「残業代を請求したいけど負ける可能性が怖くて中々行動に移すことができない」との悩みを抱えていませんか?
残業代請求は、必ず勝てるというものではなく、会社の反論によっては負けてしまう可能性もあります。
会社に残業代請求をしたのに負けてしまう可能性があるケースとしては、例えば以下の6つがあります。
・残業時間の証拠がないケース
・残業時間とは認められないケース
・管理監督者に当たるケース
・固定残業代の範囲でしか残業をしていないケース
・残業代が時効により消滅しているケース
・労働者とは認められないケース
ただし、残業代請求で負けることを過度に恐れる必要はありません。残業代を請求すること自体は法的な権利です。仮に負けてしまったとしても、そのこと自体を理由に高額の損害賠償義務を負うようなことは、通常ありません。
そうは言っても、残業代を請求する以上は負けたくないと考えるのが通常ですよね。残業代請求で負ける可能性を減らすには対策を講じることが望ましいです。
いくつかの簡単な対策を講じることで負ける可能性を大きく減らすことができるはずです。
今回は、残業代請求で負けるケースとすぐにできる簡単な対策を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば「残業代請求で負ける」ことについての悩みが解消するはずです。
目次
残業代請求で「負ける」とはどのような意味?
残業代請求で「負ける」というのは、一般的には、
ことをいいます。
また、残業代を請求したのに大幅に減額されてしまったような場合にも、「負ける」と言うことがあるでしょう。
つまり、残業代請求で負けるというのは、請求した残業代金額の全部又は大部分の回収に失敗してしまったような場合を指して言われるのが、通常です。
残業代請求については、労働条件や残業時間から法律に従い残業代が算出されることになりますので、「対策を怠らなければ」他の類型に比べて負けることが少ない傾向にあります。
残業代請求で負ける6つのケース
残業代請求で負けるケースとして、よくある例には以下の6つがあります
・残業時間の証拠がないケース
・残業時間とは認められないケース
・管理監督者に当たるケース
・固定残業代の範囲でしか残業をしていないケース
・残業代が時効により消滅しているケース
・労働者とは認められないケース
順番に見ていきましょう。
残業時間の証拠がないケース
残業代請求で負けるケースの1つ目は、
です。
残業代請求をするには証拠が必要となります。労働者が残業時間を立証する責任を負っているためです。会社も証拠がない場合には残業代の支払いに応じません。
例えば、あなたが月に100時間の残業をしていたと主張していて、仮にそれが真実であったとしても、証拠がなければその請求は認められないのです。
しかし、残業代の証拠は、「タイムカード」だけではありません。例えば、タイムカードがない場合には、あなたが作ったメモであっても残業時間を立証する証拠として重視してもらえることがあります。
そのため、残業時間の立証について、事前に準備を行っておくことが非常に重要なのです。具体的な対策については、また後ほど説明致します。
残業時間とは認められないケース
残業代請求で負けるケースの2つ目は、
です。
残業代をもらえるのは、あなたが会社の指揮命令下にあった時間です。つまり、あなたが自由に行動することが保障されていた時間については労働時間となりません。
例えば、始業時刻が9時00分の会社で少し早起きをしてしまったので、8時30分に出勤して、9時までの間、自分の机で朝食を食べて、特に仕事をしていなかったとします。
このような場合には、あなたは9時までの間は自由が認められていますので、労働時間には当たらないのです。
そのため、会社内であっても自由が保障されていた時間については残業代を請求できない可能性があります。
管理監督者に当たるケース
残業代請求で負けるケースの3つ目は、
です。
管理職と言われる方の中には、「管理監督者」の方と「名ばかり管理職」の方がいます。
管理監督者の方の場合には、労働基準法上、時間外や休日に働いても残業代が支給されません。
ただし、管理監督者に該当するのは、以下の3つの条件を満たす場合で特に限定されています。
①経営者との一体性
②労働時間の裁量
③対価の正当性
実際には、管理職と言われている方のほとんどは、名ばかり管理職にすぎないのです。
