ブラック企業として公表されている会社がどのような会社か知りたいと悩んでいませんか?
今、就職活動をしている方は、自分が入社しようとしている会社がどのような企業なのか気になりますよね。
ブラック企業として公表されているかを知りたいという方がよく利用するものとして、いわゆる厚生労働省の「ブラック企業リスト」というものがあります。
正式名称は「労働基準関係法令違反に係る公表事案」であり、厚生労働省が公表している資料のことです。
これを活用することで、労働基準関係法令違反をした企業の名称や違反の内容を知ることができます。
もっとも、このリストに全てのブラック企業が載っているわけではありません。
最終的には、あなた自身により入社しようとしている会社がブラック企業かを見極める必要があります。
今回は、ブラック企業リストの傾向や有用性と問題点を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明します。
この記事を読めば、ブラック企業リストの使い方や注意点がわかるはずです。
ブラック企業の特徴や見分け方については、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
厚生労働省のブラック企業リストとは
いわゆるブラック企業リストとは、正式名称は「労働基準関係法令違反に係る公表事案」であり、厚生労働省が公表している資料のことです。
以下のような形で労働基準関係法令違反に係る企業として公表された事案がリスト化されています。
頻繁に更新されるのでリンクを掲載することが難しいのですが、例えば、
といったワードで検索すると、上位にヒットすることが多いので試してみてください。
以下では、
・公表の経緯
・公表の基準
・公表の期間
について簡単に補足します。
公表の経緯
平成28年12月26日に「過労死等ゼロ」緊急対策の取りまとめが行われました。
その中で、社会全体で「過労死等ゼロ」を目指す取組の強化の一環として、「労働基準法等の法令違反で公表した事案のホームページへの掲載」が行われることとなりました。
そして、実際に、平成29年5月10日に平成28年10月から平成29年3月までに労働基準法違反で書類送検された332の企業及び事業場のリストがホームページ上で公開されました。
その後、同リストは、定期的に更新されています。
公表の基準
厚生労働省や労働局のホームページに掲載される事案の基準は、以下のとおりとされています。
⑴ 送検事案
労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した事案
⑵ 局長指導事案
平成29年1月20日付け基発0120第1号「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」に基づき、局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案
(参考:平成29年3月30日基発0330第11号「1掲載する事案」)
公表の期間
厚生労働省や労働局のホームページに掲載される期間は、以下のとおりとされています。
⑴ 局においては、送検事案又は局長指導事案を公表後、速やかに局のホームページに掲載するものとする。
⑵ 本省においては、全国の送検事案及び局長指導事案をとりまとめ、毎月定期に本省のホームページに掲載するものとする。
⑶ 掲載期間は、公表日から概ね1年間とし、公表日から1年が経過し最初に到来する月末にホームページから削除するものとする。
ただし、公表日から概ね1年以内であっても、
① 送検事案は、ホームページに掲載を続ける必要性がなくなったと認められる場合
② 局長指導事案は、是正及び改善が確認された場合
については、速やかにホームページから削除するものとする。
(参考:平成29年3月30日基発0330第11号「3掲載時期及び掲載期間」)
ブラック企業リストで公表されている事案の傾向
それでは、いわゆるブラック企業リストで公表されている事案の傾向について整理していきます。
具体的には、労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和2年3月1日~令和3年2月28日分)[掲載日:令和3年3月31日]において、公表されている426企業の傾向を分析します。
まず、「労働基準法違反」「最低賃金法違反」「労働安全衛生法違反」の割合をまとめると以下のとおりとなります。
このことからも分かるとおり、公表されている事案の4分の3以上は、労働安全衛生法違反の事案となります。
残りの4分の1程度が「労働基準法違反」と「最低賃金法違反」となります。公表されている事案の内、労働基準法違反は、全体の10分の1程度に過ぎないのです。
より詳細には、以下のとおりとなります。
ブラック企業の公表事案の概要と一例
労働基準法違反、最低賃金法違反、労働安全衛生法違反と言っても、その内容は様々です。
そのため、もう少し具体的に公表事案の概要と一例を紹介していきます。
以下の順番で一緒に確認していきましょう。
・労働基準法違反の概要と一例
・最低賃金法違反の概要と一例
・労働安全衛生法違反の概要と一例
労働基準法違反の概要と一例
労働基準法違反の内容を多い順に整理すると以下のとおりとなります。
それぞれの概要と一例を説明していきます。
労働基準法32条違反
労働基準法違反の公表事案で最も多かったのが、労働時間に関する違反(労働基準法32条)です。
労働基準法32条(労働時間)
1「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」
