「残業代請求をしたいけどリスクが怖くて一歩を踏み出せない」と悩んでいませんか?
多くの方は、そもそも残業代請求にどのようなリスクがあるのか分からないという漠然とした不安を感じているでしょう。
残業代請求をした場合に想定されるリスクとしては、以下の3つに大別できます。
・会社から報復を受けるリスク
・会社に負けてしまうリスク
・膨大な労力と時間がかかるリスク
より具体的にこれらのリスクを分類すると以下の表のとおりとなり、それぞれ対策を講じることでリスクを抑えることができます。
他方で、会社側も残業代請求を受けた場合には、大きなリスクを抱えています。そのため、実は、あなたよりも、会社の方が残業代請求について不安を感じているのです。
また、残業代に関する争いを解決する際にも注意すべきことがあります。これを知らないと思わぬ不利益を受けることがあります。
今回は、残業代請求をする際のリスクとこれを抑える方法について、わかりやすく解説していきます。
この記事を読めば残業代請求のリスクについての悩みが解消するはずです。
目次
残業代請求の3つのリスク
残業代請求をする場合のリスクとしては、以下の3つがあります。
・会社から報復を受けるリスク
・会社に負けてしまうリスク
・膨大な労力と時間がかかるリスク
順番に説明していきます。
会社から報復を受けるリスク
残業代を請求する場合のリスクの1つ目は、
です。
多くの会社は、残業代請求をされたとしても、労働者に対して報復をすることはありません。残業代請求をすることは労働者の権利でありこれを理由に報復をしてはいけない旨を顧問弁護士から指導されるはずです。また、そもそも、このような報復を行うメリットがありません。
しかし、ブラック企業では、残業代請求に対して、以下のような報復行為を行うことも稀にあります。
①配転命令
②会社からの損害賠償請求
③不当な解雇
④雇止め・再雇用拒否
⑤不当な懲戒
⑥いじめ・雑用指示
⑦悪い噂の流布
これらの報復行為はいずれも許されません。
①残業代請求に対する報復目的で労働者を遠方の勤務場所に配置転換することは許されません。なぜなら、不当な動機目的に基づいて行われた配置転換は、権利の濫用として無効になるためです(最判昭61.7.14集民148号281頁[東亜ペイント事件])。
②まず、残業代請求自体を理由とする損害賠償請求は通常許されません。裁判例も、訴訟を提起した者が敗訴した場合にこれが不法行為になるのは、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限るとされています(最判昭63年1月26日民集42巻1号1頁)。
③解雇は、客観的に合意理的な理由なく社会通念上相当性を欠く場合には、濫用として無効となります。そして、悪質性が高い場合には、違法なものとして、慰謝料を請求できる場合もあります。
④残業代を請求したことを理由とする再雇用拒否又は雇止めについては、裁判を受ける権利に対する違法な侵害行為として、不法行為とされる場合があります(東京高判平31年2月13日労判1199号25頁[国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件])。
⑤懲戒処分についても、これを行うには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である必要があります。残業代請求をしたことは、懲戒処分についての合理的な理由には当たらないでしょう。
⑥労働者が残業代を請求したことを理由に、いじめをすることや雑用指示を命じることは、正当な職務行為とはいえません。そのため、不法行為として損害賠償の対象となることがあります。
⑦会社は、残業代請求をされたとしても、悪評を流すことは許されません。プライバシー性の高い情報ですし、会社の伝え方によっては労働者の社会的信用が低下する場合もあるためです。また、和解が成立する場合は、通常、守秘義務条項を入れます。
このように残業代請求に対する報復は許されず、場合によっては損害賠償の対象となるのです。
残業代請求に対する報復については、以下の記事で詳しく解説しています。
会社に負けてしまうリスク
残業代を請求する場合のリスクの2つ目は、
です。
残業代を請求しても、会社の反論次第では、請求が認められない可能性もあります。
例えば、「残業時間の証拠がない場合」や「あなたが管理監督者である場合」、「残業代が時効により消滅している場合」です。
会社に負けってしまった場合のリスクとしては、具体的には、弁護士費用や実費が無駄になってしまうことが挙げられます。
着手金が必要な弁護士に依頼する場合には、負けてしまった場合でも15万円~30万円程度の弁護士費用が必要となります。
また、残業代請求をするには、郵送費やコピー代、訴訟提起の印紙代など数万円程度を要します。残業代請求で負けてしまうと、これらの費用が無駄になってしまう可能性があります。
