突然会社から解雇された場合には、どうすればいいのでしょうか。我が国においては、解雇の有効性は厳格に解されており、容易には認められません。解雇はどのような場合に有効であり、解雇が無効な場合の慰謝料や解決金の相場はどうなっているのでしょうか。今回は、解雇について解説していきます。
目次
解雇とは
解雇とは、使用者による労働契約の解約です。使用者が、労働者に対して、一方的に行う点で合意退職、辞職と区別されます。
解雇には、普通解雇、懲戒解雇などの種類があります。
普通解雇
普通解雇とは
普通解雇は、私法上の形成権行使である解約の申し入れです。期限の定めのない雇用契約については、「いつでも解約の申入れをすることができる」(民法627条1項)とされていることがその根拠です。
解雇権濫用法理
もっとも、解雇は無制限に許されるものではありません。①「客観的に合理的な理由を欠き」、②「社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇権を濫用したものとして無効になります(労働契約法16条)。
解雇権濫用法理の実質は、解雇を容易に認めないという法理です。裁判実務では、労働者が何ら落ち度なく勤務してきた等の概括的主張をすれば、使用者が権利濫用に当たらないことを主張立証する責任が生ずるのが一般的です。
労働契約法16条(解雇)
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
①「客観的に合理的理由を欠」くかどうかの判断
⑴ 解雇事由の種類
解雇事由を基礎づける事由の典型例としては以下のものが挙げられます。
①労働者の傷病や健康状態に基づく労働能力の喪失
②勤務能力・成績・適格性の欠如
③職務懈怠(欠勤、遅刻、早退、勤務態度不良等)
④経歴詐称
⑤非違行為・服務規律違反(業務命令違反、不正行為等)
⑵ 就業規則上に記載された解雇事由
就業規則上に記載された解雇事由以外の事由を解雇の理由として主張することができないのでしょうか。
【限定列挙説】
就業規則に定めた以上、これ以外の事由による解雇権の行使を制限したものとするのが合理的であるとする説です。
【例示列挙説】
解雇権の行使は民法の規定により原則として自由であるため、「解雇は、次の場合に限り行う。」として規定事由に限定することが明らかにされている場合でない限り、例示的に列挙したものとするのが就業規則の合理的な解釈であるとする説です。
この問題は、個々の就業規則の合理的解釈の問題であり、民法の規定を踏まえて原則として例示列挙と解する例示列挙説が相当です。
⑶ 将来的予測の原則
解雇事由は、その内容、態様、程度等からみて、将来にわたって存続し、労働契約の継続・実現にどのような影響(支障)を与えるかを予測検討する必要があります。
上記解雇事由①②のような職務遂行能力の不足類型については、それが労働契約の継続を期待することができないほど重大なものであるか否かを検討する必要があります。
上記解雇事由③④⑤のような労働契約上の義務違反が認められる類型については、各義務違反の程度や反復継続性を検討した上、当該労働者に改善・是正の余地がなく、労働契約の継続が困難な状態に達しているかを検討することになります。
⑷ 最終手段の原則
使用者は、期待可能な解雇回避措置を尽くしたものといえるかを検討する必要があります。
解雇事由が使用者において甘受し得ないほどの著しい負担をもたらし、労働契約の継続を期待することができないほどに重大かつ深刻なものである場合、解雇回付措置を尽くしたとはいえない場合であっても、当該解雇は「客観的に合理的な理由」があるものとされます。
解雇事由が使用者において甘受し得ないほどの著しい負担をもたらし、労働契約の継続を期待することができないほどに重大かつ深刻な状態に達しているとは認められない場合、解雇回避措置を尽くしたとはいえない場合には、当該解雇は「客観的に合理的な理由」を欠くものとされます。
解雇回避措置としては、①使用者による注意・指導、是正警告等のほか、②職種転換、配転・出向、休職等の軽度の措置が考えられます。
もっとも、労働者の能力・適性、職務内容、企業規模その他の事情を勘案して、使用者に当該解雇回付措置を期待することが客観的にみて困難な場合には例外を認める余地があります(期待可能性の原則)。
②「社会通念上相当」かどうかの判断
解雇に「客観的に合理的な理由」が認められる場合であっても、本人の情状(反省の態度、過去の勤務態度・処分歴、年齢・家族構成等)、他労働者の処分との均衡、使用者側の対応・落ち度等に照らして、解雇が過酷に失すると認められる場合には、当該解雇は社会的相当性を欠くとされます。
また、不当な動機・目的をもって行われた場合、解雇は社会的相当性を欠くとされます。
事情聴取や弁明の機会の付与は、懲戒の場合とは異なり、解雇の手続的要件とはされていません。しかし、弁明の機会の付与等も、少なくとも解雇の社会的相当性判断の一要素として考慮されます。
懲戒解雇
懲戒解雇とは
懲戒解雇は、企業秩序の違反に対して使用者によって課せられる一種の制裁罰として、使用者が有する懲戒権の発動により行われるものです。
懲戒権濫用法理
