会社から定年後の再雇用を拒否されてしまい悩んでいませんか?
そろそろ60歳を迎えるという方の中には、定年後は、会社の再雇用制度を利用して働き続けたいと考えている方も多いですよね。
年金の受給年齢も60歳から65歳に段階的に引き上げられていることから、労働者は定年後の再雇用を拒否されてしまうと生活に困ることになります。
結論から言うと、会社が65歳未満の定年後に再雇用を拒否することは、原則として、違法です。
定年後の再雇用拒否のケースを類型化すると以下の3つに分類することができます。
ケース1:再雇用制度が存在しないケース
ケース2:再雇用制度の内容が不当なケース
ケース3:再雇用制度の基準を満たしているケース
類型ごとに対処の方法が異なっており、対処の仕方を誤るとその後権利を行使していくのが難しくなってしまうことがあります。
特に、定年後の不当な再雇用拒否が多くの会社で横行している実態がありますが、それが不当であるということが一般に十分に周知されていない現実があります。
例えば、会社から「経営が厳しいので再雇用できない」「成績が悪いので再雇用できない」などと言われてしまい諦めてしまっている方も多く存在するはずです。
しかし、実際には、定年後の再就職の拒否については、会社側に不利な判決をしている判例が多く、解決金額についても通常の解雇事件より高額になる傾向にあります。
そのため、この記事では、「定年後の再雇用拒否がどのような場合に違法になるのか」や「定年後の再雇用拒否をされた場合にどのように対処していけばいいのか」を誰でもわかりやすいように整理した上で説明していければと考えています。
今回は、定年後の再雇用拒否が違法な場合の権利と簡単な対処法について、判例を踏まえて解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、定年後に再雇用を拒否された場合にどのように対処すればいいのかがよくわかるはずです。
目次
定年(65歳未満)後の再雇用拒否は原則違法
定年を65歳未満としている会社が定年を迎えた高齢者の再雇用を拒否することは、原則として、違法となります。
日本の法律では、定年を65歳未満としている会社は、65歳までの安定した雇用を確保するため、以下の3つのいずれかの措置を講じなければならないとされているためです。
措置1:当該定年の引き上げ
措置2:継続雇用制度の導入
措置3:当該定年の定めの廃止
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条(高年齢者雇用確保措置)
1「定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。」
一「当該定年の引上げ」
二「継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入」
三「当該定年の定めの廃止」
以前までは、労使協定により定めた基準によって再雇用する対象者を限定することが認められていました。
しかし、平成25年度以降は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正により、希望者全員を再雇用の対象とすることが必要です。
そのため、定年を65歳未満としている会社が定年後の再雇用を拒否することは、原則として、違法となるのです。
~継続雇用制度を導入している会社は7割以上~
65歳までの雇用確保措置については、定年後の継続雇用制度を導入している会社が76.4%と大部分を占めています。
継続雇用制度とは、高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度です。
定年の引き上げをしている会社は20.9%にとどまっており、定年制を廃止している会社はわずか2.7%です。
今後も、「再雇用を希望する労働者」と「これを拒否する会社」との対立は生じることが予想されます。
定年(65歳未満)後の再雇用拒否が違法とならない例外
定年を65歳未満としている会社が定年を迎えた高齢者の再雇用を拒否することが違法とならない例外として、就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合があります。
厚生労働省による告示では以下のように指針が示されています。
「心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。以下同じ。)に該当する場合には、継続雇用しないことができる。就業規則に定める解雇事由又は退職事由と同一の事由を、継続雇用しないことができる事由として、解雇や退職の規定とは別に、就業規則に定めることもできる。また、当該同一の事由について、継続雇用制度の円滑な実施のため、労使が協定を締結することができる。なお、解雇事由又は退職事由とは異なる運営基準を設けることは高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律(平成 24 年法律第 78 号。以下「改正法」という。)の趣旨を没却するおそれがあることに留意する。」