そのため、会社から「管理職だから残業代を支給しない」と言われている場合でも、一度弁護士に相談してみることがおすすめです。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
管理職の方の残業代については以下の記事で詳しく解説しています。
固定残業代の範囲でしか残業をしていないケース
残業代請求で負けるケースの4つ目は、
です。
固定残業代とは、実際に残業するかどうかにかかわらず一定の金額を残業代として支給するものです。
固定残業代が支払われている場合には、その金額に相当する残業代が支払われていることになりますので、その金額の範囲内で残業をしても別に残業代を請求することはできないのです。
ただし、固定残業代が出ている場合でも以下の方は残業代を請求できる可能性があります。
☑基本給に固定残業代が含まれている場合で、固定残業代の金額が不明である場合
☑役職手当などの名称で支給されている場合で、その手当に残業代以外の性質が含まれている場合
☑固定残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っている場合
☑固定残業代が想定する残業時間を超えて残業した場合
固定残業代については以下記事で詳しく解説しています。
残業代が時効により消滅しているケース
残業代請求で負けるケースの5つ目は、
です。
残業代には時効があり給料日から2年を経過したものから順次消滅していきます(2020年4月1日以降に発生したものは3年)。
つまり、残業代を請求する時期が遅くなるにつれて過去の残業代が消滅していることになり、全て消滅してしまったら請求できる残業代はなくなります。
そのため、残業代を請求したいと考えたらすぐに行動に移すことが大切なのです。
労働者とは認められないケース
残業代請求で負けるケースの6つ目は、
です。
残業代を請求できるのは労働者であり、労働者に該当しない方は請求することができません。
ただし、会社との契約書に「請負契約」や「業務委託契約」と書いてあったとしても、労働者に当たる可能性がありますので、直ぐに諦める必要はありません。
なぜなら、労働者に該当するかは、契約書のタイトルではなく、実際にどのように業務を行っているかなどで判断されるためです。
具体的には、労働者に該当するかは以下のような事情を考慮し判断します。
1 ①指揮監督関係の存在
⑴ 具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無
⑵ 業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容
⑶ 時間的および場所的拘束性の有無・程度
⑷ 労務提供の代替性の有無
2 ②報酬の労務対償性
支払われる報酬の性格・額等
3 ③労働者性の判断を補強する要素
⑴ 業務用機材等機械・器具の負担関係
⑵ 専属性の程度
⑶ 服務規律の適用の有無
⑷ 公租公課の負担関係等
労働者に該当するかどうかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
実際にあった!残業代請求で負けた裁判例3つ
労働者が実際に負けてしまった裁判例として、例えば、以下の3つがあります。
・東京高判平20年11月11日労判1000号10頁[ことぶき事件]
・東京高判平25年11月21日労判1086号52頁[オリエンタルモーター事件]
・東京高判平25年11月21日労判1086号52頁[オリエンタルモーター事件]
順番に見ていきましょう。
東京高判平20年11月11日労判1000号10頁[ことぶき事件]
美容室を経営する会社の総店長として勤務していた従業員が会社に対して、残業代の請求を求めた事案です。
以下の事情を考慮して、この従業員の方が管理監督者に該当するとしました。
・総店長として代表取締役に次ぐナンバー2の地位にあり、会社の経営する理美容店5店舗と各店長を統括するという重要な立場にあること
・代表取締役から各店舗の改善策や従業員の配置等につき意見を聞かれていたこと
・毎月営業時間外に開かれる店長会議に代表取締役とともに出席していたこと
・その待遇面においても、店長手当として他の店長の3倍に当たる月額3万円の支給をされており、基本給についても他の店長の約1.5倍の程度の給与の支給を受けていた時期があること
以上より、裁判所は、この従業員の残業代請求を認めませんでした。
東京高判平25年11月21日労判1086号52頁[オリエンタルモーター事件]
