近年、個人情報に関する問題が増加しています。そのような中で、使用者が労働者の退職後も労働者の写真を使用し続けている場合があります。労働者は、写真の使用をやめてほしい場合には、どのように対応するべきなのでしょうか。
今回は、退職後も自分の写真が掲載され続けている場合の対処法を紹介します。
個人情報保護法による規制
使用者は、取得する情報の利用目的を特定しなければならないとされています(個人情報保護法15条)。そして、使用者は、本人の同意を得ないで、取得した情報を目的外に利用することを禁止されています(個人情報保護法16条1項)。
例えば、ホームページなどに掲載するために社員の写真を撮影した場合には、その利用目的は、使用者の社員を社外の人に紹介する目的であると考えられます。
そして、退職後はもはや使用者の社員ではありませんので、社員として社外の人に紹介する必要がありません。
そのため、退職後にもホームページなどに社員の写真を掲載し続けることは、利用目的の範囲を超えて使用しているものであり、個人情報保護法に違反することになります。
ただし、写真撮影の際に、退職後も写真を掲載し続けることにつき説明していた場合には、これも利用目的に含まれる可能性があります。
個人情報保護法15条(利用目的の特定)
1項「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。」
2項「個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。」
個人情報保護法16条(利用目的による制限)
1項「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」
2項「個人情報取扱事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。」
3項「前二項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。」
一「法令に基づく場合」
二「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人のづ意を得ることが困難であるとき。」
三「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」
四「国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。」
同意を求められた場合
使用者から退職後の写真を掲載し続けることにつき同意を求められる場合があります。使用者のシステム更新の都合などにより、一定期間削除できない場合などもあるためです。
このような理由が説明された場合には、短期間であれば、使用者による削除を待つことも考えられます。もっとも、写真の削除を求める場合には、期間等の定めなく無条件に同意に応じることは避けるべきでしょう。
対処方法
利用停止請求
労働者は、使用者に対して、個人情報の利用停止を請求することができます。
使用者は、利用停止請求があった場合には、遅滞なく写真を削除する等の措置を講じなければなりません。
利用停止請求については、証拠に残るように内容証明郵便で郵送するべきでしょう。
個人情報保護法30条(利用停止等)
1項「本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データが第16条の規定に違反して取り扱われているとき又は第17条の規定に違反して取得されたものであるときは、当該保有個人データの利用の停止又は消去(以下この条において「利用停止等」という。)を請求することができる。」
2項「個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けた場合であって、その請求に理由があることが判明したときは、違反を是正するために必要な限度で、遅滞なく、当該保有個人データの利用停止等を行わなければならない。ただし、当該保有個人データの利用停止等に多額の費用を要する場合その他の利用停止等を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。」
5項「個人情報取扱事業者は、第1項の規定による請求に係る保有個人データの全部もしくは一部について利用停止等を行ったとき若しくは利用停止等を行わない旨の決定をしたとき、又は第3項の規定による請求に係る保有個人データの全部若しくは一部について第三者への提供を停止したとき若しくは第三者への提供を停止しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。」
損害賠償請求
次に、労働者としては、肖像権の侵害を理由に不法行為に基づき、慰謝料の請求をすることが考えられます。
もっとも、写真を掲載し続けることが違法な権利侵害にあたるかは問題であり、あたるとしても慰謝料の金額は高額にはならないものと考えられます。
【最判平17.11.10民集59巻9号2428頁】
「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」
「また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」
個人情報保護委員会への相談
個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者が個人情報保護法16条1項に違反した場合において、個人の権利利益を保護するため必要であると認めたときは、当該違反を是正するための措置をとるように勧告できます(個人情報保護法42条1項)。
また、個人情報保護委員会は、事業者が、勧告を受けたにもかかわらず、正当な理由なく是正措置をとらなかった場合には、個人の重大な管理利益の侵害が切迫していると認めるときは、勧告に係る措置をとるように命令することができます(同条2項)。
そして、事業者は、命令に従わなかった場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科せられます。(個人情報保護法84条)。
そのため、利用停止請求をしたにもかかわらず、使用者が利用を停止しない場合には、個人情報保護委員会へ相談することが考えられます。
個人情報保護法42条(勧告及び命令)
1項「個人情報保護委員会は、個人情報取扱事業者が第16条…の規定に違反した場合…において個人の権利利益を保護するため必要があると認めるときは、当該個人情報取扱事業者に対し、当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。」
2項「個人情報保護委員会は、前項の規定による勧告を受けた個人情報取扱事業者等が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、当該個人情報取扱事業者等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。」
3項「個人情報保護委員会は、前2項の規定にかかわらず、個人情報取扱事業者が第16条…の規定に違反した場合において個人の重大な権利利益を害する事実があるため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、当該個人情報取扱事業者等に対し、当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべきことを命ずることができる。」
個人情報保護法84条
「第42条第2項又は第3項の規定による命令に違反した者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」