未払残業代・給料請求

早出残業手当がつかないのは違法?計算方法や判例と8つの疑問を解説

始業時刻よりも前に出勤したのに十分な手当てがもらえずに悩んでいませんか。

会社は、労働者が早出残業をした場合には、

残業代を支払う義務

があります。

これは、普通残業の場合と同じです。実際、多くの裁判例では、早出残業をした場合の残業代請求が認められています

しかし、始業時刻前に出社した場合には、終業時刻後の場合と異なり、そもそもこれが

労働時間に当たるのかが争われることが多い

傾向にあります。

労働時間にあたらなければ残業代を請求することはできません

今回は、早出残業をした場合の残業代や早出残業についてよくある疑問について、

誰でもわかりやすく

解説していきます。

また、そもそも早出残業をしたくないと考えている方もいるはずですので、早出残業を減らすための対処法も紹介します。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば早出残業についての悩みが解消するはずですよ。

 

 

 

目次

早出残業とは

早出残業とは、始業時刻前に出勤した結果、1日の所定労働時間(会社ごとに定められています)又は法定労働時間(8時間)を超えて働くことをいいます。

始業時刻前に出勤したとしても、その分終業時刻よりも早く帰った場合には、1日の所定労働時間又は法定労働時間を超えて働くことにはならないため、残業とはなりません

早出残業の例を見てみましょう。

早出残業の例

まず、Aさんは、始業時刻が9時とされていますので、8時に出勤した場合には始業時刻の1時間前に出勤したことになります。

この時点では、まだ所定労働時間も法定労働時間も超えて働いていないので残業とはなりません。

その後、17時を超えた時点で、1日の労働時間が8時間を超えることになりますので、終業時刻よりも前ですが、所定労働時間と法定労働時間を超えることになります。

そのため、1時間の早出をした結果、17時から18時までの1時間が残業となることになります。

早出残業に残業代がでないのは違法!

会社は、労働者が早出残業をした場合には、

残業代を支払う義務

があります。

早出残業をしたのに残業代が支払われないのは、

違法

です。

しかし、始業時刻前に出勤したとしても、それが労働時間に当たらない場合には早出残業にはなりません

以下では、

・早出残業と普通残業の違い
・早出残業になり残業代がでないのが違法なケース
・早出残業にならず残業代がでないのが適法なケース

について、説明します。

早出残業と普通残業の違い

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことです。自分の意思で労働を自由にやめることができない状態である場合には、指揮命令下といえます。

早出は、終業時刻後に居残る場合と異なり、

労働者側の都合に影響されやすい

という特色があります。

つまり、労働者の生活パターンや交通機関の状況等、会社からの指揮命令とは関係なく早く出勤することがありえるのです。

そのため、始業時刻前の出勤が労働時間にあたり、「早出残業」となるには、タイムカードの記録があるだけでなく、

会社からの指示があることを具体的に説明できる

必要があります。

早出残業になり残業代がでないのが違法なケース

早出残業になり残業代がでないのが違法なケースは、例えば、以下のような早出を行ったことにより、結果的に所定労働時間又は法定労働時間を超えた場合です。

・会社から始業時刻前に来て業務をするように指示された場合
・出席を義務付けられている朝礼や会議に出た場合
・引継ぎや機械の点検などをした場合
・マニュアルなどで着用を義務付けられている作業服を着た場合

