会社から役職手当が支給されるようになったものの、残業代がカットされてしまったとの悩みを抱えていませんか?
役職手当の金額に比べて残業代の金額の大きい方などは、不満に感じている方も多いですよね。
結論としては、役職手当と残業代は原則として両方もらうことができます。
なぜなら、役職手当と残業代は、法律上別のものであり、役職手当を支給したからと言って当然に残業代を支給しなくていいということにはならないためです。
そして、役職手当については、基本給などと同様に残業代計算の基礎単価に含まれることになります。
しかし、多くの企業では、役職手当の支給と同時に残業代が出なくなってしまいます。
これは管理監督者であることを理由としている場合が多いですが、大多数のケースではその条件を満たしていません。
また、役職手当が固定残業代に該当するなどと主張されることもありますが、十分な根拠や実態が伴わない場合にはそのような主張も認められにくい傾向にあります。
そのため、実は、役職手当が支給されることにより、残業代が支給されなくなってしまった方の多くは、会社に対してこれまでの未払い残業代を遡って請求できる可能性があります。
この記事であなたが役職手当をもらっていても残業代を請求できるかどうか一緒に確認していきましょう。
今回は、役職手当と残業代の関係について説明したうえで、役職手当の他に残業代を請求できるケースと請求できないケース、及び、その場合の計算方法について解説していきます。
具体的には以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、役職手当をもらっていても残業代を請求できることがよくわかるはずです。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
役職手当と残業代は両方もらえる!役職手当と残業代は違うもの
役職手当と残業代は原則として両方もらうことができます。
なぜなら、役職手当と残業代は、法律上別のものであり、役職手当を支給したからと言って当然に残業代を支給しなくていいということにはならないためです。
例えば、基本給30万円、役職手当5万円を支給されている方が月に40時間の時間外残業(月平均所定労働時間は160時間)をしたとしましょう。
この場合には、基本給30万円、役職手当5万円のほかに、10万9375円の時間外手当が支払われることになります。
そのため、役職手当が支給されていることだけを理由に残業代を支給されていない場合には、実際にもらえるはずの賃金よりも損をしてしまっている可能性が高いのです。
役職手当と残業代は、相殺することはできません。
相殺というのは、一方の債権と他方の債権が相対立している場合に対等の金額で消滅させるものです。
例えば、AさんがBさんに対して30万円の金銭債権を持っていて、BさんがAさんに対して25万円の金銭債権を持っている場合には、相殺を行うことで、Aさんの債権は5万円にBさんの債権は0円になります。
しかし、役職手当と残業代については、いずれも会社が労働者に対して支払い義務を負っているものであり、いずれも債権者は労働者です。
そのため、役職手当と残業代については、相対立する債権ということはできず、これらを相殺することはできません。
役職手当により残業代がカットされる(出ない)例外ケース2つ
役職手当が支給されている場合で例外的に残業代がカットされる(出ない)ケースが2つあります。
例外ケース1:あなたが管理監督者に該当する
例外ケース2:役職手当が固定残業代に該当する
以下ではこれらのケースについて順番に説明していきます。
例外ケース1:あなたが管理監督者に該当する
役職手当により残業代がカットされる例外ケースの1つ目は、あなたが管理監督者に該当する場合です。
管理監督者とは、労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
管理監督者に該当すると、労働時間、休日、休憩時間等の労働基準法の規定が適用されないこととなります。
労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」
ただし、役職手当が支給されていたとしても、当然に管理監督者に該当するわけではありません。
なぜなら、管理監督者に該当するためには、以下の3つの条件を満たすことが必要であるとされているためです。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
経営者との一体性とは、会社の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を持っていることです。つまり、経営会議等において一定の発言権を有しているかや採用や解雇、人事考課等の決定権を有しているか等がポイントとなります。
労働時間の裁量とは、始業時間や終業時間がどの程度厳格に取り決められ、管理されていたかの問題です。つまり、タイムカード等により出退勤が管理されていたか、休むのに上司の許可がいるか等がポイントとなります。
対価の正当性とは、基本給、その他の手当において、その地位にふさわしい待遇を受けていることです。役職手当などは、対価の正当性を検討するうえでの一つの材料となります。もっとも、その金額が残業時間に比して著しく少ない場合などには、正当性は認められません。
実際、管理職として扱われている方の多くは管理監督者の条件を満たしておらず、名ばかり管理職にすぎないのがことが多くなっています。
管理監督者については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
会社は、管理監督者性が否定された場合に役職手当を残業代として扱うようにと主張してくることがあります。
管理監督者だと思って、残業代を支給しない代わりに役職手当を支給していたため、残業代を支給しなければいけないのであれば残業代として扱ってほしいとの言い分です。
これについて、裁判例は、役職手当が①就業規則上、基準内賃金の一部として規定されており、②役職ごとにその支給される金額が異なる事案において、残業代には当たらないとしています(大阪地判令元.12.20労判ジャーナル96号64頁[はなまる事件])。
ただし、特励手当が、①課長代理以上の職位にあるものに支給されており、②労働者自身も特励手当は超過勤務手当に代替してこれを補填する趣旨であると認識していた事案において、残業代の支払いがあったのと同様に扱っています(東京地判平21.12.25労判998号5頁[東和システム事件])
例外ケース2:役職手当が固定残業代に該当する
役職手当により残業代がカットされる例外ケースの2つ目は、役職手当が固定残業代に該当する場合です。