膨大な労力と時間がかかるリスク
残業代を請求する場合のリスクの3つ目は、
です。
残業代請求をするためには多くの作業が必要となりますので、慣れていないと膨大な労力と時間がかかるリスクがあります。
例えば、以下のような労力や時間が必要となります。
①残業代を計算する労力や時間
②書面を作成する労力や時間
③判例や法律を調べる労力や時間
④会社と交渉する労力や時間
⑤労働審判や訴訟を行う労力や時間
①残業代を計算するには、例えば、2年分を計算する場合だと700日を超える残業時間を計算する必要があります。
②会社に対して、残業代請求するには、時効を止めるための通知書や残業代の金額の計算書を作る必要があります。
③残業代の計算に当たっては、多くの争点が生じます。そのため、争点が生じた場合には、判例や法律を調べて、あなたの事案ではどのように考えるべきなのかを分析する必要があります。
④残業代を請求しても、会社は簡単には支払いに応じてくれません。多くの場合、会社の顧問弁護士が代理人として就くことになり法的な理由を述べて反論されることになります。このような会社に対して、残業代を支払う義務があることを説得的に説明する必要があります。
⑤会社が交渉では残業代を支払わない場合には、労働審判や訴訟など裁判所をとおした手続きを行う必要があります。
以上のように、簡単に残業代を支払ってもらえると考えていると、予想外に苦労する可能性がありますので注意が必要です。
残業代を請求される会社側のリスク
残業代請求についてリスクがあるのは労働者だけではありません。
残業代を請求される会社側にも大きなリスクがあります。
例えば以下のような3つのリスクがあります。
・遅延損害金を支払わなければいけないリスク
・付加金を支払わなければいけないリスク
・他の労働者からも残業代を請求されるリスク
順番に説明していきます。
遅延損害金を支払わなければいけないリスク
残業代を請求される会社側のリスクの1つ目は、
です。
会社は、本来残業代を給料日までに支払わなければなりません。
そのため、給料日を過ぎるとその遅延損害金を支払わなければなりません。
遅延損害金も長い期間積み重なると、数十万円~数百万円の大きな金額となります。
具体的には、遅延損害金の法定利率は以下のとおりです。
特に、退職後については遅延損害金の割増率が大きく、会社にとっては、長い期間、残業代の支払いをしない状況を継続することはリスクとなるのです。
残業代の遅延損害金については、以下の記事で詳しく解説しています。
付加金を支払わなければいけないリスク
残業代を請求される会社側のリスクの2つ目は、
です。
付加金とは、一定の金員の未払いがある場合には、労働者の請求により、裁判所が、会社に対して、未払い金と同一額の支払いを命じるものです。
つまり、労働者は、会社に対して、未払いの残業代と付加金で合計2倍の残業代を請求できる可能性があるのです。
そのため、会社は、労働者に対して、残業代を支払わないことはリスクとなるのです。
付加金については以下の記事で詳しく解説しています。
他の労働者からも残業代を請求されるリスク
残業代を請求される会社側のリスクの3つ目は、
です。
一人の労働者が会社から未払い残業代の回収に成功すると、他の労働者も残業代の請求をしようとすることがあります。
このように、会社は、多くの労働者との間で残業代に関する紛争を抱え込むことになる可能性があるのです。
そのため、会社は、残業代を請求された場合には、大ごとになる前に口外禁止などを条件に和解に応じることもあります。
残業代請求のリスクを抑える3つの方法
残業代請求のリスクについては、これを抑える簡単な方法があります。
例えば、以下の3つの方法です。
・退職後に残業代を請求する
・残業代請求の準備を十分にしておく
・残業代請求に注力している弁護士に依頼する
順番に説明していきますので実践してみましょう。
退職後に残業代を請求する
会社から報復を受けるリスクを減らすための方法は、
ことです。
退職後であれば、上司や社長と顔を合わせる機会が減りますし、会社は配置転換や解雇、懲戒などの処分をすることもできなくなります。
実際、残業代の相談者の方の多くは、会社を既に退職した方です。
ただし、残業代請求には時効がありますので、2年を経過した部分から順次消滅していきます(2020年4月1日以降が給料日のものは3年)。
そのため、残業代を請求しようと考えた場合には、退職後すぐに行うことがおすすめです。
なお、会社を退職するつもりはないけど残業代は請求したいという方も勿論いるでしょう。
そのような場合には、弁護士に代理して残業代を請求してもらいましょう。弁護士からの通知がある場合には会社も違法な行為はしにくくなりますし、万が一違法な報復をされた場合にはそれを止めるように警告してもらうことができます。
退職後の残業代請求については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業代請求の準備を十分にしておく
