退職勧奨の解決金の考え方がわからず悩んでいませんか?
退職勧奨における解決金というのは、労働者が会社からの求めに応じて退職する場合に、その解決の対価として支給されるものです。
結論から言うと、退職勧奨の解決金の相場は、給与の3か月分~6か月分程度といわれています。
しかし、その金額は事案により異なりますので、あなたが十分な解決金をもらうためには、解決金の考え方をよく理解しておく必要があります。
実際、退職勧奨について解決金をもらえる場合があることを知らずに、再就職の見通しが立っていないのに、無条件でこれに応じてしまう方も多いのです。
また、会社から解決金をもらう場合には、その税金についても注意しましょう。
今回は、退職勧奨の解決金相場や税金について解説します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば退職勧奨の解決金についての考え方がよく分かるはずです。
目次
退職勧奨の解決金とは
退職勧奨の解決金とは、労働者が会社からの求めに応じて退職する場合に、その解決の対価として支給されるものです。
その支給の理由や経緯により、「特別退職金」として支給されることも多いです。
解決金については、法律上、会社に支払い義務があるわけではありませんので、会社が支払いに応じなければ、労働者がこれを請求する権利はありません。労働者と会社が協議し合意することにより支払われます。
例えば、会社があなたに対して退職してほしいと考えていた場合に、あなたは退職したくないと考えていたとします。
このような場合に、会社は、100万円を支払うので、退職に応じてほしいなどと言ってくることがあるのです。
退職勧奨の解決金相場は給与の3か月分~6か月分
退職勧奨の解決金の相場は、
です。
しかし、退職勧奨の解決金の金額に法律上の決まりがあるわけではありません。
そのため、退職勧奨の解決金額は、事案により大きく異なります。
例えば、会社が解決金を1円も支払いたくないという場合もありますし、1年以上の解決金を支払ってもらえる場合もあります。
そのため、給与の3か月分~6か月分程度というのは、あくまでも相場に過ぎないことに注意が必要です。
退職勧奨の解決金の考え方
退職勧奨の解決金については、法律上の決まった金額はありませんが、その金額を決めるに当たり、いくつかの要素があります。
具体的には、以下の4つの要素です。
・解雇の合理性及び相当性
・あなたが働き続けたい程度・会社が退職させたい程度
・再就職までの期間
・失業保険の受給の可否
順番に説明していきます。
解雇の合理性及び相当性
退職勧奨の解決金を考えるうえで重要な要素の1つ目は、解雇の合理性及び相当性です。
会社は、あなたが退職勧奨に応じない場合には、解雇を検討することになりますが、解雇を行うには厳格な条件があります。
解雇の条件が満たされていない場合には、会社は、あなたを退職させるには、どうにかして退職勧奨に応じてもらう必要がありますので、高い解決金を提示してくる可能性があります。
これに対して、解雇の条件が満たされている場合には、会社は、あなたが退職勧奨に応じなくても、解雇すれば、あなたを退職させることができます。そのため、会社としても、解決金を支払う理由に乏しくなりますので、その金額は低くなります。
ただし、解雇の条件を満たしている場合でも、解雇予告なく即日解雇をするためには、更に厳しい条件があります。
そこで、解雇の条件が満たされている場合でも、通常30日前の予告が必要である以上、1か月分以上の解決金の支払いをするように求めることは考えられます。
このように、退職勧奨の解決金の見通しを立てるには、解雇がどの程度認められる可能性があるかを検討することが重要なのです。
解雇の条件については、以下の記事で詳しく解説しています。
あなたが働き続けたい程度・会社が退職させたい程度
退職勧奨の解決金を考えるうえで重要な要素の2つ目は、あなたが働き続けたい程度・会社が退職させたい程度です。
あなたが「その会社で働き続けたい気持ち強い場合」には、納得できない解決金であれば応じる必要はありませんので解決金の金額は高くなります。