2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働者1名に、36協定の締結・届出なく、違法な時間外労働を行わせたもの」
労働基準法24条違反
労働基準法違反の公表事案で2番目に多いのが、賃金の支払いに関する違反(労働基準法24条)です。
労働基準法第24条(賃金の支払)
1「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」
2「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働者〇名に、〇か月間の定期賃金合計約〇万円を支払わなかったもの」
労働基準法37条違反
労働基準法違反の公表事案で3番目に多いのが、割増賃金に関する違反(労働基準法37条)です。
労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
4「使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働者〇名に対し、〇か月間の時間外労働割増賃金合計約〇万円を支払わなかったもの」
労働基準法101条違反
労働基準法違反の公表事案で4番目に多いのが、労働基準監督官の権限に関する違反(労働基準法101条)です。
労働基準法101条(労働基準監督官の権限)
1「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働基準監督官に虚偽の書類を提出したもの」
労働基準法15条違反
労働基準法違反の公表事案には、労働条件の明示に関する違反(労働基準法15条)もあります。
労働基準法15条(労働条件の明示)
1「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働者〇名に、労働契約の締結に際し労働条件を書面を交付する等により明示しなかったもの」
労働基準法20条違反
労働基準法違反の公表事案には、解雇の予告に関する違反(労働基準法20条)もあります。
労働基準法20条(解雇の予告)
1「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働者〇名を解雇するに当たって解雇の予告を行わず、かつ、解雇予告手当を支払わなかったもの」
労働基準法22条違反
労働基準法違反の公表事案には、退職時等の証明に関する違反(労働基準法22条)もあります。
労働基準法22条(退職時等の証明)
1「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。」
2「労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。」
3「前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。」
4「使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働者〇名が、解雇の理由についての証明書を請求したにもかかわらず、遅滞なく当該証明書を交付しなかったもの」
労働基準法104条の2違反
労働基準法違反の公表事案には、必要な事項の報告等に関する違反(労働基準法104条の2)もあります。
労働基準法104条の2(報告等)
1「行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。」
2「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働基準監督署長の報告命令に対して、虚偽の報告をしたもの」
最低賃金法違反の概要と一例
最低賃金法違反として公表されている事案は、最低賃金額以上の賃金の支払いに違反(最低賃金法4条)するものです。
最低賃金法4条(最低賃金の効力)
1「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のとおりです。
「労働者〇名に、〇か月間の定期賃金合計約〇万円を支払わなかったもの」
「労働者〇名に対し、〇〇県最低賃金以上の賃金を支払わなかったもの」
労働安全衛生法違反の概要と一例
労働安全衛生法違反の内容を多い順に整理すると以下のとおりとなります。
それぞれの概要と一例を説明していきます。
労働安全衛生法20条違反
労働安全衛生法違反の公表事案で最も多かったのが、事業者の講ずべき措置等に関する違反[機械等、爆発性の物等、電気等](労働安全衛生法20条)です。
労働安全衛生法20条(事業者の講ずべき措置等)
「事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
一「機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険」
二「爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険」
三「電気、熱その他のエネルギーによる危険」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「トラクター・ショベルに接触するおそれがある箇所に労働者を立ち入らせたもの」
労働安全衛生法21条
労働安全衛生法の公表事案で2番目に多かったのが、事業者の講ずべき措置等に関する違反[採掘、採石、荷役、伐木等](労働安全衛生法21条)です。
労働安全衛生法21条