会社から始業時刻前に来て業務をするように指示された場合

早出残業になる例の1つ目は、

会社から始業時刻前に来て業務をするように指示されていた場合

です。

会社からの指示がある場合には、その時間は労働時間に該当することになります。

そのため、これによって、所定労働時間又は法定労働時間を超えて働くことになれば、残業代を請求できます。

朝礼や会議への出席を義務付けられている場合

早出残業になる例の2つ目は、

朝礼や会議への出席を義務付けられている場合

です。

朝礼や会議など、一見それ自体業務に当たらないように見える場合でも、会社に参加を義務付けられていれば、会社の指揮命令下にあるといえますので、労働時間に該当します。

そのため、これによって、所定労働時間又は法定労働時間を超えて働くことになれば、残業代を請求できます。

引継ぎや機械の点検などをした場合

早出残業になる例の3つ目は、

引き継ぎや機械の点検などをした場合

です。

業務の引継ぎや機械の点検などは、業務をするのに当然必要となる行為であり、会社の指揮命令下に置かれたものとして労働時間に該当します。

そのため、これによって、所定労働時間又は法定労働時間を超えて働くことになれば、残業代を請求できます。

作業服を着ることがマニュアルなどで義務付けられている場合

早出残業になる例の4つ目は、

作業服を着ることがマニュアルなどで義務づけられている場合

です。

会社から指定された作業着に着替える必要などがある場合には、その着替え時間も会社の指揮命令下にあるものといえますので労働時間に該当します。

そのため、これによって、所定労働時間又は法定労働時間を超えて働くことになれば、残業代を請求できます。

早出残業にならず残業代がでないのが適法なケース

早出残業にならず残業代がでないのが適法なケースとしては、例えば、以下のような場合です。

・遅刻しないために早く出社した場合
・始業時刻前に出勤して雑談や食事をしていた場合
・通勤のために始業時刻前に家を出た場合

遅刻しないために早く出社した場合

早出残業にならない例の1つ目は、

遅刻しないために早く出社した場合

です。

労働者は自主的に遅刻しないように数分早く職場に行くこともあります。この場合、職場に早く着いたとしても、始業時刻までは、会社の指揮命令下にあるわけではありません。

そのため、早出残業にならず残業代は請求できないことになります。

始業時刻前に出勤して雑談や食事をしていた場合

早出残業にならない例の2つ目は、

始業時刻前に出勤して雑談や食事をしていた場合

です。

始業時刻前に出勤した場合でも、同僚と雑談をした、朝食を取ったりして業務をしていない場合には、その時間は会社の指揮命令下にあったとはいえません。

そのため、早出残業にならず残業代を請求できないことになります。

通勤のために始業時刻前に家を出た場合

早出残業にならない例の3つ目は、

通勤のために始業時刻前に家を出た場合

です。

通勤時間については、その時間について会社から指揮命令されているわけではありません。

そのため、早出残業にならず残業代を請求できないことになります。

 

 

早出残業をした場合の残業代の計算方法

早出残業した場合の残業代の計算式は、以下のとおりです。

基礎賃金は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金以外の賃金の合計額です。

所定労働時間というのは、会社において決められた労働時間です。

割増率は、早出をしたことにより法定時間外の残業をした場合には1.25倍です。

残業時間は、法定労働時間外や法定休日、深夜に働いた時間です。

残業代の計算方法については詳しくは以下の記事で説明しています。

会社の計算は正確?5ステップで簡単にできる残業代の正しい計算方法残業代の計算方法は、労働基準法で決められていますので、会社がこれよりも不利益な計算ルールを定めても無効です。今回は、残業代を計算する方法を5つのステップで誰でも分かるように簡単に説明します。...
~実際の計算例~
 

では、実際に早出残業代を計算してみましょう。

Aさんの月給を30万円として、1か月に20時間の早出残業(法定時間外残業)をしたとします。Aさんの1か月の所定労働時間は160時間程度とした場合、Aさんの残業代金額は、時効消滅していない2年分を基準にすると、以下のとおりとなります。

