労働者が労働条件について改善を求めたいと考えた場合に、自分一人の力では使用者と対等に交渉することが難しい場合があります。
そこで、労働者と使用者が対等な立場で交渉をしようとした場合に、「労働組合」が活用されることがあります。
この「労働組合」というのは、どのようなものなのでしょうか。また、「労働組合」と「ユニオン」に違いはあるのでしょうか。
今回は、「労働組合」と「ユニオン」について解説します。
目次
労働組合とは
労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいいます(労働組合法2条)。
労働組合を組織することにより、例えば、使用者と対等な立場において交渉することや、団体行動を行うために団結することが可能となります。
労働組合の種類
労働組合の種類には、①職業別組合、②産業別組合、③一般労組、④企業別組合、⑤地域労組などがあります。
①職業別組合とは、同一職業の労働者が自分たちの技能に関わる利益を擁護すべく広い地域で組織する労働組合です。
②産業別組合とは、同一産業に従事する労働者が直接加入する大規模かつ横断的な労働組合です。欧米における労働組合の主要な組織形態です。
③一般労組とは、職種、産業を問わず、広い地域にわたり労働者を組織する労働組合です。
④企業別組合とは、特定の企業または事業所に働く労働者を職種の区別をせずに組織した労働組合です。
⑤地域労組とは、一定地域において企業、産業に関わりなく、労働者を組織する労働組合です。
労働組合とユニオンとの違い
ユニオンとは、管理職者、パートタイム労働者、派遣労働者など、企業別労組に組織されにくい労働者を一定地域で企業を超えて組織する労働組合です。コミュニティ・ユニオンと呼ばれる場合もあります。
このような性質から、ユニオンは、企業別組合のない中小企業の労働者や、企業別組合に参加していない非正規労働者にも多く利用されています。
ユニオンの特徴として、「個別労働紛争を抱えて駆け込み加入した労働者のために、組合が使用者との交渉によって紛争の解決を図ることを主要な活動としている」と言われています(労働法[第12版]菅野和夫著 824頁)。
労働組合の加入率
厚生労働省による「令和元年(2019年)労働組合基礎調査の概況」によると、労働組合の数は、平成27年から令和元年にかけて減少し続けており、令和元年の労働組合数は「24,057」となっています。
また、労働組合員数は、平成27年から令和元年にかけて増加し続けていますが、雇用者数も同様に増加を続けています。そのため、推定組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合)は、減少し続けており、令和元年には「16.7%」となっています。
(出典:令和元年(2019年)労働組合基礎調査の概況3頁)
(出典:令和元年(2019年)労働組合基礎調査の概況3頁)
これに対して、パートタイム労働者についてみると、労働組合員の数は、平成27年から令和元年にかけて増加し続けており、令和元年には「1333」千人となっています。そして、推定組織率についても、増加傾向にあり、平成27年時点では「7.0%」でしたが、令和元年では「8.1%」となっています。
(出典:令和元年(2019年)労働組合基礎調査の概況4頁)
令和元年(2019年)労働組合基礎調査の概況
労働関係総合調査(労働組合基礎調査)
労働組合に該当するための条件と効果
総論
労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合体をいいます(労働組合法2条本文)。
もっとも、次に該当するものはこの限りではないとされています(労働組合法2条但書)。①監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの(同1号)、②団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの(同2号)、③共済事業その他福利事業のみを目的とするもの(同3号)、④主として政治運動又は社会運動を目的とするもの(同4号)。③④は、上記の労働組合法2条本文に記載されている事項が確認されているに過ぎず、独自の意義はありません。
また、労働組合の規約には、必要的記載事項を含めなければならず(労働組合法5条2項)、これを含めていないと資格審査(労働組合法5条1項)を通過しません。
「この法律で『労働組合』とは、労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。但し、左の各号の一に該当するものは、この限りでない。」
一「役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についてその計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの」
二「団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生年金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。」
三「共済事業その他福利事業のみを目的とするもの」
四「主として政治運動又は社会運動を目的とするもの」
労働組合法5条(労働組合として設立された者の取扱)
1「労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第2条及び第2項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。但し、第7条第1号の規定に基く個々の労働者に対する保護否定する趣旨に解釈されるべきではない。」