これに対して、あなたが「その会社で働き続けたい気持ちが弱い場合」には、少ない解決金であっても退職に応じざるを得ないことがありますので解決金の金額は低くなります。
また、会社が「あなたを退職させたい気持ちが強い場合」には、高額な解決金を支払ってでも退職させようとしますので解決金の金額は高くなります。
これに対して、会社が「あなたを退職させたい気持ちが弱い場合」には、高額な解決金を支払うくらいなら退職しないでもいいと考えるため、解決金の金額は低くなります。
再就職までに必要な期間
退職勧奨の解決金を考えるうえで重要な要素の3つ目は、再就職までに必要な期間です。
退職勧奨に応じる際に、あなたが再就職するまでに長期間を要する場合には、その間の生活を確保できないと、退職勧奨には応じることが難しくなります。
例えば、再就職まで1年以上かかる可能性があるような場合には、3か月分~6か月分の給与相当額を解決金としてもらっても、生活を維持できない可能性があります。
他方で、再就職先の目途が既についているのであれば、1~2か月分の給与相当額を解決金としてもらえれば、生活を維持できる場合もあります。
このように再就職までに必要な期間も解決金の金額に影響を与えることになります。
失業保険の受給の可否
退職勧奨の解決金を考えるうえで重要な要素の4つ目は、失業保険の受給の可否です。
失業保険を「受給できるかどうか」や「受給できる期間」は、生活を維持することができるかどうかにかかわります。
まず、「会社が雇用保険の加入手続きをしていない場合」、「失業保険の受給条件を満たすだけの加入期間がない場合」には、あなたは失業保険の受給を受けることができません。そのため、あなたの生活を確保するために必要な解決金の金額も増加します。
また、「自己都合退職」と「会社都合退職」により、失業保険の受給条件・給付日数、受給できるまでの期間が異なります。
自己都合退職と会社都合退職の失業保険の受給条件・給付日数を比較すると以下のとおりです。労働者は、会社都合退職の方が、受給条件・給付日数双方について、優遇されることになります。
失業保険を受給するまでの流れは以下のとおりです。自己都合退職の場合には、2~3か月の給付制限があるため、失業保険を受給するまでに時間がかかります。そのため、その期間の生活を確保する必要があります。
以上のとおり、失業保険の受給の可否や受給できる期間が解決金の金額に影響することになり、退職の理由が「自己都合退職」・「会社都合退職」のいずれなのかも重要となります。
退職勧奨と会社都合退職については、以下の記事で詳しく解説しています。
会社都合退職については、以下の動画でも詳しく解説しています。
まとめ
以上の解決金を考えるうえで重要な要素を踏まえて、おおよその解決金の傾向について整理すると以下のとおりとなります。ただし、具体的事案により異なりますので、あくまでも傾向である点にはご注意ください。
まず、解雇の合理性・相当性が希薄な場合には、3か月分~1年分程度の解決金の枠組みで交渉されることが多くなっています。これに対して、解雇の合理性・相当性が十分な場合には、0か月分~3か月分程度の解決金の枠組みで交渉されるか傾向にあります。
次に、労働者は、働き続けたい意思が強い場合には、納得のいく金額でなければ、退職に応じません。解雇の合理性・相当性が希薄であれば、例えば6か月分以上の解決金を支払ってもらえなければ退職に応じないとすることが多い傾向にあります。これに対して、解雇の合理性・相当性が十分なのであれば、退職勧奨を断っても解雇が有効とされる可能性が高いので、例えば2か月分程度の解決金でも応じざるを得ないことがあります。
一方で、労働者は、働き続けたい意思が弱い場合でも、解雇の理由が不十分であれば、無理に退職に応じる必要もありませんので、会社がどの程度退職させたいと考えているかに応じて、例えば3か月分~1年分程度の間で交渉されます。これに対して、解雇の合理性・相当性が十分なのであれば、解雇されるよりも、自ら退職に応じた方が良いと考えて、退職理由等を協議して解決金なしでの退職に応じることもあります。