「ただし、継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する。」
(出典:高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する基準[平成24年厚生労働省告示第560号])
ただし、日本の法律では、解雇が認められる場合はかなり限定的に考えられていますので、この例外に該当するケースは多くはないでしょう。
どのような場合に解雇が正当とされるかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
例えば、よくある会社側が再雇用を拒否する理由としては以下の3つがあります。
人件費不足
よくある定年後の再雇用拒否の理由の1つ目は、人件費不足です。
会社によっては、これからも賃金を支払っていくだけの十分な資力がないとして拒否されることがあります。
これは労働者側には落ち度のない事由となりますので、このような会社側の言い分が正当と言えるかについては、以下の4つの要素を考慮し慎重に判断されます。
①経営上の必要性
②解雇回避努力
③人選の合理性
④手続の相当性
整理解雇とは何かについては、以下の記事で詳しく解説しています。
能力不足
よくある定年後の再雇用拒否の理由の2つ目は、能力不足です。
能力不足を理由とする定年後の再雇用拒否が正当と言えるには、当該能力不足が労働契約の継続を期待することができない程度に重大なものであるか否か、改善の機会を与えたのに改善がされなかったのか否か、今後の改善の可能性等が考慮されます。
具体的には以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
業務命令違反等の素行不良
よくある定年後の再雇用拒否の理由の3つ目は、業務命令違反等の素行不良です。
業務命令違反を理由とする定年後の再雇用拒否が正当と言えるには、当該行為がその性質及び態様その他の事情に照らして重大な業務命令違反であって、使用者の企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは、その現実的な危険性を有しているかが考慮されます。
具体的には以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
定年後の再雇用拒否が違法な場合の権利
定年後の再雇用拒否をされた場合における私法上の権利関係については、別途類型ごとに検討することが必要となります。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に規定されている各措置は公法上の義務にすぎないと解されており、私法上の権利関係については会社の規程に左右されるためです。
具体的には、定年後の再雇用拒否が違法となるケースとしては、以下の3つがあります。
ケース1:再雇用制度が存在しないケース
ケース2:再雇用制度の内容が不当なケース
ケース3:再雇用制度の基準を満たしているケース
それでは各ケースについて順番に説明していきます。
ケース1:再雇用制度が存在しないケース→損害賠償(慰謝料)請求
会社によっては、定年後の再雇用制度を設けていないことを理由として、再雇用を拒否することがあります。
再雇用制度が存在しないケースでは、不法行為に基づく損害賠償を請求していくのが通常です。
具体的には、精神的苦痛についての慰謝料を請求していくことになります。
ただし、再雇用制度が存在しない場合に常に不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求が認められるとは限りません。
なぜなら、不法行為に基づく損害賠償請求をしていくためには、会社側に過失があるといえることが必要であるためです。
過失があるかどうかについては以下のような要素を考慮して判断されます。
要素1:65歳までの雇用確保に関する会社と労働組合等の交渉の有無
要素2:交渉における会社側の態度の誠実性
要素3:交渉が決裂したことに対する会社側の責任
なお、再雇用されていたであれば得られたであろう賃金相当額の損害を逸失利益として請求していくことは難しいと考えられています。再雇用制度がない以上、再雇用後の賃金を含む労働条件を想定することができないためです。
ケース2:再雇用制度の内容が不当なケース→損害賠償(慰謝料)請求
