労働審判の解決金の相場を知りたいと悩んでいませんか?
解決金は法律で明確な決まりがあるわけではないので、実際に労働審判を経験したことがないとわかりにくいですよね。
労働審判の解決金の相場は、全体としてみると50万円~300万円程度となることが多くなっています。
ただし、事案により異なりますので、正確に解決金の見通しを立てたい場合には、解決金がどのように決まるのかを理解しておく必要があります。
更に、労働審判で解決金を増額するには交渉のテクニックも重要となります。
なぜなら、解決金というのは、会社が合意して初めて支払ってもらえるものであり、その金額も会社と交渉して決めるものだからです。
また、会社は、どうにかして解決金を減額しようと様々な手口を講じてきますので、それらに適切に対処することで減額を回避していく必要があります。
しかし、このような労働審判における交渉技術というものは、専門書や法律サイトの記事においても十分に整理されていません。
そのため、私の労働審判の経験を元に「解決金がどのように決まるのか」「どのように解決金を交渉するのか」を誰でもわかりやすいように説明していければと思い、この記事を執筆いたしました。
是非、これから労働審判を行う際に参考にしてください。
今回は、労働審判の解決金相場と増額交渉のテクニック、会社の減額手口への対処法を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば労働審判の解決金の相場や交渉方法がよくわかるはずです。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
- 1 労働審判の解決金相場
- 2 労働審判の解決金が決まる流れ
- 3 労働審判における解決金交渉テクニック|増額する方法
- 3.1 方法1:見通しが明るい場合には予想される審判や判決を強調する
- 3.2 方法2:可能であれば会社に先に解決金額を提案してもらう
- 3.3 方法3:労働審判委員会の心証を確認しながら提案金額を検討する
- 3.4 方法4:金額の根拠を言えるようにする
- 3.5 方法5:会社が歩みよってこない場合には安易に金額を下げない
- 3.6 方法6:時に感情面を強調してみるのも有効
- 3.7 方法7:切りのいい数字に繰り上げてもらう
- 3.8 方法8:悩んだら譲歩せずに次回期日に持ち越す
- 3.9 方法9:復職の意思がある場合にはこれを強調する|不当解雇の事案
- 3.10 方法10:退職を前提とする和解の場合には退職金を忘れずに指摘する|不当解雇の事案
- 3.11 方法11:会社の落ち度で雇用保険に加入していない場合は指摘する|不当解雇の事案
- 3.12 方法12:判決になると遅延損害金や付加金が必要となることを指摘する|残業代の事案
- 4 おすすめしない交渉方法3つ
- 5 労働審判で会社側が解決金を減額してくる手口とその対処法
- 5.1 手口1:お金がないと言ってくる
- 5.2 手口2:感情面を強調してくる
- 5.3 手口3:切りのいい数字に繰り下げてくる
- 5.4 手口4:労働者に弁護士が就く前の交渉経過を強調してくる
- 5.5 手口5:訴訟になれば他にも主張や証拠があることを強調してくる
- 5.6 手口6:再就職していることを指摘される|不当解雇の事案
- 5.7 手口7:勤務期間が短いことを強調してくる|不当解雇の事案
- 5.8 手口8:他の社員があなたの復職を望んでいないと言ってくる|不当解雇の事案
- 5.9 手口9:残業代と解雇の解決金を混同してくる|残業代・不当解雇の事案
- 5.10 手口10:社会保険料の労働者負担分や源泉徴収税を控除したいと言ってくる|残業代の事案
- 6 労働審判はリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
- 7 まとめ
労働審判の解決金相場
労働審判の解決金の相場は、全体としてみると50万円~300万円程度となることが多くなっています。
