不当解雇を訴えたいと考えていませんか?
理不尽な理由により、いきなり解雇されてしまい戸惑っている方も多いでしょう。
法律上、解雇が許されるのは限定的な場合であり、容易には認められません。
しかし、中小企業では、このような解雇のルールを知らずに、安易な解雇が行われてしまうケースが非常に多いのです。
そして、会社に対して、解雇を撤回するように求めても、中々応じてもらうことができない場合もあるでしょう。
そのような場合には、不当解雇を訴えることを検討することになります。
当事者間で話し合っていても解決が難しいため、第三者に解雇の不当性を判断してもらうのです。
不当解雇を訴えるには、その目的と方法を知っておくことが重要です。これは、不当解雇を訴えた経験がないとイメージがしにくい部分です。
また、不当解雇を訴えるだけでは失敗に終わってしまう場合もあるため、訴える際には十分な対策を講じておくことが大切です。
実際、会社は、訴えられた後になって、本腰を入れて解雇の理由を主張してくることも多いため、当初理由がないように見えたとしても油断しないように注意しましょう。
今回は、不当解雇を訴える方法や目的と失敗しないための対策を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば不当解雇をどのように訴えればいいのかがよくわかるはずです。
目次
解雇を訴えるとは?|「訴える」の意味
解雇を訴えるとは、解雇の正当性について裁判所などの第三者機関に判断を求めることです。
解雇の正当性については、一概に判断できるものではなく事案ごとに見極める必要があるものです。
そのため、「労働者」と「会社」で主張が対立したまま、話し合いで解決することができないケースもよくあるのです。
このような場合には、第三者に入ってもらい、解雇の正当性につき審理してもらうことが解決への近道です。
ここでよく用いられるのが裁判所です。
裁判所は、労働者の訴えについて、「判決」という形で判断を下すことになります。
そして、会社が判決に従わない場合には、労働者は、会社の財産を差し押さえるなどの方法で判決の内容を実現することができるのです。
このように、解雇を訴えるという言葉は、第三者機関(特に裁判所)に解雇の正当性についての判断をしてもらい、争いを解決するという意味で用いられる傾向にあります。
解雇を訴える方法は、訴訟ばかりではありません。労働審判やあっせんという方法もあります。
労働審判とは、全3回の期日で調停を目指すものです。調停が成立しない場合には、裁判所が一時的な判断を下します。迅速かつ柔軟な解決が可能で、解決率も高いため、近年よく利用されている制度です。
あっせんとは、裁判外紛争解決手続きの1つであり、労働紛争を簡易迅速に解決する手段です。労働問題の専門家が入り、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図るものです。
いずれも訴訟よりも、少ない労力で、迅速に解決できる可能性があります。
ただし、労働審判では調停が成立せず裁判所が一時的な判断を下した場合に、会社が異議を出せば訴訟に移行することになります。そのため、異議が出ることが明らかである場合には、時間がかかってしまうこともあります。
また、あっせんについては、裁判所が権利関係について審理するわけではないため、裁判所を利用する場合に比べて、解決金額が著しく低くなることが多い傾向にあります。
そのため、どの程度の時間・労力をかけるかなども検討しながら、とるべき方法を検討するといいでしょう。
不当な解雇として訴えることができるケース3つ
不当な解雇として訴えることができるケースとしては、例えば、以下の3つがあります。
ケース1:解雇権濫用に該当するケース
ケース2:解雇の手続きに違反するケース
ケース3:解雇禁止に該当するケース
それぞれのケースについて、説明していきます。
また、以下の不当解雇チェッカーを利用すれば、解雇の問題点を簡単に確認することができますので、試してみてください。
ケース1:解雇権濫用に該当するケース
不当な解雇とした訴えることができるケースの1つ目は、解雇権濫用に該当するケースです。
解雇は、客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当とはいえない場合には、濫用として無効となります。
どのような場合に濫用に該当するかについては、解雇理由により異なります。
解雇理由ごとの裁判例の傾向については、以下の通りです。
ケース2:解雇の手続きに違反するケース
不当な解雇として訴えることができるケースの2つ目は、解雇の手続きに違反するケースです。
例えば、解雇手続きに違反するケースとしては、以下の3つの場合が挙げられます。
・解雇予告を欠いている場合
