使用者から解雇された場合、労働者は、多くの場合、唯一の生計を維持する手段を奪われることになります。
もっとも、解雇を争うためには、一定の期間を要するため、その間の生活の維持が課題となります。親族が生活費を援助してくれたり、十分な貯金があったりするとは限りません。
今回は、不当解雇された場合において生活費を確保する方法を3つ紹介します。
目次
失業手当の仮給付
仮給付とは
失業手当の仮給付とは、労働者が解雇を争う場合に、失業手当を仮に受給する措置です。
法律上の明文はありませんが、解雇を争っている労働者を保護する必要性が大きいため運用上認められています(厚生労働省職業安定局雇用保険課:業務取扱要領50001-54000 雇用保険給付関係(一般求職者に対する求職者給付)(以下、「業務取扱要領」といいます。)346頁)。
不当解雇を争う場合において、失業保険の本給付を受給すると、使用者が解雇を争わないものと誤解するおそれがあり、解雇の無効を主張することが信義則に反するとされる場合があります(大阪地判平4.9.30労判620号70頁[新大阪警備保障事件])。そのため、解雇を争うことと矛盾せずに失業手当を受給する方法として、暫定的に仮給付を受けるのです。
待期期間と給付制限
失業手当は、失業している日が通算して7日に満たない間は待期期間として支給されず、更に、自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合は、待期期間終了後、3か月間の給付制限があります(雇用保険法33条1項)。
支給日数・金額
支給日数については、仮給付については、裁判所又は労働委員会の命令又は判決が確定しない限り、特定受給資格者には該当しないものとして取り扱われますので(業務取扱要領349頁)、一般の離職者として雇用保険の加入期間に従い下記のとおりの日数となります。
【一般の離職者】
失業手当の金額は、以下のように算定されます(雇用保険法16条、17条1項)。
賃金日額は、最後の6か月間に支払われた賃金総額(臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く)÷180日により求められます。
給付率は、60歳未満の場合には50%~80%、60歳以上65歳未満の場合には45%~80%です。
仮給付を受給するのに必要な書類
仮給付を受給するには、裁決機関に申立て・提訴・申告をしていることを確認できる書類(押印済みの労働審判申立書や押印済みの訴状)が必要となります。
仮給付の返還
また、仮給付は、解雇が無効となった場合や和解により解雇日に退職していないことになった場合には、返還する必要があります。そのため、仮給付を受給する際に、確約書を作成することになります。
失業保険の仮給付については、以下の動画でも詳しく解説しています。
賃金の仮払い仮処分
仮払い仮処分とは
仮処分とは、通常訴訟による権利の実現を保全するために、簡易迅速な審理により、裁判所が一定の仮の措置を行う暫定的かつ付随的な処分です。
不当解雇を争う場合には、①従業員たる地位を仮に定める仮処分と、②賃金の仮払いを命ずる仮処分を申し立てることが多いです。
保全の必要性
仮処分が認められるには、保全の必要性を要します。
①従業員たる地位を仮に定める仮処分は、任意の履行を期待するものにすぎず、原則として、保全の必要性が否定される傾向にあります。
これに対して、②賃金の仮払い仮処分は、通常、賃金が労働者の唯一の生計維持の手段であるため、原則として、保全の必要性が肯定される傾向にあります。
仮払いの金額と期間
仮払いの金額と期間は、裁判所の運用により差があります。
最近は、仮払金額は債権者と家族の生活に必要な限度の額、仮払期間は将来分については本案1審判決言い渡しまで(東京地方裁判所では、原則として1年間)とされる傾向にあります。
担保の要否
保全命令に当たっては、一般的には、担保を立てることを命じられる場合もありますが、労働事件では、担保を立てることはあまり命じられない傾向にあります。
弁護士費用等
仮払い仮処分を行うには、裁判所に保全を申し立てる必要があり、審尋等の手続を要します。そのため、弁護士に依頼する場合等には費用が生じることになります。
他社への再就職
他社への再就職とは
他社への再就職とは、解雇後に解雇を争いながら他社へ再就職することにより賃金を得る方法です。
アルバイトとして再就職する場合や正社員として再就職する場合などがあります。
中間収入の控除
解雇された労働者は、解雇の無効が確認された場合には、解雇後の賃金を請求することができます。
もっとも、解雇後に再就職して賃金を得ていた場合には、解雇した会社と再就職先から二重に賃金を得ることになるため、その調整が必要になります。
これについて、解雇された労働者が解雇期間中に他の会社において収入を得ていた場合には、解雇の無効が確認された場合であっても、その収入が副業的であって解雇がなくても当然に取得し得るなど特段の事情がない限り、平均賃金の6割を超える部分は、控除の対象になるとされています。
就労の意思と黙示の合意退職
裁判例によっては、解雇後の再就職を考慮し、労働者の就労の意思を否定して就労の意思喪失後の賃金請求を認めない場合があります(東京地判平9.8.26労判734号75頁[ペンション経営研究所事件]、東京地判平9.8.26労判724号48頁[オスロ―商会ほか事件]等)。
また、近年の裁判例には、解雇後の再就職事情を考慮し、就労の意思を否定するのみならず、黙示の合意退職を認めたものがあります(東京地判平31.4.25[新日本建設運輸事件])。
就労の意思が否定されるか、黙示の合意退職が認められるかは、再就職先における勤務条件や勤務状況、解雇した会社に対する対応等を考慮し判断することになります。
解雇の無効が確認された場合に二重に就職している状況となること
また、他社への再就職をした場合において、解雇の無効が確認された場合には、労働者が二重に就職している状況となります。そのため、解雇の無効が確認された場合には、再就職先の会社を退職するかどうかなどを検討する必要があります。