労働審判をした場合に会社に勝てるかどうか不安に感じていませんか?
せっかく労力や費用をかけて手続きを行うのであれば、会社に負けてしまうことは防ぎたいところですよね。
労働審判の勝ちとは、労働者の請求を概ね認める内容の審判又は調停がなされる場合を言うことが多いでしょう。
不当解雇や残業代の事件については、その性質上、比較的労働者側の勝率が高い傾向にありますが、勿論、事案により労働者が負けてしまうこともあります。
このように労働者が負けてしまうことを防ぐためには、以下のような対策を行うことで少しでも勝率を上げることが大切です。
・争点を意識したメリハリのある申立書を作成する
・客観的な証拠を集める
・当日予測される質問への回答を考えておく
・必要があれば補充書面を提出する
また、労働審判では調停の内容は会社の意向も踏まえて交渉により決められるため有利に進めるための技術が必要となります。
実際、労働審判は、訴訟手続きとは全く異なり数回の期日だけで結果が出てしまいますので、その性質を理解せずに漫然と対策をしても、満足のいく解決を得ることができない可能性が高いのです。
今回は、労働審判で勝率を上げるための対策について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、労働審判で満足のいく解決をできる可能性が格段に上がるはずです。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
労働審判の勝ち負けとは?|労働審判は和解率が70%以上
労働審判の勝ちとは、労働者の請求を概ね認める内容の審判又は調停がなされる場合を言うことが多いでしょう。
これに対して、労働審判の負けとは、労働者の請求の大部分以上が認められない内容の審判又は調停がなされる場合を言うことが多いでしょう。
しかし、労働審判や訴訟における、「勝ち」「負け」というのは、一概に判断することが難しいのが実情です。
労働者の請求の全てが認められることはほとんどなく、どの程度認められれば「勝ち」といった明確な定義もないためです。
特に、労働審判の勝ち負けを考える際に知っておかなければならないのは、労働審判の70%以上は和解(調停)により解決するということです。
そのため、労働審判では、裁判所により勝ち負けが明確にされるケースが少ないため、より一層勝ち負けの区別が難しくなっています。
労働審判がどのような手続きかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇や残業代では労働者の請求が認められやすい傾向にある
労働審判では、労働者と使用者との間の個別的な労働紛争が争われることになります。
東京地方裁判所の本庁には、制度施行から平成23年7月末までに4254件の労働審判事件が申し立てられています。
内訳は、解雇を巡る地位確認請求事件が2210件と50%以上を占め、賃金・残業代請求事件が1176件、損害賠償請求事件が396件、退職金請求事件が254件と続きます。
このように労働審判が申し立てられることの多い「不当解雇」や「残業代」については、比較的、労働者の請求が認められやすい傾向にある事件類型ということができます。(勿論、事案や証拠により異なり、労働者が敗訴してしまうケースもあります。)
以下では、それぞれの類型について、その理由を説明していきます。
不当解雇
まず、解雇については、これが有効とされるための条件がとても厳格に定められています。
現在、行われている多くの解雇は、解雇するほどの重大な理由がないのに行われたものであったり、十分な指導や解雇回避措置が行われていなかったりなど、条件を満たしていません。
そのため、労働審判においても、労働審判委員会から、解雇は無効であるとの心証ですと早々に伝えられるケースもよくあります。
更に、解雇の事案では、会社は、もしも解雇が無効であると認められてしまうと、解雇した後の賃金を支払い必要となります。つまり、解決までに1年程度要するような場合では、数百万円の支払いをした上で労働者が復職することとなります。
会社は、不当解雇事件では、このようなリスクを抱えているため、労働審判段階においても、一定程度の解決金の支払いに応じてくることが多いのです。
以上より、不当解雇の事案では、労働審判においても、比較的労働者の請求が認められやすい傾向にあります。
解雇の条件については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業代
次に、残業代については、その計算ルールが法律で明確に定められていますので、毎月の賃金額や残業時間が明らかになれば、請求金額が自ずと明らかになります。
特に、雇用契約書や給与明細、タイムカードがある事案などでは、会社側が反論することが難しいことが多いのです。
離席していた時間や始業時刻前の出勤時間、休憩時間の反論があり、残業代の金額が削られてしまうことはありますが、その大部分が認められないということは多くありません。
また、タイムカードなどがない事案であっても、メモやメール・LINEの履歴などから、合理的な残業時間を推計計算してもらうことができます。
以上より、残業代の事案では、労働審判においても、比較的労働者の請求が認められやすい傾向にあります。
労働審判の勝率を上げるために絶対やるべき簡単な対策4つ
労働審判では、先ほど見た不当解雇や残業代請求のような事案であっても、請求が認められないこともあります。
労働審判は、訴訟とは異なりますので、少しでも勝率を上げるためには、その制度の特性を理解したうえで対策を講じていく必要があります。
労働審判において勝率を上げるためには、最低限、以下の対策は行っておくべきです。
対策1:争点を意識したメリハリのある申立書を作成する
対策2:客観的な証拠を集める
対策3:当日予測される質問への回答を考えておく
対策4:必要があれば補充書面を提出する
それでは各対策について、誰でもわかりやすいように簡単に説明していきます。
対策1:争点を意識したメリハリのある申立書を作成する
労働審判の勝率を上げるための対策の1つ目は、争点を意識したメリハリのある申立書を作成することです。
