「労働基準監督署は役に立たない」との言葉を耳にして不安に感じていませんか?
労働基準監督署は、労働基準法の実施に関して調査や指導の権限を持っている行政機関です。
しかし、労働基準監督署は、すべての労働問題に介入して解決することができるわけではありません。
労働基準監督署を利用するうえでは、「労働基準監督署では対応できない事例」と「労働基準監督署が動かない原因」を知っておくことが重要です。
実際、労働基準監督署に動いてもらうまでに多くの労力がかかったのに、結局解決に至ることができなかったというケースも多いのです。
ただし、労働基準監督署で解決できなかったからといって、すぐにあきらめる必要はありません。
このように労働基準監督署による解決が難しい事例についても対処法があります。
今回は、労働基準監督署が対応できない事例や動かない原因とその対処法を解説していきます。
この記事を読めば労働基準監督署が役に立たないのではないかとの疑問が解消するはずです。
労働基準監督署が動いてくれないケースについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
労働基準監督署とは
労働基準監督署は、労働基準法の実施に関して調査や指導の権限を持っている行政機関です。
全国に321署あります(2019年4月現在)。
労働基準監督署の所在地については、以下のリンクから確認してください。
全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省
労働基準監督署は、労働基準法等の法令に違反する事案を取り扱っています。
労働者が労働基準監督署に相談した場合における解決までの流れの一例は、以下の通りです。
労働基準監督署に相談する場合には、面談を行い事実関係や問題意識を労働基準監督署の方に伝えることになります。
その後、必要があれば、労働基準監督署は会社を調査して、労働基準法等の法令違反の有無を確認します。
労働基準監督署は、もしも労働基準法等の法令違反が見つかった場合やそのおそれがあると判断した場合には、是正勧告や指導を行います。
特に悪質な一部の事案では、送検されたり・公表されたりするケースもあります。
労働基準監督署は無料で利用することができますが、その反面、対応できない事例や動いてもらえない場合もあります。
労働基準監督署が対応できない事例3つ
労働基準監督署に相談しても、労働基準監督署では対応できない事例があります。
なぜなら、労働基準監督署では取り扱うことができる事例が限定されていますし、解決手段についても強制力がないためです。
具体的には、労働基準監督署では対応できない事例として、以下の3つを挙げることができます。
事例1:労働基準法等の違反ではないケース
事例2:法的に争いがあるケース
事例3:会社が指導に従わないケース
順番に説明していきます。
事例1:労働基準法等の違反ではないケース
労働基準監督署では対応できない事例の1つ目は、労働基準法違反等の問題ではないケースです。
労働基準監督署が取り扱っているのは、労働基準法等の法令に違反する問題です。
そのため、労働基準監督署は、労働基準法等の違反とは言えず、労働契約法や民法の問題に過ぎないようなケースでは対応できない場合があります。
例えば、労働基準法違反の事例の一例を挙げると以下の通りです。
☑ 労働条件が労働条件通知書に記載されていた事実と違う
☑ 賃金や残業代を支払ってもらえない
☑ 月100時間を超える残業又は月45時間を超える恒常的な残業がある
☑ 雇用契約書や就業規則に所定の休日が存在しない
☑ 労働時間が6時間を超える場合に45分・8時間を超える場合に1時間の休憩がない
☑ 解雇予告手当の支払いがされていない
これに対して、労働基準法違反ではない事例の一例を挙げると以下の通りです。
☑ セクシュアルハラスメント
☑ 退職勧奨
☑ 解雇権濫用
これらの労働基準法違反ではない事例について、労働基準監督署に相談しても、対応を断られてしまうことがあります。
事例2:法的に争いがあるケース
労働基準監督署では対応できない事例の2つ目は、法的に争いがあるケースです。
労働基準監督署は、会社の行為が労働基準法に違反しているかどうか法的に争いとなりえる場合には、裁判所に判断を委ねることになります。
例えば、労働者が残業代の未払いがあると労働基準監督署に相談した場合において、会社側が「固定残業代の支払いをしている」と反論をしたり、「管理監督者だから支払う義務はない」と反論したりすることがあります。
この場合に、会社の主張に理由がないことが明らかであると言えないようなケースでは、労働基準監督署は、会社に是正勧告や指導をできないことがあります。