会社によっては、定年後の再雇用制度自体は設けているものの、その内容に例えば以下のような規定を設けていることがあります。
Ex1.「会社が再雇用を認めた者に限る」
Ex2.「上司2名以上の推薦が必要である」
再雇用制度の内容が不当なケースでは、不法行為に基づき慰謝料を請求していくことになります。
このような基準は恣意的な会社側の判断を可能とすることに加えて、平成25年度以降は改正高年法では原則として希望者全員を再雇用するものとされていることにも反します。
そのため、このような基準を設けた再雇用規程は全体として無効となり、再雇用制度が存在しないケースと同様に考えることができるのです。
ケース3:再雇用制度の基準を満たしているケース→地位確認・賃金請求又は損害賠償請求
会社によっては、再雇用制度の基準を満たしているにもかかわらず、これを満たしていないと主張して、再雇用を拒否することがあります。
このような場合には、労働者としてとることができる措置として、以下の2つがあります。
措置1:地位確認又は賃金請求
措置2:損害賠償請求
地位確認又は賃金請求
とることができる措置の1つ目は、定年後も引き続き雇用されていることを確認した上で、引き続き賃金を支払うように請求していくことです。
定年後も引き続き雇用されていることになる場合には、定年後に働くことができなかった原因は、会社側にある以上、働いていなかった期間の賃金も請求できることになります。
具体的には、以下の3つの条件を満たす場合に定年後も引き続き雇用されているものとみなされます。
条件1:定年を迎える者が再雇用を希望していること
条件2:定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められること
条件3:再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がないこと
条件2について、労働者が再雇用制度の基準を満たしている場合には、定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて、通常、合理的な理由があるものと考えられます。
そして、労働者が特段身分上の問題もなく定年退職を迎えたのであれば、継続雇用の選定基準を満たしているものと事実上推定され、会社側が選定基準を満たししていないことを主張立証すべきと考えられています(大阪高判平23年3月25日労判1026号49頁[津田電気計器事件・控訴審])。
条件3について、解雇事由に該当することが認められるような場合には、これを満たさないことになります。
そして、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については再雇用規程の定めに従うことになるものと解されています。
ただし、再雇用規程から明確に再雇用後の賃金額を裏付けることができない場合には、地位確認・賃金請求が困難なことがあり、この場合には損害賠償請求を検討することになります。
最判平24年11月29日集民242号51頁[津田電気計器事件・上告審]
「上告人は、法9条2項に基づき、本社工場の従業員の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用基準を含むものとして本件規程を定めて従業員に周知したことによって、同条1項2号所定の継続雇用制度を導入したものとみなされるところ、期限の定めのない雇用契約及び定年後の嘱託雇用契約により上告人に雇用されていた被上告人は、在職中の業務実態及び業務能力に係る査定等の内容を本件規程所定の方法で点数化すると総点数が1点となり、本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから、被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。」
「したがって、本件の前記事実関係等の下においては、前記の法の趣旨等に鑑み、上告人と被上告人との間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される(最高裁昭和45年(オ)第1175号同49年7月22日第一小法廷判決・民集28巻5号927頁、最高裁昭和56年(オ)第225号同61年12月4日第一小法廷判決・裁判集民事149号209頁参照)。」
「そして、本件規程によれば、被上告人の再雇用後の労働時間は週30時間以内とされることになるところ、被上告人について再雇用後の労働時間が週30時間未満となるとみるべき事情はうかがわれないから、上告人と被上告人との間の上記雇用関係における労働時間は週30時間となるものと解するのが相当である。」