1「事業者は、掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
2「事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「地山の崩壊により労働者に危険を及ぼすおそれがあったのに土止め支保工を設ける等の措置を講じなかったもの」
労働安全衛生法100条
労働安全衛生法の公表事案で3番目に多かったのが、必要な事項の報告等に関する違反(労働安全衛生法100条)です。
労働安全衛生法100条(報告等)
1「厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。」
2「厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、登録製造時等検査機関等に対し、必要な事項を報告させることができる。」
3「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「4日以上の休業を要する労働災害について、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告書を提出したもの」
労働安全衛生法61条
労働安全衛生法の公表事案で4番目に多かったのが、クレーンの運転その他の業務についての就業制限に関する違反(労働安全衛生法61条)です。
労働安全衛生法61条(就業制限)
1「事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「つり上げ荷重2.818トンのクレーンの玉掛け業務に、無資格者を従事させたもの」
労働安全衛生法31条
労働安全衛生法の公表事案で5番目に多かったのが、注文者の講ずべき措置に関する違反(労働安全衛生法31条)です。
労働安全衛生法31条(注文者の講ずべき措置)
1「特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物、設備又は原材料(以下「建設物等」という。)を、当該仕事を行う場所においてその請負人(当該仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。第三十一条の四において同じ。)の労働者に使用させるときは、当該建設物等について、当該労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「高さ約3メートルの作業床の端に囲い等を設けることなく請負人の労働者に使用させたもの」」
労働安全衛生法14条
労働安全衛生法の公表事案で6番目に多かったのが、高圧室内作業その他の労働災害防止するための管理を必要とする作業等の作業主任者に関する違反(労働安全衛生法14条)です。
労働安全衛生法14条(作業主任者)
「事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「荷役作業を行う際、船内荷役作業主任者が周辺作業者との連絡調整を行っていなかったもの」
労働安全衛生法22条
労働安全衛生法の公表事案で7番目に多かったのが、事業者の講ずべき措置等に関する違反[ガス、放射線、計器監視、排気等](労働安全衛生法22条)です。
労働安全衛生法22条
「事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
一「原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害」
二「放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害」
三「計器監視、精密工作等の作業による健康障害」
四「排気、排液又は残さい物による健康障害」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「酸素欠乏危険作業に労働者を従事させるときに、必要な測定機器を備えていなかったもの」
労働安全衛生法59条
労働安全衛生法の公表事案で8番目に多かったのが、安全衛生教育に関する違反違反(労働安全衛生法59条)です。
労働安全衛生法59条(安全衛生教育)
1「事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。」
2「前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。」
3「事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「労働者に足場の解体の作業を行わせるに当たり、足場の組立等の業務に係る特別教育を実施していなかったもの」
労働安全衛生法30条
労働安全衛生法の公表事案で9番目に多かったのが、特定元方事業者等の講ずべき措置に関する違反(労働安全衛生法30条)です。
労働安全衛生法30条(特定元方事業者等の講ずべき措置)
1「特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。」
一 協議組織の設置及び運営を行うこと。
二 作業間の連絡及び調整を行うこと。
三 作業場所を巡視すること。
四 関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助を行うこと。
