管理監督者とは何かよくわからず悩んでいませんか?
日常的に「管理職」という言葉を使うことはあると思いますが、労働基準法では「管理監督者」についてどのように考えられているかわかりにくいですよね。
結論としては、管理監督者とは、労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
労働時間や休憩、休日等の枠を超えて働かざるを得ない重要な職務と責任がある方については、労働基準法の一部の規定が適用されないことになっているのです。
しかし、労働基準法上の規定は、労働者を守るための最低限度の条件が記載されたものですから、判例は、簡単には労働基準法上の管理監督者に該当するとは認めません。
例えば、ファーストフード店の店長が管理監督者には該当しないとして、残業代の支払いが命じられた事案があります(東京地判平20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件])。
これは特殊なケースというわけではなく、現在の裁判実務上、同じように名ばかり管理職として残業代の支払いが命じられた事案が大量に存在します。
実は、現在、会社において管理職として扱われている方の多くは、労働基準法上の「管理監督者」とはいえない「名ばかり管理職」にすぎないのです。
自分が本当に管理監督者に該当するか疑問に感じている方は、是非、この記事を読んで確かめてみてください。
名ばかり管理職に過ぎない場合には、既に退職してしまっている場合でも、時効にかかっていない2~3年分の残業代を遡って請求できる可能性があります。
今回は、管理監督者とは何かについて、労働基準法の定義やどこから管理職(管理監督者)なのかをわかりやすく解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、管理監督者とは何かがよくわかるはずです。
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
管理監督者とは|労働基準法上の定義をわかりやすく説明
管理監督者とは、労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
労働基準法41条に規定されており、法律上の文言では、「監督若しくは管理の地位にある者」と規定されています。
労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」
このような規定がおかれた趣旨は、労働時間や休憩、休日等の枠を超えて働かざるを得ない重要な職務と責任がある方については、労働基準法の一部の規定を適用しないとする点にあります。
以下では、管理監督者の定義に関して、次の順で説明していきます。
・裁判例
・学説
・行政解釈
裁判例
裁判例では、「労働基準法四一条二号のいわゆる監督若しくは管理の地位にある者とは、労働時間、休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり、出勤、退勤等について自由裁量の権限を有し、厳格な制限を受けない者をいうものと解すべき」とされています(大阪地判昭和62年3月31日労働判例497号65頁[徳洲会事件])。
学説
学説では、「事業主に代わって労務管理を行う地位にあり、労働者の労働時間を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する者」とされています(菅野[第11版]474頁)。
行政解釈
行政通達は、「監督又は管理の地位に存る者とは、一般的には局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべき」としています(昭和22年9月13日基発17号)。
あなたはどっち?管理監督者と名ばかり管理職を見分ける3つの条件
管理監督者に該当するためには、いくつかの条件があります。
会社において管理職として扱われている方であっても、これらの条件を満たさない場合には、いわゆる「名ばかり管理職」に過ぎず、法律上の「管理監督者」には該当しないことになります。
具体的には、管理監督者に該当するためには、以下の3つの条件を満たすことが必要とされています。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
そして、これらについてはいずれか一つでも満たせば管理監督者に該当するというわけではなく、これらすべて満たした場合に管理監督者に該当するとされる傾向にあります。
それでは、各条件について順番に説明していきます。
条件1:経営者との一体性
管理監督者の条件の1つ目は、経営者との一体性です。
経営者との一体性とは、会社の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を持っていることです。
経営者との一体性については、以下のような要素がポイントとなります。
☑ 経営への参画状況
経営会議等の事業経営に関する決定過程に関与し、どの程度の発言力、影響力を有していたかの問題です。
【傾向】
経営会議等に参与していない場合、経営会議等に出席していてもごく限られた者の一存で経営方針が決められており影響力がない場合には、管理監督者性が否定されやすい傾向にあります。
☑ 労務管理上の指揮監督権
部下に関する採用、解雇、人事考課等の人事権限、部下らの勤務割等の決定権限等の有無・内容の問題です。
【傾向】