JILPTの調査結果によると、労働審判における解決金額の分布は以下のとおりです。平均値は229万7119円、中央値は110万円とされています。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
ただし、当然ですが、労働審判の解決金額は事案により異なります。そのため、相場を理解するには、労働審判の類型ごとの考え方を知ることが大切です。
そのため、類型ごとの解決金の考え方について、以下の順番で解説していきます。
・不当解雇の解決金の考え方
・残業代の解決金の考え方
・パワハラの解決金の考え方
不当解雇の解決金の考え方
不当解雇の解決金の相場は、賃金の3か月分~6か月分程度です。ただし、解雇の理由がないことが明らかケースでは賃金の1年分程度の解決金となるケースもあります。
【主な要素】
①解雇に合理性及び相当性があるか
②あなたがどの程度働き続けたいか及び会社がどの程度退職させたいか
【補助的な要素】
③再就職までの期間等
解雇の合理性及び相当性
解雇の合理性及び相当性が認められるかどうかが、解決金額が認められるかどうかを決めるうえで最も重要な要素となります。
解雇の合理性及び相当性が認められない場合には、解雇は濫用として無効となるためです。
解雇が認められない以上、会社は、退職してもらうには労働者の承諾を得るほかありません。
そのため、解雇が認められないことが明らかであるほど、解決金の金額が高額化します。
あなたが働き続けたい程度・会社が退職させたい程度
あなたが働き続けたい程度も、解決金を決めるにあたって重要な要素となります。解雇の無効を主張して賃金を請求する前提として、あなたに働く意思があることが必要となるためです。そして、不当解雇を争っている期間に他の会社に再就職しているようなケースでは、解決金の金額は低下することになります。
また、会社があなたをどの程度、退職させたいのかも解決金の金額に影響します。例えば、会社が相場以上の解決金を支払うくらいなら復職してもらってもいいという程度の気持ちの場合には、解決金は低くなりがちです。
再就職までの期間等
再就職までにどの程度の期間がかかるかも、解決金額を決めるうえで一つの考慮要素となります。
再就職までの生活を維持できなければ、労働者は、退職に応じることができないためです。
まとめ
解雇の解決金に関する考慮要素を踏まえて、不当解雇の解決金の相場をもう少し詳しく整理すると以下のとおりです。
残業代の解決金の考え方
残業代の解決金は、以下の要素を考慮し判断します。
【主な要素】
①審判や判決で認められる残業代の金額
【補助的な要素】
②判決や執行に至る労力や費用
③遅延損害金
④社会保険料や源泉徴収税
①審判や判決で認められる残業代の金額
残業代の解決金を決めるにあたり最も重要な要素は、審判や判決で認められる残業代の金額です。
そのため、まずは、あなたの賃金額と残業時間から未払い残業代の金額を確定しなければなりません。
残業代のおおよその目安は以下の早見表をご確認ください。
以下のリンクからあなたの未払い残業代を簡単に無料で確認することができますので、利用してみてください。
残業代の計算方法の詳細については、以下の記事で解説しています。
②判決や執行に至る労力や費用
次に、判決や執行に至る労力や費用も考慮します。
つまり、和解により早期解決をする代わりに、会社側からある程度の譲歩を求められることがあります。
和解が成立しないと判決や執行まで必要となり、その手続きに数か月かかったり、弁護士費用がかかったりすることがあるためです。
③遅延損害金
和解では、遅延損害金までは考慮してもらえないのが原則です。
しかし、法律上、和解では遅延損害金を考慮してはいけないというルールがあるわけではありません。
そのため、和解したいとの気持ちがそこまで強くないような場合には、遅延損害金も考慮してほしいということがあります。
特に、残業代ですと退職後の遅延損害金が年14.6%と高い利率になっていますので、和解とはいえ無視できないことも多いのです。
④社会保険料や源泉徴収税
社会保険料や源泉徴収税の労働者負担分については、原則、解決金から控除されません。
解決金として処理する場合には、一時所得として処理されるのが通常であるためです。
