業務の長時間化や過酷な勤務環境などから、仕事によるストレスを原因とする精神疾患に関する事案が増加しており、社会的関心も高まっています。
このような精神疾患に関する事案の中でも、労働者が自殺するに至ってしまう事案があります。
このような場合、遺族の方々は、精神的に大きな苦痛を被ることになり、経済的にも生活に窮することになります。
今回は、過労自殺における労災申請及び会社の責任について解説します。
目次
業務に起因する精神障害を原因とする自殺の現状
精神障害の労災補償状況について、厚生労働省の公表している「精神障害に関する事案の労災補償状況」によると、「請求件数」は、平成26年度は「1456件」でしたが、平成30年度では「1820件」となっており、毎年増加を続けています。これに対して、支給決定件数自体は横ばいであり、認容率を見ると平成26年度は「38.0%」でしたが、平成30年度は「31.8%」となっており減少傾向にあります。
このうち、自殺に限定してみると、請求件数は横ばいであり、平成26年度から平成30年度まで概ね「200件~220件」の間で推移しています。認容率については、平成26年度~平成29年度までは「45%~47%」間で推移していましたが、平成30年度は「38.2%」と低下しています。いずれの年も、「精神障害」全体の認容率と比較すると、自殺の場合の認容率は高くなっています。
【精神障害の労災補償状況】
精神障害の請求件数の多い業種について、前掲「精神障害に関する事案の労災補償状況」によると、平成30年度は、順に、①「医療,福祉(社会保険・社会福祉・介護事業)」が「192件」、②「医療,福祉(医療業)」が「127件」、③「運輸業,郵便業」が「89件」、④「建設業」が「68件」、⑤「情報通信業」が「65件」となっています。
このうち、自殺に限定してみると、順に、①「建設業」が「16件」、②「製造業」が「12件」、③「情報通信業」が「10件」、④「医療,福祉(医療業)」が「9件」、⑤「宿泊業,飲食サービス業」が「8件」となります。
【精神障害の請求件数の多い業種(中分類の上位15業種)】
労災補償
過労自殺の場合に労災は認められるのか
労働者が自殺した場合若しくは自殺未遂により負傷した場合などには、労災補償の対象になるのでしょうか。
労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」といいます。)は、以下のように定めています。
労働者災害補償保険法12条の2の2(給付制限)
1「労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となつた事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない。」
2「労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となつた事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる。」
かつての行政解釈では、精神障害による自殺が心神喪失の状態において行われた場合のみに限定して業務上の死亡と取り扱われていました(昭和23年5月11日基収1391号等)。
その後、業務によるストレスを原因に自殺したことを理由とする労災申請が増加したため、行政解釈が改められ(平成11年9月14日基発第545号[精神障害による自殺の取扱いについて]、以下「545号通達」といいます。)、新たに判断指針が示されました(平成11年9月14日基発544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」、以下、「544号通達」といいます。)。これによって、自殺の場合であっても、「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合」には、結果の発生を意図した故意には該当しないとされています
上記判断指針が示されて以降は、裁判例においても、労災保険法12条の2の2第1項は、業務とかかわりのない労働者の自由な意思によって発生した事故は業務との因果関係が中断される結果、業務起因性がないことを確認的に示したものにすぎないなどとして、主として精神障害等による業務起因性を判断する傾向にあります(名古屋高判平15.7.8労判856号14頁[豊田労基署事件])。
その後も精神障害等による労災申請の増加は続き、平成21年4月に判断指針が一部改正され(平成21年4月6日基発第0406001号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針の一部改正について」)、更に、平成23年12月にこれまでの判断指針が廃止されて、新たな認定基準が定められています(平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」、以下「1226号通達」といいます。)。なお、業務に起因して精神障害を発病した場合の自殺の取り扱いについては、平成11年判断指針の取り扱いが維持されています。
労災の認定基準
⑴ 労災と認定されるための要件
労災と認定されるためには、労働者の①「業務上の」、②「負傷、疾病、障害又は死亡」である必要があります。
自殺の場合については、②「死亡」自体は明らかでしょうから、主として問題となるのは、①「業務上の」といえるかどうか(以下、「業務起因性」といいます。)です。
労働者災害補償保険法7条(保険給付の種類)
1「この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。」
一「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡…に関する保険給付」
⑵ 業務起因性の考え方
労災補償は、使用者が労働基準法上負う災害補償責任を担保する制度と考えるのが通説です。この考え方からは、業務起因性は、業務と傷病等との間に条件関係があることを前提としつつ、両者の間に法的に見て労災補償を認めるのを相当とする関係があることが必要とされることになります(相当因果関係説、判例・行政解釈[認定実務])。
