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管理監督者の3要件を考慮事情や実務傾向を踏まえて弁護士が徹底解説

管理監督者の3要件を考慮事情や実務傾向を踏まえて弁護士が解説

管理監督者の要件を満たしているか知りたいと悩んでいませんか

インターネットで調べてみても、結局、自分が直面している状況が裁判になったらどのように評価されるのかということまでは中々記載されていませんよね。

この記事では、少し調べて何となく知識は身に付いたものの、より詳しく知りたいという方を読者として想定しています

つまり、要件を判断するにあたり、具体的にいかなる事情がどのように評価されるのか、役職や契約書、就業規則の記載はどのような意味を持つのかなど、より実践的なことを知りたい方向けに記載しています。

前提として、管理監督者の要件は以下の3つとされています。

①経営者との一体性
②労働時間の裁量
③対価の正当性

そして、これらについては「要件」であるため、いずれか一つでも欠くと管理監督者には該当しないと判断される傾向にあります。

あなたは名ばかり管理職?

更に、具体的に見ると、①②③については、それぞれ以下のような事情が考慮されることになります。

管理監督者の3要件 考慮事情と判断傾向そして、管理監督者が労働基準法の労働時間等の規制の例外とされていることから、これらの要件を満たすかについてはとても厳格に判断されることになります。

この記事では、上記各要件の考慮事情について、どのように考慮されるのかを掘り下げて説明しますので、あなたがおかれた状況が裁判でどのように判断されることになるのか一緒に確認していきましょう。

今回は、管理監督者の3要件を考慮事情や実務傾向を踏まえて弁護士が徹底解説します。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば管理監督者の要件についての考え方がよくわかるはずです。

管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。

 

なお、管理監督者とは何かについて簡単に知りたいという方は、以下の記事で誰でもわかりやすく解説しています。

管理監督者とは?労働基準法の定義やどこから管理職かわかりやすく解説
管理監督者とは?労働基準法の定義やどこから管理職かわかりやすく解説管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある者をいい、時間外・休日残業代の対象から外されています。しかし、実は、管理職とされている方の多くは名ばかり管理職に過ぎません。今回は、管理監督者とは何かについて、労働基準法の定義やどこから管理職(管理監督者)なのかをわかりやすく解説します。...

 

 

 

 

管理職応援シリーズ

 

管理監督者の3要件とは

管理監督者の3要件とは、労働基準法上の管理監督者に該当するために必要な3つの要件のことをいいます。

わかりやすくいうと、これらのいずれかを満たさない場合には、労働基準法上の管理監督者に該当しないということになります

労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」

つまり、管理職と扱われている方は、要件を満たさなければ、名ばかり管理職に過ぎないことになるのです

具体的には、管理監督者の3要件は、以下の3つとされています。

要件1:経営者との一体性
要件2:労働時間の裁量
要件3:対価の正当性

あなたは名ばかり管理職?

なぜなら、労働基準法において規定された労働時間等の規定が適用されないことになるので、労働者の保護に欠けるところがない者である必要があるためです。

例えば、裁判において、労働者が残業代を請求した場合において、会社側が管理監督者であるとの反論をしたときは、上記の3要件を満たすかどうか争われることになります。

そのため、自分が管理監督者かどうかを正確に知りたい場合には、管理監督者の各要件についての知識が不可欠なのです。

~管理監督者の「3要素」か「3要件」か~

①経営者との一体性、②労働時間の裁量、③対価の正当性が要件なのか要素なのかについて触れた文献は、実はあまりありません。

【要素と捉える場合】
要素と捉える場合には、①②③のいずれかを満たしていない場合であっても、これらの事情を考慮して、結果的に保護に欠けることがないといえれば管理監督者に該当することになります。

【要件と捉える場合】
要件と捉える場合には、①②③のいずれか一つでも満たしていない場合には、管理監督者に該当しないこととなります。

裁判例は、「管理監督者に当たるといえるためには、店長の名称だけでなく、実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず、具体的には、〈1〉職務内容、権限及び責任に照らし、労務管理を含め、企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか、〈2〉その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か、〈3〉給与(基本給、役付手当等)及び一時金において、管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべき」と述べており素直に読むと要素と捉えているように読めそうです(東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件])。