ただし、会社によっては、社会保険料の労働者負担分や源泉徴収税についても考慮してほしいと言ってくることがあります。
判決になった場合には、賃金として支払われることになるため、労働者は社会保険料の一部や源泉徴収税を負担しなければいけないためです。
パワハラの解決金の考え方
パワハラの解決金は、以下の要素を考慮し判断します。
①パワハラの内容
②パワハラの回数・期間
③パワハラの証拠
④パワハラによる被害
⑤会社の落ち度
それでは、これらの要素について順番に説明していきます。
①パワハラの内容
パワハラの内容により、慰謝料の金額が異なります。
例えば、「罵倒を伴う事案」と「暴行を伴う事案」でそれぞれの慰謝料の相場を整理するとおおよそ以下のようになります。
暴行を伴う事案につき10万円~200万円程度
そのため、和解により解決する場合にも、解決金の金額を決めるにあたってはパワハラの内容が考慮されることになるのです。
パワハラの慰謝料金額については、以下の記事で詳しく解説しています。
②パワハラの回数・期間
パワハラの回数や期間も重要な考慮要素となります。
何度も執拗に行われている場合や長期間にかけて行われている場合には、慰謝料金額も高くなりますので、解決金額も同様に高くなります。
例えば、パワハラの慰謝料金額について、「50万円×継続年数」といった目安が唱えられることもあります。ただし、実際には、このように一概に金額を決められるものではないでしょう。
③パワハラの証拠
パワハラの証拠があるかどうかによっても、解決金の金額は変わってきます。
なぜなら、解決金は、審判や判決になった場合の慰謝料の金額を基準に交渉されることが多く、証拠がないと慰謝料を認めてもらえる可能性が低いためです。
そのため、証拠が豊富な場合には、解決金額も実際のパワハラ行為に見合ったものとなりやすいのです。
④パワハラによる被害
パワハラによる被害が大きい場合には、解決金の金額に影響します。
例えば、パワハラが原因で、うつ病や適応障害などの精神疾患になってしまった場合がその例です。
慰謝料金額の増額事由となりますし、精神疾患により休職を余儀なくされているような場合には逸失利益の対象ともなりえるためです。
ただし、精神疾患の原因がパワハラであるとの立証は簡単ではありませんので、パワハラの証拠と精神疾患の証拠いずれも充実させることが大切です。場合によっては、労災が認められた後に訴訟を提起することも検討しましょう。労働基準監督署が精神疾患と業務の関連性を調査してくれるためです。
⑤会社の落ち度
労働審判では、加害者ではなく、会社に対して損害賠償を請求することになりますので、会社に落ち度があったのかも、解決金額に影響します。
例えば、会社がパワハラ行為を知っていたのにこれを放置していたような場合には、解決金の金額も高額化しやすくなります。
労働審判の解決金が決まる流れ
労働審判の解決金額が決まる流れは、以下のとおりです。
ステップ1:書面とヒアリングで労働審判委員会の心証が形成される
ステップ2:労働者と会社の意向の確認
ステップ3:すり合わせ
ステップ1:書面とヒアリングで労働審判委員会の心証が形成される
労働審判では、第1回期日の前半で労働審判委員会の心証が形成されることがほとんどです。
心証というのは、当事者の主張と証拠を踏まえて、申し立てられている権利についてどのような判断をするかという労働審判委員会の考えです。
第1回期日の前半では、通常、それまでに提出された労働者の申立書、会社の答弁書、場合によっては補充書面などに沿って、証拠を踏まえて聞き取りが行われます。
労働審判委員会は、これによりおおよその事件の見通しを立ててしまい、その見通しをもとに、手続きを進めていくのです。
ステップ2:労働者と会社の意向の確認
労働審判員会の心証が形成された後(通常第1回期日の後半以降)は、和解が可能かの試みを行うことになります。
まずは、労働者と会社交互に個室に呼ばれ、労働審判委員会からどのような解決をしたいのか意向を確認されることになります。
これにより和解が可能かどうかの検討が行われます。
ステップ3:すり合わせ
労働審判委員会の心証が形成され、当事者の意向が出揃ったら、和解に向けたすり合わせを行っていくことになります。
