「残業代を請求したいけど訴訟にはしたくない」と悩んでいませんか?
残業代を請求した場合には、示談により解決することも多いですが、絶対に示談により解決できるわけではありません。なぜなら、示談は、会社がこれに合意しないと成立しないためです。
残業代請求で示談をする方法は以下のとおりです。
STEP1:通知書を送付する
STEP2:残業代を計算する
STEP3:交渉をする
STEP4:示談書を作成する
示談が成立する場合には、成立までの期間は、
です。
示談で解決しない場合には、労働審判や訴訟などの手段により残業代を回収することになります。
残業代請求を示談で解決する場合には、注意するべきことがいくつかあります。注意するべきことを見落としていると思わぬ不利益となることがあります。
今回は、残業代請求を示談で解決する方法や期間、注意点について分かりやすく解説します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば残業代請求の示談についての悩みが解消するはずです。
目次
残業代請求は示談により解決できるか
残業代請求は、多くの場合には示談により解決することができます。しかし、絶対に示談により解決できるわけではありません。
示談とは、残業代に関する争いを裁判ではなく話し合いにより解決することです。
示談は、労働者と会社の双方が合意した場合に初めて成立します。つまり、あなただけが示談したいと考えていても、会社がこれに応じる意思がなければ、示談は成立しないのです。
多くの会社との間では、裁判になった場合の見通しなどを踏まえて、交渉が進んでいきます。
しかし、会社によっては、示談に協力的でない場合があります。
例えば、示談が成立しないケースの例としては、以下の3つがあります。
・裁判外での話し合いには応じられないと言われるケース
・残業代の支払いには一切応じられないと言われるケース
・会社が提案する解決金額と未払い残業代金額の乖離が大きすぎるケース
これらのケースでは、正当な残業代を回収しようと考えた場合には、やむなく裁判所をとおした手続きとらざるを得ないこともあるのです。
~示談に向いていない事件~
残業代請求については、その性質上、示談に向いていない事件があります。
例えば、示談に向いていない事件としては、①残業代の金額に大きな影響を与える争点がある場合、②タイムカードの打刻時間よりも長い時間働いていたと主張したい場合、③休憩時間が1時間よりも少なかったと主張したい場合です。
まず、①管理監督者性や固定残業代の有効性について争いがある場合には、残業代の金額に大きな影響を与える可能性があります。これらの場合には、労働者と会社との間で折り合いをつけることが難しいため、示談には向いていない事件となります。
また、②あなたがタイムカードよりも長い時間働いていたと主張する場合にも、示談が難しい傾向にあります。なぜなら、会社は、示談では、タイムカードなどの客観的資料がない残業時間については認めないことが多いためです。タイムカードの打刻時間よりも長い時間働いていたと主張したい場合には、その時間を立証するために細かい主張や証拠が必要となり、早期解決を目指す示談には向いていません。
また、③就業規則や雇用契約書で休憩が1時間と規定されているのに、実際には休憩を1時間も取れていなかったと主張する場合にも、示談が難しい傾向にあります。裁判では、休憩を取れていなかったと主張する場合には、その具体的な理由や証拠を求められるためです。そのため、会社も、このような主張には簡単には応じないことが多く、早期解決を目指す示談に向いていません。
残業代請求を示談で解決するメリット・デメリット
残業代請求を「示談で解決するべきか」、「労働審判や訴訟で解決するべきか」を判断するに当たっては、それぞれのメリットとデメリットを知った上で、あなたが何を重視するかということから判断する必要があります。
残業代請求を示談で解決するメリットとデメリットは以下のとおりです。
残業代請求を示談で解決するメリット
残業代請求を示談で解決するメリットとしては、以下の2つがあります。
・少ない労力や時間で解決できる
・少ない費用で解決できる
つまり、早期に少ない負担で解決できるのが示談です。
順番に説明していきます。
少ない労力や時間で解決できる
残業代請求を示談で解決するメリットの1つ目は、
ことです。
残業代を訴訟により回収しようとした場合、書面の作成や裁判所への出頭が必要となり、解決までの期間も1年を超える場合があります。
これに対して、示談であれば、作成する書面も最低限で済みますし裁判所へ出頭する必要がありません。解決までの期間も1か月~6か月程度です。
少ない費用で解決できる
残業代請求を示談で解決するメリットの2つ目は、
ことです。
示談で解決する場合には、裁判所へ納める印紙代や予納郵券代はかかりません。
また、作成する書面も少なくて済みますので印刷費用も抑えられます。
加えて、裁判所上の出頭も不要ですので交通費も必要ありません。
残業代請求を示談で解決するデメリット
残業代請求を示談で解決するデメリットとしては、以下の2つがあります。
・残業代の金額について譲歩を求められる
・遅延損害金について譲歩を求められる
つまり、裁判所をとおした手続きに比べて回収できる金額が少なくなってしまう可能性があります。
順番に説明していきます。
残業代の金額について譲歩を求められる
残業代請求を示談で解決するデメリットの1つ目は、
ことです。
残業代を請求すると会社との間で多くの争点が発生することがあります。
そして、話し合いの場合、裁判所が判断を下すわけではありませんので、会社側が不合理な主張に固執する場合があります。