2「労働組合の規約には、左の各号に掲げる規程を含まなければならない。」
一「名称」
二「主たる事務所の所在地」
三「連合団体である労働組合以外の労働組合(以下「単位労働組合」という。)の組合員は、その労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱を受ける権利を有すること。」
四「何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を奪われないこと。」
五「単位労働組合にあつては、その役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されること、及び連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その役員は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること。」
六「総会は、少なくとも毎年1回開催すること。」
七「すべての財産及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によつて委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表されること。」
八「同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により占拠された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと。」
九「単位労働組合にあつては、その規約は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと、および連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合にあつては、その規約は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により占拠された代議員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しないこと。」
法適合組合
法適合組合とは、①労働組合法2条本文の定義に該当し、②労働組合法2条但書の事由に該当せず、③労働組法5条2項の規約の必要的記載事項を充たしている組合です。
法適合組合は、労働組合法が規定する法的保護の全てを享受します。具体的には、刑事免責(1条2項)、民事免責(8条)、法人格の取得(11条)、不当労働行為の救済(7条・27条以下)、労働協約の規範的効力(16条)、一般的拘束力(17条)、地域的な一般的拘束力の申立て資格(18条)、労働委員会への労働者委員の推薦資格(19条の3第2項、19条の12第3項)を享受します。
自主性不備組合
自主性不備組合とは、①労働組合法2条本文の定義に該当するものの、②労働組合法2条但書の1号若しくは2号のいずれか又は双方の事由に該当する組合です。
自主性不備組合は、労働組合法上の労働組合には該当しませんが、憲法28条が団結権・団体交渉権・団体行動権の享受主体として予定している労働組合には該当します。そのため、憲法上の効果として当然生ずる、刑事免責(1条2項)、民事免責(8条)、不利益取扱いの民事訴訟による救済(7条1項)の限度で享受します。
規約不備組合
規約不備組合とは、①労働組合法2条本文の定義に該当するものの、③労働組合法5条2項の規約の必要的記載事項を欠いている組合です。
規約不備組合は、労働組法上の労働組合に該当する以上、刑事免責(1条2項)、民事免責(8条)、不利益取扱いの民事訴訟による救済(7条1項)を受けることができることに加えて、労働協約の規範的効力(16条)、一般的拘束力(17条)を享受します。しかし、資格審査(5条1項)を通過できないため、労働組合法に規定する手続(18条1項、19条の3第2項、19条の12第3項、27条以下)に参与する資格を有せず、救済(27条の12)も与えられません。また、法人格も取得し得ません(11条)。
弁護士への依頼と労働組合への加入の差異
委任と加入
弁護士への依頼の場合には、通常、弁護士に訴訟外の交渉や訴訟等を委任することになり、弁護士が労働者に代理してこれを行うことになります。
これに対して、労働組合への加入の場合には、通常、労働者自身が組合員の一員として活動していくことになり、団体交渉や争議行為等に参加することになります。
解決手段の違い
弁護士への依頼の場合には、通常、訴訟外の交渉を行い、交渉がまとまらない場合には、労働審判や訴訟等の裁判所をとおした解決が行われます。
これに対して、労働組合の一員として活動していく場合には、通常、団体交渉を行い、交渉がまとまらない場合には、争議行為等が行われることがあります。
費用について
弁護士に依頼した場合には、着手金や報酬金が発生します。もっとも、現在、報酬体系は自由化されており、完全成功報酬制の場合などもあります。
これに対して、労働組合への加入の場合には、通常、「加入金」や「毎月の組合費」が必要となり、これに加えて、個別労働紛争などにより獲得した「解決金の何割かを組合に納める」ことになります。
委任の終了と脱退
弁護士に依頼した場合には、個別的な紛争であれば、通常、委任の目的を達成した時点等で委任の終了の手続きが行われます。
これに対して、労働組合への加入の場合については、通常、個別的な紛争の解決のみを目的とするものではなく、脱退するまで労働組合との関係は継続することになります。