労働審判では、全3回の期日で解決する必要があるため、当事者の主張や証拠の審理については、第1回期日の前半1時間程度で行ってしまうケースがほとんどです。
そうすると、長々とした要領を得ない主張では、労働審判委員会に十分に主張を理解してもらうことができません。
そのため、労働審判では、会社の答弁書が出る前の段階で、これまでの会社とのやり取りを踏まえて、どの点が争点となっているのか整理する力が重要となってきます。
そして、労働者は、争点について必要な主張を説得的に行い、これを裏付ける証拠を集めていくのです。これに対して、争点となっていない箇所については、端的に触れる程度にとどめておくことになります。
労働審判手続規則においても、訴訟と異なり、労働審判の申立書には予想される争点と関連する重要な事実を記載しなければならないとされています(労働審判手続規則9条)。
労働審判手続規則9条(労働審判手続の申立書の記載事項等・法第五条)
「労働審判手続の申立書には、申立ての趣旨及び理由並びに第三十七条において準用する非訟事件手続規則(平成二十四年最高裁判所規則第七号)第一条第一項各号に掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載しなければならない。」
一「予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実」
二「予想される争点ごとの証拠」
三「当事者間においてされた交渉(あっせんその他の手続においてされたものを含む。)」
例えば、争点とは関係のない会社のコンプライアンス違反や不満を長々と書いてしまうと、あなたの争点について主張がわかりにくくなってしまいますので注意しましょう。
対策2:客観的な証拠を集める
労働審判の勝率を上げるための対策の2つ目は、客観的な証拠を集めることです。
労働審判では、労働審判委員会によって、あなたの申し立てが認められるかどうかについて審理されて、心証が形成されることになります。
争いとなっている事項については、証拠をもとに判断をしていくことになりますので、あなたの主張を裏付ける証拠を集めておく必要があります。
この点が、訴訟外の交渉とは大きく異なる点です。
迅速な解決を目指す手続きではありますが、適正な解決となるためには、いずれの主張する事実が正しいかについて、客観的なものにより判断していく必要があるのです。
例えば、不当解雇事件では、以下のような証拠を集めておくべきでしょう。
不当解雇の証拠については、以下の記事で詳しく解説しています。
例えば、残業代事件では、以下のような証拠を集めておくべきでしょう。
残業代の証拠については、以下の記事で詳しく解説しています。
対策3:当日予測される質問への回答を考えておく
労働審判の勝率を上げるための対策の3つ目は、当日予測される質問への回答を考えておくことです。労働審判の特殊性として、期日において、直接口頭で労働審判委員会から質問がなされる点が挙げられます。
訴訟では書面によるやり取りが中心となるため、当事者本人に対する口頭での質問は終盤に証人尋問において行われるのが通常です。
しかし、労働審判では、短期間での解決を可能とするため、第1回期日の前半から当事者に直接口頭で質問がなされることになります。
そして、労働審判では、その質問への当事者の回答によっても、労働審判委員会の心証が形成されていくことになります。
口頭での質問は、その場ですぐに回答しなければいけないので、十分に考えて返答する時間はありません。
例えば、あなたが書面において主張している事実と質問への回答が矛盾してしまうと、あなたの主張に対する心証は大きく揺らいでしまいます。
そのため、労働審判期日当日にどのような質問がされて、その質問に対してどのような回答をするかということを考えておくことが大切です。
対策4:必要があれば補充書面を提出する
労働審判の勝率を上げるための対策の4つ目は、必要があれば補充書面を提出することです。会社から答弁書が提出されると、想定していなかった争点が出てきたり、追加で主張した方がいい事実が出てきたりすることがあります。
基本的には、会社の答弁書に対する反論は、期日の当日に口頭で行うものとされています。
しかし、反論の量が多いようなケースでは、口頭のみで反論を行うことは、円滑な審理を行うにあたり不適当な場合もあります。
そのため、労働者は、当日、口頭で主張するにあたって、これを補充するための書面を提出することができるとされています。
答弁書が提出されてから第1回期日まで1週間程度しかないことが通常ですが、必要に応じて、補充書面を提出することを検討しましょう。
労働審判手続規則17条(答弁に対する反論)
1「相手方の答弁に対する反論(これに対する再反論等を含む。以下この項において同じ。)を要する場合には、労働審判手続の期日において口頭でするものとする。この場合において、反論をする者は、口頭での主張を補充する書面(以下「補充書面」という。)を提出することができる。」
労働審判の調停を有利に進めるための交渉方法
労働審判の調停は、会社の意向を踏まえたうえで成立するものなので、交渉技術も必要となります。
労働審判の調停を有利に進めるための交渉方法としては、例えば、以下の12個があります。
方法1:見通しが明るい場合には予想される審判や判決を強調する
方法2:可能であれば会社に先に解決金を提案してもらう
方法3:労働審判員の心証を確認しながら提案金額を検討する
方法4:金額の根拠を言えるようにする
方法5:会社が歩みよってこない場合には安易に金額を下げない
方法6:時に感情面を強調してみるのも有効
方法7:切りのいい数字に繰り上げてもらう
方法8:悩んだら譲歩せずに次回期日に持ち越す
方法9:復職の意思がある場合にはこれを強調する|不当解雇の事案
方法10:退職を前提とする和解の場合には退職金を忘れずに指摘する|不当解雇の事案
方法11:会社の落ち度で雇用保険に加入していない場合は指摘する|不当解雇の事案
方法12:訴訟の判決になると遅延損害金や付加金が必要となることを指摘する|残業代の事案
労働審判の解決金の相場やこれを増額する方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判で勝った後どうなる?