単に採用面接を担当しただけである場合、人事上の意見を述べる機会が与えられるだけである場合には、管理監督性が否定されやすい傾向にあります。
☑ 実際の職務内容
実際にどのような業務を行っているかという問題です。
【傾向】
実際の職務内容がマネージャー業務のみならず、その部下と同様の現場作業・業務にも相当程度従事する者である場合、管理監督性が否定されやすい傾向にあります。
部下なし管理職について、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
条件2:労働時間の裁量
管理監督者の条件の2つ目は、労働時間の裁量です。
労働時間の裁量とは、始業時間や終業時間がどの程度厳格に取り決められ、管理されていたかの問題です。
労働時間の裁量については、以下のような要素がポイントとなります。
☑ タイムカード等により出退勤の管理がされていたか
タイムカードへの打刻や勤怠への入力を行っていたかどうかの問題です。
【傾向】
タイムカードへの打刻や勤怠への入力が行われていた場合には、管理監督者には該当しない方向の事情となります。
☑ 日々の業務内容、遅刻・欠勤等の場合の賃金控除の有無
遅刻や欠勤をした場合において、その分、賃金の金額が減っていたかどうかの問題です。
【傾向】
遅刻や欠勤につき賃金の控除が行われていた場合には、労働時間の裁量がなかったものとして、管理監督者には該当しない方向の事情となります。
☑ 当該労働者に対する始業・終業時刻・勤務時間の遵守がどの程度厳格なものであったか
所定の始業時刻や所定の終業時刻において、業務を行わないことができたかどうかの問題です。
【傾向】
始業時や終業時に従業員全員のミーティングが行われている場合や始業時刻や終業時刻を守らないと反省文や始末書を書かされるケースでは、管理監督者には該当しない方向の事情となります。
☑ 当日の業務予定や結果等の報告の要否
業務スケジュール等を会社に管理されていたかどうかの問題です。
【傾向】
事前にスケジュールを会社に伝えなければいけない場合、業務終了後に日報等で業務内容を報告しなければいけない場合には、管理監督者には該当しない方向の事情となります。
☑ 社外業務について上長の許可の要否
職場その外で業務を行う際に上司の許可を得る必要があったかどうかの問題です。
【傾向】
上司の許可がなければ、持ち帰って業務を行うことができないような場合には、管理監督者に該当しない方向の事情となります。
使用者は、労働者によりタイムカードの打刻がされている場合であっても、あくまでも健康管理の目的であって、労働時間を管理する目的ではないと反論する場合があります。
しかし、裁判例は、労働者の残業時間が長時間にわたるにもかかわらず何ら是正のための措置が行われておらず、執行役員以上の者に対してはタイムカードへの打刻を求められていない事案において、使用者の上記反論は採用できないとしています(東京地判平27.6.24労判ジャーナル44号35頁[学生情報センター事件])。
条件3:対価の正当性
管理監督者の条件の3つ目は、対価の正当性です。
対価の正当性とは、基本給、その他の手当において、その地位にふさわしい待遇を受けているか、賞与等の一時金の支給率やその算定基礎において、一般労働者に比べて優遇されているかの問題です。
対価の正当性については、以下のような要素がポイントとなります。
☑ 残業時間に比して給料が著しく少ないと言えるかどうか
残業時間に見合った手当等が支給されているかどうかの問題です。
【傾向】
何十時間も働いているのに最低賃金に近い手当しか支払われないような場合には、管理監督者性が否定される方向の事情となります。
☑ 他の従業員と比べて優遇されていると言えるかどうか
管理監督者ではない従業員、及び、自分が管理監督者になる前に比べて、年収にどのような差があるかの問題です。
【傾向】
管理監督者になったことにより、残業代が支給されなくなり、大幅に年収が下がったような場合には、管理監督者性が否定される方向の事情となります。
ただし、経営者との一体性及び労働時間の裁量が認められない場合、待遇が高いことのみで管理監督者性を肯定する余地はないとされています(東京地判平23.12.27労判1044号5頁[HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件])。
これまで見た「管理監督者」の定義は、指揮命令の系統(ライン)上の管理職者を想定したものです。
そのため、指揮命令のライン上にないスタッフ職であってライン上の管理職と同様の待遇を受ける者、いわゆるスタッフ管理職については、異なる基準により管理監督者性を判断しようとする議論があります。
確かに、行政通達では、「法制定当時には、あまり見られなかったいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取り扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、同法第41条第二号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること」とされています(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号、婦発47号)。
会社側は、管理監督者性を基礎づけるために、この通達を引用してくるケースが散見されます。