労働基準法75条(療養補償)
1「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。」
労働基準法施行規則35条(業務上の疾病)
「法第75条第2項の規定による業務上の疾病は、別表第1の2に掲げる疾病とする。」
労働基準法施行規則別表第1の2(第35条関係)
九「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」
⑶ 精神疾患の業務起因性(1226号通達)
ア 総論
1226号通達は、以下の①乃至③のいずれの要件をも満たす対象疾病は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱うとしています。
① 対象疾病を発病していること。
② 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
③ 業務外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
イ ①対象疾病を発病
対象疾病は、国際疾病分類第10回修正版(以下、「ICD-10」といいます。)第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害であって、器質性のもの及び有害物質に起因するものを除きます。
対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主として、ICD-10のF2からF4に分類される精神障害です。
うつ病は、第V章のF3の分類の中で、F30~F33にかけてさらに細かく分類されています。適応障害は、F4の分類の中のF43.2とされています。
主治医の意見書や診療録等の関係資料、請求人や関係者からの聴取内容、その他の情報から得られた認定事実により、医学的に判断されます。
ウ ②業務による心理的負荷の強度
業務による心理的負荷は、以下の判断方法により総合評価が「強」と判断される必要があります。
1226号通達は、それだけで心理的負荷の総合評価を「強」とする「特別の出来事」と、特別の出来事以外の「具体的出来事」を分けています。そして、「具体的出来事」については、平均的な心理的負荷の強度を「強」、「中」、「弱」の三段階に区分し例示しています。
心理的負荷は、精神障害を発病した労働者がその出来事及び出来事後の状況が持続する程度を主観的にどう受け止めたかではなく、同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点から評価されます。同種の労働者とは、職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似するものをいいます。
【特別な出来事】
【特別な出来事以外】(具体的出来事及び強度が「中」「強」となる例の一部)
<出来事が複数ある場合>
いずれの出来事でも単独では「強」の評価とならない場合には、それらの複数の出来事について、関連して生じているのか、関連なく生じているのかを判断した上で、以下のとおり評価します。
⑴ 出来事が関連している場合
出来事が関連して生じている場合には、その全体を一つの出来事と評価し、原則として最初の出来事を「具体的出来事」として表に当てはめ、関連して生じた各出来事は出来事後の状況とみなす方法により、その全体評価を行います。
具体的には、「中」である出来事があり、それに関連する別の出来事(それ単独では「中」の評価)が生じた場合には、後発の出来事は出来事後の状況とみなし、当該後発の出来事の内容、程度により「強」又は「中」として全体を評価します。
⑵ 出来事が関連していない場合
出来事が関連して生じていない場合には、主としてそれらの出来事の数、各出来事の内容(心理的負荷の強弱)、各出来事の時間的近接の程度を元に、その全体的な心理的負荷を評価します。
具体的には、単独の出来事の心理的負荷が「中」である出来事が複数生じている場合には、全体評価は「中」又は「強」となります。また、「中」の出来事が一つあるほかには「弱」出来事しかない場合には原則として全体評価も「中」であり、「弱」の出来事が複数生じている場合には原則として全体評価も「弱」となります。
<長時間労働の評価>
⑴ 長時間労働自体の「出来事」としての評価
長時間労働以外に特段の出来事が存在しない場合には、長時間労働それ自体を「出来事」とし、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」という「具体的出来事」に当てはめて心理的負荷を評価します。
他の出来事がある場合には、時間外労働の状況は下記⑵の総合評価において評価されることから、原則として「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」という項目では評価しません。ただし、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」との項目で「強」と判断できる場合には、他に出来事が存在しても、この項目でも評価し、全体評価を「強」とします。
⑵ 「出来事」に対処するために生じた長時間労働
出来事に対処するために生じた長時間労働は、心身の疲労を増加させ、ストレス対応能力を低下させる要因となることや、長時間労働の続く中で発生した出来事の心理的負荷はより強くなることから、出来事自体の心理的負荷と恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)を関連させて総合評価を行います。
具体的には、「中」程度と判断される出来事の後に恒常的な長時間労働が認められる場合等には、心理的負荷の総合評価を「強」とします。
<発病6か以前の出来事>
業務による心理的負荷の評価に当たっては、6か月以前の事情を考慮することが相当とされる場合があります。
⑴ 業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者