労働審判委員会は、引き続き、労働者と会社を交互に個室に呼び、歩み寄りを促すことになります。
例えば、労働審判委員会からは、心証に基づいて、「審判になったらこのような判断になる可能性がある」、「この争点についてはこのような心証なので譲歩できないか」などと説得されます。
最終的に労働者と会社が合意することで解決金の金額が決まることになります。
ただし、労働審判は回数が限られていますので、ステップ2の意向を聴取する段階で「そのような解決は難しい」、「そのような提案では相手方に伝えられない」、「労働審判委員会の心証はこうだ」などの説得がある場合もあります。
労働審判の流れについては、以下の記事で具体的なやり取りの例を挙げて説明していますので、読んでみてください。
労働審判における解決金交渉テクニック|増額する方法
労働審判において解決金を交渉するにはいくつかのテクニックがあります。
解決金は、法的に明確な決まりがあるわけではなく、労働者と会社が合意した金額になるため、増額するために工夫して交渉していく必要があるのです。
このような交渉方法は専門書や法律サイトの記事などにも余り記載されていないため、実際に労働審判をたくさん経験してみないと身に付かないスキルです。
例えば、解決金を増額する交渉方法について、誰でも実践できそうなものを一部紹介していくと以下の12個が挙げられます。
方法1:見通しが明るい場合には予想される審判や判決を強調する
方法2:可能であれば会社に先に解決金を提案してもらう
方法3:労働審判員の心証を確認しながら提案金額を検討する
方法4:金額の根拠を言えるようにする
方法5:会社が歩みよってこない場合には安易に金額を下げない
方法6:時に感情面を強調してみるのも有効
方法7:切りのいい数字に繰り上げてもらう
方法8:悩んだら譲歩せずに次回期日に持ち越す
【不当解雇の事案】
方法9:復職の意思がある場合にはこれを強調する
方法10:退職を前提とする和解の場合には退職金を忘れずに指摘する
方法11:会社の落ち度で雇用保険に加入していない場合は指摘する
【残業代の事案】
方法12:訴訟の判決になると遅延損害金や付加金が必要となることを指摘する
それではこれらの方法について、順番に一つずつ説明していきます。
方法1:見通しが明るい場合には予想される審判や判決を強調する
労働審判での解決金を交渉する際に重要なのが、見通しが明るい場合には予想される審判や判決を強調することです。
つまり、「このまま審判になればこのような内容になりますよね。」ということを指摘するのです。
労働審判では、訴訟外の交渉やあっせんと異なり、法的な主張と証拠に基づいて労働審判委員会に審理をしてもらうことができます。
この点が、労働審判では正当な金額による解決になりやすい理由です。
訴訟外の交渉やあっせんでは、十分な審理がされていないので、争点についての主張が平行線になりがちで金額が中々まとまりません。
しかし、労働審判では、「この争点についてはこのような見通しだから金額はいくらになる」という、共通認識を構築することが可能です。
審判や判決の方が有利な内容となり得る場合において、労働者が和解に応じないのは当然のことですので、この点はしっかりと指摘するようにしましょう。
方法2:可能であれば会社に先に解決金額を提案してもらう
交渉一般の問題として、基本的に先に相手方に金額を提案してもらった方が、交渉を行いやすい傾向にあると感じます。
なぜなら、①相手方の提案があなたの提案しようとしているものよりもあなたにとって有利な可能性がありますし、②一度金額を提案すると今後その金額が上限となりかねないためです。
例えば、労働者側は、労働審判の最初の返答としては、解雇であれば「会社から解決金の提案があれば条件次第で検討する」、残業代やパワハラであれば「請求金額どおり支払ってほしい」との受け答えが多い印象です。
ただし、労働審判委員会も上記のような回答は予測していますので、「期日の回数も限られているので解決金の目安を教えていただけないですか?」、「そうは言っても調停なので歩み寄ることはできませんか?」などの質問がされることがよくあります。