・解雇の意思表示を欠いている場合
・懲戒解雇特有の手続きを欠いている場合
解雇予告を欠いている場合
会社は、労働者を解雇するには、少なくとも30日前に予告しなければならないとされています。
ただし、例外的に以下の場合には解雇予告は不要とされています。
①解雇予告手当を支払った場合
②やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
③労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合
解雇予告を欠いた場合、会社がその日のうちの解雇にこだわるわけでないのであれば、予告なしの解雇をした日から解雇の予告に必要な期間を経過した時点で、解雇の効力が生じます。
解雇予告については、以下の記事で詳しく解説しています。
解雇の意思表示を欠いている場合
会社は、労働者を解雇するには解雇の意思表示をする必要があります。
会社があなたに対して、解雇の意思を示していない場合には、解雇の効力は生じません。
つまり、会社が解雇したと考えているだけでは、解雇したとは言えないのです。
解雇の意思表示については、以下の記事で詳しく解説しています。
懲戒解雇特有の手続を欠いている場合
懲戒解雇を行うには、就業規則に懲戒事由と種別が規定されている必要があります。
また、就業規則に懲戒解雇前に賞罰委員会へ付議する等の手続が規定されている場合には、これを遵守する必要があります。
更に、懲戒解雇をする場合には、労働者に弁明の機会を付与しなければならないとされています。
ケース3:解雇禁止に該当するケース
不当な解雇として訴えることができるケースの3つ目は、解雇禁止に該当するケースです。
解雇禁止に該当するケースとしては、例えば以下のものが挙げられます。
・国籍、信条又は社会的身分による差別的取り扱いの禁止に違反する場合
・公民権行使を理由とする解雇の禁止に違反する場合
・業務上の負傷・疾病の休業期間等の解雇制限に違反する場合
・産前産後休業期間等の解雇制限に違反する場合
・育児・解雇休業法による解雇の禁止に違反する場合
・男女雇用機会均等法による解雇の禁止に違反する場合
・短時間・有期雇用労働法による解雇の禁止に違反する場合
・個別労働紛争解決促進法による解雇の禁止に違反する場合
・公益通報者保護法による解雇の禁止に違反する場合
・労働施策総合推進法による解雇の禁止に違反する場合
・不当労働行為に該当する場合
不当解雇を訴える目的2つ
あなたが不当解雇を訴える目的としては、大きく分けて以下の2つがあります。
目的1:復職する
目的2:金銭を求める
それぞれの目的について順番に説明します。
目的1:復職する
不当解雇を訴える目的の1つ目は、復職することです。
不当解雇が無効であることを理由に自分がまだ会社の従業員であることを確認することができます。
つまり、解雇された後も、あなたがその会社で働けることを裁判所に確認してもらうことができるのです。
ただし、復職すると言っても、その会社で働き続けなければならないわけではありませんのでご安心ください。
もしも、現在も会社の従業員であることが確認された後に、その会社を退職したくなった場合には、退職届を提出して退職することもできます。
目的2:金銭を求める
不当解雇を訴える目的の2つ目は、会社に金銭を求めることです。
会社に求める金銭としては、例えば、以下の4つがあります。ただし、これらの金銭を全てもらえるわけではありませんので注意が必要です。
金銭1:解雇後の賃金
金銭2:慰謝料
金銭3:解雇予告手当
金銭4:解決金
金銭1:解雇後の賃金
不当解雇の際に求めることができる金銭の1つ目は、解雇後の賃金です。
解雇が不当である場合には、解雇された日以降にあなたが働けなかったことは会社に原因があることになります。
そのため、会社は、解雇日以降の賃金を労働者に対して支払わなければならないことになります。
つまり、あなたは解雇日以降に働いていなくても、解決までの賃金を事後的に支払ってもらうことができるのです。
例えば、あなたが令和3年5月1日に不当に解雇された場合に、解決するまでに令和4年4月30日までかかったのであれば、1年分の賃金を事後的に支払ってもらえることになります。
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
金銭2:慰謝料
不当解雇の際に求めることができる金銭の2つ目は、慰謝料です。
慰謝料というのは、精神的な苦痛を填補するための賠償です。
解雇が濫用となるだけではなく、特に悪質と言えるような場合には、認められることがあります。
慰謝料が認められる場合の相場は、50万円~100万円程度です。
不当解雇の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