名古屋地判令和1年7月30日判時2434号100頁[学校法人南山学園(南山大学)事件・第1審]
「労働者において定年時、定年後も再雇用契約を新たに締結することで雇用が継続されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、使用者において再雇用基準を満たしていないものとして再雇用をすることなく定年により労働者の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情がない限り、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、この場合、使用者と労働者との間に、定年後も就業規則等に定めのある再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当である(労働契約法19条2号類推適用、最一判平成24年11月29日集民242号51頁参照。原告が解雇権濫用法理(労働契約法16条)の類推適用を主張するのも、これと同趣旨と解される。)。」
大阪高判平23年3月25日労判1026号49頁[津田電気計器事件・控訴審]
選定基準を定めたのは控訴人であること、選定基準に係る査定帳票がいずれも控訴人の作成保管するものであること、選定基準の内容は人事評価に係ることであり、もっぱら控訴人側が把握している事実であることにかんがみると、控訴人において被控訴人が選定基準を満たさないことを主張、立証する必要があるものと解すべきである。
損害賠償請求
とることができる措置の2つ目は、損害賠償請求です。
再雇用基準を満たしているのに会社が再雇用を拒否した場合において、この再雇用拒否によって職場復帰が困難になってしまったことが客観的に立証されれば、一定期間分の賃金相当額の逸失利益を請求できると考えられています。
これに加えて、再雇用期間中の賃金が支払われたとしても賄うことのできない精神的苦痛が発生している場合には、慰謝料も請求できる場合があります。
判例で見る定年後の再雇用拒否の慰謝料や賃金額の相場
定年後再雇用拒否において会社が支払いを命じられた慰謝料や賃金の合計金額を見ると500万円前後の裁判例が多く見られます。
ただし、高額の賃金が認定される場合には2000万円以上の支払いが命じられるケースもあります。
慰謝料金額の算定に当たっては、以下のような要素が考慮されています。
要素1:再雇用拒否の違法性の程度
要素2:会社が拒否しなければ再雇用契約が締結された可能性の程度
要素3:再雇用契約が締結された場合に取得することができたと推認される経済的利益の額
要素4:その額を取得することができなくなったことによる原告の精神的苦痛の程度
※高額の賃金請求が認められるケースでは、精神的苦痛が一定程度填補されたものと判断されて、慰謝料は低額になる傾向にあります。
※賃金請求が認められないケースでは、慰謝料の算定の際に取得できなかった経済的利益が考慮される結果、慰謝料は高額化しやすい傾向にあります。
札幌地判平成22年3月30日労働判例1007号26頁[日本ニューホランド(再雇用拒否)事件]
1 地位確認・賃金請求
「本件再雇用制度における再雇用契約(以下、単に「再雇用契約」という。)とは、被告を定年(満60歳)退職した従業員が被告と新たに締結する雇用契約である。そして、雇用契約において賃金の額は契約の本質的要素であるから、再雇用契約においても当然に賃金の額が定まっていなければならず、賃金の額が定まっていない再雇用契約の成立は法律上考えられない。」
2 慰謝料
「原告は、本件再雇用拒否によって被告との間で再雇用契約を締結する機会を奪われたと認められるから、原告にはその機会を奪われたことによる財産的及び精神的損害が発生したというべきである。そして、その損害額を算定するに当たっては、本件に顕れた一切の事情を総合考慮して決めるほかはない(民訴法248条参照)。そこで、本件再雇用拒否の違法性の程度(本件再雇用拒否は、原告ほか甲野組合の従業員の合理的意思並びに高年法9条及び本件再雇用制度の趣旨に明らかに反しており、違法性の程度は高いというべきである。)、原告と被告との間で再雇用契約が締結された可能性の程度(前記のとおり、その可能性は低かったと推認されるが、可能性がなかったとはいえない。)、原告と被告との間で再雇用契約が締結された場合に原告が取得することができたと推認される経済的利益の額(ただし、その額は本件全証拠によっても正確に認定することができない。)及びその額を取得することができなくなったことによる原告の精神的苦痛の程度等、本件に顕れた一切の事情を総合考慮し、原告の相当な損害額を500万円と認める」
東京地判平成27年4月23日労経速2266号20頁[日本郵便事件]