金額を先に提案した方が有利か、後に提案した方が有利かというのは、色々な考え方があるところです。
金額を先に提案した方が交渉のイニシアティブをとれるので有利という考え方もあります。
つまり、先に金額を提案することで、交渉の流れを自分の有利なようにコントロールするという考え方です。
確かに、①被提案者との間の知識や経験の格差が大きいケース、②相場や見通しが全く形成されていない事項に関する交渉のケースでは、最初に提案された金額を基準に理由をつけて上げ・下げしていくこともあるでしょう。
そのようなケースでは、先に提案した方が交渉のイニシアティブをとれるという考え方も一理ありそうです。
しかし、労働審判では、先に何らかの金額が提案されても、的外れであったり、納得できなかったりすれば、その金額を無視して根拠を示したうえで別の金額を提案することもできます。
審理される権利には法的なルールがありますし、ある程度の相場観が形成されているためです。
そのため、実際には、先に金額を提案しても、それにより交渉のイニシアティブを獲得できないことも多いでしょう。
方法3:労働審判委員会の心証を確認しながら提案金額を検討する
解決金を交渉するにあたっては、労働審判委員会の心証が非常に重要です。
なぜなら、交渉が決裂した場合に審判を下すのは労働審判委員会だからです。また、会社を説得してくれるのも労働審判委員会です。
労働審判委員会の心証を読み誤ると、審判になった場合にもらえたであろう金額よりも低い金額で和解することになってしまう可能性があります。
労働審判委員会の心証を十分に理解した上で、早期円満解決のために心証よりも譲歩するのであれば納得できるでしょうが、見通しが外れたことにより必要以上の譲歩をすることは避けたいところです。
しかし、通常、労働審判委員会は心証を開示する前に、労働者の意向を確認しようとします。
労働者が考えている解決金額が労働審判委員会の心証よりも低い金額である場合には、心証が開示されることにより、労働者はもっと高い解決金額が欲しくなってしまい、会社の提案する金額との乖離が深まることがあるためです。
通常、労働審判委員会が心証を開示するのは、以下のような場合です。
①労働者の提案金額が労働審判委員会の心証よりも大きい場合
②労働者が金額を決めかねている場合
③労働者と会社が労働審判委員会による調停案を求めた場合
どの段階で労働審判委員会が心証を口にしてくれるかは担当する方によっても異なります。
①は、大きすぎる提案金額を言うと、労働審判委員会の心証や相場、相手方の感触を伝えられ、和解をしたいのであれば再検討するように求められます。
②は、労働者が金額を決めかねていると審判官が助け舟で「心証としてはこのくらいなのですが…」と言ってくれることがあります。
③は、労働者と会社の提案金額の乖離が大きすぎる場合や膠着状態になった場合に行われるもので、交渉の終盤に行われる傾向にあります。
なお、労働審判委員会の心証は口頭で明確に言われる場合もありますが、「審判員からの質問」や「頷くなどのリアクション」により把握できることもあります。
方法4:金額の根拠を言えるようにする
解決金の金額を提案すると、根拠を聞かれることがよくあります。
根拠を言うことができないと、再度検討するように求められたり、それでは会社を説得できないと言われたりすることになります。
そのため、解決金の金額を提案するにあたっては、併せてなぜその金額になるのか算定の根拠ないし方法を言えるようにしておきましょう。
ただし、労働審判は、かなりスピーディーに金額のやり取りが行われますので、慣れていないとその場ですぐに根拠を付けて金額を言うことが困難です。
そのため、事前にある程度、予想される争点についての心証や労働審判委員会の指摘を分析して、計算をしておくといいでしょう。
例えば、解雇であれば、「賃金額」が計算のベースとなりますので、①何か月分だといくらになる、②再就職後の収入を控除するといくらになる、③現時点の既発生分の未払い賃金はいくらであるなどの計算をしておきます。
例えば、残業代であれば、①休憩時間を1時間とした場合の未払金額、②始業時刻前の労働時間を控除した場合の未払金額、③ある手当を基礎賃金に含めない場合の未払金額、④遅延損害金の金額などを計算しておくと説明がしやすくなります。
