管理職の時間外労働につき知りたいと悩んでいませんか?
管理職の方は、平均すると月19.5時間程度の時間外労働をしているとされています。
しかし、管理職になると残業がつかなくなると聞いて漠然と信じてしまっている方も多いでしょう。
結論から言うと、管理職であっても、時間外労働について、労働基準法が適用されるのが原則です。
つまり、時間外労働の上限時間は原則月45時間ですし、残業をすれば時間外手当を支払ってもらうことができます。
ただし、管理職の中でも、管理監督者と言われる方だけは、時間外労働につき労働基準法が適用されないことになります。
つまり、管理職の中の管理監督者だけは、時間外労働の上限や時間外手当の支給がないことになります。
このような、本来管理職の中でも管理監督者に限定されたルールが、世間一般では独り歩きしてしまい、管理職には残業がつかないなどと不正確な情報が広まってしまっているのです。
実は、管理監督者とされるにはかなり厳格な条件がありますので、管理職の方でもこれに該当するのはほんの一握りです。
現在の日本では、会社からは管理職として扱われ残業代を支払ってもらえていないものの、法的には過去数年分の未払い残業代を請求できるケースが多数存在しています。
この記事をとおして、「管理職になると残業がつかなくなる」といった世間一般の誤解を正すことができればと思います。
今回は、管理職の時間外労働について、上限時間や時間外手当等の労働基準法の規制が及ぶのかについてわかりやすく解説しています。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、管理職の時間外労働に関する法律上の取り扱いがよくわかるはずです。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
管理職の時間外労働の平均は月19.5時間
管理職の時間外労働の平均は月19.5時間となります。
(出典:労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.212を加工して作成)
これに対して、管理職に限定せず労働者全体の残業時間は、OpenWorks(旧VORKERS)による調査結果(「2019年10月~12月」)では、25.76時間となっています。
(出典:OpenWork 働きがい研究所「日本の残業時間 定点観測」 四半期速報)
そのため、管理職の時間外労働は、労働者全体の時間外労働と比較して、少ない結果となっています。
ただし、実態としては、管理職の方は、会社から残業を付けてもらえないので時間外労働をしていても、定時で打刻を行っていることもよくあります。
また、会社側も、管理職に対しては、残業を行わないようにとの指導をあまり行わないこともあります。
管理職の方の中にも、調査結果で明らかになっているだけで、月40時間以上の残業をしている方が17%も存在していることに留意する必要があります。
残業時間の平均や生活、健康への影響については、以下の動画で詳しく解説しています。
管理職の時間外にも労働基準法は適用されるのが原則!|但し管理監督者は例外
管理職の時間外にも労働基準法は適用されるのが原則です。
なぜなら、労働基準法は、労働者に適用される法律であり、管理職であっても労働者であることに変わりはないためです。
労働基準法第9条(定義)
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
ただし、例外的に、管理職の中でも、「管理監督者」と言われる方だけは、時間外や休憩、休日に関する労働基準法の規定が適用されません。
労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
このような規定が置かれている理由は、管理官監督者が労働時間や休憩、休日等の枠を超えて働かざるを得ない重要な職務と責任があるためと考えられています。
そのため、「管理監督者」に該当するのは、管理職の中でも以下の3つの条件を満たした方だけです。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
管理監督者に該当するのがどのような方かについては、以下の記事で詳しく解説しています。
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
現在の裁判例の傾向としては、管理監督者に該当するとした判例は少なく、例えば、代表取締役に次ぐNo2の地位にあったようなケースにとどまっています。
管理監督者性を肯定した数少ない裁判例については、以下の記事で紹介しています。
管理監督者は時間外の上限なし!名ばかり管理職は時間外の上限あり(月45時間)
管理職の中でも、管理監督者の方は、時間外の上限はありません。これに対して、管理職の中でも管理監督者に該当しない方(いわゆる名ばかり管理職)は、時間外の上限があります。
会社は36協定を締結することにより、法定の労働時間を超えて仕事をするように時間外労働を命じることができるとされています。
ただし、36協定を締結している場合でも会社が命じることができる時間外労働には上限があり、以下のとおり、原則として、1か月45時間、1年360時間となります。
労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
4「…限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(…)とする。」
管理監督者には、この時間外労働の上限に関するルールが適用されません。そのため、月45時間・年360時間を超えて働いたとしても、労働基準法違反にはなりません。
これに対して、管理職の中でも管理監督者に該当しない方(いわゆる名ばかり管理職)は、原則、月45時間・年360時間が時間外の上限となります。
管理監督者は時間外手当なし!名ばかり管理職は時間外手当あり
管理監督者には時間外手当の支払いはされません。これに対して、管理職の中でも管理監督者に該当しない方(いわゆる名ばかり管理職)には、時間外手当を支払わなければなりません。
労働基準法上、法定の労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた部分については、時間外労働となり、1.25倍により計算した手当を支払う必要があるとされています。
労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し…た場合においては、その時間…については、通常の労働時間…の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。…」
管理監督者には、この時間外手当に関するルールが適用されません。そのため、時間外労働をしたとしても、時間外手当は支払われません。
これに対して、管理職の中でも管理監督者に該当しない方(いわゆる名ばかり管理職)には、1日8時間・月40時間を超えて働いた部分については、時間外手当を支払わなければなりません。
時間外の管理をされる場合は名ばかり管理職?
時間外の管理をされている場合には、管理監督者ではなく、名ばかり管理職にすぎないと認定される傾向があります。
なぜなら、「労働時間の裁量」という管理監督者の条件を満たしていないことになるためです。
例えば、会社から、朝は9時00分までに出勤するようにと指示されている場合、若しくは、残業をするには承認申請をとらなければいけない場合などには、管理監督者ではないとの判断になりやすい傾向にあります。
ただし、タイムカードの打刻が義務付けられていることのみでは、直ちには時間外を管理されていたとは言えません。
なぜなら、現在では、会社は、管理監督者の健康にも配慮する義務を負っているため、何時間程度働いていたのかを把握しなければいけないためです。
これに対して、タイムカードへの打刻のみならず、上司の承認印が押されている事実、又は、月80時間を超える労働をしていてもその旨の告知がない事実、より上の役職になるとタイムカードのへの打刻が免除されている事実などがある場合には、時間外を管理されていたといいやすいでしょう。
管理職とタイムカードに関しては以下の記事で詳しく解説しています。
名ばかり管理職が時間外手当を請求する手順
あなたが実際には管理監督者ではなく名ばかり管理職にすぎない場合には、時効(3年)にかかっていない範囲で遡って未払いの時間外手当を請求することができます。
具体的には、名ばかり管理職の方が時間外手当を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:時間外手当の支払いの催告をする
手順3:時間外手当の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
それでは、順番に説明していきます。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
時間外手当を請求するには、まず名ばかり管理職の証拠を集めましょう。
名ばかり管理職としての証拠としては、例えば以下のものがあります。
①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。
手順2:時間外手当の支払いの催告をする
時間外手当を請求するには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・時間外手当の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:時間外手当の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに時間外手当を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
手順4:交渉
時間外手当の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
時間外手当の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
手順5:労働審判・訴訟
交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職の時間外手当請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
管理職の方の時間外手当の請求については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
管理職の時間外手当の請求については、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性について適切に主張を行っていく必要があります。
また、時間外手当の請求については、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
リバティ・ベル法律事務所では、管理職の時間外手当の請求について圧倒的な知識とノウハウを蓄積しておりますので、あなたの最善の解決をサポートします。
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時間外労働に悩んでいる管理職の方は、一人で抱え込まずにお気軽にご相談ください。
まとめ
以上のとおり、今回は、管理職の時間外労働について、上限時間や時間外手当等の労働基準法の規制が及ぶのかについてわかりやすく解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・管理職の時間外労働の平均は、月19.5時間となります。
・管理職の時間外にも労働基準法は適用されるのが原則です。ただし、例外的に、管理職の中でも、「管理監督者」と言われる方だけは、時間外や休憩、休日に関する労働基準法の規定が適用されません。
・管理職の中でも、管理監督者の方は、時間外の上限はありません。これに対して、管理職の中でも管理監督者に該当しない方(いわゆる名ばかり管理職)は、時間外の上限があります。
・管理監督者には時間外手当の支払いはされません。これに対して、管理職の中でも管理監督者に該当しない方(いわゆる名ばかり管理職)には、時間外手当を支払わなければなりません。
・時間外の管理をされている場合には、管理監督者ではなく、名ばかり管理職にすぎないと認定される傾向があります。
・名ばかり管理職の方が時間外手当を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:時間外手当の支払いの催告をする
手順3:時間外手当の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
この記事が時間外労働に悩んでいる管理職の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。