会社から解雇された場合に会社都合の退職になるか悩んでいませんか?
会社都合の退職ですと失業保険で優遇してもらえますので、生活を考えると、どのような扱いになるかは重要なことですよね
結論から言うと、解雇は原則として会社都合(特定受給資格者)として処理されることになります。ただし、例外的に労働者の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合、つまり重責解雇の場合には自己都合として処理されます。
しかし、多くの会社は、実際には重責解雇に当たらないにもかかわらず、これに該当するものとして、自己都合退職として処理しています。
これは、「会社都合退職とすると会社にデメリットがあること」や「労働者の落ち度を過大に評価してしまっていること」が原因です。
会社都合なのに自己都合として処理されている場合には、労働者としても、ハローワークに相談してみることが重要です。
また、そもそも、日本では解雇が認められるにはとても厳格な条件がありますので、実際に行われている解雇の多くは「不当」なものです。そのため、実は、あなたは、失業保険以外にも権利を持っている可能性があります。
今回は、解雇と会社都合退職について、重責解雇の例を中心に詳しく解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、解雇と会社都合退職についての悩みが解消するはずです。
会社都合退職については、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
会社都合退職とは何か
会社都合退職とは、主な原因が会社側にある退職のことをいいます。正式には、特定受給資格者といいます。
具体的には、「会社のリストラや倒産でやむなく退職した人」、「解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く)された人」がこれに該当します。
会社都合退職かどうかは、後ほど説明するように、失業保険を受給する際に重要となってきます。
解雇は原則会社都合!例外的に会社都合にならない7ケース
結論から言うと、解雇は原則として会社都合(特定受給資格者)として処理されることになります。
ただし、例外的に労働者の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合、つまり重責解雇の場合には自己都合として処理されます。
具体的には、以下の7つのケースでは、重責解雇に該当します。
ケース1:刑法や職務に関連する法令に違反して処罰を受けたケース
ケース2:故意又は重過失により設備又は器具を破壊したケース
ケース3:故意又は重過失により会社の信用を失墜させ又は損害を与えたケース
ケース4:労働協約又は労働基準法に基づく就業規則に違反したケース
ケース5:会社の機密を漏らしたケース
ケース6:会社の名をかたり、利益を得又は得ようとしたケース
ケース7:他人の名を詐称し、又は虚偽の陳述をして就職したケース
それでは、各ケースについて説明していきます。
ケース1:刑法や職務に関連する法令に違反して処罰を受けたケース
重責解雇として自己都合退職となるケースの1つ目は、刑法各本条の規定に違反し、又は職務に関連する法令に違反して処罰を受けたことによって解雇された場合です。
つまり、「刑法に規定する犯罪」又は「行政罰の対象となる行為」を行ったことによって解雇された場合です。
ここでいう行政罰の対象となる行為というのは、例えば、自動車運転手が交通取締規則に違反する場合等です。
単に訴追を受け、又は取調べを受けている場合、控訴又は上告中で刑の確定していない場合は、これに該当しません。
執行猶予中の者は刑が確定しているのでこれに該当し、起訴猶予の処分を受けた者は刑が確定するのではないからこれに該当しません。
ケース2:故意又は重過失により設備又は器具を破壊したケース
重責解雇として自己都合退職となるケースの2つ目は、故意又は重過失により事業者の設備又は器具を破壊したことによって解雇された場合です
設備又は器具を破壊することにより会社に損害を与え、しかもそれが故意又は重過失に基づく場合には、当然自己の責めに帰すべき重大な理由になります。
ケース3:故意又は重過失により会社の信用を失墜させ又は損害を与えたケース
重責解雇として自己都合退職となるケースの3つ目は、故意又は重過失によって事業所の信用を失墜せしめ、又は損害を与えたことによって解雇された場合です。
つまり、労働者の言動によって事業主又は事業所に金銭その他物質的損害を与え、又は信用の失墜あるいは顧客の減少等の無形の損害を与えたことによって解雇された場合がこれに当たります。
ケース4:労働協約又は労働基準法に基づく就業規則に違反したケース
重責解雇として自己都合退職となるケースの4つ目は、労働協約又は労働基準法に基づく就業規則に違反したことによって解雇された場合です。
労働協約又は就業規則に定められた事項は、労働者が守るべきものです。そのため、これ違反したことによって解雇された場合には、重責解雇となる可能性があります。
ただし、労働協約又は就業規則違反の程度が軽微な場合には、重責解雇にはならないとされています。
具体的には、重責解雇となるのは、以下の①~④の行為のいずれかがあった場合であって、会社が解雇予告除外認定を受け解雇予告及び解雇予告手当の支払い義務を免れるときです。
①極めて軽微なものを除き、事業所内において窃盗、横領、傷害等刑事犯に該当する行為があった場合
②賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為があった場合