懲戒解雇は、①「懲戒することができる場合」において、②「客観的に合理的な理由を欠き」、③「社会通念上相当であると認められない場合」は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
労働契約法15条(懲戒)
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
①「懲戒することができる場合」
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要します(最三小判昭54.10.30民集33巻6号647頁[国鉄札幌運転区事件])。
②「客観的に合理的な理由」
⑴ 懲戒解雇事由の種類
懲戒解雇事由を基礎づける事由の典型例としては以下のものを挙げることができます。
①無断欠勤
②業務命令違反
③故意または重大な過失により会社に重大な損害を与えたこと
④犯罪行為
⑤素行不良
⑥秘密漏洩
⑵ 認識していなかった非違行為
懲戒解雇当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、その懲戒の理由とされていないことが明らかなため、その存在をもってその懲戒の有効性を根拠づけることはできないとされます(最一小判平8.9.26集民180号473頁[山口観光事件])。
「特段の事情」とは、処分の理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為を懲戒解雇事由として主張する場合等です。
③「社会通念上相当であると認められない場合」
相当性の判断において考慮すべき事情として、同じ規律に同程度に違反したときは、処分は同程度であるべきであるという公平性の要請があるとされています。例えば、従来黙認してきた行為を理由として懲戒解雇することは通常相当性を欠きます。
また、懲戒事由とされた行為後、長期間懲戒権が行使されていなかった場合も相当性を欠くとされることがあります。
【最二小判平18.10.6集民221号429頁[ネスレ日本事件]】
上司に対する暴行等の事件の発生から7年後に懲戒解雇を行った事案について、捜査を待たずとも処分が可能であったのに処分まで長期間が経過したこと、捜査結果は不起訴処分になったこと等から、重い懲戒処分とするのは相当性を欠くことを理由に懲戒権の濫用として無効としました。
懲戒解雇手続
⑴ 就業規則上の手続
就業規則等に、懲戒解雇に先立ち、賞罰委員会等への付議が規定されている場合があります。これを欠いた場合、懲戒解雇は無効とされます。
もっとも、企業内に賞罰委員会が設置されている場合でも、就業規則上、これへの付議が要件とされていない場合には、これを怠ったとしても、懲戒解雇は無効とされません(東京地判平4.9.18労判617号44頁[エス・バイ・エル事件]、大阪地決平6.3.31労判660号71頁[大阪神鉄交通事件])。
⑵ 弁明の機会の付与
就業規則等において、懲戒解雇に先立ち弁明の機会を付与する旨が規定されている場合には、弁明の機会を付与せずに懲戒解雇することは無効とされます。
就業規則等において労働者に対する弁明の機会を付与することが要求されていない場合にも、労働者に対する弁明の機会を与えることが要請され、この手続を欠く場合には、ささいな手続上の瑕疵があるにすぎないとされる場合を除き、懲戒解雇は無効とされることがあります(東京高判平16.6.16労判886号93頁[千代田学園事件]、大阪地決平6.11.30労判670号36頁[長野油機事件])。
もっとも、労働者に対する弁明の機会付与を欠くことのみで懲戒処分を無効としない裁判例も多くあります(大阪高判平11.6.29労判773号50頁[大和交通事件]、東京地決平16.12.17労判889号52頁[グラバス事件]等)。
不当解雇の慰謝料の相場
不当解雇の場合において認容される慰謝料の額は、
となることが多いです。違法な解雇により労働者は生活の糧を奪われていることからは、慰謝料の金額は決して高いとはいえません。もっとも、慰謝料が認められる事例の多くでは、解雇無効に伴い地位確認あるいは未払賃金の支払いが認められていることも考慮されているとうかがわれます。
慰謝料の増額させる事情としては、以下の事情が挙げられます。
①解雇態様の違法性が強いこと
②解雇が無効とされても現実には復職が困難であるため、長年勤務してきた労働者の生活の基盤が失われるなど、労働者の喪失するものが大きいこと
③解雇に伴う使用者の言動や紛争の経過により、労働者が心身を損なっていること
慰謝料を減額させる事情としては、以下の事情が挙げられます。
①解雇無効により地位確認あるいは賃金の支払が認められること
②解雇事由に該当する事情があったなど労働者に落ち度があること
③労働者が解雇後間もなく別会社に就職するなど、結果的に損害が軽減された事情があること
不当解雇の解決金の相場
不当解雇を争い和解した場合における解決金の相場としては、以下のように言われることがあります。
もっとも、解決金の金額は、当然事案により異なります。解雇に正当性がないことが明らかな場合には賃金の6カ月分を上回る解決金となることがありますし、解雇に正当性があることが明らかな場合には賃金の3カ月分を下回る解決金となることがあります。また、賃金についても、賞与等を含めて計算するのか、解雇予告手当につきどのように考えるかなどは、事案により異なります。