事例3:会社が指導に従わないケース
労働基準監督署では対応できない事例の3つ目は、会社が指導に従わないケースです。
労働基準監督署は、労働基準法等違反の問題を解決するために調査や指導・是正勧告、逮捕・送検などの手段をとることができます。
しかし、会社が指導に従わない場合には、労働基準監督署は強制的に問題を解決することができません。
例えば、労働基準監督署は、会社に残業代の未払いがあるような場合に、会社の財産を差し押さえて、未払い問題を解消するということはできないのです。
会社の財産を差し押さえるためには、別途裁判等の手続きを行うことが必要となります。
労働基準監督署が動かない原因
労働基準監督署が対応できる事例であっても、労働基準監督署が動いてくれない場合があります。
労働基準監督署が動かない原因としては、例えば以下の3つを挙げることができます。
原因1:匿名の相談など優先度が低い
原因2:調査するだけの事実関係がない
原因3:あなたの意向が十分に伝わっていない
それぞれの原因について順番に説明していきます。
原因1:匿名の相談など優先度が低い
労働基準監督署が動かない原因の1つ目は、匿名の相談など優先度が低いことです。
労働基準監督署は慢性的な人員不足に悩まされています。日々新たに入ってくる相談すべてについて調査をして、指導を行うことはできません。
労働基準監督署は、信頼性の高い情報や緊急性の高い情報について、優先して調査や指導を行う傾向にあります。
例えば、「匿名での相談」や「電話のみでの相談」については、信頼性又は緊急性の低い情報として扱われてしまう可能性があります。
そのため、匿名の相談などについては、優先度が低いものとして、労働基準監督署に動いてもらえないことがあるのです。
原因2:調査するだけの事実関係がない
労働基準監督署が動かない原因の2つ目は、調査をするだけの事実関係がないことです。
労働基準監督署は調査をする必要がうかがえるような事実や証拠が明らかになってから調査を行おうとします。
例えば、労働基準監督署に相談すると、まずは自分で会社に対して通知書や請求書を送付することを勧められたり、資料を持参するように求められたりすることがよくあります。
あなたが通知書や請求書を送付した後の会社の対応やあなたの持参した資料を確認して、ようやく労働基準監督署に調査を行ってもらえることが多いのです。
そのため、調査するだけの事実関係が明らかとなっていない段階においては、労働基準監督署に動いてもらえないことがあります。
原因3:あなたの意向が十分に伝わっていない
労働基準監督署が動かない原因の3つ目は、あなたの意向が十分に伝わっていないことです。
あなたが労働基準監督署に調査や指導をしてほしいとの明確な意向を伝えない場合には、相談のみの対応で終了してしまうことがあります。
例えば、「残業代の不払いに悩んでいます」と相談した場合に、残業代の計算方法や残業代を請求する通知書の記載方法を教えてもらえるだけで、調査や指導の話にならないこともあります。
そのため、あなたの意向が十分に伝わらない場合には、相談のみの対応で終了してしまい、調査や指導をしてもらえないことがあるのです。
労働基準監督署への相談方法にはコツがある
労働基準監督署に動いてもらうための相談方法には、コツがあります。
労働基準監督署に動いてもらえない原因については、先ほど説明したとおりです。
これを踏まえると、労働基準監督署に動いてもらうためには、以下の点を意識して相談してみることがおすすめです。
コツ1:自分の名前と会社の名前を伝えたうえで面談する
コツ2:事実関係や証拠を整理しておく
コツ3:調査や指導をしてほしい旨を明確に伝える
コツ1:自分の名前と会社の名前を伝えたうえで面談する
まず、労働基準監督署に相談する際には、自分の名前と会社の名前を伝えたうえで面談を行うようにしましょう。
労働基準監督署は、通常、あなたの名前を勝手に会社に伝えることはしません。
また、電話だけですと十分にあなたの話を聞いてもらうことはできないので、面談により伝えることが重要となります。
事前に電話で面談に行くことを伝えておくと、スムーズに面談をすることができます。
コツ2:事実関係や証拠を整理しておく
次に、労働基準監督署に相談する前に事実関係や証拠を整理しておくようにしましょう、
具体的に、会社のいかなる行為が労働基準法等に違反するのかについて、時系列などに沿って整理しておきます。
賃金の未払いなどの問題については、いくらの未払いがあるのか、何月分の賃金が未払いなのかを言えるようにしておきましょう。
また、これらに関連する資料がある場合には、併せて、これも持参するべきです。
コツ3:調査や指導をしてほしい旨を明確に伝える