しかし、裁判例は、「管理監督者に当たるか否かの判断は、管理監督者に当たるとされた労働者について、労基法の定める時間外労働等に関する規制の適用がすべて排除されるという重大な例外に係る判断であるから、管理監督者の範囲は厳格に画されるべきであると解される」としたうえで、「被告の援用する各通達は、当該スタッフ職が組織内部において相当に高次の地位にあって、上長等から長時間の残業を強いられることはないといえる客観的な状況にあることが前提となっているものと解される。」としています(東京地判平成23年12月27日労判1044号5頁[HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド事件])。
つまり、スタッフ管理職について、安易に管理監督者性を認めない傾向にあります。
スタッフ職の裁量的業務遂行については、本来的には、裁量労働制度(労働基準法38条の4)により解決するべき問題であり、管理監督者制度にはなじみにくいものと考えられます。
役職上どこから管理職(管理監督者)になる?
役職上、どこから管理職(管理監督者)となるかについては、明確な決まりはありません。
なぜなら、管理監督者に該当するかについては、役職の名称にとらわれず、実際にどのように働いているかにより判断されるためです。
例えば、課長や部長、所長、店長といった役職を与えていれば、それだけで当然に管理監督者に該当するというわけではありません。
会社内においては、労務管理の都合上、就業規則において、課長や部長以上の役職の者については管理監督者として扱うと規定していることもあります。
しかし、残業代の交渉をする場合や裁判になった場合には、役職にとらわれず、実際にどのように働いていたかが議論されます。
そのため、一般に、役職上、どこから管理職(管理監督者)になるかについて説明することは誰にもできないのです。
徹底比較!管理監督者と一般労働者の労働条件
管理監督者とされた場合には、労働基準法上の労働時間や休日、休憩の規定が適用されないこととなります。
そのため、時間外残業代と休日残業代については、支払われないことになります。
ただし、午後10時~午前5時の間に働いた場合の深夜手当は通常の従業員と同様に支払われますし、有給休暇の規定も適用されます。
管理監督者と一般労働者(名ばかり管理職を含む)の違いを比較すると以下のとおりとなります。
名ばかり管理職が未払い残業代を請求する方法
名ばかり管理職の方は、これまで見てきたように、時間外手当や休日出勤手当を請求することができます。
しかし、会社側は管理職として扱っている以上は、あなたが行動を起こさなければ、これを獲得することはできません。
具体的には、名ばかり管理職が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
それでは、順番に説明していきます。
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
名ばかり管理職の方が残業代を請求するためには、まず名ばかり管理職の証拠を集めることです。
名ばかり管理職としての証拠としては、例えば以下のものがあります。
①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。
手順2:残業代の支払いの催告をする
残業代を請求するためには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・残業代の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
手順4:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
手順5:労働審判・訴訟
交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職の残業代請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
管理職の方の残業代請求については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
管理職の残業代請求については、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性について適切に主張を行っていく必要があります。
また、残業代請求については、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
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まとめ
以上のとおり、今回は、管理監督者とは何かについて、労働基準法の定義やどこから管理職(管理監督者)なのかをわかりやすく解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・管理監督者とは、労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
・管理監督者に該当するためには、以下の3つの条件を満たすことが必要とされています。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
・役職上、どこから管理職(管理監督者)となるかについては、明確な決まりはありません。
・管理監督者と一般労働者(名ばかり管理職を含む)の違いを比較すると以下のとおりとなります。
この記事が管理監督者とは何かについて悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。