会社から懲戒解雇をされてしまい、退職金を支給してもらうことができずに悩んでいませんか?
また、退職勧奨に応じなければ、懲戒解雇になるので退職金は支給されないと説得されていませんか?
結論から言うと、確かに、懲戒解雇の場合には、退職金が不支給又は減額となることがあります。
しかし、懲戒解雇であれば、どのような場合でも、不支給や減額が許されるわけではありません。
多くの会社は、懲戒解雇であることを理由に、当然のように退職金を不支給とすることがあります。
懲戒解雇された方は、このような会社の言い分を信じて、「懲戒解雇だから退職金がもらえなくても仕方ないのかな…」と十分な検討をすることなく諦めてしまうことが非常に多いのです。
懲戒解雇をされた方であっても、以下の3つのケースでは退職金を請求できる可能性があります。
ケース1:懲戒解雇が無効な場合
ケース2:不支給規定がない場合
ケース3:著しく信義に反する行為をしたとはいえない場合
また、解雇された場合にあなたがもらえる可能性のあるお金は、退職金だけではありません。懲戒解雇であっても、失業保険や解雇予告手当をもらえる場合があります。そもそも懲戒解雇が無効な場合には、賃金や慰謝料の支払いを請求できることもあるのです。
そのため、懲戒解雇をされてしまった場合でも、悲観せずに、まずはこの記事で一緒に、あなたの権利を確認していきましょう。
今回は、懲戒解雇された場合の退職金を詳しく説明したうえで、他にもらえる可能性のあるお金についても補足していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、懲戒解雇をされてしまった方が退職金で損をすることがなくなるはずです。
目次
懲戒解雇で退職金不支給となる理由
懲戒解雇で退職金が不支給となる理由は、会社によっては、退職金規程に懲戒解雇の場合には退職金を支給しない旨を規定していることがあるためです。
非違行為により、これまでの勤労の功が抹消されてしまうことがあるため、このように規定していることがあります。
具体的には、退職金規程に以下のような規定が置かれていることがあります。
第〇条(退職金の支給)
「勤続〇年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、第〇第〇項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。」
そのため、会社は、労働者を懲戒解雇する際には、このような規定に従い、退職金を支給しないと主張してくることがあるのです。
退職金請求については、労働基準法上その他の法律上の根拠規定はありません。
つまり、会社は、法律の規定により、退職金の支給義務を負っているわけではありません。
そのため、会社が退職金の支給義務を負うのは、退職金規程等により、任意に退職金制度を整備した場合です。
懲戒解雇の場合に退職金が支給されるかどうかについても、法律の規定はありませんので、まずは退職金規程を確認することになります。
懲戒解雇でも退職金を請求できるケース
あなたが懲戒解雇された場合であっても、常に退職金を請求できなくなるというわけではありません。
退職金規程がある会社では、懲戒解雇された場合であっても、退職金を請求できる可能性があります。
懲戒解雇されても退職金を請求できるケースとしては、例えば以下の3つがあります。
ケース1:懲戒解雇が無効な場合
ケース2:不支給規定がない場合
ケース3:著しく信義に反する行為をしたとはいえない場合
それぞれのケースについて順番に説明していきます。
ケース1:懲戒解雇が無効な場合
懲戒解雇でも退職金を請求できるケースの1つ目は、懲戒解雇が無効な場合です。
懲戒解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とは言えない場合には、無効となります。
懲戒解雇が認められるためには、法律上、厳格な条件がありますので、容易には認められません。
あなたの解雇の問題点については、以下の不当解雇チェッカーで簡単に確認することができますので試してみてください。
また、解雇の条件については、以下の記事で詳しく解説しています。
懲戒解雇が無効とされた場合には、当然、退職金を不支給とされる理由はありません。
ただし、懲戒解雇が無効とされる場合には、あなたは、未だ会社を退職していないことになりますので、退職金をもらうことができるのは退職時となります。もしも、すぐに退職金の支給を受けたい場合には、自主的に退職を行うことになります。
ケース2:不支給規定がない場合
懲戒解雇でも退職金を請求できるケースの2つ目は、不支給規定がない場合です。
会社は、退職金規程に退職金を不支給とする旨の規定を置いていない場合には、懲戒解雇した場合であっても、原則として、退職金の支払いを拒むことはできません。
ただし、例外的に、労働者が退職金を請求することが権利濫用に当たる場合には、不支給規定がない場合でも、退職金の不支給が認められることがあります。
