管理職として働いているものの、労働時間が長すぎるのではないかとの悩みを抱えていませんか?
管理職になると会社が残業代を支給してくれなくなることが多いので、なるべく時間外労働はしたくないですよね。
管理職の労働時間の平均は月177.4時間、残業時間の平均は月19.5時間とされています。
管理監督者になると、労働基準法上の労働時間に関する規定は適用されなくなりますので、労働時間に法律上の上限規制はありません。
ただし、会社は、管理職に対しても、健康に配慮する義務を負っていますので、労働時間を把握しなければなりません。
私が日々労働問題の法律相談を受ける中でも、管理職の方から残業に関する悩みを聞くことが多くなってきています。
しかし、実際に相談を聞いてみると、会社からは管理職と扱われているものの、働く時間や休日を自由に決める裁量さえもない、いわゆる「名ばかり管理職」にすぎないと判明することがあります。
会社から役職を与えられていても、労働時間の裁量がなければ、労働基準法上の管理監督者には該当しないので、これまでの残業代を遡って請求できる可能性があります。
この記事で一緒に管理職の労働時間についての考え方を見ていきましょう。
今回は、平均的な管理職の労働時間を見た後に、上限規制の有無や把握義務、名ばかり管理職が残業代を取り戻す手順について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、管理職の方の労働時間に関する悩みが解消するはずです。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
管理職の労働時間は平均月177.4時間
管理職の労働時間の平均は月177.4時間、残業時間の平均は月19.5時間とされています。
(出典:労働政策研究・研修機構(JILPT)調査シリーズNo.212)
労働時間について見てみると、事業所規模1000人以上と大きい会社については長時間化している傾向が見受けられます。また、部下のいないスタッフ職について見てみると、労働時間が短いことがわかります。
ただし、月残業時間の分布を見てみると、0時間が24.7%とされている一方で、40時間以上が17.5%となっていますので、管理職といっても会社により労働時間は大きく異なります。
月の残業時間の分布を円グラフにすると以下のとおりとなります。
残業時間の平均や生活、健康への影響については、以下の動画で詳しく解説しています。
管理職(管理監督者)の労働時間に上限規制(制限)はない
管理職(管理監督者)の労働時間には、上限規制(制限)がありません。
非管理職については、労働基準法上、労働時間は1日8時間・1週40時間までとされています。
労働基準法第32条(労働時間)
1「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」
2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
会社は、上記労働時間を超えて労働させる場合には、36協定を締結しなければならないのが原則です。
36協定とは、会社が労働者に残業を命じるために必要なことを約束したものです。
36協定については以下の記事で詳しく解説しています。
もっとも、36協定がある場合であっても、非管理職の残業時間の上限は、月45時間以内・年360時間以内とされています。
労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
4「前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあっては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。」
残業時間の上限については、以下の記事で詳しく解説しています。
これに対して、管理監督者の場合には、労働基準法上の労働時間に関する規定は適用されません。
そのため、1日8時間・週40時間を超えて労働させる場合でも36協定はいりませんし、残業時間の上限規制もありません。
労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「…労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」
以上のとおり、非管理職の場合には労働時間について上限の規制がありますが、管理職の場合には労働時間について上限規制はないのです。
管理監督者にも、「所定労働時間」という概念はあります。
なぜなら、管理監督者に対しては、時間外割増賃金や休日割増賃金を支払う必要はないとされていますが、深夜割増賃金については支払う義務があるためです。
深夜割増賃金を計算するにあたり、1時間当たりの単価の計算に所定労働時間を用いる必要があります。
この所定労働時間を下回った場合には、管理監督者の賃金はノーワークノーペイの原則に従い控除するべきか問題になることがあります。
仮に、管理監督者の賃金が所定労働時間を下回った場合には、控除すべきと考える場合には、この所定労働時間が労働時間の下限として機能することになるでしょう。
しかし、現実には、管理監督者の労働時間が所定労働時間を下回った場合であっても、賃金の控除は行わないことが通常です。
所定労働時間を下回った場合には賃金を控除することになると、労働時間の裁量が否定されてしまい、裁判所化においてそもそも管理監督者に該当しないという判断になりかねないためです。
そのため、管理監督者の場合には、実際の労働時間が所定労働時間を下回った場合であっても、賃金控除をしないという黙示の合意があるものと扱うべき事案が多いでしょう。
管理職(管理監督者)の休憩時間
管理職(管理監督者)の休憩時間については、規制はありません。
非管理職に対しては、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないとされています。
労働基準法34条1項
「使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」
これに対して、管理職の場合には、休憩に関する規定は適用されません。
そのため、管理職(管理監督者)の休憩時間については、労働基準法上の規制はないということになるのです。
ただし、管理職(管理監督者)については、労働時間の裁量が認められていますので、自己の判断により自由に休憩をとることができます。
労働時間の裁量がない人は名ばかり管理職かも
労働時間の裁量がない人は、名ばかり管理職の可能性があります。
なぜなら、労働基準法上の管理監督者とされるためには、以下の3つの条件を満たす必要があるとされているためです。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
例えば、管理職としての役職に就いている場合であっても、自分が出勤する日や時間帯を自由に決めることができないような場合には、労働基準法上の管理監督者とはいえません。
具体的には、管理職なのに、始業時刻よりも後に出勤すると怒られたり、平日に会社を休むと欠勤控除をされたりするケース、平日に休む際に上司の承諾がいるケースなどは労働時間の裁量があるとはいえません。
また、制度上は自分の労働時間を自由に決めることができるように見えても、顧客の都合にあわせたり、業務過多であったりして、事実上労働時間を自由に決めることができない場合も労働時間の裁量があるとは言えないでしょう。
あなたが管理監督者ではなく名ばかり管理職にすぎない場合には、労働基準法上の労働時間の上限規制が適用されることになります。また、会社は、あなたに対して、時間外労働と休日労働の残業代を支給しなければいけません。
