未払残業代・給料請求

【保存版】残業代請求への仕返しは許されない-想定される7つの報復とその対処法を解説-

 残業代請求の相談を受けていると、会社から仕返しをされないか不安に感じている方がいます。
 確かに、会社に対して、法的な請求をしていくことに対して、心配な気持ちも分かります。しかし、残業代を請求することは法的な権利です。残業代請求を理由に労働者を不利益に扱うことは、許されません。
 今回は、残業代請求に対して想定される7つの報復とその対処法を解説します。

報復1:配転命令

 残業代請求をしたことを理由に報復的な人事がされることはあるのでしょうか。例えば、残業代を請求した労働者の勤務場所を従前の場所と大きく異なる遠方に移すことは許されるのでしょうか。
 最二小判昭61.7.14集民148号281頁[東亜ペイント事件]は、「使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用すること」は許されないとしたうえで、「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである時等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである」と判示しています。
 このように、「不当な動機・目的」に基づいて行われた配転命令は、権利の濫用として無効となります
 従って、使用者は、従業員から残業代の請求を受けたとしても、これを理由として、報復的な配転命令等の人事を行うことはできません。

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報復2:損害賠償請求

 次に、残業代請求をしたことにより、使用者から損害賠償請求の反撃をされるのではないかとの心配をしている方がいます。
 労働者が残業代請求をすることは権利の行使ですから、当然、使用者がこれを理由として損害賠償請求をすることは許されません
 稀に見るのが、残業代請求をしたこと自体について損害賠償請求をするのではなく、過去の労働者のミスなどを理由に損害賠償請求をしてくる場合です。
 しかし、使用者から労働者への損害賠償請求が認められる場合は、限定されています。
裁判例は、重大な過失がない場合には、使用者による損害賠償請求を棄却する傾向にあります(福岡高那覇支判平13.12.6労判825号72頁[M運輸事件]、東京高判平14.5.23労判834号56頁[つばさ証券事件])。また、万が一、重大な過失が認められても、悪質な不正行為等でない限り、宥恕すべき事情や会社側の非を考慮して、責任を4分の1や2分の1に軽減しています(東京地判平成15.10.29労判867号46頁[N興業事件]、東京地判平15.12.12労判870号42頁[株式会社G事件])。

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報復3:解雇

 では、労働者は、残業代請求をしたことを理由に使用者から解雇されることはありえるのでしょうか。
 法律上、解雇の要件は厳格に解されています。解雇は、①「客観的に合理的な理由を欠き」、②「社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇権を濫用したものとして無効になります(労働契約法16条)。そして、「客観的に合理的な理由」が認められる場合や「社会通念上相当」といえる場合は、限定されています。
 残業代請求をしたことは当然「客観的に合理的な理由」に該当しませんし、使用者が他の理由を探して労働者を解雇することも容易なことではありません
 従って、使用者は、労働者から残業代請求をされても、労働者を解雇することは許されないのです。

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報復4:雇止め・再雇用拒否

 では、残業代請求をしたことを理由に雇止めや定年後の再雇用を拒否することはどうでしょうか。
 裁判例は、使用者が残業代請求をした従業員を雇止め・再雇用拒否した事案につき、「本件再雇用拒否又は雇止め及びそれと相前後する一連の…原告らに対する働きかけの態様等を考慮すると,…これらの行為は,…裁判を受ける権利に対する違法な侵害行為であって,不法行為に該当するといわざるを得ない」と判示しています(東京高判平31.2.13労判1199号25頁[国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件])。
 従って、残業代請求をしたことを理由に雇止めや再雇用拒否をすることは、違法であり不法行為となります。

【東京高判平31.2.13労判1199号25頁[国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件]】
 「第1審被告会社における本件雇止め等の主要な動機は,第1審個人原告らが第1審被告会社に対し残業代の支払を請求し,その支払を求めるために別件訴訟を提起したことにあると認められ,また,…本件雇止め等及びそれと相前後する第1審被告会社側からの第1審個人原告らに対する働きかけは,裁判を受ける権利に対する違法な侵害行為等に当たる…。」
 「…上記の第1審被告会社による本件再雇用拒否又は雇止め及びそれと相前後する一連の第1審個人原告らに対する働きかけの態様等を考慮すると,…これらの行為は,上記第1審原告らの裁判を受ける権利に対する違法な侵害行為であって,不法行為に該当するといわざるを得ない。」
 「第1審原告A,同K及び同Lについては,…精神的苦痛を受けるとともに,労働条件はともかく再雇用契約が締結される相当程度の可能性はあったにもかかわらず,第1審被告会社の本件再雇用拒否によってこれが侵害されたことによる精神的損害を受けたものというべきであり,第1審被告らの行為の態様等に照らすと,それらの精神的損害に対する慰謝料としてはそれぞれ100万円と認めるのが相当である。」

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報復5:懲戒

 労働者は、残業代請求をしたことを理由に、戒告・譴責・降格・減給・出勤停止・懲戒解雇等の懲戒処分をされることはあり得るのでしょうか。
 法律上、懲戒処分も、①「客観的に合理知的な理由を書き」、②「社会通念上相当であると認められない場合」は、懲戒権を濫用したものとして無効になります(労働契約法15条)。
 そして、残業代請求をしたことは当然「客観的に合理的な理由」に該当しません
 従って、使用者は、労働者から残業代請求をされても、労働者を懲戒処分することは許されません。

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報復6:いじめ・雑用指示

 次に、上司や同僚から暴言や無視などのいじめを受けたり、雑用の指示をされたりという報復が考えられます。
 しかし、裁判例は、他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は、原則として違法になるとしており、例外的に、その行為が合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には、正当な職務行為として違法性が阻却される場合があると判断しています。
 労働者が残業代を請求したことを理由に、暴言や無視などの行為を行うことや、雑用の指示をすることは、正当な職務行為とはいえません
 そのため、このような行為が行われた場合には、不法行為に基づき損害賠償請求をしていくことが考えられます(民法709条)。

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報復7:悪い噂の流布

 最後に、使用者から他の会社や関係者に悪い噂を流されることはないのでしょうか。例えば、他の会社に、「あの従業員は残業代請求をしてくるから雇わない方がいい」などの噂を流されないか不安に感じている方がいます。
 しかし、多くの場合、残業代の支払いに関して和解する際には、「守秘義務条項」というものをいれます。これは、当該和解の内容や経緯について、正当な理由なく口外することを禁止する条項です。そのため、このような守秘義務条項に反して、第三者に悪い噂を流すことは許されません。残業代請求の噂を第三者に広められたくないのは、労働者だけではありません。使用者も第三者にこれを広められたくないと考えているのです。
 また、このような守秘義務条項がなかったとしても、会社との紛争はプライバシー性の高い情報であり、名誉に関わる場合もあります。そのため、報復目的で、悪いうわさを流すことは、不法行為(709条)として損害賠償の対象となるでしょう。

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報復への対抗策

対抗策1:代理人弁護士に交渉を依頼する

 まず、報告への一番の対抗策は、代理人弁護士に残業代の交渉を依頼することです。
 代理人弁護士が交渉をすれば、相手方から不合理な報復をされたとしても適切な対応することができますし、不合理な報復をされそうになったとしても法的にそれが認められないことを説明できます。

対抗策2:報復をやめるように通知をする

 次に、報復をされた場合には、報復を直ちにやめるように通知すること考えられます。不法行為や権利濫用に当たり許されないことを説明するといいでしょう。
 このような通知がなされれば、使用者も、自らの行為が法的に問題であることを意識するでしょう。また、当該通知を顧問弁護士などに相談し、報復行為は許されない旨の指導を受けることになります。
【記載例】

対抗策3:証拠に残しておく

 使用者からの報復がどのような経緯で行われたのかを証拠に残しておくといいでしょう。

⑴ 録音する

 まず、上司や代表取締役の発言を録音しておくことが考えられます。例えば、以下のような発言です。

社長
社長
残業代請求なんかしやがって!覚えていろよ!
上司
上司
残業代請求をする従業員は、この会社では雇えない。

 このような発言の後に、労働者を不利益に扱う行為が行われていたような場合には、それは報復目的によることが推認されるでしょう。

⑵ 日記をつける

 録音が難しいような場合には、日記をつけることも考えられます。
 記憶は、時間の経過とともに薄れていきます。そのため、記憶が新しいうちに、日々記録しておくことが大切となります。

⑶ メールを取っておく

 また、使用者から、メールにより報復の予告や残業代請求に対する罵倒などがなされた場合には、客観的な証拠となりますので、それを保管しておきましょう。

対抗策4:法的手続を行う

 使用者がどうしても報復行為をやめず撤回もしない場合には、最終的には、法的手続きを行い、当該報復行為が無効であることの確認や、報復行為ついての損害賠償請求をしていくことが考えられます。

対抗策5:退職してから残業代請求を行う

 最後に、上記のとおり、使用者が労働者に対して残業代請求を理由に報復行為をすることは法的に許されませんが、それでも職場での人間関係などが気になるという方は、退職した後に残業代請求をすることが考えられます。在職中に残業代請求の準備をしておき、退職後に請求をするのです。
 この方法であれば、職場での人間関係などに気を遣う必要はありませんし、使用者からの報復の可能性も更に減少します。
 もっとも、残業代請求には2年の消滅時効がありますので、請求の時期が遅くなると随時残業代が消滅していくことには留意する必要があります

ABOUT ME
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。主な取扱分野は、人事労務、離婚・男女問題、相続、企業法務、紛争解決(訴訟等)、知的財産、刑事問題等。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。
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残業代には2年の時効がありますので、早めに行動することが大切です。

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