しかし、行政通達は、待遇に関して、「一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。」としています(昭和63年3月14日基発150号)。そのため、行政通達上も、①②を欠けば、③を満たしていても管理監督者には該当しないとされています

更に、東京地方裁判所民事第19部判事(平成29年8月末日現在)の西村康一郎氏によれば、「管理監督者性の判断にあたって裁判例上考慮されている事項としては,(ⅰ)職務内容,権限及び責任の重要性,(ⅱ)勤務態様(労働時間の裁量,労働時間管理の有無,程度等),(ⅲ)賃金等の待遇であるところ(白石・実務133頁[細川二郎]),実際の裁判例において,これらの判断要素につき、それぞれを総合考慮した規範的・評価的判断がされているというよりは、必要とされる要件として位置づけられているように思われる。」とされています(須藤典明・清水響編「労働事件事実認定重要判決50選」148頁乃至149頁参照)。

私自身も裁判実務においては、上記①②③は要素というよりも、要件と捉えられているものと感じます。

ただし、上記①②③については、それぞれの要件が相関しており、例えば、①を肯定する事情が多いような場合には、②を肯定する事情が少なくても、管理官監督者性が肯定されてしまうといったケースもあり得るでしょう。

~管理監督者の3要件の主張立証責任~

管理監督者の3要件については、会社側が主張立証責任を負っているとされています。

つまり、労働者は、自分が管理監督者に該当しないことを立証する必要はなく、会社側において積極的に証拠を出して上記①②③を満たすことを証明していかなければならないのです

そして、会社側が証明に失敗すれば、労働者は、管理監督者には該当しないものとして扱われることになります。

ただし、会社側が上記①②③について十分な証拠を提出してきた場合には、労働者側も反論する必要が生じます。

そのため、労働者も自分が管理監督者に該当しない証拠を集めておくことは重要となります。

管理監督者の要件ごとの考慮事情

それでは、管理監督者の3要件について、要件ごとの考慮事情を詳しく見ていきましょう。

各要件についての考慮事情と判断傾向、各証拠を整理すると以下の通りとなります。

管理監督者の3要件 考慮事情と判断傾向それでは、要件ごとに順番に説明していきます。

要件1:経営者との一体性

管理監督者の要件の一つ目である経営者との一体性の考慮事情を整理すると以下のとおりです。

経営者との一体性の要件 考慮事情と判断傾向

経営への参画状況

経営者との一体性の考慮事情の一つ目は、経営への参画状況です。

これは、経営会議等の事業経営に関する決定過程に関与し、どの程度の発言力、影響力を有していたかの問題です。

もっとも、役職者会議に参加しているからといって、必ずしも経営に関与しているとされるわけではありません

例えば、経営会議等に出席していてもごく限られた者の一存で経営方針が決められており影響力がない場合には、管理監督者性が否定されやすい傾向にあります。

ワンマン経営の社長が決定した経営方針を役職者に伝達するだけであったり、各役職者が売り上げや事務連絡の報告をするだけの会議であったりする場合には、経営に参画しているとはいえないでしょう。

~日本マクドナルド事件~

裁判例は、会議について以下のように判示して、管理監督者性を否定したものがあります。

「店長は、店長会議や店長コンベンションなど被告で開催される各種会議に参加しているが、これらは、被告から企業全体の営業方針、営業戦略、人事等に関する情報提供が行われるほかは、店舗運営に関する意見交換が行われるというものであって、その場で被告の企業全体としての経営方針等の決定に店長が関与するというものではないし…、他に店長が被告の企業全体の経営方針等の決定過程に関与していると評価できるような事実も認められない」

(参照:東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件])

労務管理上の指揮監督権

経営者との一体性の考慮事情の二つ目は、労務管理上の指揮監督権です。

これは、部下に関する採用、解雇、人事考課等の人事権限、部下らの勤務割等の決定権限等の有無・内容の問題です。

もっとも、単に採用面接を担当しただけである場合や人事上の意見を述べる機会が与えられるだけである場合にまで、労務管理上の指揮監督権があったとされるわけではありません

例えば、部下の査定に関わっていたとしても、一次考課を担当していただけであって、他に二次考課が行われていた場合などには、労務管理上の指揮監督権を有していたとまではいえないでしょう。