③長期間正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
④出勤不良又は出欠常ならず、数回の注意を受けたが改めない場合
ケース5:会社の機密を漏らしたケース
重責解雇として自己都合退職となるケースの5つ目は、事業所の機密を漏らしたことによって解雇された場合です。
事業所の機密とは、事業所の機械器具、製品、原料、技術等の機密、事業所の経営状態、資産等事業経営上の機密に関する事項等を含みます。
これらの事項は従業員として当然守らなければならない機密だからです。
ケース6:会社の名をかたり、利益を得又は得ようとしたケース
重責解雇として自己都合退職となるケースの6つ目は、事業所の名をかたり、利益を得又は得ようとしたことによって解雇された場合です。
このような場合には、事業主に有形無形の損害を与える場合もあり、事業主に積極的損害を与えない場合でも詐欺罪又は背任罪が成立する余地があるためです。
ケース7:他人の名を詐称し、又は故意の陳述をして就職したケース
重責解雇として自己都合退職となるケースの7つ目は、他人の名を詐称し、又は虚偽の陳述をして就職をしたために解雇された場合です。
例えば、雇用される際に、就職条件を有利にするために他人の履歴を盗用し、あるいは技術、経験、学歴等について自己の就職に有利なように虚偽の陳述をして採用され、後に発覚した場合です。
解雇類型と会社都合の関係
会社都合かどうかについては、解雇類型により直ちに決まるとは限りません。
なぜなら、例外的に重責解雇として自己都合退職になるのは先ほど述べたケースの場合であり、解雇類型のみから判断することはできないためです。
もっとも、解雇類型と会社都合の関係について、おおよその傾向はありますので、以下説明していきます。
懲戒解雇と会社都合
懲戒解雇というのは、労働者が企業の秩序に違反したことに対する制裁として行われる解雇のことです。
懲戒解雇の場合には、会社は自己都合退職として処理する傾向にあります。
しかし、懲戒解雇であっても、重責解雇に該当するは限りませんので、先ほどの基準に該当するかどうかを確認しましょう。
整理解雇と会社都合
整理解雇というのは、企業の経営上必要とされる人員削減のために行われる解雇のことです。日本でリストラという場合には、この整理解雇を指すことが多いです。
整理解雇の場合には、労働者に落ち度はありませんので、会社都合退職となります。
試用期間解雇と会社都合
試用期間解雇というのは、試用期間中又は試用期間満了時に本採用を拒否されるものです。
本採用拒否については、労働者に落ち度が「ある場合」「ない場合」、いずれもあります。
そのため、試用期間中の解雇が「自己都合」となるか、「会社都合」となるかは、事案次第となります。先ほどの基準に該当するかどうかを確認しましょう。
会社都合退職のメリット・デメリット
会社都合の退職は、自己都合退職と比較してメリットが多くなっています。ただし、会社都合の退職にデメリットがないわけではありません。
それでは、会社都合退職のメリットとデメリットについて、それぞれ説明していきます。
会社都合退職のメリット
会社都合退職のメリットは、失業保険を受給する際に優遇されることです。
具体的には、失業保険の受給について、以下の2つ点で有利に扱ってもらうことができます。
⑴ 会社都合退職の場合には2~3か月の給付制限がない
⑵ 会社都合退職の場合には失業保険の給付日数が雇用権の加入期間や退職した時の年齢により90日~330日です(自己都合退職の場合には、雇用保険の加入期間により90日~150日)
2~3か月の給付制限がない
失業保険を受給する流れは以下のとおりです。
正当な理由がない自己都合退職の場合には、待機期間終了後2~3か月の給付制限があります。
しかし、会社都合退職の場合には、この給付制限がないので、失業保険を早期に受給できるのです。
給付日数が90日~330日とされている
自己都合退職の場合には、雇用保険の加入期間により、失業手当の給付日数が決まり、以下のとおりとされています。
これに対して、会社都合退職の場合には、雇用保険の加入期間と退職した時の年齢により、失業手当の給付日数が判断されることになり、以下のとおりとされています。
会社都合退職のデメリット
会社都合退職の場合のデメリットとしては、再就職の際に説明を求められる可能性があることです。
会社都合退職の場合には、重責解雇以外の解雇や退職勧奨も含まれますので、再就職の際に問題があるのではないかと疑いの目で見られることがあります。
そのため、会社都合退職の場合には、再就職の面接でどのように説明するかについても考えておく必要があります。
会社都合なのに自己都合とされた場合にはハローワークに申し出る
会社は、実際には会社都合退職なのに、自己都合退職として届け出ることがあります。
このような場合に労働者が何ら異議を述べずにいると、そのまま自己都合として続きを進められてしまいます。
そのため、離職票が届いたら離職理由を確認して、「重責解雇」に該当しないのにこれにチェックされていたら、ハローワークに異議を申し出るようにしましょう。
また、解雇の不当性を争い、退職を前提とする和解が成立する場合には、「会社都合での合意退職」とすることが多いので、解雇が不当であると感じている場合には弁護士にも相談してみましょう。
解雇と会社都合についてよくある疑問
解雇と会社都合については、明確な記載がされた文献等も少ないため、色々な疑問が出てきますよね。
例えば、よくある疑問としては、以下の3つがあります。
疑問1:労働者に落ち度のない場合の解雇後の給与はどうなる?
疑問2:会社が会社都合退職にしたがらないのはなぜ?