最後に、労働基準監督署に相談する場合には、調査や指導をしてほしいと明確に伝えるようにしましょう。
面談の際に、担当の方に「調査や指導に至るまでの流れ」や「調査をしてもらうためにあなたがすべき事項」があるかを確認しておくといいでしょう。
労働基準監督署では解決できない場合の対処法
労働基準監督署では解決できない場合には、裁判所を利用した手続を検討しましょう。
裁判所を利用した手続としては、労働審判や訴訟を用いることが考えられます。
労働審判や訴訟であれば、労働基準法等違反以外のケースや法的な争点があるケース、会社が労働基準監督署の指導に従わないケースでも解決できる可能性があるためです。
労働審判と訴訟それぞれの方法について、説明していきます。
労働審判
労働基準監督署では解決できない場合の対処法の1つ目は、労働審判です。
労働審判とは、全3回までの期日で話し合いによる解決を目指す手続きです。
第1回目の期日の前半で「あなた」と「会社関係者」双方に事実関係の確認が行われることになり、裁判所がおおよその心証を形成します。
その後は、裁判所が形成した心証を踏まえて、双方の折り合いがつくかどうかを検討していきます。
もしも、話し合いによる解決が難しい場合には、裁判所が一時的な判断を下すことになります。裁判所の判断に異議が出た場合には、訴訟に移行することになります。
迅速・柔軟な解決が可能であり、解決率も高いため、近年よく利用されている手続きです。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟
労働基準監督署では解決できない場合の対処法の2つ目は、訴訟です。
訴訟は、労働審判と違い、期日の回数に決まりはないので、解決までに1年程度を要することもあります。
1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、通常、あなたと会社が交互に主張を繰り返していきます。
あなたが弁護士などの専門家に相談せずに自分で裁判所を利用した手続きを行う場合には、調停や少額訴訟も検討するといいでしょう。
まず、調停については、話し合いによる解決を目指すもので、期日の回数の制限がなく、話し合いが成立しない場合でも裁判所の一時的な判断はされません。
労働審判に比べて実効性は低いですが、柔軟な解決が可能で、申し立ての難易度も下がります。
また、少額訴訟については、訴額が60万円以下の事案について、原則として1回の期日で解決する手続きです。
手続きが簡便ですが、相手方から反対された場合にはこの制度は利用できないことに注意が必要です。
労働基準監督署が対応できない又は動かない場合は弁護士に相談
労働基準監督署が対応できない又は動かない場合には、弁護士に相談することがおすすめです。
先ほど見たように、労働基準監督署が対応できない又は動かない場合でも、裁判所を利用して解決できるケースがあります。
しかし、労働審判や訴訟を有利に進めていくためには、法律や判例の知識、これらの手続きについての経験を持っていることが重要となります。
そのため、法律の専門家である弁護士に任せてしまうことが安心なのです。
弁護士に依頼すれば、あなたの代わりに、書面の作成や手続きの申し立て、会社との交渉などの手続きをしてもらうことができます。
また、完全成功報酬制を採用している弁護士に依頼すれば、着手金0円で、委任終了時に獲得できた金額の中から報酬を支払うことができますので、リスクを軽減することが可能です。
弁護士に依頼するかどうか悩んでいる場合には、初回無料相談を利用して、リスクや見通しを確認してみるのがいいでしょう。
まとめ
以上のとおり、今回は、労働基準監督署が対応できない事例や動かない原因とその対処法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・労働基準監督署では対応できない事例として、以下の3つを挙げることができます。
事例1:労働基準法等の違反ではないケース
事例2:法的に争いがあるケース
事例3:会社が指導に従わないケース
・労働基準監督署が動かない原因としては、例えば以下の3つを挙げることができます。
原因1:匿名の相談など優先度が低い
原因2:調査するだけの事実関係がない
原因3:あなたの意向が十分に伝わっていない
・労働基準監督署に動いてもらうためには、以下の点を意識して相談してみましょう。
コツ1:自分の名前と会社の名前を伝えたうえで面談する
コツ2:事実関係や証拠を整理しておく
コツ3:調査や指導をしてほしい旨を明確に伝える
この記事が労働基準監督署が役に立たないのではないかと不安に感じている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。