なお、そもそも部下がいないような場合には、管理監督者性を否定する強力な事情となります

~日本マクドナルド事件~

裁判例は、労務管理について以下のように判示して、管理監督者性を否定したものがあります。

「店長は、アルバイト従業員であるクルーを採用して、その時給額を決定したり、スウィングマネージャーへの昇格を決定する権限や、クルーやスウィングマネージャーの人事考課を行い、その昇給を決定する権限を有しているが、将来、アシスタントマネージャーや店長に昇格していく社員を採用する権限はないし…、アシスタントマネージャーに対する一次評価者として、その人事考課に関与するものの、その最終的な決定までには、OCによる二次評価のほか、上記の三者面談や評価会議が予定されているのであるから、店長は、被告における労務管理の一端を担っていることは否定できないものの、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとはいい難い。」

(参照:東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件])

実際の職務内容

経営者との一体性の考慮事情の三つ目は、実際の職務内容です。

これは実際にどのような業務を行っているかという問題です。

例えば、マネージャー業務だけではなく、部下と同様の現場作業・業務にも相当程度従事している場合には、管理監督性が否定されやすい傾向にあります

~東京地判平成25年4月9日~

裁判例には、統括運行管理者が部長と異なり宿直業務や運転業務にも従事していたことを理由として、管理監督性を否定したものがあります。

「原告は、平成22年11月10日までの間、研修に出ていた同年7月11日ないし同年8月10日の1か月間を除き、宿直勤務に入っていたが、代々の所長及びg部長は、運行管理者の資格を保有しているものの、宿直勤務に従事することはなかった。宿直勤務中、原告は、出庫及び帰庫の点呼業務や出庫の際に渡す運行指示書の整理等を行っており、宿直の途中に自己の判断で帰宅することはできなかった。」
「原告は、乗務員が不足した際には、運転業務に入ることもあった。」
「…部長と異なり、宿直業務や乗務など、一般の運行管理者と同様の業務にも従事していたこと等の事実も合わせ考えれば、原告を労基法41条2号にいう『管理監督者』に該当するということはできない。」

(参照:東京地判平成25年4月9日裁判所ウェブサイト)

~監督者の地位と管理者の地位~

労働基準法では、管理監督者については、「監督若しくは管理の地位にある者」と規定されています。

立法担当者によると、「監督の地位にある者とは労働者に対する関係に於いて使用者のために労働状況を観察し労働条件の履行を確保する地位にある者管理の地位にある者とは労働者の採用、解雇、昇給、転勤等の人事管理の地位にある者とされています(昭和22年3月11日から同月20日までの第92回帝国議会における審議、労働基準法案解説及び質疑応答)。

また、裁判例、東京地判平成9年8月1日労判722号62頁[株式会社ほるぷ事件])は、労働基準法41条2号の判断基準につき、「経営方針の決定に参画し、あるいは労務管理に関する指揮命令権限を有する等経営者と一体的な立場にあるか否か」と判示したものがあります。

しかし、実際には、監督の地位にある者と管理の地位にある者については、区別されない傾向にあります。

行政通達は、管理者と監督者をとくに区別することなく、「監督又は管理の地位に存る者とは、一般的には局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべきものであること。」としています(昭和22年9月13日基発17号)。

また、東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件]は、「当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば、経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは、上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず、これを採用することはできない。」と判示しています。

要件2:労働時間の裁量

管理監督者の要件の二つ目である労働時間の裁量の考慮事情を整理すると以下のとおりです。

労働時間の裁量の要件 考慮事情と判断傾向

タイムカード等により出退勤の管理がされていたか

労働時間の裁量の考慮事情の一つ目は、タイムカード等により出退勤の管理がされていたかです。

これは、タイムカードへの打刻や勤怠への入力を行っていたかどうかの問題です。

例えば、タイムカードへの打刻や勤怠への入力が行われていた場合には、管理監督者には該当しない方向の事情となります

~健康管理目的によるタイムカードの打刻~

健康管理目的でタイムカードへの打刻を求めていたに過ぎないとの反論を会社からされる場合があります。

東京地判平27.6.24労判ジャーナル44号35頁[学生情報センター事件])は、労働者の残業時間が長時間にわたるにもかかわらず何ら是正のための措置が行われておらず、執行役員以上の者に対してはタイムカードへの打刻を求められていない事案において、使用者の上記反論は採用できないとしています