30万円÷160時間×1.25×20時間×2年分
=112万5000円
 

実際の金額は事案により異なりますので、弁護士に相談してみましょう。

早出残業をした場合に集めるべき証拠

早出残業をした場合には、

証拠を集めておくべき

です。

普通の残業と異なり、早出残業の場合には、タイムカードがあるだけでは立証としては弱く、労働者は、

始業時刻前も会社の指揮命令下にあったこと

を積極的に説明していく必要があります。

そのため、早出残業をした場合には、

・働いた時間が分かる証拠だけではなく
・会社の指揮命令下にあった証拠

も集めましょう。

以下では、それぞれについて説明していきます。

働いた時間が分かる証拠

働いた時間が分かる証拠としては、例えば以下のものがあります。

残業代の証拠

①のタイムカードがあればベストですが、これがないようであれば、②入退館記録や業務メール、③日報等の営業記録がないかを確認します。

①②③いずれもないようであれば自分で、各日の出勤時間、退勤時間、休憩時間、早出の内容をメモしておきましょう。

例えば、以下のように作ります。

会社の指揮命令下にあった証拠

会社の指揮命令下にあった証拠としては、例えば以下のものがあります。

①始業時刻前に出社することを命じるメール・チャット・LINE
②始業時刻前に行うべきことが記載されたマニュアル
③始業時刻前に行った業務内容を報告するメール・チャット・LINE
④早出残業の申請書
⑤早出残業で行った業務を記載したメモ

①②の証拠があれば、会社が労働者に対して、始業時刻前の出社を命じていたことの証拠になります。

③④の証拠があれば、会社が始業時刻前の出社を認識していたことが明らかになり、会社がこれを承諾している場合や異議を唱えていない場合には、会社の指揮命令下にあることの証拠になります。

⑤の証拠があれば、遅刻防止のために早く行ったわけではないことや早めに会社に行き朝食を取っていたわけではないことが分かります。

そのため、早出残業をした場合には、上記の証拠を集めておくことが重要なのです。

 

 

早出残業をした場合の残業代の請求方法

残業代の請求手順は以下のとおりです。

STEP1:通知の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判
STEP5:訴訟

残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。

STEP1:通知の送付

残業代を請求するためには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。

理由は以下の2つです。

・時効を一時的に止めるため
・資料の開示を請求するため

具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。

御通知(残業代請求:時効3年)※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。

STEP2:残業代の計算

会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。

残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。

会社の計算は正確?5ステップで簡単にできる残業代の正しい計算方法残業代の計算方法は、労働基準法で決められていますので、会社がこれよりも不利益な計算ルールを定めても無効です。今回は、残業代を計算する方法を5つのステップで誰でも分かるように簡単に説明します。...

STEP3:交渉

残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。

交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。

残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。

STEP4:労働審判

話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。

労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。

労働審判を経ずに訴訟を申し立てることもできます。

労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。

STEP5:訴訟

交渉や労働審判での解決が難しい場合には、最終的に、訴訟を申し立てることになります。

訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。

早出残業に残業代を支払わない会社の言い分3つ

早出残業で残業代を支払わない会社のよくある言い分は、以下のとおりです。

・早出残業が禁止されているとの言い分
・早出残業の指示をしていないとの言い分
・30分を超えないと残業にならないとの言い分

早出残業が禁止されているとの言い分

早出残業に残業代を支払わない会社のよくある言い分の1つ目は、

早出残業が禁止されているとの言い分

です。

会社において、早出残業が禁止されている場合には、原則として、始業時刻よりも前に出勤しても労働時間になりませんので、残業代は発生しません。

ただし、早出残業禁止が形式的なものにすぎず、実際には会社が早出残業を推奨している場合や会社が早出残業を指示している場合には、労働時間に該当するため残業代を支払う必要があります

早出残業の指示をしていないとの言い分

早出残業に残業代を支払わない会社のよくある言い分の2つ目は、

早出残業の指示をしていないとの言い分

です。

労働者が会社の指示なく始業時刻前に出勤していた場合には、会社の指揮命令下にあったとはいえませんので、労働時間にあたらず残業代は発生しないことになります。

ただし、会社の指示は必ずしも明示のものである必要はありません。

会社が始業時刻前の出勤を認識しながら異議を唱えないような場合には、黙示の指示が認められる可能性があります

黙示の指示が認められた場合には、会社の指揮命令下にあるため残業代を支払う必要があります。

30分を超えないと残業にならないとの言い分

早出残業に残業代を支払わない会社のよくある言い分の3つ目は、

30分を超えないと残業にならないとの言い分

です。

行政解釈上は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは、常に労働者に不利となるわけではないので、労働基準法違反とは扱わないとされています。
(参照:昭和63年3月14日基発150号)

しかし、裁判実務上は、1分でも残業をすれば残業代を支払う必要があるとされています

そのため、上記言い分は認められず、労働者が30分を超えない残業をした場合でも、会社は残業代を支払う必要があります。

 