また、会社は、労働者を退職させたい意思が強い場合には、解雇の合理性・相当性が希薄であれば、退職勧奨に応じてもらうしか方法がないので、例えば給与の1年分を支払ってでも退職してほしいと考える場合もあります。これに対して、解雇の合理性・相当性が十分なのであれば、退職勧奨を断られても解雇すればいいと考えるので、例えば労力やリスクを考慮しても3か月分程度の解決金しか支払えないとの判断になることがあります。
一方で、会社は、退職させたい意思が弱い場合には、解雇の合理性・相当性が希薄な場合でも、例えば6か月分以上の解決金を支払うくらいなら退職しないでもいいと考えることがあります。これに対して、解雇の合理性・相当性が十分な場合には、解決金を支払う理由も特にありませんので、例えば「解決金は支払えない」又は「支払うことができても1~2か月分程度」が限度との対応をすることがあります。
労働者から解決金額を提案していいのか
退職勧奨を受けている方によくある悩みとして、労働者の側から解決金額を提案していいのかというものがあります。
結論としては、労働者から解決金額を提案することも可能です。
ただし、「働き続けたい意思が強い場合」又は「解雇の合理性・相当性が希薄な場合」には、あえてあなたから解決金額を提示する必要性はないでしょう。
なぜなら、あなたから解決金額を提示する場合には、以下のようなデメリットもあるためです。
①あなたが提案した金額が獲得できる解決金額の上限になってしまう
②あなたの働き続けたいとの意思が強くないと思われてしまう
まず、①会社は、あなたが提案する金額よりも高い解決金を支払うつもりがあった可能性もあります。例えば、会社が交渉次第では1年分の解決金を支払うつもりがあった場合でも、あなたから3カ月分の解決金額が提案されれば、それ以上は支払わなくなってしまうのです。
次に、②会社としては、最終的にあなたを退職させることができずに終わってしまうことを危惧する傾向にあります。そのため、会社としては、あなたが本当に会社で働き続ける意思があるのかどうかということ気にしています。そして、会社は、あなたが会社で働き続ける意思が強くないと感じた場合には、提案する解決金額を低くすることがあります。
もしも、あなたの方から解決金額を提示する場合には、その金額が上限となってしまう可能性があることに注意しましょう。また、働き続ける意思がある場合には、これをしっかりと示しておくことも大切です。
解決金以外の請求できる可能性のある権利
解決金を受け取って退職する場合には、合意書などに「他には債権債務がないことを確認する」との清算条項が入っていることが通常です。
そのため、解決金を受け取って退職する場合には、他に会社に対して請求できる権利がある場合でも、それ以降は請求できなくなってしまう可能性があるリスクに注意が必要です。
もしも、あなたが会社に対して請求できる権利を持っているのであれば、解決金の交渉をする際に、併せてこれも支払うように求めておきましょう。
解決金以外にも請求できる可能性のある権利としては、例えば以下のものがあります。
・退職金
・残業代等の未払い賃金
・退職勧奨の慰謝料
・有給休暇
順番に説明します。
退職金
退職する際に請求できる可能性ある権利の1つ目は、退職金です。
退職金は、法律でその支払い義務が定められているわけではありません。退職金については、会社ごとにルールがあり、退職金規程などで定められています。
そのため、退職する際には、あなたの会社に退職金規定がないかを確認するようにしましょう。
残業代等の未払い賃金
退職する際に請求できる権利の2つ目は、残業代等の未払い賃金です。
在職中の残業代が正確に計算されていない会社も多いので、退職勧奨に応じる前に確認するようにしましょう。
以下の残業代チェッカーを利用してみてください。
退職勧奨の慰謝料
退職する際に請求できる権利の3つ目は、退職勧奨の慰謝料です。
退職勧奨の手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱して、自由な退職意思の形成を妨げる場合には、民法上の不法行為となり得ます。
退職勧奨の慰謝料の相場は、20万円~100万円程度といわれています。
退職勧奨の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
有給休暇
退職する際に請求できる権利の4つ目は、有給休暇です。