ケース3:著しく信義に反する行為をしたとはいえない場合
懲戒解雇でも退職金を請求できるケースの3つ目は、著しく信義に反する行為をしたとはいえない場合です。
退職金には、「賃金の後払い的な性格」と「功労報償的な性格」の2面性があります。
賃金の後払い的な部分については、あなたがこれまで働いたことへの対価として支給されるものです。
もしも、あなたが非違行為をしてしまった場合であっても、これまであなたが働いてきた事実に変わりはない以上、安易に退職金を不支給とすることは許されません。
つまり、退職金規程に不支給規定がある場合であっても、勤続の功を抹消してしまうような強度の背信性があるとはいえない場合には、退職金を支給しなければならないのです。
裁判例は、「賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それが、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要であると解される。」と判示しています(東京高判平成15年12月11日労判867号5頁[小田急電鉄事件])。
具体的には、不支給が許されるほどの強度の背信性があるといえるかは、以下の要素を考慮することになります。
①労働者の行為それ自体が有する背信性の強弱
②退職金の性格の中に功労報償的要素が占める度合い
③使用者が被った損害の大きさ、被害回復の容易性
④労働者のそれまでの功労の大小
⑤これまでに退職金が不支給・減額となった事案の有無・内容など
懲戒解雇における退職金の不支給又は減額の相場|判例の傾向
強度の背信性を有するとはいえず不支給が許されない場合であっても、退職金が減額される場合があります。
退職金には賃金の後払いとしての性格だけではなく、功労報償的な性格もあることから、会社に一定の裁量があるためです。
減額が許される金額は、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じて検討されることになります。
退職金の不支給又は減額の判例の傾向については、以下のとおりです。
業務上の非行として会社に直接的な被害を与える行為については、厳しい判断となる傾向があります。例えば、業務上の横領や背任、雇用主に対する詐欺などについては、会社に与える損害の大きさによっては、全額不支給となりえるでしょう。
これに対して、私生活上の非行については、懲戒解雇が有効とされる場合であっても、全額の不支給までは許されないとされる傾向にあります。
東京地判平成30年5月30日労判1192号40頁[KDDI事件]
電気通信事業の従業員が単身赴任手当等を不正に受給し、社宅使用料等の支払いを不正に免れたことなどを理由に懲戒解雇された事案では、以下の事情を考慮して、全額不支給とすることが相当とされました。
・住宅手当の不正受給により合計18万円の損害を雇用主に与えていること
・単身赴任手当・本人赴任手当の不正受給等により、雇用主に単身赴任手当に関し合計148万円、単身社宅入居に関して合計1万5500円、本人赴任手当に関し5万円の各損害を与えていること
・社宅使用料等の支払いを不正に免れたことにより、雇用主に244万5500円の損害を与えていること
・帰省旅費の不正受給により、雇用主に16万1360円の損害を与えていること
大阪地判平成17年11月4日労経速1935号3頁[アイビーエス石井スポーツ事件]
スポーツ用品の卸売業等を営む会社の元従業員らが同業他社への組織的な転職の計画を推し進め、顧客情報の漏洩にも関与したことを理由に懲戒解雇された事案では、以下の事情を考慮して、全額不支給とすることが相当とされました。
・多数の従業員が同業他社に転職することを組織的に計画している中にあって、当該従業員らは退職願を提出するに至る前に、他の従業員に対して転職を強く勧誘することによって、この集団的な退職の計画を推し進めたこと
・雇用主の従業員規模に比すれば相当多数と認められる従業員が一時期に退職し、雇用主の営業に大きな影響が生じた上、営業に大きな影響が生じることが予見可能であったこと
・この集団的な退職後、事前に雇用主に知らされることなく行われ、雇用主の就業規則の定める引継ぎも行われていないこと
・当該従業員らの一部の者については、顧客情報の漏洩にも関与していること
東京高判平成15年12月11日労判867号5頁[小田急電鉄事件]
電鉄会社の職員が度重なる電車内での痴漢行為で刑事処罰を受けて懲戒解雇された事案では、以下の事情を考慮して、本来の退職金の支給額の3割である276万2535円を支給することが相当とされました。
・本件行為が被害者に与える影響からすれば、決して軽微な犯罪であるなどとはいえないこと
・会社及び従業員を挙げて痴漢撲滅に取り組んでいる被控訴人にとって、相当の不信行為であることは否定できないこと
