「残業代を請求したいけど、変形労働時間制が何かよくわからない」と悩んでいませんか?
変形労働時間制と聞くこと、何か難しい制度であると感じてしまいますよね。
変形労働時間制とは、あらかじめ法定労働時間を超えて労働させることができる日や週を定めておき、一定期間において平均して週の法定労働時間を超えなければ、残業代は発生しないとする制度です。
変形労働時間制が有効とされるためにはいくつかの条件がありますが、その中でも特に重要なのが、以下の2つです。
①就業規則又は労使協定等への記載
②変形期間における1週ないし1日の労働時間の特定
多くの会社では、これらの条件が満たされていませんので、変形労働時間制を採用していると主張している会社に勤めている方でも、実際には、通常どおり残業代を請求できることもあります。
また、仮に、変形労働時間制が条件を満たしていても、以下の3つの場合については、残業時間となりますので残業代を請求することができます。
①法定労働時間を超える時間が定められた日や週においてその時間を超えた場合
②法定労働時間を超えない時間が定められた日や週において法定労働時間を超えた場合
③変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した場合
そのため、変形労働時間制が採用されている場合であっても、残業代を請求することはできるのです。
今回は、変形労働時間制とは何かを説明した上で、残業代の計算方法やよくある勘違いをわかりやすく簡単に解説します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば変形労働時間制がどのような制度なのかがよくわかるはずです。
目次
変形労働時間制とは?意味や種類
変形労働時間制とは、あらかじめ法定労働時間を超えて労働させることができる日や週を定めておき、一定期間において平均して週の法定労働時間を超えなければ、残業代は発生しないとする制度です。
会社には、業務が忙しい時期と忙しくない時期の差が大きい場合があります。このような業務の忙しさに応じて、労働時間を配分することで効率的な業務遂行を可能にしているのです。
例えば、以下のように、一定期間の労働時間が平均して週40時間を超えない場合には、労働時間が8時間を超える日又は40時間を超える週があったとしても、残業とはなりません。
変形労働時間制には以下の3種類があります。
・1ヶ月単位の変形労働時間制
・1年単位の変形労働時間制
・1週間単位の非定型的変形労働時間制
順番に説明していきます。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月単位の変形労働時間制とは、1ヶ月以内の期間において労働時間を設定するものです。
1ヶ月単位の変形労働時間制における法定労働時間の総枠は、以下のとおりです。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制とは、1ヶ月以上1年未満の期間において労働時間を設定するものです。
1年単位の変形労働時間制における法定労働時間の総枠は、以下のとおりです。
1週間単位の非定型的変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制とは、1週間以内の期間において労働時間を設定するものです。
1週間単位の変形労働時間制を導入することができる会社は、日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多く、かつ、これを予測した上で就業規則その他これに準ずるものにより各日の労働時間を特定することが困難であると認められる事業に限られます。
具体的には、1週間単位の非定型変形労働時間制を採用できるのは、小売業、旅館、料理店、飲食店であって常時30人未満の労働者を使用するものです。
1週間単位の非定型的変形労働時間制では、1週間40時間の総枠において1日10時間まで変形を行うことができます。
変形労働時間制の条件で特に重要な2つ
そもそも変形労働時間制を採用するには、いくつかの条件があります。
実際には、変形労働時間制の条件を整えていないため、これを労働者に適用することができない会社が非常に多いのです。
変形労働時間制が条件を満たしていない場合には、通常どおりに残業代を計算して請求することができます。
変形労働時間制の条件の中でも特に重要なのが以下の2つです。
①就業規則又は労使協定等への記載
②変形期間における1週ないし1日の労働時間の特定
それでは、順番に見ていきましょう。
就業規則又は労使協定への記載
変形労働時間制の特に重要な条件の1つ目は、
です。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月以内の変形労働時間制については、事業場の労使協定又は就業規則その他これに準ずるものにより定めることが必要です。
就業規則その他これに準ずるというのは、10人以上の労働者を常用する会社では就業規則によるべきであり、それ以外の会社の場合にはこれに準ずるものの定めでよいという意味です。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制については、労使協定で書面を作成し、これを締結する必要があるとされています。
つまり、就業規則等のみにより定めることはできません。
1週間単位の非定型変形労働時間制
1週間単位の非定型変形労働時間制についても、労使協定で書面を作成し、これを締結する必要があるとされています。
つまり、就業規則等のみにより定めることはできません。
変形期間における1週ないし1日の労働時間の特定
変形労働時間制の特に重要な条件の2つ目は、
です。