 

実際にあった早出残業の判例

早出残業について、残業代請求を「肯定した裁判例」と「否定した裁判例」がありますので、それぞれについて説明していきます。

肯定例:大阪高判平13年6月28日労判811号5頁[京都銀行事件]

始業時刻が8時35分とされている銀行において、それ以前の早出が労働時間に該当するかが争われた事案において、

・男子行員のほとんどが8時過ぎころまでに出勤していたこと
・銀行の業務として金庫の開閉が8時15分以前になされていたと推認できること
・融資会議については男子行員の出席が事実上義務付けられていたこと

から、銀行の黙示の指示があると評価できるとして、残業代の請求を肯定しました

否定例:東京地判平25年12月25日労判1088号11頁[八重椿本舗事件]

始業時刻が午前8時30分とされている会社において、それ以前の午前7時30分頃の早出をしている場合に、これが労働時間に該当するかが争われた事案において、

裁判所は、終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や,生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであるとしたうえで、

・そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はないこと
・労働者自身がタイムカード打刻後、食堂でいろいろ話をすることがあったとか、常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べていること

等の事情を考慮して、早出出勤は労働時間に該当しないとして、残業代の請求を否定しました

早出残業を減らす3つの手順

早出残業を減らしたい場合には、以下の3つの手順を試してみましょう。

・明確な指示がない場合には早出をしない
・残業代の支払いをしてほしい旨を伝える
・残業代の支払いがない場合には労働基準監督署に告発する

早出残業を減らす手順

順番に説明していきます。

明確な指示がない場合には早出をしない

早出残業を減らすための手順1は、

明確な指示がない場合には早出をしない

ことです。

例えば、上司から「明日のお昼までにこの仕事を終わらせておいて」などの不明確な指示をされた場合には、

「所定労働時間内では終わらないので始業時刻前に出勤した方がいいですか?」

と質問しましょう。

そのうえで、始業時刻前に出勤するように明確に指示された場合だけ始業時刻前に出勤するようにしましょう。

これにより、早出残業の回数を減らすことができますし、早出残業をすることになった場合には明確な指示がありますので残業代の請求もしやすくなります。

残業代の支払いをしてほしい旨を伝える

早出残業を減らすための手順2は、残業代が支払われていない場合には、

残業代の支払いをしてほしい旨を伝える

ことです。

会社が、始業時刻前の出勤に残業代を支払わなければならないことを認識すれば、人件費を節約するために必要性の低い早出については命じなくなるはずです。

そのため、早出残業については、残業代を支払ってほしい旨を明確に伝えましょう。

残業代の支払いがない場合には労働基準監督署に告発する

早出残業を減らすための手順3は、

労働基準監督署に告発する

ことです。

会社から明確な早出残業の指示を受けて残業をして、残業代を支払ってほしい旨を伝えたにもかかわらず、会社が残業代を支払わない場合にはやむを得ません。

残業代の不払いは、

違法

です。

労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1「使用者が、…労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」

これに違反した場合には、

6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金

に処される可能性があります。

労働基準法119条
「次の各号の一に該当する者は、これを6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」
一「…第37条…の規定に違反したもの」

残業代未払いの罰則については、以下の記事で詳しく説明していますので読んでみてください。

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そして、労働基準監督署に告発することにより、早出残業に残業代を支払うように会社に対して指導してもらえる可能性があります。

労働基準監督署に告発する方法については、詳しくは以下の記事で説明していますので読んでみてください。

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そのため、手順1、手順2でも解決しない場合には、労働基準監督署に告発することを検討しましょう。

 

 

早出残業についてよくある疑問8つ

早出残業について、よく以下のような疑問をお聞きします。

・早出残業は何時から?
・早出残業も深夜残業になる?
・36協定がない早出残業は違法?
・早出残業を強制されたら拒否できる?
・早出残業をした場合には休憩時間は増える?
・早出残業と普通残業どっちになる?
・管理職が早出残業をした場合に残業代はもらえる?
・アルバイトやパートでも早出残業をした場合に残業代はもらえる?