「被告の高齢再雇用制度は、高年法9条2項所定の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る継続雇用基準を定め、再雇用を希望する高年齢者のうち当該基準を満たす者を再雇用する旨の制度として導入されていたものであり、…被告は、原告が所定の継続雇用基準を満たしていないとして、原告を再雇用しなかったものである。」
「この場合、原告において、作文試験の評価及び身体検査の結果が所定の継続雇用基準を満たしていること…に加え、前記第2の2に記載の争点部分を除く平成22年度及び平成23年度の人事評価(前記第2の1(3)の一部内容)については、当事者間に争いがないところ、平成23年度の人事評価における争点とされた各評価項目に加え、面接試験の結果に対する当裁判所の事後的な評価によって、原告が上記継続雇用基準を満たしているものと判断される場合には、本件において、原被告間の従前の雇用契約が定年により終了したものとすることをやむを得ないものと認めるべき特段の事情はうかがわれない(この点に関する特段の主張立証はない。)以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。」
「したがって、この場合は、高年法の趣旨等に鑑み、原被告間において、原告の定年後も被告の高齢再雇用制度に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているとみるのが相当であり、その期限や賃金等の労働条件については、被告の高齢再雇用制度の定めに従うことになるものと解される」。
京都地判平成28年2月12日労判1151号77頁[石長事件]
1 地位確認・賃金
「被告では、平成二六年二月二八日、従業員との間で、『定年後の継続雇用制度の選定基準に関する協定書』を締結しており、それによれば、定年後も継続的に働くことを希望する者で、第一条(1)から(6)のいずれにも該当する者については、一年ごとの契約の更新により、満六五歳の誕生日の前日まで再雇用するものとするとされていると認められ、これらの者については、被告は再雇用する私法上の義務を負うことになるから、原告が、これに定められた基準に該当する限り、定年時以後も被告との間で労働契約を再締結する蓋然性があるといえる。」
「しかし、同協定書の第一条(2)では、継続雇用の基準として、「過去三年以内に健康上の理由による休職及び一ケ月以上に及ぶ長欠なく、直近三年以内の定期健康診断の結果において業務遂行に支障がないと診断されている者」が定められているところ、原告は、前記のとおり、就業規則上の有効な休職はしていないが、定年の三年前である平成二四年一二月四日以降に本件事故により一ケ月以上に及ぶ長期欠勤をしているから、この基準に該当しない。」
「したがって、原告と被告との間で定年時以降も労働契約が維持ないし再締結された蓋然性があると認めることはできず、定年時以降の労働契約上の地位確認及び賃金支払請求は理由がない。」
2 慰謝料
「原告と被告との間で定年時以降も労働契約が維持ないし再締結された蓋然性があるとは認められない以上、そのことについて原告に法律上保護されるべき期待権があるということもできない。」
「したがって、定年時以降六五歳までの賃金を取得する期待権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。」
名古屋地判令和1年7月30日判時2434号100頁[学校法人南山学園(南山大学)事件・第1審]
「本件再雇用拒否により被る不利益は、主として、本来得られたはずの賃金という財産的利益に関するものであり、未払賃金等の経済的損害のてん補が認められる場合には、これによっても償えない特段の精神的苦痛が生じたといえることが必要と解するのが相当である。」
「本件処分が懲戒事由該当性すら欠き無効であること、…原告が本件再雇用拒否によって2名の大学院生への指導を道半ばで放棄する形になったこと、原告の研究に少なからず支障が出たことがうかがわれることに照らすと、…原告に対する懲戒処分について、…学生は勿論、一般の教職員にも氏名を公表されることはなかったと認められることを考慮しても、未払賃金の経済的損害のてん補によっても償えない特段の精神的苦痛が生じたと認めるのが相当である。」
「これまで述べた認定説示その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すれば、原告の精神的苦痛に対する慰謝料額としては50万円が相当である。」
※最判令和2年10月2日判例集未掲載[学校法人南山学園(南山大学)事件・上告審]も同旨。
定年後再雇用制度の解決金は賃金の1年分程度となることが多く、高額となりやすい傾向にあります。