・会社に対する関係では、直ちに直接的な背信行為とまでは断定できないこと
・20年余の勤務態度が非常に真面目であったこと
・旅行業の取扱主任の資格も取得するなど、自己の職務上の能力を高める努力をしていた様子も窺われること
・過去の会社における割合的な支給事例等との均衡
東京高判平成24年9月28日労判1063号20頁[NTT東日本事件]
電気通信会社の従業員が強制わいせつ致傷罪で保護観察執行猶予付きの懲役判決を、合意退職した後に、懲戒解雇処分相当として退職金を不支給とされた事案では、以下の事情を考慮して、本来の退職金の支給額の3割である412万5525円を支給することが相当とされました。
・非違行為の内容は相当強い非難に値する行為であり、会社が雇用主として謝罪のコメントを求められ名誉や信用が失墜したこと
・非違行為が横領や背任などのように会社を直接の被害者とするものではなく、私生活上の非行であること
・被害者との間では示談が成立して民事上、道義上の責任については解決済みであること
・別件刑事事件において刑事上の制裁も受けていること
・会社が被害者との関係で使用者責任を問われるものではなかったこと
・当該従業員が管理職ではなかったこと
・当該従業員が本件非違行為に至るまで一度も懲戒処分を受けたことはなく、部内の表彰を受けたこともあること
東京地判平成19年8月27日労経速1985号3頁[ヤマト運輸事件]
貨物自動車運送事業の従業員が帰宅途上に酒気帯び運転で検挙されたことを理由として、懲戒解雇された事案について、以下の事情を考慮して、本来の退職金の支給額の約3分の1である320万円を支給することが相当とされました。
・大手運送業者の雇用主に長年にわたり勤続するセールスドライバーでありながら、業務終了の飲酒により、自家用車を運転中、酒気帯び運転で検挙されたこと
・平成17年4月当時は飲酒運転に対する社会の目が厳しくなかったとはいえ、なお社会から厳しい評価を受けるものであったこと
・当該従業員は処分をおそれて検挙の事実を直ちに雇用主に報告しなかったこと
・当該従業員に他に懲戒処分を受けた経歴はないこと
・酒気帯び運転で事故を起こしていないこと
・反省の様子がみて取れないわけではないこと
懲戒解雇をされた場合に退職金を請求する方法
会社から懲戒解雇された場合には、以下の手順で退職金を請求することがおすすめです。
手順1:退職金規程の確認
手順2:退職金の計算
手順3:退職金の請求
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
各手順について順番に説明していきます。
手順1:退職金規程の確認
懲戒解雇をされた場合に退職金を請求する手順の1つ目は、退職金規程の確認です。
上司や社長に対して、退職金規程を見せてほしいと伝えてみましょう。
退職金規程を見せてもらえない場合には、書面により、労働基準法上、退職金規程については周知義務があることを伝えたうえで、再度開示を求めましょう。
それでも退職金規程を見せてもらえない場合には、労働基準法違反として、労働基準監督署に相談することも考えられます。
退職金規程を確認することができたら、可能であればコピーを取らせてもらい、それが難しい場合には支給事由や支給金額、不支給・減額事由が記載された条項をメモしましょう。
手順2:退職金の計算
懲戒解雇をされた場合に退職金を請求する手順の2つ目は、退職金の計算です。
退職金規程に従い退職金を計算しましょう。
ただし、不支給や減額が絡む場合には、自分だけで計算することが難しいケースが多いので、弁護士に相談してみるのがいいでしょう。
退職金の計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
手順3:計算書の送付と支払いの請求
懲戒解雇をされた場合に退職金を請求する手順の3つ目は、退職金の計算書の送付と支払いの請求です。
手順2で計算した内容を書面にまとめて、その支払いを求めましょう。1つの書面で併せて行うことが多いでしょう。
内容証明郵便に配達証明を付して、会社に送付することがおすすめです。
手順4:交渉
懲戒解雇をされた場合に退職金を請求する手順の4つ目は、交渉です。
退職金の計算書に会社からの回答があると、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうか協議をします。
手順5:労働審判・訴訟
懲戒解雇をされた場合に退職金を請求する手順の5つ目は、労働審判・訴訟です。
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判は、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
懲戒解雇と退職金についてよくある疑問3つ
懲戒解雇と退職についてよくある疑問として以下の3つがあります。
疑問1:懲戒解雇される前に自主退職すれば退職金はもらえる?