新卒社員として入社した従業員が各種実習等に従事し常時1時間ないし5時間程度の残業をしたと主張して残業代の支払いを求めた事案です。
裁判所は、「日報の作成」と「営業先の下調べ」、「発表会」について、以下の理由から残業時間に当たらないと判断しました。
【日報の作成】
・実習の経過を示すものであって会社の業務に直接関係するものではない
・提出期限も特になく、必ず当日中に提出しなければならないとの決まりもない
・実習スケジュールにおいては実習メニューとは別に概ね35分ないし65分間の日報の作成の時間がとられていた
・チューターが時間内に終わることも大事であるから簡潔に書くようにとの指導をしていた
【営業先の下調べ】
実習中であって、営業ノルマを課されたこともなく、平成22年12月になるまでは1人で営業先に赴くこともなかった
【発表会】
発表会は実習中の新人社員が自己啓発のために同僚や先輩社員に対し実習成果を発表する場として設定されたものであり、会社の業務として行われたものではなく、これに参加しないことによる制裁等があったとも認められない
以上より、裁判所はこの従業員の方の残業代請求を認めませんでした。
東京地判平25年12月25日労判1088号11頁[八重椿本舗事件]
始業時刻が午前8時30分とされている会社において、従業員がそれ以前の午前7時30分頃の早出をしていたことを理由に残業代を請求した事案です。
裁判所は、以下の事情を考慮して、この従業員の方が早出していた時間は労働時間には当たらないとしました。
・そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はないこと
・労働者自身がタイムカード打刻後、食堂でいろいろ話をすることがあったとか、常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べていること
以上より、裁判所は、この従業員の方の残業代請求を認めませんでした。
早出残業については以下の記事で詳しく解説しています。
残業代請求で負けた場合にどのようなリスクがある?
残業代請求をしようと考えている方は、残業代請求で負けてしまった場合にどのようなリスクがあるのか不安に感じている方も多いですよね。
以下では、そのようなリスクについての悩みを解消していきます。
具体的には、以下の3つのことを知っておくべきです。
・弁護士費用や実費が無駄になること
・会社から損害賠償される可能性は低いこと
・転職先に悪口などを言うことは許されないこと
順番に説明していきます。
弁護士費用や実費が無駄になること
残業代請求で負けてしまった場合のリスクについて知っておくべきことの1つ目は、
です。
弁護士費用
着手金が必要な弁護士に依頼する場合には、事件を開始する時点で弁護士に一定のお金を支払う必要があります。
着手金の金額としては、15万円~30万円程度を支払うことが多いです(請求金額によっても異なります)。
ただし、現在は、完全成功報酬制を採用している弁護士も増えてきています。
完全成功報酬制を採用している弁護士であれば、着手金はかかりませんので、もしも残業代を1円も回収できなかった場合には弁護士費用は支払わずに済むことになります。
そのため、残業代を回収できなかった場合の弁護士費用が気になる方は完全成功報酬制を採用している弁護士に依頼するようにしましょう。
実費
残業代を請求するには、郵送費用やコピー代、訴訟提起にあたっての印紙代数万円と郵便切手代5000円程度がかかります。
これらの費用については、残業代を回収できなかったとしてもかかってしまいます。
そのため、残業代請求に失敗してしまった場合には、数万円の実費相当額が無駄になってしまうリスクがあります。
会社から損害賠償される可能性は低いこと
残業代請求で負けてしまった場合のリスクについて知っておくべきことの2つ目は、残業代請求をしたことについて、
です。
会社に対して残業代を請求することは権利です。そのため、残業代の請求自体が損害賠償請求の対象になるということは、通常ありません。
実際、裁判例でも、敗訴した場合に訴訟提起自体が不法行為となるのは、「提訴者が主張した権利又は法律関係…が事実的、法的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限る」とされています(最判昭63年1月26日民集42巻1号1頁)。
もしも、ご不安な場合には、自分の主張にどの程度根拠があるのかについて、弁護士に相談しながら進めるのがいいでしょう。
転職先に悪口などを言うことは許されないこと