一般に不当解雇の場合の解決金の相場は、賃金の3か月分~6か月分程度と言われています。これは、解雇された労働者が再就職するまでに必要な期間などをもとに交渉されることが多いためです。
これに対して、定年後の場合には、別会社への再就職ということが困難であり、労働者としてもその会社で働き続ける意思が強い傾向にあります。
また、定年後再雇用の期間が例えば60歳~65歳までの「5年間」などと比較的明確であるため、再雇用拒否により生じる経済的損失の大きさを認識しやすいことも影響していると考えられます。
そのため、定年後再雇用制度の解決金は、高額となりやすい傾向にあるのです。
定年後の再雇用を希望する方がやるべきこと5つ
定年後の再雇用を希望する方がやるべきこととして以下の5つがあります。
やるべきこと1:就業規則及び定年後再雇用規程を確認しておく
やるべきこと2:早めに書面で再雇用を希望しておく
やるべきこと3:定年前の勤務成績に注意しておく
やるべきこと4:定年前の健康診断に注意しておく
やるべきこと5:定年後の再雇用に関するやり取りを記録しておく
これらのことを行っておくだけで、定年後再雇用を拒否された場合でも、あなたの権利が認められる可能性を格段に向上させることができます。
それではやるべきことを一つずつ説明していきます。
やるべきこと1:就業規則及び定年後再雇用規程を確認しておく
やるべきことの1つ目は、就業規則及び定年後再雇用規程を確認しておくことです。
就業規則及び定年後再雇用規程を確認しておくことにより、あなたの会社において、「定年後再雇用制度が取られているのかどうか」、「どのような場合に再雇用されないことがあるのか」、「定年後に再雇用された場合の条件はどのようになっているのか」を知ることができます。
これを確認することで定年後再雇用を拒否された場合にどのよう方針をとればいいのか決めることもできます。
例えば、社長や人事部の担当者などに就業規則や定年後再雇用規程を見たい旨を伝えましょう。
万が一、就業規則や定年後再雇用規程があるにもかかわらずこれを開示してもらえない場合には、メールや書面などの形に残る形で開示を求めておきましょう。
会社は、労働基準法上、終章規則を周知する義務を負っていますので、どうしても開示してもらえない場合には、労働基準監督署に相談することも検討しましょう。
労働基準監督署への申告方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
やるべきこと2:早めに書面で再雇用を希望しておく
やるべきことの2つ目は、早めに書面で再雇用を希望しておくことです。
定年後再雇用制度は、定年を迎える方が「希望する」場合に再雇用をする制度ですので、再雇用の希望しなければ再雇用をしてもらうことができません。
再雇用の希望を出さないでいると、再雇用を希望していなかったため、再雇用をしなかった旨の反論をされることがあります。
例えば、会社ごとに所定の書式がある場合も多いので、会社側に確認してみましょう。
再雇用の希望を提出する場合には、書面の記載内容を後から確認することができるように写しをとっておきましょう。
なお、会社側が所定の書式などを教えてもらえない場合には、内容証明郵便に「定年後も再雇用希望する」旨を記載して、配達証明を付して、本店所在地の代表取締役宛てに送付するといいでしょう。
やるべきこと3:定年前の勤務成績に注意しておく
やるべきことの3つ目は、定年前の勤務成績に注意しておくことです。
会社側から勤務成績の不良を理由に再雇用を拒否されることがあります。
特に、再雇用規程では、定年を迎える直前の3~5年間程度の勤務成績が一定以上ではないと再雇用を認めない旨の条件を設けていることがあります。
そのため、定年前の勤務成績には特に注意した方がいいでしょう。
やるべきこと4:定年前の健康診断に注意しておく
やるべきことの4つ目は、定年前の健康診断に注意しておくことです。
会社側から健康状態が業務に耐えることができないことを理由に再雇用を拒否されることがあります。
特に、再雇用規程では、定年を迎える直前の定期健康診断の結果により再雇用をしない旨が定められていることがあります。
そのため、定年前の健康診断には注意しましょう。
やるべきこと5:定年後の再雇用に関するやり取りを記録しておく
やるべきことの5つ目は、定年後の再雇用に関するやり取りを記録しておくことです。
定年後再雇用を拒否される場合には、労働条件で折り合いがつかなかったと言われる場合や、事後的に全く異なる拒否理由が追加されることがあります。
そのため、定年後再雇用に関するやり取りは、録音したり、面談後に話し合いの内容をメールで会社側に送付するなどして記録しておくようにしましょう。