疑問2:懲戒事由が後から発覚したら退職金は返還する必要がある?
疑問3:退職金と損害賠償金を相殺されることはある?
それでは、これらの疑問を順番に解消していきます。
疑問1:懲戒解雇される前に自主退職すれば退職金はもらえる?
結論としては、懲戒解雇される前に自主退職をしてしまえば、退職金をもらうことができる場合もあります。
ただし、以下の3つの場合には、自主退職をした場合でも、退職金を請求できない可能性があるので注意が必要です。
・退職の効力が生じる前に懲戒解雇されるケース
・退職後に懲戒解雇事由が発覚した場合に不支給とする条項があるケース
・退職金の請求が権利濫用とされるケース
退職の効力が生じる前に懲戒解雇されるケース
まず、あなたが退職届を会社に出したとしても、期間の定めのない雇用契約ですと、会社の承諾がない限りは、退職の効力が生じるまでに2週間かかります。
会社は、懲戒解雇するつもりがある場合には、あなたが退職届を出した後であっても、その効力が生じる2週間の間に懲戒解雇をしてくることがあります。
そのため、退職の効力が生じる前に懲戒解雇されるケースでは、自主的に退職届を出しても、退職金をもらえない場合があるのです。
退職後に懲戒解雇事由が発覚した場合に不支給とする条項があるケース
次に、退職後に「懲戒解雇した場合に退職金を不支給とする」との条項ではなく、「懲戒解雇事由が発覚した場合に退職金を不支給とする」との条項が置かれている場合があります。
細かい違いのように見えるかもしれませんが、労働者が自主的に退職届を出したような場合には、大きな違いが出てきます。
つまり、「懲戒解雇事由が発覚した場合」との規定であれば、会社が懲戒解雇をしたことは不支給の条件ではなく、懲戒解雇することができる事由があったのであれば、自主退職の場合であっても不支給とできることになるのです。
そのため、退職後に懲戒解雇事由が発覚した場合に不支給とする条項があるケースでは、自主的に退職届を出しても、退職金をもらえない場合があるのです。
懲戒解雇に相当する事由がある者への不支給条項がないことを理由に、懲戒解雇されていない以上不支給は許されないとして、以下のように判示した裁判例があります。
「懲戒解雇にともなう退職金の全部又は一部の不支給は、これを退職金規定等に明記してはじめて労働契約の内容となしうると解すべきところ、本件において、…被告の退職金規定は、その五条で「懲戒解雇になったものには退職金は支給しない。」、七条で「就業規則に定める懲戒基準に該当する反則が退職の原因となった者に対しては、その者の算定額から五〇パーセント以内を減額することができる。」と定めているが、懲戒解雇に相当する事由がある者には退職金を支給しない旨の規定は存在しないことが認められる。」
「してみると、仮に被告が主張するような懲戒解雇相当の行為が原告にあったとしても、現に被告が原告を懲戒解雇したとの主張・立証がない…以上、右行為が存在することのみを理由として退職金の支払を拒むことはできないと解するのが相当である。」
(参照:東京地判平成6年6月21日労判660号55頁[アイ・ケイ・ビー事件])
退職金の請求が権利濫用とされるケース
最後に、退職金の請求が権利の濫用として許されないことがあります。
裁判例では、懲戒解雇された場合における退職金の支給制限規定が置かれている会社において、「従業員につき自己都合退職後に在職中懲戒解雇事由が存在していたことが判明した場合においては、右懲戒解雇相当事由が当該従業員の永年の勤続の功を抹殺してしまうほどの重大な背信行為である場合には、当該退職者が退職金請求権を行使することは、権利濫用として許されなくなると解するのが相当である。」と判示したものがあります(東京地判平成8年4月26日労判697号57頁[東京ゼネラル事件])。
つまり、自主退職した後に懲戒解雇事由が発覚した場合で、かつ、退職金規程にも懲戒解雇をした場合の不支給しか規定がない場合でも、重大な背信行為があるときには、権利濫用として、退職金の請求が認められないことがあるのです。
会社は、労働者に対して、懲戒解雇をする前に退職勧奨をすることがあります。
そして、懲戒解雇をする前の退職勧奨の常套句として、懲戒解雇されると、「経歴に傷がつく」と「退職金が支給されない」というものがあります。
