正社員(無期雇用)なのに会社から解雇されて悩んでいませんか?
せっかく正社員になって安定した職に就けたのですから、法律上、解雇することは許されないのではないかと疑問に感じますよね。
結論として、解雇は、法律上、正社員でも契約社員でも厳格な規制がありますので簡単に行うことはできません。
それに加えて、正社員の場合には、契約社員と異なり、契約期間満了により雇用契約が終了するリスクもありません。
つまり、会社は、厳格な解雇規制をクリアしなければ、正社員を一方的に辞めさせることはできないのです。
しかし、実際には、上記のような解雇規制を十分に理解することなく、安易に解雇を行う会社が多数存在しています。
私のもとにも、毎日のように多数の解雇に関する相談が寄せられていますが、その中でも本当に解雇が有効だと思える事例はほんのわずかです。
この記事をとおして、少しでも多くの方に、現在の日本の法律では、正社員をクビにすることが難しいということを知っていただければと思います。
今回は、正社員(無期雇用)の解雇に関する考え方を説明したうえで、もしも解雇された場合の対処手順を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、正社員なのに解雇されてしまった場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。
正社員のクビについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
正社員(無期雇用)は解雇できない?契約社員との法律上の違い
結論としては、解雇は、法律上、正社員でも契約社員でも厳格な規制がありますので簡単に行うことはできません。
いずれの場合も、解雇をするには客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが条件とされていますので、安易な解雇はできません。
労働契約法第16条(解雇)
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
むしろ、契約社員は、期間内の雇用が強く保護されていることから、解雇は「やむを得ない事由」がなければ行うことができないとされているので、正社員よりも厳格です。
民法第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。」
労働契約の終了に関するルール|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
ただし、契約社員の場合には、期間の定めがありますので期間満了時に更新を拒絶されてしまうことがあります。
更新拒絶は、解雇とは異なりますので、法律上の保護が解雇に比べて弱くなっており、更新の期待を立証できなければこれを争うことが難しくなっています。
労働契約法第19条(有期労働契約の更新等)
「有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」
一「当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。」
二「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。」
これに対して、正社員の場合には、期間の定めがありませんので更新拒絶をされるリスクがないのです。
そのため、会社は、厳格な解雇規制をクリアしなければ、正社員を一方的に辞めさせることはできません。
正社員(無期雇用)の解雇条件3つ|知っておくべき解雇規制
正社員の解雇の条件は以下の3つであり、これらをいずれも満たしていることが必要です。
条件1:合理性・相当性があること
条件2:解雇の手続きが守られていること
条件3:解雇が禁止される場合に当たらないこと
それでは、各条件について以下順番に説明していきます。
条件1:合理性・相当性があること
正社員の解雇条件の1つ目は、合理性・相当性があることです。
解雇するには、将来予測の原則と・最終手段の原則から、合理性と相当性が判断されることになります。
具体的には、労働者に改善の余地がなく雇用を継続し難いこと、配置転換等の解雇回避の手段を尽くしても解雇せざるを得なかったことが必要となります。
これについては、解雇事由ごとに、裁判例の傾向を見ていくことで相場観が見えてきますので、次章で説明します。
条件2:解雇の手続きが守られていること
正社員の解雇条件の2つ目は、解雇の手続きが守られていることです。
解雇をするためには、まず解雇の意思表示が必要となります。
会社が解雇したと考えているだけでは、解雇は有効にはなりません。
また、解雇には予告が必要とされており、労働者の責めに帰すべき事由若しくは事業の継続が不可能となった場合に該当しない限り、30日前に伝えるか若しくは30日分の予告手当を支払う必要があります。
解雇予告を怠った場合には、解雇予告期間を満了した時点で、解雇の効力が生じることになります。
更に、懲戒解雇の場合には、就業規則に懲戒事由と種別の規定を設けることや弁明の機会を設けることが必要となります。
解雇手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
条件3:解雇が禁止される場合に当たらないこと
正社員の解雇条件の3つ目は、解雇が禁止される場合に当たらないことです。
法律上、解雇が禁止される場合には、例えば以下のものが挙げられます。
・国籍、信条又は社会的身分による差別的取り扱いの禁止に違反する場合
・公民権行使を理由とする解雇の禁止に違反する場合
・業務上の負傷・疾病の休業期間等の解雇制限に違反する場合
・産前産後休業期間等の解雇制限に違反する場合
・育児・解雇休業法による解雇の禁止に違反する場合
・男女雇用機会均等法による解雇の禁止に違反する場合
・短時間・有期雇用労働法による解雇の禁止に違反する場合
・個別労働紛争解決促進法による解雇の禁止に違反する場合
・公益通報者保護法による解雇の禁止に違反する場合
・労働施策総合推進法による解雇の禁止に違反する場合