特定が必要とされているのは、変形労働により労働者が不規則な労働時間となり健康や生活設計に悪影響が及ぶ等のデメリットを被る可能性があるためです。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月単位の変形労働時間制では、変形期間中の各日の始業・終業時刻を就業規則に明示するなどして、所定労働時間を特定しておく必要があるとされています。
ただし、業務の実態から就業規則作成段階で始業時刻と終業時刻を決めることが難しく、月ごとに勤務割表を作成する必要がある場合もあります。
この場合には、就業規則において各勤務の始業・終業時刻及び各勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続や周知方法等を定め、各日の勤務割は、それに従って、変形期間開始前までに具体的に特定しておけば足りるとされています。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制でも、変形期間における1週ないし1日の労働時間の特定が必要なのは1ヶ月単位の変形労働時間制の場合と同様です。
ただし、1年単位の変形労働時間制では対象期間が長いため、あらかじめ労使協定でこれらを決めておくことが困難です。
そのため、対象期間を1ヶ月以上の期間で区分して、労使協定では、最初の区分期間の労働日と各労働日の所定労働時間を定めるとともに、残りの区分期間については各期間の総労働日数と総所定労働時間数を定めておくだけで良いとされています。
このように区分期間を設けた場合には、各区分期間が開始する30日前に、事業場の過半数組織組合又は過半数代表者の同意を得て、当該区分期間の労働日と各労働日の所定労働時間を書面で定めなければなりません。
1週間単位の非定型変形労働時間制
1週間単位の非定型変形労働時間制では、毎日の所定労働時間をあらかじめ就業規則や労使協定で定めておく必要はありません。
しかし、1週間の各日の労働時間は、当該1週間の開始する前に、書面により通知しなければならないとされています。
一度特定された労働時間については、原則として、変更することはできないとされています。
なぜなら、一度特定した労働時間を変更できるとすると、労働者の生活への悪影響を抑えるために特定を要求した意味がなくなってしまうためです。
行政解釈でも、会社が業務の都合によって任意に労働時間を変更する制度は、労働時間の特定を欠き、変形労働時間制の適用を受けないとされています(昭和63年1月1日基発1号)。
ただし、勤務指定前に予見することが不可能なやむを得ない事由が発生した場合につき、変更が許される例外的、限定的事由を具体的に就業規則等に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨定めてあれば、変更が適法とされることもあります(公共性を有する事業を目的とする事業場に関する裁判例として、広島高判平14.6.25労判835号43頁[JR西日本(広島支社)事件])。
また、1週間単位の非定型労働時間制については、緊急でやむを得ない理由がある場合には、変更しようとする日の前日までに書面により通知することにより、当該あらかじめ通知した労働時間を変更することができるとされています(労働基準法施行規則12条の5第3項)。
なお、変形労働時間性が条件を満たさず違法となるケースについては以下の記事で詳しく解説しています。
変形労働時間制について集めるべき証拠3つ
会社が変形労働時間制を採用していると述べている場合には、あなたは自分自身の権利を確認するために証拠を集める必要があります。
具体的には、変形労働時間制について、集めるべき証拠としては以下の3つがあります。
・就業規則
・労使協定
・勤務割表
これらの証拠を確認したうえで、以下のいずれかに該当する場合には、変形労働時間制は条件を満たしておらず労働者に適用できないことになります。
☑変形労働時間制について規定した就業規則及び労使協定のいずれもない場合
☑就業規則又は労使協定があるものの、労働時間の特定が不十分であり、他に勤務割表などで労働時間が特定されていない場合
それでは、変形労働時間制に関する証拠について順番に説明していきます。
就業規則
変形労働時間制について集めるべき証拠の1つ目は、
です。
会社は、変形労働時間制を採用している場合には、就業規則において以下のような規定を設けていることがありますので探してみましょう。
第〇条(始業時刻、終業時刻及び休憩時間)
1 毎月1日を起算日とする1ヶ月単位の変形労働時間制とし、所定労働時間は、1ヶ月を平均して1週間40時間以内とする。
2 各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。
1日から24日まで 10時00分~18時00分(休憩12時00分~13時00分)
25日から月末まで 9時00分~20時00分(休憩12時00分~13時00分)
労使協定
変形労働時間制について集めるべき証拠の2つ目は、
です。
会社は、変形労働時間制を採用している場合には、労使協定を締結していることがありますので確認してみましょう。
変形労働時間制の労使協定がどのようなものかイメージが湧かない場合には以下のリンクから確認してみてください。
勤務割表
変形労働時間制について集めるべき証拠の3つ目は、
です。
就業規則や労使協定で各日や週の始業時刻や終業時刻、労働時間を具体的に決めていない場合には、変形期間開始前までに勤務割表等を作成して、労働者に伝える必要があります。
そのため、勤務割表があるかどうか及びこれが伝えられた時期を確認しておきましょう。
変形労働時間制でも残業代は発生する!残業代がもらえる3つの場合
変形労働時間制がとられている会社では残業代は発生しないと考えていませんか?