確かに、労働者がした非違行為の内容によっては、このような説得も傾聴に値することはあります。
しかし、先ほど見たように、懲戒解雇が有効とされるケースや退職金の不支給が許されるケースというのは、非違行為の悪質性が特に高い場合です。
実際には、会社は、労働者を懲戒解雇することさえも難しい事案でも、このような説得を行ってくることがあります。
会社から退職勧奨をされた場合には、安易にこれに応じてしまうのではなく、一度持ち帰り弁護士に相談しましょう。
退職勧奨をされた場合の対応については、以下の記事で詳しく解説しています。
疑問2:懲戒事由が後から発覚したら退職金は返還する必要がある?
自主退職して退職金を受領した後に懲戒解雇事由が発覚して、退職金の返還を求められることがあります。
裁判例では、退職金の返還に関する規定がある会社において、これに基づく、返還請求を認容した事案があります(大阪地判昭和63年11月2日労判531号100頁、東京地判平成17年1月28日労経速1895号16頁)。
そのため、懲戒解雇事由が会社にバレずに退職金の支給を受けることができたとしても、それで安心というわけではありません。
疑問3:退職金と損害賠償金を相殺されることはある?
あなたが会社に損害を与えてしまった場合に、会社によっては損害の補填に充てるので、退職金を支給しないなどと主張してくることがあります。
しかし、賃金については、全額労働者に支払わなければならないとされているため、債務不履行や不法行為による損害賠償債権をもって相殺することが禁止されています(労働基準法24条)。
退職金についても、賃金としての性質を有する場合には、損害賠償金との相殺は許されないことになります。
懲戒解雇で退職金以外のもらえるお金
懲戒解雇をされた場合には、退職金以外にも、もらえるお金がある可能性があります。
具体的には、もらえる可能性があるお金は、以下の5つです。
・失業保険
・解雇予告手当
・解雇後の賃金
・慰謝料
・未払い残業代
ただし、これらのお金を全てもらえるわけではない点に注意が必要です。
それでは、順番に説明していきます。
懲戒解雇と失業保険
懲戒解雇をされた場合であっても、失業保険を受給することができます。
ただし、懲戒解雇の中でも、労働者の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合、つまり重責解雇の場合には、自己都合として処理されます。
そのため、懲戒解雇の中でも特に悪質性が高い場合には、通常の解雇よりも不利に扱われることがあるのです。
具体的には、重責解雇ですと、以下の2つの点において、不利に扱われる可能性があります。
⑴ 3か月の給付制限がある(受給まで時間がかかる)
⑵ 失業保険の給付日数が短い
懲戒解雇と解雇予告手当
懲戒解雇であっても、解雇予告手当をもらえる可能性があります。
解雇予告手当とは、会社が30日前の予告をせずに解雇する場合に予告の足りない日数に応じて支払う必要のある手当です。
会社は、懲戒解雇の場合には、「労働者の責めに帰すべき事由」として、解雇予告手当の支払いをしないことが通常です。
しかし、万が一、懲戒解雇が有効であったとしても、当然に「労働者の責めに帰すべき事由」にあたるとは限りません。
個別の事案に応じて、解雇予告なしで解雇されてもやむを得ないといえる程度に、労働者に落ち度があるかを検討する必要があります。
そのため、懲戒解雇される場合であっても、30日前の予告をされていない場合には、解雇予告手当を請求できる可能性があるのです。
解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
懲戒解雇と解雇後の賃金
懲戒解雇が無効である場合には、解雇後の賃金を請求できる可能性があります。
懲戒解雇が無効である場合には、あなたが解雇後に働くことができなかった原因は、会社にあるためです。
この場合には、解雇の無効が確認された場合に、事後的に解雇された日から解決するまでの期間の賃金を支払ってもらうことができるのです。
例えば、解雇を争うのに1年の期間を要した場合には、後から1年分の賃金を支払ってもらえることになります。
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