業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者が、その傷病によって生じた強い苦痛や社会復帰が困難な状況を原因として対象疾病を発病したと判断される場合には、当該苦痛等の原因となった傷病が生じた時期は発病の6か月よりも前であったとしても、発病前おおむね6か月の間に生じた苦痛等が、ときに強い心理的負荷となることにかんがみ、特に当該苦痛等を出来事とみなします。
⑵ 出来事が繰り返されるもの
いじめやセクシュアルハラスメントのように、出来事が繰り返されるものについては、発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を評価の対象とします。
⑶ 特に強い心理的負荷となる出来事
生死にかかわる業務上のケガをした、強姦にあった等の特に強い心理的負荷となる出来事を体験した者は、その直後に無感覚等の心的まひや解離等の心理的反応が生じる場合があり、このため医療機関への受診時期が当該出来事から6か月よりも後になることもあります。その場合には、当該解離性の反応が生じた時期が発病時期となるため、当該発病時期の前おおむね6か月の間の出来事を評価します。
⑷ 本人が出来事の発生時期は6か月よりも前と主張する場合の取り扱い
本人が主張する出来事の発生時期は発病の6か月より前である場合であっても、発病前おおむね6か月の間における出来事の有無等についても調査し、例えば、当該期間における業務内容の変化や新たな業務指示等が認められるときは、これを出来事として発病前おおむね6か月の間の心理的負荷を評価します。
<専門家意見と認定要件の判断>
認定要件を満たすか否かを判断するに当たっては、医師の意見と認定した事実に基づき次のとおり行うとされています。
⑴ 主治医意見による判断
すべての事案(対象疾病の治療歴がない自殺に係る事案を除く。)について、主治医から、疾患名、発病時期、主治医の考える発病原因及びそれらの判断の根拠についての意見を求めます。
その結果、労働基準監督署長(以下「署長」という。)が認定した事実主治医の診断の前提となっている事実が対象疾病の発病時期やその原因に関して矛盾なく合致し、その事実を表に当てはめた場合に「強」に該当することが明らかで、下記⑵又は⑶に該当しない場合には、認定要件を満たすものと判断します。
⑵ 専門医意見による判断
次の事案については、主治医の意見に加え、地方労災委員等の専門医に対して意見を求め、その意見に基づき認定要件を満たすか否かを判断します。
① 主治医が発病時期やその原因を特定できない又はその根拠等が曖昧な事案等、主治医の医学的判断の補足が必要な事案
② 疾患名が、ICD-10のF3(気分(感情)障害)及びF4(神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害)以外に該当する事案
③ 署長が認定した事実関係を別表1に当てはめた場合に、「強」に該当しない(「中」又は「弱」である)ことが明らかな事案
④ 署長が認定した事実関係を表に当てはめた場合に、明確に「強」に該当するが、業務以外の心理的負荷又は個体的要因が認められる事案(下記⑶③に該当する事案を除く。)
⑶ 専門部会意見による判断
次の事案については、主治医の意見に加え、地方労災委員協議会精神障害等専門部会に協議して合議による意見を求め、その意見に基づき認定要件を満たすか否かを判断します。
① 自殺に係る事案
② 署長が認定した事実関係を表に当てはめた場合に、「強」に該当するかどうかも含め判断しがたい事案
③ 署長が認定した事実関係を表に当てはめた場合に、明確に「強」に該当するが、顕著な業務以外の心理的負荷又は個体側要因が認められる事案
④ その他、専門医又は署長が、発病の有無、疾患名、発病時期、心理的負荷の強度の判断について高度な医学的検討が必要と判断した事案
⑷ 法律専門家の助言
関係者が相反する主張をする場合の事実認定の方法や関係する法律の内容等について、法律専門家の助言が必要な場合には、医学専門科医の意見とは別に、法務専門員等の法律専門家の意見を求めます。
エ ③業務以外の心理的負荷及び個体側要因の判断
③「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」とは、次のⓐ又はⓑの場合をいいます。
ⓐ業務以外の心理的負荷及び個体側要因が認められない場合
ⓑ業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの、業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合
(ア)業務以外の心理的負荷の判断
業務以外の心理的負荷の強度については、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、対象疾病の発病に関与したと考えられる業務以外の出来事の有無を確認します。
出来事が確認できない場合には、上記ⓐに該当するものとして取り扱います。
出来事が一つ以上確認できた場合は、それらの出来事の心理的負荷の強度について「業務以外の心理的負荷評価表」を指標として、心理的負荷の強度を「Ⅲ」、「Ⅱ」又は「Ⅰ」に区分します。
強度が「Ⅱ」又は「Ⅰ」の出来事しか認められない場合は、原則として上記ⓑに該当するものとして取り扱います。
「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事のうち心理的負荷が特に強いものがある場合や、「Ⅲ」に該当する業務以外の出来事が複数ある場合等については、それらの内容等を詳細に検討の上、それが発病の原因であると判断することの医学的な妥当性を慎重に検討して、上記ⓑに該当するか否かを判断します。
【業務以外の心理的負荷評価表(心理的負荷の強度Ⅲとされる具体的出来事)】
(イ)個体側要因の判断
本人の個体側要因については、その有無とその内容について確認し、個体側要因の存在が確認できた場合には、それが発病の原因であると判断することの医学的な妥当性を慎重に検討して、上記ⓑに該当するか否かを判断します。