そのため、あなたが示談で解決したいと考えた場合には、訴訟で回収できる金額よりも、低い金額となってしまうことがあるのです。
遅延損害金について譲歩を求められる
残業代請求を示談で解決するデメリットの2つ目は、
ことです。
示談で解決する場合には、通常、遅延損害金部分については、労働者側が譲歩することが多くなっています。
法律上、示談の場合に遅延損害金を請求できないとされているわけではありませんので、会社が応じれば、これを支払ってもらうことはできます。
しかし、ほとんどの会社は、示談では、遅延損害金部分については労働者に譲歩を求めてきます。
そのため、あなたが示談で解決したいと考えた場合には、遅延損害金については、譲歩せざるを得ないことが多いのです。
残業代請求で示談をする方法と期間
残業代請求で示談をする方法は、以下のとおりです。
STEP1:通知書を送付する
STEP2:残業代を計算する
STEP3:交渉をする
STEP4:示談書を作成する
示談が成立する場合には、成立までの期間は
です。
それでは順番に示談が成立するまでの流れを確認していきましょう。
STEP1:通知書を送付する【ひな型付き】
残業代を請求するためには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・時効を一時的に止めるため
・資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
STEP2:残業代を計算する
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
STEP3:交渉をする
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
STEP4:示談書を作成する【ひな型付き】
残業代請求について、あなたと会社との間で話し合いがまとまったら、その内容について示談書(合意書)を作成することになります。
例えば、単純なものですが、以下のような示談書を作成することが通常です。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、合意書のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
多くの場合、会社側は、合意の内容を第三者に口外しないという口外禁止条項を入れることを求めてきます。
支払日については、合意から1か月程度後にすることが一般的です。
会社から示談書を見せられて、その場で署名押印するように言われても、すぐには応じないように気を付けましょう。なぜなら、よく読んでみたらあなたに不利益な条項が記載されている可能性があるためです。
そのような場合には、「一度、持ち帰り専門家に相談したい」と返答するのがいいでしょう。
残業代請求の示談は、弁護士に依頼せずにあなた自身でも行うことができます。
ただし、自分自身で示談交渉を行うことはおすすめしません。
なぜなら、多くの場合、会社は、正当な残業代よりも少ない金額の支払いにしか応じようとしないためです。
少しでも正当な残業代に近い金額を会社に支払ってもらおうとする場合には、裁判例や法律、証拠により会社を説得する必要があります。
また、当然、あなたが計算した残業代の計算自体も正確で、信頼できるものである必要があります。
そのため、専門家である残業代請求の交渉は弁護士に依頼するべきなのです。
残業代請求で示談できなかった場合どうなるか
それでは、会社との間で示談が成立しなかった場合にはどうなるかを見ていきましょう。
示談が成立しなかった場合の選択肢としては、例えば以下の2つがあります。
・裁判所による手続きを利用する
・労働基準監督に告発する
裁判所による手続きを利用する
残業代の金額に法的な争いがあるケースにおいて、正当な残業代を回収したいと考えた場合には、裁判所による手続きを利用することがおすすめです。
労働基準監督署の場合には、法的な争いがある部分について、残業代を支払うように指導してもらえないことがあるためです。
例えば、以下のケースなどについては、裁判所を利用しましょう。
・会社に顧問弁護士がついて理由を述べて支払いを拒んでいるケース
・管理監督者性や固定残業代の有無が争いになるケース
・残業時間が争いになるケース
裁判所による手続きとして、よく利用されるのは以下の手続き等です。
・労働審判
・訴訟
示談による解決を望んでいる方の場合には、基本的には、まずは労働審判を申し立てるのがよいでしょう。
労働審判
労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判を経ずに訴訟を申し立てることもできます。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。
解決まで1年程度を要することもあります。
労働基準監督署に告発する
残業代の金額自体に法的な争いがないものの、会社が残業代の支払いに応じないケースでは、労働基準監督署に告発することも考えられます。
労働基準監督署には、労働基準法違反の事実を申告することができます。労働基準監督署はこのような申告があった場合には、会社に対して調査や指導をしてくれます。
ただし、労働基準監督署に必ず動いてもらえるとは限りません。動いてもらえる可能性を上げるためには、直接面談に赴き、あなたの名前と会社の名前を告げた上で、告発をしましょう。
労働基準監督署への告発方法については、詳しくは以下の記事で解説しています。
示談をするにも証拠が必要!証拠がない部分はどうなる?
