会社を無断欠勤してしまった場合、会社から解雇されないか不安に感じることもあるでしょう。また、会社から無断欠勤をしたことにつき責められ、解雇すると言われることもあるでしょう。
例えば、以下のようなご相談がよくあります。
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確かに、会社を無断欠勤してしまった場合には、他の方々に迷惑が掛かってしまいます。しかし、無断で休んでしまった労働者にも会社に連絡することができなかった理由があるはずです。
例えば、無断欠勤をしたことにやむを得ない事情があるのであれば、これを理由に解雇することは許されません。また、欠勤日数が少ない場合にも、解雇することは許されません。
このように無断欠勤を理由とする解雇をされた場合には、これが有効かどうかを確認すべき事項があります。
無断欠勤をしてしまった場合にも、必ずしも解雇を受け入れる必要は無いのです。
今回は、無断欠勤を理由に解雇された場合の5つの確認事項を解説します。
目次
無断欠勤とは
無断欠勤とは、狭義には、無届欠勤のことをいいます。つまり、会社に休むと伝えずに、会社に出勤しないことです(限定説、長崎地判昭47.1.31労民集23巻1号1頁[三菱重工業長崎造船所事件])。
これに対して、無断欠勤には、届出はあるものの正当な理由がない場合を含むと広義に捉える考え方もあります。この考え方に従えば、会社に休むと伝えた場合であっても、その理由が恣意的なもので会社の承認が得られないときは、無断欠勤に該当することになります(非限定説、福岡高判昭55.4.15労民集31巻2号480頁[三菱重工業長崎造船所事件]、東京高判平3.2.20労判592号77頁[炭研精工事件])。
JILPTが2012年10月に行ったアンケート調査(「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」)によると、「頻繁な無断欠勤」を理由とする普通解雇の割合は、「15.0%」となっています。
(出典:JILPT「従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-」40頁)
確認事項1:無断欠勤に該当しない場合がある
労働者が、欠勤の届出をしているにもかかわらず、会社から無断欠勤に該当するなどと主張されることがあります。
例えば、欠勤の届出はされたものの、会社がこの届出を承認しないような場合です。
まず、体調不良など欠勤に正当な理由があるような場合には、会社がこれを承認しない場合でも、届け出をしていれば、無断欠勤に該当するとはいえないでしょう。
しかし、先ほども説明したように、欠勤に正当な理由がない場合には、労働者が欠勤を届け出ていても、会社が承認しなければ、無断欠勤に該当するとされる場合があります。例えば、就業規則上、無断欠勤には、届出はあるが正当な理由のない欠勤も含むと明記されている場合などには、このように解釈される傾向にあります。
確認事項2:無断欠勤が解雇日数に足りない場合がある
解雇日数は14日~21日が目安
無断欠勤は何日続くと解雇理由になるのでしょうか。
懲戒解雇については、
が一つの目安となります。
その根拠としては主に以下の2点が挙げられます。
⑴ 行政通達
使用者が解雇の予告なく労働者を解雇できる「労働者の責に帰すべき事由」(労働基準法20条1項但書)として認定すべき事例として、行政通達は(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)は、以下の例を挙げています。
「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。」
⑵ 人事院の懲戒処分の指針
また、国家公務員に関するものですが、人事院が作成した「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職-68)」が参考になります。これによると欠勤については、以下のように規定されています。
⑴欠勤
ア 正当な理由なく10日以内の間勤務を欠いた職員は、減給又は戒告とする。
イ 正当な理由なく11日以上20日以内の間勤務を欠いた職員は、停職又は減給とする。
ウ 正当な理由なく21日以上の間勤務を欠いた職員は、免職又は停職とする。
21日を超えても解雇が無効な場合
21日を超えて無断欠勤を継続した場合であっても、①無断欠勤の原因が会社側にある場合や、②会社に支障が生じていない場合などには、解雇は無効になる傾向にあります。
例えば、以下のような裁判例があります。
⑴ 福岡高判昭50.5.12労判230号54頁[紫苑タクシー事件]
3カ月の無断欠勤を理由に懲戒解雇された事案につき、無断欠勤が会社代表による暴行が原因であったことを考慮し、「およそ懲戒は、使用者が一方的に課することのできる労働者に対する不利益処分であるから、懲戒事由は使用者の責に帰することのできない事由によって発生し、又は労働者がこれを侵さない選択の自由があるのにあえて犯した企業秩序紊乱行為でなければなら」ないとして、懲戒解雇を無効としています。