五 仕事を行う場所が仕事ごとに異なることを常態とする業種で、厚生労働省令で定めるものに属する事業を行う特定元方事業者にあつては、仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画を作成するとともに、当該機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人がこの法律又はこれに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての指導を行うこと。
六 前各号に掲げるもののほか、当該労働災害を防止するため必要な事項
公表されている事案の例は、以下のものです。
「トラクター・ショベルの配置に関する計画を作成することなく、下請労働者に当該機械による作業を行わせたもの」
労働安全衛生法23条
労働基準法の公表事案には、事業者の講ずべき措置等に関する違反[通路、床面階段等の保全、並びに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難及び清潔](労働安全衛生法23条)もあります。
労働安全衛生法23条
「事業者は、労働者を就業させる建設物その他の作業場について、通路、床面、階段等の保全並びに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「屋上に通じる安全通路を設けることなく、派遣労働者に屋上にある廃棄物の搬出を行わせたもの」
労働安全衛生法26条
労働基準法の公表事案には、事業者の講ずべき措置に応じた必要な事項の遵守に関する違反(労働安全衛生法26条)もあります。
労働安全衛生法26条
「労働者は、事業者が第二十条から第二十五条まで及び前条第一項の規定に基づき講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「フォークリフトの運転者が運転位置を離れる際、フォークを最低降下位置に置かず、エンジンを切らなかったもの」
労働安全衛生法32条
労働基準法の公表事案には、請負人の講ずべき措置に関する違反(労働安全衛生法32条)もあります。
労働安全衛生法32条(請負人の講ずべき措置等)
1「第三十条第一項又は第四項の場合において、同条第一項に規定する措置を講ずべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うものは、これらの規定により講ぜられる措置に応じて、必要な措置を講じなければならない。」
2「第三十条の二第一項又は第四項の場合において、同条第一項に規定する措置を講ずべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うものは、これらの規定により講ぜられる措置に応じて、必要な措置を講じなければならない。」
3「第三十条の三第一項又は第四項の場合において、第二十五条の二第一項各号の措置を講ずべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うものは、第三十条の三第一項又は第四項の規定により講ぜられる措置に応じて、必要な措置を講じなければならない。」
4「第三十一条第一項の場合において、当該建設物等を使用する労働者に係る事業者である請負人は、同項の規定により講ぜられる措置に応じて、必要な措置を講じなければならない。」
5「第三十一条の二の場合において、同条に規定する仕事に係る請負人は、同条の規定により講ぜられる措置に応じて、必要な措置を講じなければならない。」
6「第三十条第一項若しくは第四項、第三十条の二第一項若しくは第四項、第三十条の三第一項若しくは第四項、第三十一条第一項又は第三十一条の二の場合において、労働者は、これらの規定又は前各項の規定により講ぜられる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。」
7「第一項から第五項までの請負人及び前項の労働者は、第三十条第一項の特定元方事業者等、第三十条の二第一項若しくは第三十条の三第一項の元方事業者等、第三十一条第一項若しくは第三十一条の二の注文者又は第一項から第五項までの請負人が第三十条第一項若しくは第四項、第三十条の二第一項若しくは第四項、第三十条の三第一項若しくは第四項、第三十一条第一項、第三十一条の二又は第一項から第五項までの規定に基づく措置の実施を確保するためにする指示に従わなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「化学設備の配管補修工事を請け負うにあたって、工事の発注者に対し、必要な文書の交付を求めなかったもの」
労働安全衛生法33条
労働基準法の公表事案には、機械等貸与者等の講ずべき措置等に関する違反(労働安全衛生法33条)もあります。
労働安全衛生法33条(機械等貸与者等の講ずべき措置等)
1「機械等で、政令で定めるものを他の事業者に貸与する者で、厚生労働省令で定めるもの(以下「機械等貸与者」という。)は、当該機械等の貸与を受けた事業者の事業場における当該機械等による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
2「機械等貸与者から機械等の貸与を受けた者は、当該機械等を操作する者がその使用する労働者でないときは、当該機械等の操作による労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。」
3「前項の機械等を操作する者は、機械等の貸与を受けた者が同項の規定により講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「貸与を受けた車両系建設機械を操作させる下請労働者に対し、安全な作業方法等を通知しなかったもの」