有給休暇は、退職後は使うことができませんので、退職前に消化しておきましょう。
会社によっては、有給休暇の残日数に相当する手当を支給するとの制度を設けていることもありますが、そのような会社が多いとはいえないのが実情です。
解決金にかかる税金
会社から解決金を受領した場合には、その性質に応じた税金がかかる可能性があります。
退職勧奨の際の解決金は、以下の所得区分のいずれかに該当すると想定されます。解決金という名称でも、その性質は実態により判断されることになります。
⑴ 給与所得
例 解雇後の賃金、残業代の不払い等
⑵ 退職所得
例 退職金
⑶ 一時所得
例 示談金、和解金
⑷ 非課税所得
例 損害賠償金
実際には、⑵退職所得、又は、⑶一時所得とされる可能性が高いでしょうが、どのように処理するかについて会社と協議して明確にしておくといいでしょう。
⑵退職所得は、退職所得の受給に関する申告書が提出されていない場合には、20.42%が源泉徴収されることになります。退職所得の受給に関する申告書が提出されている場合には、勤続年数に応じて計算された金額が源泉徴収されることになります。
詳しくは以下のとおりです。
国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
⑶一時所得は、その所得金額の2分の1に相当する金額を給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、納める税額を計算します。
詳しくは以下のとおりです。
国税庁:No.1490 一時所得
そもそも退職勧奨に応じないという選択肢もある!
会社から退職勧奨をされた場合には、そもそも退職勧奨に応じないという選択肢もあります。
退職勧奨というのは、あくまでも労働者の意思を尊重する形で行わなければならないものだからです。
例えば、あなたが今の会社で働き続けたいと考えており、いくら解決金を支払われても退職したくないという場合には、退職勧奨を断ればいいのです。
また、会社が提示した解決金額では納得できないという場合にも、退職勧奨を断ることができます。
そのため、納得できない退職勧奨に応じる必要は全くないので、明確に拒否の意思を伝えましょう。
退職勧奨応じた場合の選択肢と対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
退職勧奨された場合のNG行動と正しい対処法は、以下の動画でも詳しく解説しています。
退職勧奨の解決金は弁護士に相談しよう!
退職勧奨の解決金についての悩みは弁護士に相談することがおすすめです。
なぜなら、退職勧奨の解決金を検討するにあたっては、解雇に合理性及び相当性があるかというのが重要な考慮要素となるためです。
解雇の合理性・相当性は、一律に判断することはできず、裁判例に照らして事案ごとに検討する必要があります。
先ほど説明したように、退職勧奨の解決金の相場については幅があるので、あなたがどのように対応するかにより、獲得できる解決金額も大きく変わってきます。
また、退職の条件を交渉する際の注意点、交渉の流れ、見通しについても、十分に確認しておくべきでしょう。
そして、弁護士に依頼した場合には、あなたに代わって退職勧奨についての対応してもらうことができます。つまり、あなたは慣れないやり取りを弁護士に丸投げしてしまうことができるのです。
そのため、退職勧奨の解決金については、弁護士に相談することがおすすめです。
まとめ
以上のとおり、今回は、退職勧奨の解決金相場や税金について解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・退職勧奨の解決金の相場は、給与の3か月分~6か月分程度です。
・退職勧奨の解決金額は、①解雇の合理性及び相当性、②あなたが働き続けたい程度・会社が退職させたい程度、③再就職までの期間、④失業保険の受給の可否を考慮して決まる傾向にあります。
・退職勧奨の解決金の税務上の区分は、退職所得、又は、一時所得とされることが多い傾向にあります。
この記事が退職勧奨の解決金に悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。