労働審判で勝ったとしても、それで全てが終わるわけではありません。
労働審判がどのように終了したかにより、その後の流れは変わってきます。
以下では、「勝訴的和解をしたケース」と「審判で勝訴したケース」をそれぞれ説明していきます。
勝訴的和解のケース
労働審判において、あなたの請求が一定程度認められることを前提として、会社があなたに対して解決金の支払いを行うという和解をした場合には、裁判上の和解と同一の効力があります。
裁判上の和解には、確定判決と同じ効力があるとされています。
つまり、調停が成立した後は、争いを蒸し返すことができず、解決金等の支払いがされない場合には差し押さえなどによる強制的な措置が可能となります。
通常、勝訴的な和解をしたケースでは、1ヶ月程度後に解決金が支払われることになりますが、万が一、会社が約束を守らない場合には約束を実現するための措置を講じることができます。
審判で勝訴したケース
労働審判において、和解が成立せず、労働審判委員会における審判で勝訴したケースでは、2週間以内に異議が出されることがあります。
適法な異議が出された場合には、審判はその効力を失い、訴訟に移行します。
これに対して、労働審判に異議が出されない場合には、裁判上の和解と同一の効力があることになります。つまり、勝訴的和解が成立した場合と同様、争いを蒸し返すことはできず、審判の内容を守らないと強制的な措置が可能となります。
あっせんと労働審判と訴訟ではどれがおすすめ?
労働紛争を解決する際に、あっせん・労働審判・訴訟のいずれの手続きを選択すればいいのか悩みますよね。
これらの手続きの特徴を整理すると以下のとおりです。
あっせんは、手続きの難易度が低く、1か月程度の短期間で解決できる余地があります。しかし、解決金額の平均は27万9681円と著しく低廉な金額となっています。
労働審判では、解決金額の平均は229万7119円となっており、解決期間は3~4か月程度となっています。つまり、迅速に適正な金額による解決を行うことができる傾向にあります。ただし、手続きの難易度は、あっせんと比べて高いものとなっています。
訴訟では、解決金額の平均は450万7660円となっていますが、解決期間も1年程度と長くなっています。手続きの難易度も、あっせんと比べて高いものとなっています。
上記のような傾向から、和解の見込みがある場合には、労働審判の手続きがおすすめです。基本的には、あなたが和解に応じる意向が少しでもある場合には、労働審判を行うことを検討してみていいでしょう。
他方で、不当解雇事件で復職以外の解決は望んでいないようなケースなどは和解が困難なことが多いので、労働審判を申し立てることなく、訴訟を提起した方が早期に解決できる場合もあります。
また、会社が何ら資料を開示してくれないようなケースでは、文書提出命令や調査嘱託の申し立てをすることを検討する必要があります。これらの手続きでは、期日の回数が限られている労働審判では困難であるため、訴訟を提起することを検討すべきです。
ただし、労働審判や訴訟は、手続きの難易度が高くなっています。請求金額が低く、弁護士に依頼すると費用倒れになってしまうようなケースでは、あっせんを申し立てることも検討していいでしょう。
上記の解決金額の平均については、JILPTの調査を参考にしたものであり、より詳細な分布は以下のとおりです。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
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まとめ
以上のとおり、今回は、労働審判で勝率を上げるための対策について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・労働審判の勝ちとは、労働者の請求を概ね認める内容の審判又は調停がなされる場合を言うことが多いでしょう。
・労働審判が申し立てられることの多い「不当解雇」や「残業代」については、比較的、労働者の請求が認められやすい傾向にある事件類型ということができます。
・労働審判において勝率を上げるためには、最低限、以下の対策を行っておくべきです。
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この記事が労働審判をした場合に会社に勝てるか不安に感じている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。