残業代請求で負けてしまった場合のリスクについて知っておくべきことの3つ目は、
です。
会社は、労働者の個人情報を勝手に外部に漏らすことは許されません。そのため、現在、多くの会社は、転職先に元従業員の情報を話さない傾向にあります。
また、従業員の社会的信用が下がるようなことを転職先の会社に言うことは許されません。実際、元雇い主が、懲戒解雇した労働者の再就職先に対して、その労働者が欠席をしたことや授業のやり方が悪い先生で困っていることなどを話したことが原因で、正式採用が延期された事案において、名誉毀損を理由に不法行為が成立しています(名古屋地判平16年5月14判タ1211号95頁)。
加えて、会社は従業員との間でトラブルを抱えていることを他の会社に話すメリットはありません。会社の労務管理が不十分だという目で見られるためです。
そのため、残業代請求で負けてしまったとしても、転職先に悪口などを言われる可能性は高くないのです。
残業代請求で負ける確率を減らすための対策3つ
残業代請求で負ける確率を減らすための対策としては、以下の3つがあります。
・事前準備を怠らない
・方針を適切に立てる
・弁護士に依頼する
順番に説明します。
事前準備を怠らない
残業代請求で負ける確率を減らすための対策の1つ目は、
ことです。
なぜなら、あなたは会社に対して残業代を請求するには、労働条件や残業時間等を立証しなければならないためです。
具体的には、以下の証拠を集めましょう。
もしも、既に退職してしまっていて、手元にこれらの証拠がない場合でも焦る必要はありません。会社に対して、開示を求めたり、裁判所をとおした手続きを行ったりすることにより、証拠を集めることができます。
証拠を集める方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
方針を適切に立てる
残業代請求で負ける確率を減らすための対策の2つ目は、
ことです。
残業代請求をするにあたっては、様々な争点が生じます。
例えば、会社が固定残業代を支払っていると反論する場合には、その金額が明確であるか、固定残業代が想定する残業時間などを分析して、どのような主張をするか検討する必要があります。
また、会社があなたは管理監督者に該当するため残業代を支払わないと反論する場合には、経営に関与していないかったことを裏付ける証拠や労働時間を自由に決めることができなかった証拠を集めることになります。
このように残業代請求で負ける確率を減らすためには、会社がどのような反論をしてくるかを想定した上で、いかなる主張をして、どのような証拠を集めるかを検討する必要があるのです。
不安がある場合には、弁護士の初回無料相談などを利用してみるのがいいでしょう。
弁護士に依頼する
残業代請求で負ける確率を減らすための対策の3つ目は、
ことです。
残業代を請求する場合には、あなたの主張を裁判例や法律などを用いながら説得的に説明する必要があります。
また、会社は、交渉では残業代の支払いに中々応じないこともありますので、そのような場合には労働審判や訴訟など裁判所を用いた手続きを検討する必要があります。例えば、会社が労働者は管理監督者に該当すると言って譲らないような場合には、裁判所に会社の反論の当否を判断してもらうのです。
そのため、残業代請求の負ける確率を減らすためには、法律の専門家に任せてしまうことがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、残業代請求で負けるケースとすぐにできる簡単な対策を解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・残業代請求で「負ける」というのは、一般的には、残業代を請求したのに回収できなかったことをいいます。
・残業代請求で負けるケースとして、よくある例は、①残業時間の証拠がないケース、②残業時間とは認められないケース、③管理監督者に当たるケース、④固定残業代の範囲でしか残業をしていないケース、⑤残業代が時効により消滅しているケース、⑥労働者とは認められないケースの6つです。
・残業代請求で負ける確率を減らすための対策としては、①事前準備を怠らないこと、②方針を適切に立てること、③弁護士に依頼することの3つが大切です。
この記事が、残業代請求をしても負けてしまうのではないか不安に感じている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。