注意!会社が定年後の再雇用を回避しようとする手口4つ
会社側は、定年後の再雇用拒否が許されない場合でも、再雇用を回避しようと様々な手段を講じてくることがあります。
つまり、会社側は、定年後の再雇用を明確に拒否するのではなく、労働者が継続的に働くことが困難となるような状況を作り出すことにより、退職に追い込もうとすることがあるのです。
具体的には、会社が再雇用を回避しようとする手口としては以下の4つが想定されます。
手口1:労働条件の著しい切り下げ
手口2:全く異なった職種への変更
手口3:遠方への転勤
手口4:再雇用後の雇止め
それでは、それぞれの手口について一緒に確認していきましょう。
手口1:労働条件の著しい切り下げ
会社側の手口の1つ目は、労働条件の著しい切り下げです。
会社は、労働者に対して、定年後再雇用をした場合の賃金として著しく低廉な賃金を提示してくることがあります。
しかし、裁判例では、「定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要であると解する。」とされています(福岡高判平成29年9月7日労判1167号49頁[九州惣菜事件])。
同裁判例では、月収ベースで見ると、定年前の賃金の25%に過ぎないことなどを理由に、違法性を認め、不法行為として、100万円の慰謝料を認容しています。
手口2:全く異なった職種への変更
会社側の手口の2つ目は、全く異なった職種への変更です。
会社は、労働者に対して、定年後再雇用をした場合の職種として、その労働者の経験とはかけ離れた職種を提案してくることがあります。
しかし、裁判例では、「60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが,両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には,もはや継続雇用の実質を欠いており,むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから,従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り,そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである」とされています。
同裁判例では、事務職としての業務内容ではなく、単純労務職としての業務(シュレッダー機ごみ袋交換及び清掃、再生紙管理、業務用車掃除、清掃)を命じられたことを理由に違法性を認め、不法行為として、127万1500円の慰謝料を認容しています。
手口3:遠方への転勤
会社側の手口の3つ目は、遠方への転勤です。
会社によっては、定年後再雇用をした場合の勤務先として、現在の職場から離れた遠方を提案してくることがあります。
遠方への配置転換が直ちに違法となるわけではありません。しかし、業務上必要がないにもかかわらず退職に追い込む目的で行われる場合には、違法となることがあるでしょう。
裁判例では、退職勧奨の事案ですが、執拗な退職勧奨や嫌がらせとしての転籍、定年1年前に片道2時間半の通勤を要する勤務先への5年間の出向とが行われた事案で、違法性を認め、不法行為として、100万円の慰謝料を認容したものがあります(神戸地姫路支判平成24年10月29日労判1066号28頁[兵庫県商工会連合会事件])。
手口4:再雇用後の雇止め
会社側の手口の4つ目は、再雇用後の雇止めです。
定年後の再雇用期間は1年間ごとの更新とされているケースが多く、会社によっては再雇用した上で1年後に更新を拒絶してくることがあります。
しかし、定年後再雇用の場合には、原則として、65歳まで雇用を継続してもらえるとの合理的な期待があるものと考えられます。
そして、労働契約法は、有期労働者に契約更新への合理的な期待がある場合には、雇止めは客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当いえるような事情がなければ許されないとしています。
労働契約法19条(有期労働契約の更新等)
「有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」
二「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。」
そのため、定年後再雇用を行った場合に雇止めを行うには、解雇に準じるような事情があることが必要となるでしょう。
65歳以上が定年の企業における再雇用拒否
65歳以上が定年の企業において、定年後の再雇用拒否を行うことは、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律には反しません。