固定残業代とは、実際に残業を行ったかどうかにかかわらず定額で残業代を支給するものです。
固定残業代が支払われていれば、その範囲で既に残業代は支給されていたことになります。
そのため、固定残業代の金額を超えない限り、残業代を請求できないこととなります。
ただし、役職手当が支給されていたとしても、当然に固定残業代に該当するわけではありません。
なぜなら、固定残業代に該当するためには、以下の条件を満たすことが必要であるとされているためです。
条件1:役職手当が固定残業代に該当することを規定した就業規則の周知又は個別の合意
条件2:役職手当に残業代以外の性質が含まれていないこと
まず、役職手当が固定残業代であるとするためには法的根拠が必要であり、雇用契約書や就業規則において、固定残業代に該当することを明示していない場合には、条件を満たしません。
また、仮に雇用契約書や就業規則において役職手当が固定残業代であると明示されている場合であっても、役職手当に残業代以外の性質も含まれる場合には、条件を満たしません。なぜなら、役職手当のうちいくらが残業代なのかが不明となるためです。
なお、役職手当が固定残業代に該当する場合でも、固定残業代が想定している残業時間を超えて残業をした場合には、差額の残業代を請求することができます。
役職手当は残業代の基礎単価に含む|正しい計算方法
残業代を計算する際には、役職手当は基礎単価に含めることとなります。
なぜなら、労働基準法において基礎単価に含めない手当は限定的に列挙されており、以下の手当に限定されているためです。
①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
具体的には、残業代の計算式は以下のとおりです。
例えば、基本給30万円、役職手当5万円の方の場合には、基礎単価は(30万円+5万円)÷160時間=2187円となります(月平均所定労働時間160時間の場合)。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
ただし、役職手当が固定残業代に該当する場合には、役職手当は残業代それ自体として扱われますので残業代の基礎単価に含まれないこととなります。
固定残業代がある場合の残業代の計算方法については以下の記事で詳しく解説しています。
おおよその未払い残業代金額については、以下の残業代チェッカーにより登録不要かつ無料で確認することができます。
会社の就業規則(賃金規程)に残業代の計算方法が記載されている場合があります。
そして、会社によっては、就業規則(賃金規程)では、役職手当を基礎単価に含めていないことがあります。
このような場合には、会社側は、役職手当を基礎単価に含めない根拠として主張してくることがあります。
しかし、残業代の計算方法については、労働基準法において規定されており、基礎単価に含めない手当についても前記のとおり限定的に列挙されています。
そして、労働基準法よりも不利な条件を定めた就業規則(賃金規程)については無効となり、労働基準法に従うこととなります。
そのため、就業規則(賃金規程)等において役職手当は基礎単価に含めないとされていたとしても、残業代の計算する際には役職手当を基礎単価に含めなければなりません。
役職手当とは別に残業代を請求する手順
会社側が役職手当を理由に残業代を支給してくれない場合に残業代を取り戻すためには、自分から行動をしていく必要があります。
残業代についてはこれまでの未払いについても3年の時効にかかっていない範囲で遡って請求することができます。
具体的には、名ばかり管理職の方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
それでは、順番に説明していきます。
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
残業代を請求するには、まず名ばかり管理職の証拠を集めましょう。
役職手当の支給をしていることなどを理由に管理監督者に該当すると反論されることを防ぐためです。
名ばかり管理職としての証拠としては、例えば以下のものがあります。
①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。
手順2:残業代の支払いの催告をする
残業代を請求するには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・残業代の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
役職手当がある場合の残業代の計算方法については、先ほど説明したとおりです。
手順4:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
手順5:労働審判・訴訟
交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職の残業代請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
管理職の方の残業代請求については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
管理職の残業代請求については、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性について適切に主張を行っていく必要があります。
また、残業代請求については、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
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まとめ
以上のとおり、今回は、役職手当と残業代の関係について説明したうえで、役職手当の他に残業代を請求できるケースと請求できないケース、及び、その場合の計算方法について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・役職手当と残業代は原則として両方もらうことができます。
・役職手当が支給されている場合で例外的に残業代がカットされる(出ない)ケースは以下の2つです。
例外ケース1:あなたが管理監督者に該当する
例外ケース2:役職手当が固定残業代に該当する
・残業代を計算する際には、役職手当は基礎単価に含めることとなります。
・名ばかり管理職の方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
この記事が役職手当以外に残業代が支給されないことに悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。