日々の業務内容、遅刻・欠勤等の場合の賃金控除の有無

労働時間の裁量の考慮事情の二つ目は、日々の業務内容、遅刻・欠勤等の場合の賃金の控除の有無です。

これは、遅刻や欠勤をした場合において、その分、賃金の金額が減っていたかどうかの問題です。

例えば、遅刻や欠勤につき賃金の控除が行われていた場合には、労働時間の裁量がなかったものとして、管理監督者には該当しない方向の事情となります

当該労働者に対する始業・終業時刻・勤務時間の遵守がどの程度厳格なものであったか

労働時間の裁量の考慮事情の三つ目は、当該労働者に対する始業・終業時刻・勤務時間の遵守がどの程度厳格なものであったかです。

これは、所定の始業時刻や所定の終業時刻において、業務を行わないことができたかどうかの問題です。

例えば、始業時や終業時に従業員全員のミーティングが行われている場合や始業時刻や終業時刻を守らないと反省文や始末書を書かされるケースでは、管理監督者には該当しない方向の事情となります

当日の業務予定や結果等の報告の要否

労働時間の裁量の考慮事情の四つ目は、当日の業務予定や結果等の報告の要否です。

これは、業務スケジュール等を会社に管理されていたかどうかの問題です。

例えば、事前にスケジュールを会社に伝えなければいけない場合、業務終了後に日報等で業務内容を報告しなければいけない場合には、管理監督者には該当しない方向の事情となります

社外業務について上長の許可の要否

労働時間の裁量の考慮事情の五つ目は、社外業務について上長の許可の要否です。

これは、職場その外で業務を行う際に上司の許可を得る必要があったかどうかの問題です。

例えば、上司の許可がなければ、持ち帰って業務を行うことができないような場合には、管理監督者に該当しない方向の事情となります

要件3:対価の正当性

管理監督者の要件の三つ目である対価の正当性の考慮事情を整理すると以下のとおりです。

対価の正当性の要件 考慮事情と判断傾向

残業時間に比して給料が著しく少ないと言えるかどうか

対価の正当性の考慮事情の一つ目は、残業時間に比して給料が著しく少ないと言えるかどうかです。

これは、残業時間に見合った手当等が支給されているかどうかの問題です。

例えば、何十時間も働いているのに最低賃金に近い手当しか支払われないような場合には、管理監督者性が否定される方向の事情となります

他の従業員と比べて優遇されていると言えるかどうか

対価の正当性の考慮事情の二つ目は、他の従業員と比べて優遇されていると言えるかどうかです。

これは、管理監督者ではない従業員、及び、自分が管理監督者になる前に比べて、年収にどのような差があるかの問題です。

例えば、管理監督者になったことにより、残業代が支給されなくなり、大幅に年収が下がったような場合には、管理監督者性が否定される方向の事情となります

~役職と管理監督者の関係~

管理監督者かどうかは、役職の名称に捉われずに実態的に判断されます

行政通達も、「名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべきものであること。」としています(昭和22年9月13日基発17号)。

例えば、部長やマネージャーなどの役職に付いていたとしても、当然に管理監督者に該当するわけではなく、部長やマネージャーとしてどのような業務を行い、どのように働き、どのような対価をもらっていたのかということが個別に判断されるのです。

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~雇用契約書や就業規則と管理監督者の関係~

雇用契約書に「管理監督者」と記載されていたり、就業規則に「課長以上は管理監督者とする」などと規定されていたりしても、当然管理監督者に該当することにはなりません。

実態に即して判断されますので、雇用契約書や就業規則に上記記載があったとしても、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性がなければ管理監督者には該当しません

 

 

 

 

スタッフ管理職に関する判断方法についての議論|行政通達・判例・学説の傾向

指揮命令のライン上にないスタッフ管理職にも、管理監督者性を肯定する考え方が出てきています。

法制定当時には想定していなかった多様な働き方が生じてきたためです。

行政通達では、「法制定当時には、あまり見られなかったいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取り扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、同法第41条第二号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること」とされています(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号、婦発47号)。