方法5:会社が歩みよってこない場合には安易に金額を下げない
基本的に金額の提案は、労働者と会社で交互に行われます。
労働者が金額の歩み寄りを見せているのに会社は全く歩み寄ってこないような場合には、何度も安易に金額を下げてしまうと、会社の言い値での解決になってしまいます。
そのような場合には、例えば、「会社がもう少し歩み寄ってくれればこちらも検討するが、一方的にこちらだけ譲歩することには抵抗がある」と素直に伝えると、労働審判委員会も理解を示してくれて、会社を説得してくれることがあります。
方法6:時に感情面を強調してみるのも有効
労働者と会社の提案金額が近づいてきたら、感情面を強調してみるのも有効であることがあります。
金額が近づいてきて、数十万円程度のやり取りになってくると、これ以上金額の根拠を言うことが難しくなってきます。
また、結局は、和解は労働者と会社が合意して初めて成立するものなので、感情的な理由であっても、その条件は飲めないと言われてしまえば成立しません。
そのため、最終局面では、気持ちの面も考慮して少し上乗せしてほしいなどの要望もとおることがあります。
ただし、金額が乖離している段階で最初から感情面を強調しすぎていては、話し合いができず、労働審判委員会からの理解も得にくいので注意しましょう。
方法7:切りのいい数字に繰り上げてもらう
和解の話し合いでは解決金の金額を切りのいい数字にしようとすることがあります。
例えば、賃金の6か月分が180万円である場合には、切りのいい200万円を提案することがあります。
労働審判委員会も、このような提案を自然なものとして受け止めてくれる傾向にあります。
最終的に金額が近づいてきたら、切りのいい数字に繰り上げてもらうことも有用です。
ただし、会社がそこまで和解に積極的でない場合には、逆に繰り下げを求められることもあります。
方法8:悩んだら譲歩せずに次回期日に持ち越す
譲歩するべきか悩んだら、その場で譲歩せずに次回期日に持ち越したいと言った方がうまくまとまることがあります。
その場では冷静な判断ができず必要以上の譲歩をしてしまうことがあります。
会社は決済金額の関係などもあり出頭している担当者だけでは、それ以上の金額を提案できないということもあります。
また、解雇では、解雇後の賃金の関係もあり、期日が続くと労働者の請求金額増えてしまうので、会社側が譲歩してくることがあります。
そのため、場合によっては、次回期日に持ち越すことも大切です。
方法9:復職の意思がある場合にはこれを強調する|不当解雇の事案
不当解雇の事案では、復職の意思がある場合にはこれを強調しておきましょう。
会社や労働審判委員会は、本当にあなたが復職するつもりがあるのかということを気にしています。
場合によっては、直接、「本当に復職するつもりはあるのですか」、「業務を指示されたらそれに応じることができるのですか」などの質問をされることがあります。
復職の意思が十分にないと受け取られると、解雇後の賃金についての心証が揺らぎますし、ある程度のところで退職に応じるものと判断されて、解決金の金額も低くなります。
そのため、あなたに復職の意思がある場合には、これをしっかりと伝えておきましょう。
方法10:退職を前提とする和解の場合には退職金を忘れずに指摘する|不当解雇の事案
退職を前提とする和解をする場合には、忘れずに退職金を確認しておきましょう
和解をした後には、相互に何ら債権債務がない旨の清算条項を入れるのが通常ですので、他の請求をすることができなくなります。
退職を前提とした和解をする場合には、退職金が発生する可能性がありますが、これを指摘せずに清算条項を入れてしまうと、その後退職金を請求できなくなってしまいます。
長期間勤務していたようなケースにおける退職を前提とした和解では、退職金規程を確認するようにしましょう。
方法11:会社の落ち度で雇用保険に加入していない場合は指摘する|不当解雇の事案
退職を前提とする和解をする場合には、会社の落ち度で失業保険に加入していないのであれば、これを指摘した方がいいでしょう。
中小企業では、雇用保険への加入手続きが必要であるのに、これを怠っていることがあります。