会社から負けてしまうリスクを減らすための方法は、
ことです。
残業代請求をする前に労働者がしておくべき準備として重要なのは、証拠を集めておくことです。
具体的には、残業代を請求するために必要な証拠として以下のものがあります。
ただし、既に退職してしまっていて、これらの証拠が手元にない場合でも、焦る必要はありません。
そのような場合でも、会社に対して、証拠の開示を求めることができますし、会社が開示に応じない場合でも裁判所をとおして証拠を収集することができます。
残業代の証拠については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業代請求に注力している弁護士に依頼する
膨大な労力と時間がかかるリスクを減らすための方法は、
ことです。
弁護士に依頼すれば、残業代の計算や会社との交渉、裁判手続きを代わりにしてもらうことができます。
残業代を請求する場合の文面や交渉の方法などについては、事案ごとに異なります。
弁護士に依頼すれば、煩雑な手続きや専門性の高い手続きを、代わりに任せてしまうことができます。つまり、あなたは会社と一切交渉しなくていいのです。
そのため、弁護士に依頼することにより膨大な労力と時間がかかるリスクを回避することができます。
残業代請求を解決する際の注意点
残業代請求を解決する際の注意点として、以下の2つがあります。
・清算条項により他の請求ができなくなるリスクがあること
・解決内容により税金や社会保険料の処理が異なること
順番に見ていきましょう。
清算条項により他の請求ができなくなるリスクがあること
残業代請求を解決する際の注意点の1つ目は、
ことです。
会社から残業代の支払いを受ける場合には、「合意書」により和解の内容を明確にするように求められることがあります。
和解の内容を合意書に残すことは重要なことですので、これについて協力することは労働者自身のメリットにもなるでしょう。
ただし、合意書に記載される条項には十分に注意しなければなりません。
多くの場合、合意書の最後に、「労働者と会社との間には、本合意書に定めるものの他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。」との文言が含まれています。
この文言が含まれている場合には、合意の時点であなたが他に会社に対して何らかの請求権を持っていたとしても、合意後はその請求ができなくなってしまいます。
そのため、合意書を作成する場合には、他の請求権がないかどうかを十分に確認した上で、他にも請求がある場合にはそれについても併せて解決するようにしましょう。
解決内容により税金や社会保険料の処理が異なること
残業代請求を解決する際の注意点の2つ目は、
ことです。
会社から残業代が支払われる場合には、その支払い内容により、税金や社会保険料の処理が異なります。
例えば、解決金として支払われる場合には、通常、一時金として処理されることが多く、源泉をされずに交付されます。そのため、あなた自身が確定申告を行う必要があります。
これに対して、残業代として支払われる場合には、通常、給与として処理されますので、税金や社会保険料が差し引かれて、支給されることになります。
いずれにせよ、処理について混乱を防ぐためには、会社に対して事前にどのような処理をするのか確認しておきましょう。
確認が不十分であると思わぬ不利益を受ける可能性があります。
残業代請求の悩みはまず弁護士の初回無料相談を利用しよう!
残業代請求の悩みは、
することがおすすめです。
弁護士に相談することで、あなたが準備すべき事項や不安に感じていることについて、助言をしてもらうことができます。
また、あなたが弁護士に依頼した方がいいのか、他の手段を利用した方がいいのかについても丁寧に教えてもらうことができます。
初回無料相談を利用するデメリットは特にありませんので、悩んでいる方はひとまず利用してみましょう。
まとめ
以上のとおり、今回は、残業代請求をする際のリスクとこれを抑える方法について、わかりやすく解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・残業代請求をした場合のリスクとそれを抑える対策は以下のとおりです。
・会社も労働者から残業代請求をされた場合には、①遅延損害金を支払わなければいけないリスク、②付加金を支払わなければいけないリスク、③他の労働者からも残業代を請求されるリスクがあります。
・残業代請求を解決する際には、①清算条項により他の請求ができなくなるリスクがあること、②解決内容により税金や社会保険料の処理が異なることに注意する必要があります。
この記事が残業代請求をすることに不安を感じている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。