業務による強い心理的負荷が認められる事案であって個体側要因によって発病したこと医学的に見て明らかな場合としては、例えば、就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており、請求に係る精神障害がその一連の病態である場合や、重度のアルコール依存状況がある場合等です。
補償の内容
⑴ 死亡した場合
業務災害により死亡した場合の補償の内容は以下のとおりです。
① 遺族補償年金
業務災害により死亡したときの給付です
(保険給付の内容)
遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金
1人 153日分
2人 201日分
3人 223日分
4人以上 245日分
(遺族特別支給金)
遺族の数に関わらず、一律300万円
(遺族特別年金)
遺族の数等に応じ、算定基礎日額の245日分から153日分の年金
② 遺族補償一時金
ⓐ遺族補償年金を受け得る遺族がないとき、又はⓑ遺族補償年金を受けている人が失権し、かつ、他に遺族補償年金を受け得る人がいない場合であって、既に支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときの給付です。
(保険給付の内容)
給付基礎日額の1000日分の一時金(ⓑの場合は、既に支給した年金の合計額を差し引いた額)
(遺族特別支給金)
遺族の数にかかわらず、一律300万円(ⓐの場合のみ)
(遺族特別一時金)
算定基礎日額の1000日分の一時金(ⓑの場合は、すでに支給した特別年金の合計額を差し引いた額)
③ 葬祭料
業務災害により死亡した人の葬祭を行うときの給付です。
(保険給付の内容)
315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)
⑵ 存命である場合
①療養補償給付
②休業補償給付
③障害補償年金
④障害補償一時金
⑤傷病補償年金
⑥介護補償給付
※詳細は、参考リンクの労災保険給付の概要8頁乃至9頁(労災保険給付等一覧)をご確認ください。
会社への損害賠償請求
総論
業務に起因する精神疾患による自殺の場合には、会社に対して、安全配慮義務違反を理由として債務不履行に基づく損害賠償請求をすることや、不法行為に基づき損害賠償請求をすることが考えられます。
安全配慮義務違反
労働契約法5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労することができるよう、必要な配慮をするものとする」とされています。
そして、安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なります。
例えば、恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを上司らが認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかった場合などには、安全配慮義務違反が認められることになります(最二判平12.3.24民集54巻3号1155頁[電通事件]参照)。
最二判平12.3.24民集54巻3号1155頁[電通事件]
「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当」とした上で、恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを上司らが認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき、過失があるとしました。
最二判平26.3.24労働判1094号22頁[東芝(うつ病・解雇)事件]
労働者が使用者「に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は、神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等を内容とするもので、労働者にとって、自己のプライバシーに属する情報であり、」 「通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。」
「労働者にとって加重な業務が続く中でその体調の悪化が看守される場合には、上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。」
損害
損害賠償においては、死亡逸失利益、死亡慰謝料、弁護士費用などを会社に対して請求することができます。
死亡逸失利益については、労災保険により一部補われますが、完全に保証されるわけではありません。そのため、労災が認定されて補償がされている場合でも、その差額について会社に対して請求することができます。
慰謝料については、労災保険では補償されていません。そのため、これを請求するには、会社に対して損害賠償請求をする必要があります。
弁護士費用についても、一部を損害として会社に対して請求することができます。
過失相殺
使用者の賠償すべき額の決定に当たっては、損害の発生または拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因が一定の限度で斟酌されて、損害賠償金額が減額される場合があります。
しかし、「ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることは許されません(最二判平12.3.24民集54巻3号1155頁[電通事件])。
労災申請及び会社への損害賠償請求をする方法
参考リンク
厚生労働省:平成30年度「過労死等の労災補償状況」を公表します
精神障害等の労災認定に関する関係通達(平成11年9月14日基発第544号[改正平成21年4月6日基発0405001号]・545号等)
平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」
平成23年12月26日基労補発1226号第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準の運用等について」