このような場合には会社の落ち度により失業保険を給付してもらえないことがあります。
そのため、失業後の生活維持のためある程度の金額を支払ってほしいという主張が説得力を持ちます。
雇用保険の加入義務と遡及加入、損害賠償請求等については、以下の記事で解説しています。
方法12:判決になると遅延損害金や付加金が必要となることを指摘する|残業代の事案
残業代では、判決になると遅延損害金や付加金が必要となることを指摘することもあります。
まず、遅延損害金は和解では支払ってもらえないのが通例です。しかし、あくまでも通例ですので、金額が大きいような場合にはこれを指摘することがあります。
また、労働審判では付加金は認められませんが、異議が出て訴訟になり最終的に判決となれば付加金が命じられることがあるので、会社はどこかのタイミングで残業代の支払いに応じてくるのが通常です。
おすすめしない交渉方法3つ
労働審判は、基本的に労使間の法的な権利関係について審理したうえで、これについての解決を目指すものです。
第1次的には調停を目指すものであることから柔軟な解決が可能ではありますが、その場合でも、法的な権利として審理が困難な内容を求めると交渉はうまくいきません。
特に、正義感の強い方は、法的な権利として審理が困難な事項を求めてしまいがちです。
勿論、そのような考え方も十分に理解できるところはありますが、労働審判の手続とは異なってきますので、労働組合や労働基準監督署への相談の方が適していることがあります。
例えば、労働審判でおすすめしない交渉方法の例を挙げると以下の3つがあります。
・関係のないコンプライアンス違反を指摘する
・他の従業員の問題も解決しようとする
・会社に謝罪を求める
関係のないコンプライアンス違反を指摘する
労働者が働いている中で会社の不正などを見つけた場合に、それを労働審判委員会に知ってもらいたいと考えることもあるでしょう。
しかし、労働審判委員会では、申し立てている権利とは関係のないコンプライアンス違反を指摘しても、解決金の交渉にあたって考慮してもらえるわけではありません。
話を聞いてもらえることはあるでしょうが、限られた期日の中で指摘すべき事項は他にたくさんあります。
そのため、関係のないコンプライアンス違反を指摘することはおすすめしません。
他の従業員の問題も解決しようとする
残業代の事案などでは、自分の残業代だけではなく、他の同僚や部下にもしっかりと残業代を支払ってほしいと考える方もいるでしょう。
しかし、労働審判は、あなたと会社の権利関係に関する手続きですので、他の従業員との法律関係を解決することは困難です。
他の従業員の問題も解決してほしいということを労働審判委員会に伝えても、それは難しいとの話をされてしまうことになります。
そのため、労働審判において、他の従業員の問題も解決しようとすることはおすすめしません。
会社に謝罪を求める
労働者と会社の争いでは、これまでの会社からの扱いについて謝罪をしてほしいと考えている方もいるかもしれません。
しかし、労働審判では、労働者と会社の主張が食い違っているのが通常であり、そのような中で、会社から謝罪をしてもらうというのはかなり困難です。
労働審判委員会も、「謝罪」という要求ですと、会社に法的な義務がない以上、説得することができません。
そのため、労働審判において会社に謝罪を求めることはおすすしません。
労働審判で会社側が解決金を減額してくる手口とその対処法
労働審判では、会社側も、どうにかして解決金額を減額しようと様々な手口を講じてきます。
特に、会社は、残業代事件や解雇事件では、理屈面での反論が困難なケースも多く、法的な権利関係についての理屈とは別の部分で減額の交渉をされることもあります。
労働審判において、会社側が解決金を減額してくる手口の一部を紹介すると、例えば以下の10個が挙げられます。
手口1:お金がないと言ってくる
手口2:感情面を強調してくる
手口3:切りのいい数字に繰り下げてくる
手口4:労働者に弁護士が就く前の交渉経過を強調してくる
手口5:訴訟になれば他にも主張や証拠があることを強調してくる
【不当解雇の事案】