労働安全衛生法40条
労働基準法の公表事案には、検査証を受けていない特定機械等の使用制限に関する違反(労働安全衛生法40条)もあります。
労働安全衛生法40条(使用等の制限)
1「前条第一項又は第二項の検査証(以下「検査証」という。)を受けていない特定機械等(第三十八条第三項の規定により部分の変更又は再使用に係る検査を受けなければならない特定機械等で、前条第三項の裏書を受けていないものを含む。)は、使用してはならない。」
2「検査証を受けた特定機械等は、検査証とともにするのでなければ、譲渡し、又は貸与してはならない。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「検査証を受けていない天井クレーンを労働者に使用させたもの」
労働安全衛生法45条
労働基準法の公表事案には、ボイラーその他の機械等に関する定期自主検査に関する違反(労働安全衛生法45条)もあります。
労働安全衛生法45条(定期自主検査)
1「事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない。」
2「事業者は、前項の機械等で政令で定めるものについて同項の規定による自主検査のうち厚生労働省令で定める自主検査(以下「特定自主検査」という。)を行うときは、その使用する労働者で厚生労働省令で定める資格を有するもの又は第五十四条の三第一項に規定する登録を受け、他人の求めに応じて当該機械等について特定自主検査を行う者(以下「検査業者」という。)に実施させなければならない。」
3「厚生労働大臣は、第一項の規定による自主検査の適切かつ有効な実施を図るため必要な自主検査指針を公表するものとする。」
4「厚生労働大臣は、前項の自主検査指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者若しくは検査業者又はこれらの団体に対し、当該自主検査指針に関し必要な指導等を行うことができる。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「化学設備について、2年以内ごとに1回、法定の事項について定期自主検査を行っていなかったもの」
労働安全衛生法65条
労働基準法の公表事案には、有害な業務を行う屋内作業場等の作業環境測定に関する違反(労働安全衛生法65条)もあります。
労働安全衛生法第65条(作業環境測定)
1「事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。」
2「前項の規定による作業環境測定は、厚生労働大臣の定める作業環境測定基準に従つて行わなければならない。」
3「厚生労働大臣は、第一項の規定による作業環境測定の適切かつ有効な実施を図るため必要な作業環境測定指針を公表するものとする。」
4「厚生労働大臣は、前項の作業環境測定指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者若しくは作業環境測定機関又はこれらの団体に対し、当該作業環境測定指針に関し必要な指導等を行うことができる。」
5「都道府県労働局長は、作業環境の改善により労働者の健康を保持する必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、作業環境測定の実施その他必要な事項を指示することができる。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「建設現場の地下ビット内で作業を開始する前に、ビット内の酸素濃度を測定しなかったもの」
労働安全衛生法98条
労働基準法の公表事案には、労働局長又は労働基準監督署長の使用停止命令等に関する違反(労働安全衛生法98条)もあります。
労働安全衛生法第98条(使用停止命令等)
1「都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、第二十条から第二十五条まで、第二十五条の二第一項、第三十条の三第一項若しくは第四項、第三十一条第一項、第三十一条の二、第三十三条第一項又は第三十四条の規定に違反する事実があるときは、その違反した事業者、注文者、機械等貸与者又は建築物貸与者に対し、作業の全部又は一部の停止、建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更その他労働災害を防止するため必要な事項を命ずることができる。」
2「都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、前項の規定により命じた事項について必要な事項を労働者、請負人又は建築物の貸与を受けている者に命ずることができる。」
3「労働基準監督官は、前二項の場合において、労働者に急迫した危険があるときは、これらの項の都道府県労働局長又は労働基準監督署長の権限を即時に行うことができる。」
4「都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、請負契約によつて行われる仕事について第一項の規定による命令をした場合において、必要があると認めるときは、当該仕事の注文者(当該仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該注文者の請負契約の先次のすべての請負契約の当事者である注文者を含み、当該命令を受けた注文者を除く。)に対し、当該違反する事実に関して、労働災害を防止するため必要な事項について勧告又は要請を行うことができる。」