・不当労働行為に該当する場合
解雇の条件については以下の記事で詳しく解説しています。
正社員(無期雇用)のよくある解雇理由5つの裁判例の傾向
正社員(無期雇用)のよくある解雇理由としては、以下の5つがあります。
理由1:能力不足
理由2:業務態度・協調性不足
理由3:無断欠勤
理由4:ハラスメント
理由5:経営不振
私が日々解雇の相談を受ける中でも、この5つの解雇理由は圧倒的に多いです。
それでは、これらの解雇理由の裁判例の傾向について順番に説明していきます。
理由1:能力不足
正社員(無期雇用)のよくある解雇理由の1つ目は、能力不足です。
能力不足を理由とする解雇が有効は、以下の事情を考慮して判断されます(東京高判平25.4.24労判1074号75頁[ブルームバーグ・エル・ピー事件])。
・当該職務能力の低下が、当該労働契約の継続を期待することができない程に重大なものであるか否か
・使用者側が当該労働者に改善矯正を促し、努力反省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か
・今後の指導による改善可能性の見込みの有無
とくに、定年まで勤務を続けていくことを前提として、長期にわたり勤続してきた正社員の方の場合には、以下の事情が必要とされています(東京地決平13.8.10労判820号74頁[エース損害保険事件])。
・それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていること
・その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと
・使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと
・配転や降格ができない企業事情があること
能力不足を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
理由2:業務態度・協調性不足
正社員(無期雇用)のよくある解雇理由の2つ目は、業務態度・協調性不足です。
労働者の協調性不足により使用者に具体的な支障が生じていない場合や、支障が生じていたとしてもこれを指摘した上で改善の機会を十分に与えていない場合には、解雇権は無効となる傾向にあります。
協調性不足を理由とする解雇の有効性は、以下の事情が考慮されます。
・使用者の業種
・労働者の地位
・協調性不足の具体的な内容・程度
・協調性不足による具体的な支障の有無・程度
・業務改善の機会の付与の有無
・他の労働者との均衡
協調性不足を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
理由3:無断欠勤
正社員(無期雇用)のよくある解雇理由の3つ目は、無断欠勤です。
無断欠勤を理由とする解雇が有効かどうかは、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」に該当するかが一つの基準となります。
解雇予告手当が不要な例として行政通達に挙げられているためです。
ただし、2週間よりも少なくても解雇が有効となることもありますし、2週間よりも長くても解雇が無効となることもあります。
無断欠勤の有効性については、以下のような事情が考慮されることになります。
・欠勤の回数・期間・程度、正当な理由の有無
・業務への支障の有無・程度
・使用者からの注意・指導・教育の状況、使用者側の管理体制
・本人の改善の見込み、反省の度合い
・本人の過去の非行歴、勤務成績
・先例の存否、同種事例に対する処分の均衡
無断欠勤を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
理由4:ハラスメント
正社員(無期雇用)のよくある解雇理由の4つ目は、ハラスメントです。
パワハラを理由とする解雇については、犯罪行為に該当する程度の場合には有効とされる傾向があります。
もっとも、民法上の不法行為に該当する程度、企業秩序を害する程度の場合には、直ちに解雇するのではなく業務指導や勧告、懲戒処分を行っても、改善されないことが求められる傾向にあります。
パワハラと解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
セクハラを理由とする解雇については、犯罪に該当するような特に悪質な類型では、解雇を有効とする傾向にあります。
もっとも、犯罪に至らない程度の身体的接触を伴う性的要求や交際要求の場合には、安易に解雇するのではなく、業務指導や勧告、懲戒処分を行っても、改善されないことが求められる傾向にあります。
セクハラと解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
理由5:経営不振
正社員(無期雇用)のよくある解雇理由の5つ目は、経営不振です。
経営不振を理由とする解雇は、労働者に落ち度がないため、以下の4つの要素からとくに厳格に判断されます。
要素1:経営上の必要性
要素2:解雇回避努力
要素3:人選の合理性
要素4:手続の相当性
リストラについては、以下の記事で詳しく解説しています。
リストラについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
正社員(無期雇用)を解雇された場合の対処手順4つ
正社員(無期雇用)を解雇された場合には、労働者は正しく対処していくことが必要です。
なぜなら、労働者が異議を唱えなければ、会社は解雇が有効であることを前提として手続きを進めてしまい、問題が顕在化せずに終わってしまうためです。
具体的には、正社員が不当な解雇をされたと感じた場合には、以下の手順で対処していきましょう。
手順1:働く意思を示し業務指示を求める
手順2:解雇理由証明書を請求する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を申し立てる
それでは各手順について順番に説明していきます。
手順1:働く意思を示して業務指示を求める
正社員が解雇された場合の手順の1つ目は、働く意思を示して業務指示を求めることです。