結論から言うと、
とされています。
具体的には、以下の3つの場合に法定時間外残業になります。
①法定労働時間を超える時間が定められた日や週においてその時間を超えた場合
②法定労働時間を超えない時間が定められた日や週において法定労働時間を超えた場合
③変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した場合
(参照:昭和63年1月1日基発1号、平成6年3月3日基発181号)
したがって、変形労働時間制がとられていたとしても、残業代の計算方法が変わるだけであり、残業代は発生することに注意が必要です。
それでは、残業代が発生する3つの場合について、もう少し具体的に見ていきましょう。
法定労働時間を超える時間が定められた日や週においてその時間を超えた場合
変形労働時間制において残業代が発生する場合の1つ目は、
です。
変形労働時間制においては、一定期間内で法定労働時間の変形が認められています。
そのため、その変形期間において法定労働時間を超える時間が定められている場合には、その定められている時間の範囲であれば、法定労働時間を超えても法定時間外残業とはなりません。
しかし、その定められている時間を超えて残業をすれば、変形期間中であっても法定時間外残業となります。
例えば、あらかじめ9時間の労働時間を定められている日であれば、法定労働時間である8時間を超えていても、9時間までであれば法定時間外残業とはなりません。そのため、10時間働いた場合には、法定時間外残業は1時間となります。
法定労働時間を超えない時間が定められた日や週において法定労働時間を超えた場合
変形労働時間制において残業代が発生する場合の2つ目は、
です。
法定労働時間を超えない時間が定められた日や週については、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えた場合に、法定時間外残業となります。
例えば、あらかじめ7時間の労働時間を定められている日であれば、法定労働時間である8時間を超えて働いた場合に法定時間外残業となります。そのため、9時間働いた場合には、法定時間外残業を1時間したということになります。
変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した場合
変形労働時間制において残業代が発生する場合の3つ目は、
です。
1ヶ月単位の変形労働時間制の総枠は、以下のとおりです。
1年単位の変形労働時間制の総枠は、以下のとおりです。
上記総枠を超えて労働をした場合には、変形労働時間制のもとであっても、法定時間外残業となります。
変形労働時間制と類似の制度の違い
変形労働時間制と同じように、法定労働時間を超えても、残業とならないことがある制度が他にもあります。
例えば、変形労働時間制に類似する制度としては、以下の2つが挙げられます。
・フレックスタイム制
・裁量労働制
それぞれについて、変形労働時間制との違いを見ていきましょう。
フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、労働者が単位期間の中で一定時間労働することを条件として、1日の労働時間を自己の選択する時に開始したり、終了したりできる制度です。
フレックスタイム制では、1か月、1年などの清算期間における1週間当たりの平均労働時間が40時間を超える場合に残業時間となります。
フレックスタイム制については、以下の記事で詳しく説明しています。
裁量労働制
裁量労働制とは、専門性が高い業務に従事する労働者や裁量性の高い業務に従事する労働者について、労働の量ではなく質や成果に報酬を支払うことを可能とする制度です。
裁量労働制がとられている場合には、実際の労働時間数にかかわらず、一定の労働時間数だけ労働したものとみなされることになります。
裁量労働制については、以下の記事で詳しく解説しています。
変形労働時間制の残業代は弁護士に相談してみよう
変形労働時間制の残業代についての悩みは、弁護士に相談してみましょう。
変形労働時間制を導入しているとしている会社の中には、変形労働時間制の条件を満たしていない会社が多く存在します。
また、変形労働時間制の条件を満たしている会社でも、残業代の未払いがあることがよくあります。
変形労働時間制の条件や計算は複雑ですので、自分だけで悩むのではなく、残業代請求に注力している弁護士に相談してみることがおすすめです。
初回無料相談を利用すれば、費用をかけずに相談できますので、利用するデメリットは特にありません。
そのため、変形労働時間制についての悩みは弁護士に相談することがおすすめなのです。
まとめ
以上のように、今回は、変形労働時間制とは何かを説明した上で、残業代の計算方法やよくある勘違いを解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・変形労働時間制には、1ヶ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制があります。
・変形労働時間制の条件の中でも特に重要なものとして、①就業規則又は労使協定等への記載、②変形期間における1週ないし1日の労働時間の特定があります。
・変形労働時間制がとられている会社でも、①法定労働時間を超える時間が定められた日や週においてその時間を超えた場合、②法定労働時間を超えない時間が定められた日や週において法定労働時間を超えた場合、③変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した場合には、法定時間外残業になります。
この記事が変形労働時間制に悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。