それぞれについて説明していきます。

早出残業は何時から?

早出残業が何時からかについて、法律で決まった時間はありません

会社で決まっている始業時刻よりも前に出勤することが「早出」となります。

例えば、始業時刻が9時とされている会社であれば、9時前に出社すれば「早出」となります。

そして、出社してから8時間を超えて労働した場合には、それ以降が法定時間外残業となります

なお、会社によっては、所定労働時間が8時間よりも短く設定されている場合があります。例えば、1日の所定労働時間が7時間とされている会社では、出社してから7時間を超えて労働した場合には、それ以降が所定時間外残業となります。

早出残業も深夜残業になる?

早出残業の場合にも、22時から5時までの間に働けば、0.25倍の深夜割増は発生します。

しかし、早出の場合には、残業となるのは、法定労働時間又は所定労働時間を超えて働いた時点からです。

つまり、深夜に早出した場合の残業代割増率は以下のとおりとなります。

早出・深夜

例えば、深夜3時に早出して、8時から9時まで1時間休憩、その後18時まで働いたとしましょう。

この場合には、深夜3時から深夜5時までの間については、0.25倍の深夜割増が支払われることになります。

ただし、労働時間が未だ8時間を超えていないため、残業となるのは、8時間を超えて労働した12時以降であり、12時以降については1.25倍の法定時間外割増がもらえることになります。

深夜残業については以下の記事で詳しく説明していますので読んでみてください。

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36協定がない早出残業は違法?

早出により、1日8時間を超えて労働することになる場合には、36協定がなければ違法となります。

法律は、労働者に対して、1日8時間までしか働かせることはできないとしています。

労働基準法32条(労働時間)
1「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」
2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」

会社が労働者に対して、1日8時間を超えて働かせる場合には、事前に労働者の代表者と協定を締結しておかなければなりません。これを36協定といいます。

労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
1「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。」

そのため、36協定がないのに1日8時間を超えて労働させることは違法となるのです。

ただし、労働者が早出をしたにすぎず、終業時刻前に早退するなど、1日に8時間を超えて働かない場合には、36協定がなくても違法にはなりません。

早出残業を強制されたら拒否できる?

会社から早出を強制された場合には、その早出の命令が合理性や相当性を欠き濫用といえれば、これを拒否することができます

例えば、早出する必要性が特にないのに始業時刻前に出社するように命じられた場合や早出をすることが労働者にとって過度の負担となるような場合です。

早出残業をした場合には休憩時間は増える?

早出残業により労働時間が8時間を超える場合には、1時間の休憩を与えなければなりません

労働基準法は、以下のとおり休憩時間を与えなければならないとしています。

・労働時間が6時間を超える場合 45分
・労働時間が8時間を超える場合 1時間

つまり、本来であれば45分しか休憩が与えられていない会社であっても、早出残業により労働時間が8時間を超える場合には1時間の休憩を与えなければないけないことになります

そのため、通常時に1時間の休憩を与えていない会社では、早出残業により休憩時間が増える会社があります。

早出残業と普通残業どっちになる?

残業代の計算をするに当たり、「早出残業」か「普通残業」かは区別されません

早出した場合であっても、残業となるのは、出社後、法定労働時間又は所定労働時間を超えた働いた時点からです

法定労働時間又は所定労働時間を超えた時点から、法定時間外残業又は所定時間外残業となります。

ただし、労働時間に該当するかを判断する際には、始業時刻前の労働か終業時刻後の労働かにより注意すべき点が異なることは、先ほど説明した通りです。

管理職が早出残業をした場合に残業代はもらえる?

管理職の方は、早出残業をした場合に、残業代を「請求できる方」と「請求できない方」がいます

管理職と言われる方の中には、法律上の「管理監督者」の方と、これにあたらない「名ばかり管理職」の方がいるためです。

「管理監督者」の方は、早出残業をしても残業代を請求できません

「管理監督者」に該当するのは、以下の条件を満たす方で、特に限定的に考えられています。

・経営者との一体性
・労働時間の裁量
・対価の正当性

会社から管理職と扱われている多くの方は、実際には「名ばかり管理職」であるというのが実情です

管理職の残業代については詳しくは以下の記事で説明していますので読んでみてください。

管理職も残業代を請求できる!?チェックリストで分かる確認事項3つ法律上、管理職の方でも、残業代を請求できるケースがほとんどです。実際には、名ばかり管理職にすぎない方が多いのです。今回は、あなたが名ばかり管理職か確認するポイントを解説します。...