解雇が無効となった場合には、解雇されてから復職するまでの期間の賃金を請求することができます。
例えば、令和5年3月末に解雇が無効となり、その後、令和5年10月1日に復職することになった場合には、後から遡って6か月分の賃金を請求することができます。
ただし、解雇後の賃金を請求するためには、労働者に働く意思と能力があったのに、会社のせいで働くことができなかったことが条件となります。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
そのため、不当解雇を争う可能性がある場合には、最初の段階で、書面やメール等で働く意思を示して業務指示を求めておくのです。
具体的には、「私は解雇日以降も貴社において働く意思がありますので、速やかに業務指示してください」などの通知をして証拠化しておきます。
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
手順2:解雇理由証明書を請求する
正社員が解雇された場合の手順の2つ目は、解雇理由証明書を請求することです。
解雇理由証明書とは、労働基準法上労働者からの請求に応じて交付することが義務付けられている書面であり、解雇の理由が記載された証明書です。
解雇理由証明書を求めることにより、会社から解雇理由が示されることになりますので、解雇を争うどうか、どのような主張や証拠の準備をすればいいのかが分かります。
また、会社は、解雇理由証明書に記載していない事由を後から主張しづらくなるとの事実上の意味もあります。
ただし、会社によっては、解雇理由証明書に抽象的・不明確な記載してしかないことがあります。
このような場合には、具体的にいかなる事実を根拠としているのか明らかにするように求めていくといいでしょう。
解雇理由証明書については、以下の記事で詳しく解説しています。
手順3:交渉する
正社員が解雇された場合の手順の3つ目は、交渉することです。
解雇理由証明書の交付を受けると、双方の認識の違いなども見えてきます。
例えば、会社から、一度、どのように解決するか話し合いたい等の協議の申し入れがある場合もあります。
そのため、まずは話し合いにより双方が納得する解決をすることが可能かどうか交渉することが通常です。
手順4:労働審判・訴訟を申し立てる
正社員が解雇された場合の手順の4つ目は、労働審判・訴訟を申し立てることです。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
解雇の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
【補足】正社員(無期雇用)を解雇された場合の退職金
正社員を解雇された場合には、以下の2つの退職金が問題となることがあります。
・通常退職金
・特別退職金
それぞれ考え方が違いますので順番に説明していきます。
通常退職金
通常の退職金とは、会社の退職金規程により決められた退職金です。
法律上、退職金制度を作ることは義務とはされておらず、その会社が退職金制度を設けている場合に支給してもらえるものです。
支給の条件や金額も会社ごとに異なり、退職金規程に記載されています。
解雇場合についても、退職したことに変わりがない以上、退職金を支給してもらえるのが原則です。
しかし、例外的に懲戒解雇の場合には、退職金の不支給や減額が規定されていることがあります。
懲戒解雇における退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
特別退職金
特別退職金とは、会社が労働者に退職してもらうために任意に支払う退職金であり、退職金制度の有無等にかかわらず支払われるものです。
特別退職金は、退職勧奨の際に会社が労働者を説得する材料として提案されたり、解雇の無効を争われた場合に労働者に納得してもらう材料として提案されたりします。
退職勧奨や解雇における特別退職金の相場は、賃金の3ヶ月分~6ヶ月分程度です。
ただし、事案により異なりますので支給されないこともありますし、1年分以上となることもあります。
特別退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
特別退職金については、以下の動画でも詳しく解説しています。
正社員の解雇はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
正社員の解雇の相談については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
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まとめ
以上のとおり、今回は、正社員(無期雇用)の解雇に関する考え方を説明したうえで、もしも解雇された場合の対処手順を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・解雇は、法律上、正社員でも契約社員でも厳格な規制がありますので簡単に行うことはできません。それに加えて、正社員の場合には、契約社員と異なり、契約期間満了により雇用契約が終了するリスクもありません。
・正社員の解雇の条件は以下の3つであり、これらをいずれも満たしていることが必要です。
条件1:合理性・相当性があること
条件2:解雇の手続きが守られていること
条件3:解雇が禁止される場合に当たらないこと
・正社員(無期雇用)のよくある解雇理由としては、以下の5つがあります。
理由1:能力不足
理由2:業務態度・協調性不足
理由3:無断欠勤
理由4:ハラスメント
理由5:経営不振
・正社員が不当な解雇をされたと感じた場合には、以下の手順で対処していきましょう。
手順1:働く意思を示し業務指示を求める
手順2:解雇理由証明書を請求する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を申し立てる
この記事が正社員なのに解雇されてしまった方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。