金銭3:解雇予告手当
不当解雇の際に求めることができる金銭の3つ目は、解雇予告手当です。
30日前の解雇予告が行われなかった場合には、足りない期間分の平均賃金を解雇予告手当として請求できる場合があります。
ただし、復職を求めたり、解雇後の賃金を請求したりする場合には、解雇が有効であることを前提とする解雇予告手当の請求をすることはできませんので注意してください。
金銭4:解決金
不当解雇の際に求めることができる金銭の4つ目は、解決金です。
不当解雇を争っている場合に、会社から解決金が支払われることを前提とする和解が成立することがあります。
解決金は、会社との合意が成立した場合にもらえるお金です。この場合には、通常、解雇後の賃金や慰謝料を別にもらうことはできません。
解決金の相場は、賃金の3か月分~6か月分程度と言われています。
不当解雇を訴える方法
不当解雇を訴えるには、裁判所に訴訟の提起をすることになります。
しかし、不当解雇の訴訟をどのように提起するのかは、実際に経験したことがないとよくわからないですよね。
そこで、不当解雇の訴訟を誰でも提起できるように以下の3つの点について説明していこうと思います。
・どこに提起すればいいのかの問題|管轄
・訴状の記載・提出方法の問題
・不当解雇の訴訟にかかる費用の問題
それでは順番に説明していきます。
どこに提起すればいいのかの問題|管轄
不当解雇の訴訟は、通常、会社の所在地を管轄する地方裁判所に提起します。
裁判所の管轄については、以下のページで確認できます。
裁判所の管轄区域
訴状の記載・提出方法の問題
訴状には、以下の事項を必ず記載しなければならないとされています。
①当事者及び法定代理人
②請求の趣旨及び原因
不当解雇の訴状の典型例を整理すると、以下のような形式のものが一般的です。
※訴状のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、訴状のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
訴状については、直接裁判所に行き提出することもできますし、郵送により提出することもできます。
不当解雇の訴訟にかかる費用の問題
不当解雇の訴訟を提起するには、以下のような費用がかかります。
まず、訴状には、収入印紙を貼る必要があり、印紙代は訴額により決まります。不当解雇の裁判では、印紙代は2万円~4万円程度となることが一般的です。
次に、訴訟を提起する際には、裁判所に郵便切手を預ける必要があります。横浜地方裁判所の場合は、6000円分の郵便切手が必要となります。
また、訴状や証拠を印刷するのに印刷代がかかり、郵送で書面を送付する場合などには郵送費がかかります。
更に、裁判所が遠方の場合などには、交通費が必要となります。
最後に、訴訟を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用が必要となり、着手金の相場は0円~30万円程度、報酬金の相場は経済的利益の10%~20%程度となっています。
訴訟の流れ
不当解雇の訴訟の流れは、おおよそ以下のとおりです。
訴訟提起をして1か月~3か月後に期日が開始されます。
訴訟が始まったら、口頭弁論期日・弁論準備期日1か月に1回程度の間隔で繰り返して、双方の主張と証拠を整理していきます。
双方の主張と証拠が出そろった段階で、一度裁判所から和解が試みられることが多いですが、和解が難しい場合には証人尋問を行います。
証人尋問が行われた後、しばらくすると判決となり、双方が判決の送達から2週間以内に控訴しなければ確定します。
不当解雇の訴訟ですと、解決までに8か月~2年程度かかることがあります。
不当解雇の訴えに時効はあるか
不当解雇の無効を主張して、現在も従業員であり続けていることを確認することについては、特に時効はありません。
ただし、解雇後の賃金請求については2年(2020年4月1日以降が給料日の賃金については3年)、慰謝料請求については3年の時効があります。
また、長期間解雇を争わなかったり、働く意思を示さなかったりすると、退職に合意していたと反論されたり、働く意思がなかったため解雇後の賃金は請求できないと反論されたりすることがあります。
そのため、不当解雇を争う場合には、早めに行動するようにしましょう。
不当解雇と時効については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の訴えで失敗しないための対策
不当解雇の訴えで失敗しないためには、訴える前に対策を講じておくことが大切です。
具体的には、以下の対策を講じておくようにしましょう。
対策1:解雇理由証明書を請求しておく
対策2:働く意思と業務指示を求めておく
対策3:矛盾する行動をとらないようにする