アルバイトやパートでも早出残業した場合に残業代はもらえる?

アルバイトやパート従業員の方も、早出残業すれば、通常どおり残業代を支払ってもらうことができます

つまり、会社は、アルバイトやパート従業員であることを理由に、残業代の支払いを拒否することはできません。

残業代の請求は弁護士に依頼すべき

残業代請求をする場合には、弁護士に依頼することを強くおすすめします。

その理由は、以下の4つです。

・交渉や裁判手続を代わりにやってもらえる!
・あなたが集めるべき証拠を代わりに集めてもらえる!
・代わりに残業代を計算してもらえる!
・完全成功報酬制であれば費用倒れにならない!

交渉や裁判手続を代わりにやってもらえる!

残業代請求に注力している弁護士に依頼すれば、会社との

交渉や裁判手続きを代わりに

してもらうことができます。

残業代を請求する場合の文面や交渉の方法などについては、事案ごとに異なります。

弁護士に依頼すれば、煩雑な手続きや専門性の高い手続きを、代わりに任せてしまうことができます。つまり、あなたは会社と一切交渉しなくていいのです

そのため、残業代を請求する場合には、残業代請求に注力している弁護士に依頼することがおすすめです。

あなたが集めるべき証拠を代わりに集めてもらえる!

残業代請求に注力している弁護士に依頼することで、

弁護士に代わりに証拠を集めてもらう

ことができます。

残業代の証拠収集

具体的にどのような証拠を集めるべきかは、事案に応じて弁護士に相談するべきでしょう。

そのため、残業代を請求する場合には、証拠の収集について弁護士に任せてしまうことがおすすめです。

代わりに残業代を計算してもらえる!

残業代請求を弁護士に依頼することで、

代わりに残業代を計算

してもらうことができます。

残業代の計算については、基礎賃金や割増率、残業時間の計算など、自分で計算しようとすると労働者に有利な事項を見落としてしまいがちな点がたくさんあります。

残業代事件に注力している弁護士であれば、ミスしやすいポイントを熟知していますので、正確な残業代を計算することができます。

また、残業代請求については、2年分を請求しようとすると700日以上の残業時間を計算したうえで、その他の労働条件についても正確に把握する必要があり、慣れていないと大きな負担となります

そのため、残業代を請求する場合には、残業代請求に注力している弁護士に代わりに計算してもらうことがおすすめです。

完全成功報酬制であれば費用倒れにならない!

完全成功報酬制の弁護士であれば、万が一獲得できる残業代が少なかったとしても、弁護士費用により、

費用倒れになることはない

です。

なぜなら、完全成功報酬制であれば、着手金の支払いをする必要はなく、弁護士報酬については獲得できた残業代の中から支払えばいいためです。

また、弁護士に依頼する段階で、どの程度の残業代を回収できる見通しかについても助言してもらうことが可能です。

そのため、残業代を請求する場合には、弁護士に依頼することがおすすめです。

 

 

まとめ

以上のとおり、今回は早出残業について詳しく解説しました。

この記事の要点をまとめると以下のとおりです。

・会社は、労働者が早出残業をした場合には、残業代を支払う義務がある。
・始業時刻前の出勤が「早出残業」にあたるといえるには、会社からの指示があることを具体的に説明できる必要がある。
・早出残業をした場合には、働いた時間が分かる証拠だけではなく、会社の指揮命令下にあった証拠も集めておく。
・早出残業を減らしたい場合には、「手順1:明確な指示がない場合には早出をしない」、「手順2:残業代の支払いをしてほしい旨を伝える」、「手順3:残業代の支払いがない場合には労働基準監督署に告発する」という順で対処する。

この記事が早出残業に悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日
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