なぜなら、退職勧奨や解雇に伴う交渉は、対応を誤ってしまうと交渉自体困難となってしまうことが多いためです。
また、一度言ったことは後から撤回することが困難なため、途中から弁護士に相談してもリカバリーが難しいケースが多いです。
そのため、PIPを達成できず退職勧奨や解雇に至ってしまった場合には、なるべく早めに弁護士に相談して、最善の対応を心がけるべきなのです。
ただし、外資系の退職勧奨や解雇については、労働事件の中でもとくに専門性が高い分野であるため、弁護士であれば誰でも良いというわけではありません。
外資系企業におけるパッケージ交渉や不当解雇対応について、実績が多い弁護士を選ぶことが非常に重要となります。
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外資系企業の退職勧奨や不当解雇対応はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
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まとめ
以上のとおり、今回は、外資系企業のPIPとは何かを説明したうえで、未達の場合にどうなるのか、及び、PIPを行われてしまった場合の対処法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・外資系企業におけるPIP(Performance Improvement Program)とは、業務改善プログラムのことをいいます。
・外資系企業がPIPを行う目的は、本来、当該労働者の業務を改善する点にあります。ただし、近年、PIPが労働者を退職に追い込む手法として悪用されることが増えてきました。
・外資系企業からPIPを行われてしまった場合には、以下の6つの対処法があります。
対処法1:ミーティングを録音する
対処法2:PIPが出されるに至った具体的な出来事を明らかにする
対処法3:達成目標や期間などの修正を求める
対処法4:目標を達成するための具体的な指示を求める
対処法5:業務改善を行った証拠を残す
対処法6:改善の意思と理由を示してサインしない
・外資系企業におけるPIPにつき目標未達の場合には、会社から以下のような措置を課されることが多いです。
末路1:退職勧奨
末路2:解雇
末路3:降格
・PIP未達による退職勧奨や解雇については、早めに弁護士に相談することがおすすめです。
この記事が外資系企業からPIPを行われてしまい困っている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください