現在、新型コロナウィルス感染の拡大を受けて、売り上げの落ち込み等による労働者の解雇、内定取消し、雇止めが問題となり始めています。もっとも、解雇等については最終手段であり、容易には認められません。今回は、新型コロナウィルスと解雇・内定取消し・雇止めについて解説します。
目次
新型コロナウィルスと解雇
総論
新型コロナウィルスに関する解雇については、個別具体的にその有効性を検討する必要があります。
以下では、ⅰ売り上げの落ち込みにより労働者を解雇する場合、ⅱ労働者の出社拒否を理由に解雇する場合、ⅲ新型コロナウィルスへの感染を認識しつつ出社した労働者を解雇する場合について、説明します。
ⅰ売り上げの落ち込みにより労働者を解雇する場合
⑴ 整理解雇とは
整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行われる解雇です。整理解雇の特徴は、労働者に責めに帰すべき事由が存在しない点にあります。新型コロナウィルスを原因として売り上げが落ち込み、人員削減のために労働者を解雇することは、この整理解雇に該当すると考えられます。
整理解雇の有効性は、以下の点を考慮して判断します。
①経営上の必要性(人員削減の必要性)
②解雇回避努力
③人選の合理性
④手続の相当性
⑵ ①経営上の必要性[人員削減の必要性]
経営上の必要性について、裁判例は、債務超過などの高度の経営上の困難から人員削減措置が必要とされる程度を要求するものが多くみられます(東京地判平24.2.29労判1048号45頁[日本通信事件])。
新型コロナウィルスを理由に売り上げが低下したことのみをもって直ちに経営上の必要性が肯定されるわけではありません。債務超過などがないのに解雇がされた場合には、解雇は無効となる可能性があります。
⑶ ②解雇回避努力
使用者は、整理解雇をするには、配転・出向・一時帰休・労働時間の短縮・希望退職者の募集等の解雇を回避する措置を講じるべき信義則上の義務を負います(最一小判昭58.10.27裁判集民140号207頁[あさひ保育園事件])。
従って、使用者は、新型コロナウィルスが原因で売り上げが低下している場合であっても、例えば労働者を在籍させたまま、一時的に自宅待機させたり、労働時間を短縮することや、他の部門への配転をしたりすることにより、解雇を回避できないかを検討する必要があります。このような検討を行うことなく解雇がされた場合は、解雇は無効である可能性があります。
⑷ ③人選の合理性
人選の合理性が認められるには、①人選基準が客観的・合理的なものであること、②その適用が公正なものであることが必要です。
⑸ ④手続の相当性
使用者は、整理解雇に当たって、従業員や労働組合との間で十分に説明・協議する信義則上の義務を負います。
従って、新型コロナウィルスが原因で売り上げが低下している場合には、使用者は、労働者との間で整理解雇の必要性、規模、時期、方法等について説明し、協議する必要があります。このような説明会の開催や、資料の交付、面談、協議が行われずに、解雇が行われた場合には、解雇が無効である可能性があります。
新型コロナウイルスにより会社の経営が悪くなっているときでも、外国人であることを理由として、外国人労働者の方を、日本人より不利に扱うことは許されません。当然ではありますが、会社が外国人の労働者を解雇しようとするときも、日本人の労働者と同じルールを守らなければなりません
厚生労働省:外国人の皆さんへ(新型コロナウイルス感染症に関する情報)
ⅱ労働者の出社拒否を理由に解雇する場合
新型コロナウィルスへの感染を防ぐため、労働者が出社を拒否した場合、無断欠勤を理由に懲戒解雇されることはあるのでしょうか。
無断欠勤には、届け出がない欠勤のみならず、正当な理由のない欠勤も含まれるかについては、裁判例により判断が異なります。新型コロナウィルスの予防のために出勤をしないということが、「正当な理由」に該当するかどうかについても、具体的事情や裁判所により判断が分かれる可能性があります。
もっとも、このような理由による労働者の欠勤について、悪質性が高いとはいい難いため、これを理由に懲戒解雇することは、懲戒権の濫用として無効となる可能性が高いでしょう(労働契約法15条)。
ⅲ新型コロナウィルスへの感染を認識しつつ出社した労働者を解雇する場合
出社した労働者が新型コロナウィルスに感染していたとしても、それを理由に解雇することは許されません。もっとも、労働者が新型コロナウィルスへの感染を認識しつつ出社した場合は、どうでしょうか。
これについては、個別の事案ごとにその悪質性の程度等を判断すべきものと考えられます。例えば、大きな取引を担当していたため会社に損害が生じないようにやむなく出社したという場合と、特に重要な仕事がある日ではなく他の従業員でも代替が可能であったにもかかわらず出社した場合とでは事情が異なります。また、会社から帰宅するように注意されたのに帰宅しなかったのかどうか、マスクを付けるなど他の従業員に感染しないような対策を講じていたかなども重要となります。実際に、新型コロナウィルスが他の従業員に感染したことなどにより事業に支障が生じている場合には解雇を肯定する方向の事情となります。
解雇が無効な場合
解雇が無効な場合には、使用者に対して、解雇後の賃金請求や慰謝料等の損害賠償請求をすることが考えられます。
新型コロナウィルスと内定取消し
採用内定の法的性質につき、解約権が留保された始期付解約権留保付労働契約が成立したとみるのが通例です。そのため、採用内定の取消事由は、試用期間の場合における本採用拒否に準じて、「①採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、②これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である」(①②については筆者による加筆)とされており(最二判昭54年7月20日判タ399号32頁[大日本印刷事件])、容易には認められません。
具体的には、新型コロナウィルスを原因とした売り上げの低下などを理由に内定を取り消す場合には、内定者側に何らかの落ち度がない限り、これが客観的に合理的と認められ社会通念上相当といえるかは、上記の整理解雇の4要素に従い検討することになると考えられます。
そのため、企業は、採用内定を取り消す前に、これを回避する手段を模索する必要があります。厚生労働省からも、事業主に対して、上記採用内定取り消しの法理に十分留意し、採用内定の取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずるようにとのお願いがなされています(厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者向け)6その他Q5)
ただし、内定者と、継続的に就労してその対価である賃金を受け取り、既に使用者との間で一定の人的信頼関係を構築している一般の労働者とを同列に論じることはできません。そのため、一般の労働者の解雇をせずに、内定の取消しを行ったとしても、人選が不合理であったということはできないでしょう。
採用内定取消しが無効である場合には、使用者に対して、就労開始予定時期以降の賃金請求や慰謝料等の損害賠償請求をすることが考えられます。
また、内定者が、労働契約の始期が到来した後に自宅待機等休業になった場合には、当該休業が使用者の責めに帰すべき事由によるものであれば、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければなりません(労働基準法26条)。
厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)6その他Q5
新型コロナウイルスと試用期間
試用期間の性質は、原則として、解約権留保付労働契約と解されています。そのため、試用期間中の留保解約権の行使(解雇)につき、判例は、「留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合…換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが…客観的に相当であると認められる場合」に限り許容されるとしています(最大判昭48.12.12民集27巻11号1536頁[三菱樹脂事件])。
具体的には、新型コロナウィルスを原因とした売り上げの低下などを理由に本採用を拒否する場合には、労働者側に何らかの落ち度がない限り、これが客観的に合理的と認められ社会通念上相当といえるかは、内定取り消しの場合と同様上記の整理解雇の4要素に従い検討することになると考えられます。
新型コロナウィルスと雇止め
総論
雇止めとは、期間満了により労働契約が終了することです。
以下の要件を充たす場合、使用者は、従前の労働条件と同一の条件で更新の申込みを承諾したものとみなされます。
①「契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合」
②「有期労働契約が…期間の定めのない労働契約…と社会通念上同視できる」こと(1号)
②´「労働者において…有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由」があること(2号)
③「申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」
1号若しくは2号に該当する場合
1号若しくは2号該当性は、「当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断され」ます(平成24年8月10日基発0810第2号)。
そのため、労働者が雇止めを争う場合には、まず、反復して更新がされておりその回数が多いことや、雇用の通算期間が長いこと、更新につき何ら契約書を作成する等の手続きが行われていないこと、更新を期待させるような使用者の言動があったことなどを主張していく必要があります。
客観的合理性・社会通念上相当性
新型コロナウィルスを原因とした売り上げの低下を理由とする雇止めが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」か否かは、上記の整理解雇の4要素に従い検討することになります。
ただし、雇止めの場合、裁判例の多くは正社員の場合と比較しその審査を緩和する傾向にあります。そのため、一般の労働者の解雇をせずに雇止めを行ったとしても、人選が不合理であったということはできないでしょう。