各対策について、順番に説明していきます。
対策1:解雇理由証明書を請求しておく
不当解雇の訴えで失敗しないためには、解雇理由証明書を請求しておくことが重要です。
解雇理由証明書とは、あなたが解雇された理由が具体的に記載された書面です。
解雇理由証明書をもらうことで、あなたの解雇にどのような問題があるのかを把握することができますし、反論するためにどのような証拠を集めればいいのかが明らかになります。
そのため、解雇理由証明書を請求しておくことで、解雇を訴えるための準備を円滑に行うことができるのです。
解雇理由証明書を取得する方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
対策2:働く意思と業務指示を求めておく
不当解雇の訴えで失敗しないためには、働く意思を示したうえで、業務指示を求めておくべきです。
なぜなら、解雇が無効である場合でも、会社に対して、解雇後の賃金を請求するためには、あなたに働く意思があることが必要なためです。
あなたが解雇された後すぐに他の会社に再就職している場合や解雇に長期間異議を述べていなかった場合などに、あなたに働く意思があったのかを問題にされることがあります。
そのため、解雇を争う場合には、早い段階で、働く意思を示したうえで、業務指示を求めておくべきなのです。
対策3:矛盾する行動はとらないようにする
不当解雇の訴えで失敗しないためには、矛盾する行動はとらないようにすることです。
あなたが解雇された後に、退職が有効であることを前提とした行為をしてしまうと、解雇の無効を主張することが難しくなってしまうことがあります。
例えば、以下の点に気を付けましょう。
①失業保険は本受給ではなく仮受給にする
②健康保険証を返却する際には解雇を争う意思があることを示す
③解雇予告手当や退職金は請求しないようにする
まず、失業保険は、本来あなたが会社を退職していることを前提に受給するものなので、これを受給してしまうと解雇が有効であることを認めていたと反論されることがあります。解雇を争う方のために「仮受給」という制度がありますので、これを利用しましょう。
失業保険の仮受給については、以下の記事で詳しく解説しています。
健康保険証の返却についても、会社の退職を前提としたものとみられることがあるので、これを返却する際には、解雇を争う意思があることを付言した上で、返却するようにしましょう。
解雇予告手当については解雇が有効であることを前提としたものです。退職金についても、退職した場合に請求するものなので解雇が有効であることが前提とされています。そのため、解雇予告手当や退職金については、解雇の無効を主張する場合には請求しないようにしましょう。
不当解雇を訴える場合には弁護士に依頼しよう
不当解雇を訴える場合には、弁護士に依頼することがおすすめです。
不当解雇を訴えるには、法的な手続や裁判例についての知識があることが重要となります。
例えば、不当解雇の訴訟を有利に進めていくためには、あなたに有利な主張をしていく必要がありますし、会社の反論に説得力がないことを説明していく必要があります。
弁護士に依頼すれば、裁判所への出頭や書面の作成、証拠の提出などの手続きを任せてしまうことができます。
特に、不当解雇事件に注力している弁護士に依頼すれば、これまでの経験を活かして、あなたの有利に手続きが進むように尽力してもらうことができるでしょう。
弁護士に依頼する場合に気になる「弁護士費用」ですが、現在は、完全成功報酬制の事務所も増えてきていますので、低リスクで弁護士に依頼することができるようになってきています。
そのため、不当解雇を訴えるには法律の専門家である弁護士に依頼することがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、不当解雇を訴える方法や目的と失敗しないための対策を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・解雇を訴えるとは、解雇の正当性について裁判所などの第三者機関に判断を求めることです。
・不当な解雇として訴えることができるケースとしては、例えば、以下の3つがあります。
ケース1:解雇権濫用に該当するケース
ケース2:解雇の手続きに違反するケース
ケース3:解雇禁止に該当するケース
・あなたが不当解雇を訴える目的としては、大きく分けて以下の2つがあります。
目的1:復職する
目的2:金銭を求める
・あなたが会社を訴えるには、会社の所在地を管轄する地方裁判所に訴状に添付書類を付して、収入印紙、予納郵券とともに提出しましょう。
この記事が不当解雇を訴えることについて悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。