示談により残業代を請求する場合にも、証拠が必要です。
なぜなら、会社は、証拠がない部分の残業代の支払いには応じないことが多いためです。
残業時間の証拠としては、以下のようなものがあります。
ただし、既に退職してしまった方で、これらの証拠が今手元にない場合でも慌てる必要がありません。会社に対して、証拠の開示を求めることができますし、会社が開示に応じない場合には裁判所をとおして証拠を集める手続きもあります。
なお、全ての期間の証拠がなくても、一部の期間の証拠があれば、残業時間を推計する方法により計算することが許される場合もありますので、弁護士に相談してみましょう。
残業代請求の示談をする際の注意点
残業代請求の示談をする際には注意点があります。注意を怠ると思わぬ不利益を被る場合があります。
残業代請求の示談をする際の注意点としては、以下の3つがあります。
・示談は通知書が到達した日から6か月以内に行うこと
・清算条項により他の請求ができなくなるリスクがあること
・解決内容により税金や社会保険料の処理が異なること
順番に説明していきます。
示談は通知書が到達した日から6か月以内に行うこと
残業代請求の示談をする際の注意点の1つ目は、
です。
残業代には時効があり、給料日から2年を経過した部分から順次消滅していきます(2020年4月1日以降が給料日のものは3年)。
そして、消滅時効は、「催告」をすることにより一時的に完成を猶予することができます。
そのため、示談を成立させる場合には、残業代を請求する旨の通知書を送付して、時効の完成が猶予されている間に交渉する必要があります。
通知書の送付により、
です。
したがって、示談は通知書が到達した日から6か月以内に行うようにしましょう。
ただし、通知書が到達した日から6か月経っても、未だ2年が経過していない部分については、時効は完成しません。
清算条項により他の請求ができなくなるリスクがあること
残業代請求の示談をする際の注意点の2つ目は、
です。
多くの場合、示談書(合意書)の最後に、「労働者と会社との間には、本合意書に定めるものの他に何らの債権債務がないことを相互に確認する。」との文言が含まれているでしょう。
この文言が含まれている場合には、合意の時点であなたが他に会社に対して何らかの請求権を持っていたとしても、合意後はその請求をできなくなってしまいます。
そのため、合意書を作成する場合には、他の請求権がないかどうかを十分に確認した上で、他にも請求がある場合にはそれについても併せて解決するようにしましょう。
解決内容により税金や社会保険料の処理が異なること
残業代請求の示談をする際の注意点の3つ目は、
です。
会社と示談する場合には、その金銭の支払い内容により、税金や社会保険料の処理が異なります。
例えば、解決金として支払われる場合には、通常、一時金として処理されることが多く、源泉をされずに交付されます。そのため、あなた自身が確定申告を行う必要があります。
これに対して、残業代として支払われる場合には、通常、給与として処理されますので、税金や社会保険料が差し引かれて、支給されることになります。
いずれにせよ、処理について混乱を防ぐためには、会社に対して事前にどのような処理をするのか確認しておきましょう。
確認が不十分であると思わぬ不利益を受ける可能性があります。
残業代請求の示談については弁護士に相談してみよう!
残業代の請求の示談については弁護士に相談してみることがおすすめです。
弁護士に相談することで、あなたの残業代を回収する方法について助言してもらうことができます。
また、残業代の計算については、会社にその金額を通知する前に、弁護士に確認してもらいましょう。多くの場合、あなた自身に不利益な計算になってしまっている部分があるためです。
弁護士の初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができます。
そのため、残業代請求の示談について悩んでいる場合には、弁護士に相談することがおすすめなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、残業代請求を示談で解決する方法や期間、注意点について分かりやすく解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・残業代請求は、多くの場合には示談により解決することができます。しかし、絶対に示談により解決できるわけではありません。
・残業代請求で示談をする方法は、STEP1:通知書を送付する、STEP2:残業代を計算する、STEP3:交渉をする、STEP4:示談書を作成するという手順になります。
・示談が成立する場合には、成立までの期間は、おおよそ1か月~6か月程度です。
・残業代請求の示談をする際には、①示談は通知書が到達した日から6か月以内に行うこと、②清算条項により他の請求ができなくなるリスクがあること、③解決内容により税金や社会保険料の処理が異なることに注意しましょう。
この記事が残業代請求の示談について悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。