ただし、解雇後の賃金を請求する場合には、あなたが現在も従業員であることが前提となりますので、退職金の請求と矛盾してしまいます。どちらの請求をしていくかについては、見通しを踏まえて弁護士に相談した方がいいでしょう。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
懲戒解雇と慰謝料
懲戒解雇が濫用となるにとどまらず、悪質性が特に高い場合には、慰謝料が認められることがあります。
慰謝料が認められる場合の相場は、50万円~100万円程度です。
不当解雇の慰謝料については、以下記事で詳しく解説しています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
懲戒解雇と未払い残業代
懲戒解雇をされた場合であっても、それが有効である無効であるかにかかわらず、未払い残業代があれば、これを請求することができます。
なぜなら、懲戒解雇をされた場合であっても、あなたがこれまで残業をした事実がなくなるわけではないためです。
そのため、万が一、退職金が不支給とされてしまうような事案であっても、未払いの残業代を不支給とすることはできません。
あなたの未払い残業代については、以下の残業代チェッカーでおおよその金額を簡単に確認できますので利用してみてください。
ただし、残業代には時効がありますので、退職した後は順次消滅していってしまいます。残業代を請求する場合には、お早めに行動するようにしましょう。
退職後の残業代請求については、以下の記事で詳しく解説しています。
懲戒解雇された場合の退職金については弁護士に相談しよう!
懲戒解雇された場合の退職金については、弁護士に相談することがおすすめです。
なぜなら、懲戒解雇された場合の退職金の不支給・減額については、法的な事項であり、裁判例の傾向を分析したうえで判断する必要があるためです。
特に、懲戒解雇と退職金については、専門性の高い事項ですので、解雇問題に注力している弁護士に相談した方がいいでしょう。
また、解雇問題に注力している弁護士に相談すれば、あなたが他に請求できる権利がないかも併せて確認してもらうことができます。
更に、弁護士に依頼すれば、退職金規程の開示請求や退職金の計算、会社との交渉を全て任せてしまうことができます。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができます。依頼するかどうか悩んでいる場合には、まずはこれを利用して、「見通し」や「流れ」、「費用」を確認してみましょう。
まとめ
以上のとおり、今回は、懲戒解雇された場合の退職金を詳しく説明したうえで、他にもらえる可能性のあるお金についても補足していきました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・懲戒解雇で退職金が不支給となる理由は、会社によっては、退職金規程に懲戒解雇の場合には退職金を支給しない旨を規定していることがあるためです。
・懲戒解雇されても退職金を請求できるケースとしては、例えば以下の3つがあります。
ケース1:懲戒解雇が無効な場合
ケース2:不支給規定がない場合
ケース3:著しく信義に反する行為をしたとはいえない場合
・裁判例の不支給・減額の傾向としては、業務上の非行として会社に直接的な被害を与える行為については、厳しい判断となる傾向があります。例えば、業務上の横領や背任、雇用主に対する詐欺などについては、会社に与える損害の大きさによっては、全額不支給となりえるでしょう。
これに対して、私生活上の非行については、懲戒解雇が有効とされる場合であっても、全額の不支給までは許されないとされる傾向にあります。
・会社から懲戒解雇された場合には、以下の手順で退職金を請求することがおすすめです。
手順1:退職金規程の確認
手順2:退職金の計算
手順3:退職金の請求
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
・懲戒解雇された場合に退職金以外にもらえる可能性のあるお金として以下の5つがあります。
①失業保険
②解雇予告手当
③解雇後の賃金
④慰謝料
⑤未払い残業代
この記事が懲戒解雇されてしまい退職金が支給されずに困っている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。