公表されている事案の例は、以下のものです。
「使用停止命令を受けたプレス機械を必要な安全措置を講じないまま労働者に使用させたもの」
ブラック企業リストの有用性と問題点・注意点
いわゆるブラック企業リストは、有用なものではありますが、同時に問題点もあります。
それぞれについて説明します。
ブラック企業リストの有用性
ブラック企業リストは、以下のような点で有用なものであるということができます。
①自分が働く会社を選ぶ際に参考にすることができる
②法令や労働基準監督署の指導の実効性を担保することができる
①まず、就職活動を行っている方は、ブラック企業リストを利用することで、その会社が労働基準関係法令違反に係る公表をされていないかを知ることができ、自分が働く会社を選ぶ際の参考にすることができます。
②また、特に悪質な会社を公表することにより、他の企業の遵法意識を啓発し、法令や労働基準監督署の指導の実行性を担保することができます。
ブラック企業リストの問題点・注意点
他方で、ブラック企業リストには、以下のような問題点もあるので注意が必要です。
①掲載されていないブラック企業も多く存在する
②掲載されている事案は労働安全衛生法違反が中心となっている
③下請け企業等が掲載の中心となっている
①まず、ブラック企業リストに掲載されている事案は、労働基準関係法令に違反する企業のうち、特に悪質性が高い一部の企業のみです。また、掲載期間は1年程度と限定的です。そのため、ブラック企業リストに載っていなければホワイト企業と言うわけではない点に注意が必要です。
②また、ブラック企業リストに掲載されている事案は、労働安全衛生法違反の事案が中心となっています。長時間の残業や残業代未払いなどについては、全体の10分の1程度にすぎません。「実際のブラック企業のイメージ」と「掲載されている事案」との間で齟齬があると言われています。
③更に、下請け企業等の掲載が中心となっていますが、その根本的な原因が発注元からの無理な要請などによる場合もあります。そのため、企業名の公表によっても根本的な解決に繋がらない可能性があります。
ブラック企業を見分けるチェックリスト
先ほど説明したように、いわゆるブラック企業リストには載っていないものの、職場環境に問題がある企業も数多く存在します。
そのため、自分が働く会社を決めるに当たっては、自分自身でその会社に問題がないかを見極める必要があります。
例えば、以下の10個の点を確認してみるといいでしょう。
①雇用契約書や労働条件通知書の有無を確認する
②固定残業代の想定している残業時間を確認する
③賃金体系が明確かを確認する
④ネットの評判や口コミを確認する
⑤社員の雰囲気を確認する
⑥年齢層に偏りがないかを確認する
⑦採用人数が多すぎないかを確認する
⑧タイムカードの有無を確認する
⑨就業規則の有無を確認する
⑩深夜に電気がついていないかを確認する
ブラック企業を見分け方については、以下の記事で詳しく説明しています。
就職した会社がブラック企業だった場合には弁護士に相談
就職した会社がブラック企業だった場合には、弁護士に相談することがおすすめです。
ブラック企業に入社したものの、仕方ないと諦めてしまい中々行動に移すことができないという方も多くいます。
しかし、ブラック企業を撲滅するには、一人一人が声を上げていくことが重要となります。
例えば、弁護士に相談すれば、あなたが「法的な権利を会社に請求したい場合」や「その会社を退職したい場合」など、適切な助言をしてもらうことができるでしょう。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、自分の会社がブラック企業なのではないかと感じたら、まずは弁護士に相談してみましょう。
まとめ
以上のとおり、今回は、ブラック企業リストの傾向や有用性と問題点を解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・いわゆるブラック企業リストとは、正式名称は「労働基準関係法令違反に係る公表事案」であり、厚生労働省が公表している資料のことです。
・労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和2年3月1日~令和3年2月28日分)[掲載日:令和3年3月31日]において、公表されている426企業の事案の傾向は以下のとおりです。
・ブラック企業リストの有用な点として、①自分が働く会社を選ぶ際に参考にすることができること、②法令や労働基準監督署の指導の実効性を担保することができることが挙げられます。これに対して、同リストの問題点・注意点として、①掲載されていないブラック企業も多く存在すること、②掲載されている事案は労働安全衛生法違反が中心となっていること、③下請け企業等が掲載の中心となっていることが挙げられます。
・いわゆるブラック企業リストに全てのブラック企業が載っているわけではありませんので、実際にその会社がブラック企業かは、自分自身で以下のような点に注意して見極める必要があります。
①雇用契約書や労働条件通知書の有無を確認する
②固定残業代の想定している残業時間を確認する
③賃金体系が明確かを確認する
④ネットの評判や口コミを確認する
⑤社員の雰囲気を確認する
⑥年齢層に偏りがないかを確認する
⑦採用人数が多すぎないかを確認する
⑧タイムカードの有無を確認する
⑨就業規則の有無を確認する
⑩深夜に電気がついていないかを確認する
この記事がブラック企業として公表されている会社を知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。