⑵ 仙台地決平2.9.21[栴檀学園事件]
大学教員の無断欠勤の日数が約1カ月達している事案において、懲戒解雇事由に該当するとしつつ、当該欠勤は春休み時で講義もなく、大学の業務に支障を来さなかった等の事情を考慮して、懲戒解雇は権利濫用であるとしました。
確認事項3:無断欠勤の場合も解雇通知は必要
労働者が無断欠勤を続けている場合、会社は、労働者に対して解雇の通知をすることなく、労働者を解雇したものとして扱うことがあります。労働者が行方不明になっている場合などには、通知を送付することが困難となるためです。
しかし、会社は、労働者が無断欠勤を続けた場合であっても、労働者を解雇するには解雇の通知をすることが必要となります。
解雇は、労働者と会社との間の労働契約を、会社の一方的な意思表示によって解除するものです。そして、解雇の意思表示は、労働者に到達したときに効力が生じます。そのため、いくら労働者が無断欠勤しているとはいえ、解雇の通知をすることなく、労働者を解雇することはできません。
そのため、会社は、労働者に解雇通知書を送付することができない場合であっても、公示による意思表示を簡易裁判所に申し立て、裁判所の掲示上に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報等に掲載することで、解雇の意思表示を行う必要があります。
会社がこのような手続きを怠っている場合には、解雇の効力が生じているとはいえません。
ただし、①就業規則に一定期間行方不明の場合には自動退職として扱う条項があり、これにより退職とされる場合や、②無断欠勤や行方不明を理由に依願退職の黙示の意思表示があったものとして退職とされる場合があるので注意が必要です。
確認事項4:無断欠勤の場合も原則として解雇予告は必要
会社は、労働者を解雇する場合には、原則として、30日以上前に解雇予告をする必要があります。そして、会社は、この解雇予告をせずに解雇する場合には、解雇予告手当を支払う必要があります。
そのため、無断欠勤を理由とする解雇についても、原則として、解雇予告を行う必要があります。
しかし、例外的に、「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」には、解雇予告は不要とされています。
無断欠勤を理由とする解雇がこれに該当するのは、先ほど見た行政通達(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)にあるように、「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合。」です。
これに従うと、無断欠勤日数が2週間に満たない場合や出勤の督促の督促が行われていない場合には、会社は労働者に解雇予告をする必要があることになります。
確認事項5:無断欠勤の原因がうつ病の場合は配慮が必要
うつ病が原因で欠勤を続けている場合において、労働者に精神的不調があるとの認識がないときは、通常、医師の診断も行われていないため病気欠勤とは認められず、欠勤の手続きを履践することを期待できません。
このような場合には、会社が精神科医による健康診断を実施するなどの対応することなく、懲戒解雇をすると無効となる場合があります。
【最二小判平24.4.27労判1055号5頁[日本ヒューレット・パッカード事件]】
労働者が懲戒処分(諭旨退職)を受けた事案において、「精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者…は、…精神科医による健康診断を実施するなどした上で…、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、…その欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。…上記欠勤は、…正当な理由のない無断欠勤に当たらないものと解さざるを得ず、…懲戒事由に当たるとしてされた本件処分は…、無効である」としました。
無断欠勤を理由とする解雇が無効な場合は給料を請求できる
労働者は、無断欠勤を理由とする解雇が無効な場合には、解雇された後の給料を請求することはできるのでしょうか。
これについて、労働者は、会社の責めに帰すべき事由により労働者が労務を提供できない場合には、民法上、その間の給料を請求することができます。
会社が無断欠勤を理由として、労働者を解雇した場合において、その解雇が無効な場合には、労働者が労務を提供できなかったのは、会社の責めに帰すべき事由によるものです。
そのため、労働者は、無断欠勤を理由とする解雇が無効な場合は、解雇後の給料を請求することができます。
但し、①解雇後に再就職をしている場合には請求できる金額が制限されることがあり、②労働者が解雇された会社で働く意思がない場合には給料の請求ができないことがあります。