実際には名ばかり管理職にすぎないのに、会社がこれまで管理職であることを理由に残業代の支払いを怠っていた場合には、過去に遡って残業代を取り戻すことができます。
とくに、名ばかり管理職の方は、これまで時間外労働と休日労働の割増賃金が全く支払われていないことから、未払いの残業代が高額となる傾向にあります。
以下の残業代チェッカーを使って、あなたの未払い残業代金額を確かめてみましょう。
管理監督者の定義については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
名ばかり管理職が残業代を請求する手順
管理職なのに労働時間に裁量がない場合には、先ほど見たように未払い残業代の請求をできる可能性があります。
しかし、会社側は、あなたが管理監督者であると主張している以上、あなたが行動をおこさなければ、これを獲得することはできません。
具体的には、管理職の方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
それでは、順番に説明していきます。
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
残業代を請求するには、まず名ばかり管理職の証拠を集めましょう。
名ばかり管理職としての証拠としては、例えば以下のものがあります。
①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。
手順2:残業代の支払いの催告をする
残業代を請求するには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・残業代の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
手順4:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
手順5:労働審判・訴訟
交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職(管理監督者)の労働時間の把握義務化|タイムカードや勤怠管理システム
会社は、労働者の労働時間の状況を把握しなければいけません。労働時間を把握しなければならないのは、平成31年4月以降については、管理職についても同様です。
なぜなら、会社は、労働者が月80時間を超えて残業をした場合には、労働者本人に超えた時間に関する情報を通知し、申し出に応じて面談を実施しなければならないためです。
労働安全衛生法第66条の8(面接指導等)
1「事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者(次条第一項に規定する者及び第六十六条の八の四第一項に規定する者を除く。以下この条において同じ。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。」
労働安全衛生規則第52条の2(面接指導の対象となる労働者の要件等)
1「法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり八十時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。ただし、次項の期日前一月以内に法第六十六条の八第一項又は第六十六条の八の二第一項に規定する面接指導を受けた労働者その他これに類する労働者であつて法第六十六条の八第一項に規定する面接指導(以下この節において「法第六十六条の八の面接指導」という。)を受ける必要がないと医師が認めたものを除く。」
労働安全衛生規則第52条の3(面接指導の実施方法等)
1「法第六十六条の八の面接指導は、前条第一項の要件に該当する労働者の申出により行うものとする。」
3 「事業者は、労働者から第一項の申出があつたときは、遅滞なく、法第六十六条の八の面接指導を行わなければならない。」
労働安全衛生法第66条の8の3
「事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。」
基発1228第16号平成30年12月28日 第2面接指導等(労働安全衛生法令関係)
問10
労働時間の状況を把握しなければならない労働者には、裁量労働制の適用者や管理監督者も含まれるか。
答10
労働時間の状況の把握は、労働者の健康確保措置を適切に実施するためのものであり、その対象となる労働者は、新労基法第 41 条の2第1項に規定する業務に従事する労働者(高度プロフェッショナル制度の適用者)を除き、①研究開発業務従事者、②事業場外労働のみなし労働時間制の適用者、③裁量労働制の適用者、④管理監督者等、⑤労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和 60 年法律第 88 号)第2条第2号に規定する労働者(派遣労働者)、⑥短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第 76 号)第2条に規定する労働者(短時間労働者)、⑦労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)第 17 条第1項に規定する労働契約を締結した労働者(有期契約労働者)を含めた全ての労働者である。
(出典:基発1228第16号(労働安全衛生法等の解釈等について) (mhlw.go.jp))
なお、平成31年3月までについては、労働時間の管理を定めた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においては、管理監督者は対象から除外されていました。
つまり、労働安全衛生法の改正により平成31年4月以降は、管理職の労働時間管理が義務化されたことになります。
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管理職の方の残業代請求については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
管理職の残業代請求については、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性について適切に主張を行っていく必要があります。
また、残業代請求については、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
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まとめ
今回は、平均的な管理職の労働時間を見た後に、上限規制の有無や把握義務、名ばかり管理職が残業代を取り戻す手順について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・管理職の労働時間の平均は月177.4時間、残業時間の平均は月19.5時間とされています。
・管理職(管理監督者)の労働時間には、上限規制(制限)がありません。
・管理職(管理監督者)の休憩時間については、規制はありません。
・労働時間の裁量がない人は、名ばかり管理職の可能性があります。
・管理職の方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
・会社は、労働者の労働時間の状況を把握しなければいけません。労働時間を把握しなければならないのは、平成31年4月以降については、管理職についても同様です。
この記事が長時間労働に悩んでいる管理職の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
部下なし管理職については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。