しかし、実際には、スタッフ管理職の管理監督者性は簡単には認められません

東京地判平成23年12月27日労判1044号5頁[HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件])は、「管理監督者に当たるか否かの判断は、管理監督者に当たるとされた労働者について、労基法の定める時間外労働等に関する規制の適用がすべて排除されるという重大な例外に係る判断であるから、管理監督者の範囲は厳格に画されるべきであると解される」としたうえで、「被告の援用する各通達は、当該スタッフ職が組織内部において相当に高次の地位にあって、上長等から長時間の残業を強いられることはないといえる客観的な状況にあることが前提となっているものと解される。」としています。

大阪高等裁判所判事(平成30年1月10日現在)の細川二郎氏によれば、スタッフ職の場合には、「管理監督者であるライン職と同格以上」に位置付けられているか否かが判断基準になると考えられています(白石哲編著「労働関係訴訟の実務」[第2版]154頁参照)。

管理監督者の要件の認定に関する判例の傾向

管理監督者の要件の認定に関して、判例はとても厳格に判断しています

管理監督者性を否定した判例はたくさんありますが、管理監督者性を肯定した判例は多くありません。

労働基準法の適用が除外されるような例外的なケースなので、裁判所も認定に消極的なのです。

確かに、社長に準じるような立場(会社のNO2など)の方の場合には、管理監督者に該当性を争うことが難しい場合もあります

しかし、部長やマネージャーなど一定程度高位の役職にある場合でも、管理監督者性を争える場合は多いので、一度弁護士に相談してみることがオススメです

 

 

 

 

管理監督者の要件を満たさない場合は非管理職と同様の権利がある

管理監督者の要件を満たさない場合には、名ばかり管理職として、非管理職と同様の権利があることになります。

つまり、時間外手当や休日手当等の残業代についても、非管理職と同様に請求することができます

そして、残業代については、過去の分についても、支払日から3年の時効により消滅していない限り、遡って請求することができます

そのため、これまで長期間にわたり残業代が支払われてこなかった方は、未払いの金額もそれだけ高額になります。

以下の残業代チェッカーにより登録不要、かつ、無料で簡単にあなたのおおよその未払い残業代を調べることができますので、是非使ってみてください。

 

 

その他、管理監督者と名ばかり管理職の違いを表にまとめると以下のとおりです。

管理監督者と名ばかり管理職の違い

管理職と管理監督者の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。

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管理監督者の要件を満たさない場合の残業代請求手順

実際には管理監督者に該当しない場合でも、会社側はあなたが管理監督者に該当すると主張している以上、あなた自身が行動をおこさなければ、残業代は獲得できません。

具体的には、名ばかり管理職の方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。

手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟

管理職が残業代を請求する手順

それでは、順番に説明していきます。

残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。

手順1:名ばかり管理職の証拠を集める

残業代を請求するには、まず名ばかり管理職の証拠を集めましょう。

名ばかり管理職としての証拠としては、例えば以下のものがあります。

①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。

手順2:残業代の支払いの催告をする

残業代を請求するには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。

理由は以下の2つです。

・残業代の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため

具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。

御通知(残業代請求:時効3年)※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。

手順3:残業代の計算

会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。

残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。

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手順4:交渉

残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。

交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。

残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。

手順5:労働審判・訴訟

交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。

労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。

労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。

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訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。

残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。

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まとめ

以上のとおり、今回は、管理監督者の3要件を考慮事情や実務傾向を踏まえて解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

管理監督者の3要件は、以下の3つとされています。
要件1:経営者との一体性
要件2:労働時間の裁量
要件3:対価の正当性

・各要件についての考慮事情と判断傾向、各証拠を整理すると以下のとおりとなります。
管理監督者の3要件 考慮事情と判断傾向

・スタッフ管理職が管理監督者に該当するのは、当該スタッフ職が組織内部において相当に高次の地位にあって、上長等から長時間の残業を強いられることはないといえる客観的な状況にあることが前提とされています。

・管理監督者の要件の認定に関して、判例はとても厳格に判断しています。

・管理監督者の要件を満たさない場合には、名ばかり管理職として、非管理職と同様の権利があることになります。

・名ばかり管理職の方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟

この記事が管理監督者の要件について詳しく知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、区民ニュース2023年8月21日
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