65歳以上の就業確保については努力義務とされているに過ぎないためです。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第10条の2(高年齢者就業確保措置)
1「定年(六十五歳以上七十歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主又は継続雇用制度(高年齢者を七十歳以上まで引き続いて雇用する制度を除く。以下この項において同じ。)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者(第九条第二項の契約に基づき、当該事業主と当該契約を締結した特殊関係事業主に現に雇用されている者を含み、厚生労働省令で定める者を除く。以下この条において同じ。)について、次に掲げる措置を講ずることにより、六十五歳から七十歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない。…」
しかし、再雇用規程において、65歳以上の定年後再雇用制度が定められているケースでは、再雇用条件を満たしている者が再雇用を希望すれば、会社がこれを拒否しても、再雇用制度に基づく労働契約上の地位が認められる余地があります。
東京地判平成28年11月30日判時2328号129頁[学校法人尚美学園事件・第1審]
「被告は、上記最高裁平成二三年(受)第一一〇七号同二四年一一月二九日第一小法廷判決は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という。)九条二項所定の継続雇用制度の対象となる高年齢者について、継続雇用基準を満たしている労働者の事例であるのに対し、本件は六五歳定年退職後の再雇用の事例であるから同法の適用はないし、再雇用について、専任教員勤務規程一九条二項という具体的な就業規則のある事例であり、上記判例は参考とはならず、法律の根拠もなく六五歳以降の労働者に対して何らかの再雇用義務を負担させることは、立法論であると主張する。」
「確かに、本件は、高年齢者雇用安定法の適用のない事案ではあるが、労働者に雇用継続への合理的期待が生じた場合、その期待を法的に保護し、期間満了による契約の終了に制約を課すという労契法一九条二号の趣旨は、本件のような定年後再雇用においても妥当するといえる。ただし、定年後再雇用の場合、直近の有期労働契約が存在しないため、従前と同一の労働条件で労働契約が更新されると擬制することができない。したがって、同条を類推適用し、本件規程が定める再雇用制度に基づく労働契約上の地位にあるものとみなすのが相当である。」
※ただし、控訴審(東京高判平成29年9月28日判例数未掲載[学校法人尚美学園事件・控訴審])は労契法19条2号の類推適用を否定。
※他に65歳以上の定年後再雇用拒否に労契法19条2号を類推適用した事案として名古屋地判令和1年7月30日判時2434号100頁[学校法人南山学園(南山大学)事件・第1審]
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まとめ
以上のとおり、今回は、今回は、定年後の再雇用拒否が違法な場合の権利と簡単な対処法について、判例を踏まえて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・定年を65歳未満としている会社が定年を迎えた高齢者の再雇用を拒否することは、原則として、違法となります。
・定年を65歳未満としている会社が定年を迎えた高齢者の再雇用を拒否することが違法とならない例外として、就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合があります。
・違法な定年後再雇用拒否をされた場合の権利として、「不法行為に基づく慰謝料請求」があります。更に、再雇用制度が設けられている会社において、再雇用制度の基準を満たしているのに拒否されたケースでは、「定年後も労働者としての地位があることの確認」や「定年後の賃金請求」をすることもできます。
・定年後再雇用拒否において会社が支払いを命じられた慰謝料や賃金の合計金額を見ると500万円前後の裁判例が多く見られます。
・定年後の再雇用を希望する方がやるべきこととして以下の5つがあります。
やるべきこと1:就業規則及び定年後再雇用規程を確認しておく
やるべきこと2:早めに書面で再雇用を希望しておく
やるべきこと3:定年前の勤務成績に注意しておく
やるべきこと4:定年前の健康診断に注意しておく
やるべきこと5:定年後の再雇用に関するやり取りを記録しておく
この記事が定年後に再雇用を拒否されて困っている方の助けになれば幸いです。