疑問3:アルバイトやパートの解雇も会社都合になる?
それでは、これらの疑問について順番に解消していきましょう。
疑問1:労働者に落ち度のない場合の解雇後の給与はどうなる?
労働者に落ち度のない場合の解雇後の給与が支払われるかどうかについては、その解雇が有効かどうかによります。
つまり、解雇が有効である場合には、仮に労働者に落ち度がない場合であっても、解雇日以降の給与は支払われないことになります。
これに対して、解雇が無効である場合には、あなたに働く意思がある限り、解雇された日よりも後の給与を請求することができます。
つまり、解雇が無効である場合には、解雇日以降に出勤していなかったとしても、それは会社に原因があるため、あなたは会社に対して通常どおり給与を請求することができるのです。
例えば、不当解雇を長期間にわたって争っているような場合には、解雇から解決までの未払い給与を支払ってもらえることになりますので、その金額が高額になることが多いのです。
疑問2:会社が会社都合退職にしたがらないのはなぜ?
会社が会社都合退職したがらない理由は、助成金の問題があるためです。
すなわち、会社が助成金をもらうための条件として、一定期間以内に会社都合退職を行っていないことが含まれていることがあるのです。
例えば、以下のような助成金です。
・トライアル雇用助成金
・労働移動支援助成金
・中途採用等支援助成金
・特定求職者雇用開発助成金
・地域雇用開発助成金
・障害者雇用安定助成金
そのため、会社は、中々会社都合退職にしたがらないのです。
疑問3:アルバイトやパートの解雇も会社都合になる?
アルバイトやパート従業員の方の解雇であっても、会社都合退職に該当するかどうかについての考え方は、正社員の方と同様です。
ただし、アルバイトやパート従業員の方が失業保険を受給するには、雇用保険に加入していることが必要です。
雇用保険の被保険者となるためには、以下の条件を満たすことが必要とされています。
⑴1週間の所定労働時間が20時間以上であること
⑵31日以上引き続き雇用されることが見込まれること(短期契約を繰り返す場合も含む)
そもそも労働者に落ち度がない解雇は有効なの?
労働者に落ち度のない解雇は、直ちに無効であるとはいえませんが、これが認められるにはとても厳格な条件があります。
解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当といえない場合には、濫用として無効とされています
つまり、会社は、労働者が何かミスをしても、「改善の機会を付与すること」や「業務内容や勤務場所を変更して雇用し続けること」を検討しなければいけませんし、会社に大きな支障が生じていないような場合には解雇は認められない傾向にあります。
特に、労働者に落ち度のない解雇では、合理性や相当性について、以下の4つの要素が考慮する必要があります。
⑴人員削減の必要性
⑵解雇回避努力
⑶人選の合理性
⑷手続の相当性
そのため、労働者に落ち度のない解雇については、これらの要素を満たしていない場合には、無効となる可能性が高いのです。
詳しくは以下の記事で解説していますので、読んでみてください。
解雇の多くは不当!疑問を感じたらまずは弁護士に相談しよう!
実際に行われている解雇の多くは「不当」なものです。
先ほど見たように解雇には厳格な条件がありますが、ほとんどの会社ではこれらの条件を満たさずに解雇をしているのです。
しかし、解雇されても、自分自身にどのような権利があるのかを知らなければ、自分自身の権利を守ることはできません。
実は、不当な解雇をされた方には、様々な権利があります。例えば、解雇された後の給与を請求することができますし、悪質性が高い場合には慰謝料が認められることがあります。
また、不当解雇を争う中で和解により退職する場合には会社から解決金を支払ってもらえる可能性があります。解決金の相場は給与の3か月分~6か月分程度と言われていますが、解雇が無効であることが明らかである場合には給与の1年分程度の解決金が支払われるケースもあります。
そのため、会社の解雇に疑問を感じた場合には、まずは弁護士に相談してみましょう。あなたにどのような権利があるのかを丁寧に教えてもらえます。
まとめ
以上のとおり、今回は、解雇と会社都合退職について、重責解雇の例を中心に詳しく解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・会社都合退職とは、主な原因が会社側にある退職のことをいいます。
・解雇は原則として会社都合(特定受給資格者)として処理されることになります。ただし、例外的に重責解雇の場合には自己都合として処理されます。具体的には、以下の7つのケースです。
ケース1:刑法や職務に関連する法令に違反して処罰を受けたケース
ケース2:故意又は重過失により設備又は器具を破壊したケース
ケース3:故意又は重過失により会社の信用を失墜させ又は損害を与えたケース
ケース4:労働協約又は労働基準法に基づく就業規則に違反したケース
ケース5:会社の機密を漏らしたケース
ケース6:会社の名をかたり、利益を得又は得ようとしたケース
ケース7:他人の名を詐称し、又は虚偽の陳述をして就職したケース
・会社都合退職のメリットは、失業保険を受給する際に「給付制限がないこと」と「給付日数が多い場合があること」です。会社都合退職の場合のデメリットは、再就職の際に説明を求められる可能性があることです。
この記事が会社から解雇された場合に会社都合の退職になるか悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。