手口6:再就職していることを指摘される
手口7:勤務期間が短いことを強調してくる
手口8:他の社員があなたの復職を望んでいないと言ってくる
【残業代と不当解雇の事案】
手口9:残業代と解雇の解決金を混同してくる
【残業代の事案】
手口10:社会保険料の労働者負担分や源泉徴収税を控除したいと言ってくる
それでは一つずつ対処法を説明していきます。
手口1:お金がないと言ってくる
会社は、労働審判委員会の心証が不利であるような場合には、お金がないからその金額を支払うことはできないと言ってくることがよくあります。
特に、中小企業や個人事業主が雇用主である場合には、このような反論がされる可能性を想定しておいた方がいいでしょう。
このような反論がされる理由は、「労働審判が確定した場合」又は「訴訟の判決が確定した場合」でも、会社の財産がないと認容された金額を回収することが困難であるためです。
審判や判決がされた場合であっても、その金額が自動的に支払われるわけではありません。
会社が審判や判決に従わない場合には、財産を調査したうえで、その財産を差し押さえる手続きをする必要があります。
そのため、会社の財産に不安がある場合や会社の財産が把握できていない場合には、労働者にとって任意に支払いをしてもらえることはメリットとなりますので、交渉材料とされるのです。
お金がないから支払えないと言われた場合に減額に応じたくない場合の対処法は、以下の2つです。
①事前に財産を調べておく
②分割での支払いを求める
①事前に財産を調べておく
事前に会社の財産を調べておき、審判や判決になった場合に差し押さえることができる財産を把握できれば、減額に応じる理由はありません。
財産があることは把握しているので減額には応じることができないと返答しましょう。
例えば、会社のホームページを見たり、本社の不動産登記などを取得したりすることで財産を把握できることがあります。
②分割での支払いを求める
財産が把握できていないものの、減額には応じたくないという場合には、分割での支払いが協議されることになります。
ただし、分割での支払いのデメリットとして分割期間が長期にわたる場合には、途中で不払いとなることがあります。
そのため、不払いになった場合には、その時点ですべての金額について執行ができる旨や遅延損害金の条項を入れることにより、リスクを回避することを検討します。
もっとも、場合によっては、少し譲歩してでも一括で支払ってもらった方がいいこともありますので、慎重に検討しましょう。
手口2:感情面を強調してくる
会社は、理屈での反論が難しい場合には、感情面を強調してくることがあります。
「〇〇円しか支払いたくない」、「全然会社に貢献していなかった」、「中小企業なので大目に見てほしい」等々です。
先ほど説明したように、最終局面で感情面から少し譲歩してほしいと言われた場合には、早期解決のために、やむなく譲歩せざるを得ないこともあります。
しかし、当初からのこのような感情だけを理由に減額を求めてくる場合には、応じる必要はありませんし、交渉にならないので労働審判委員会の調停案を求めることも一つの手です。
手口3:切りのいい数字に繰り下げてくる
先ほど説明したように、和解の話し合いでは解決金の金額を切りのいい数字にしようとすることがあります。
会社側は切りのいい数字に繰り下げようとしてきます。
労働者が減額に応じたくないときは、切り上げを求めるか、又は切りのいい数字に整えずに和解することを求める方法があります。
手口4:労働者に弁護士が就く前の交渉経過を強調してくる
会社は、労働者に弁護士が就く前の交渉経過を強調してくることがあります。
例えば、以下のような場合です。
①労働者が自分で残業代の計算をして請求していたような場合
②労働基準監督署からの指導がされていた場合
③退職勧奨が行われていた場合
まず、①労働者の方が自分で残業代を計算して請求していたような場合だと計算のポイントを見落としていることが多く、弁護士がしっかりと計算し直すと100万円以上の差が生じることもあります。
このような場合には、会社は、当初予期していた金額を超える請求を受けることになり、今までの請求金額と違うとの指摘をしてくることがあります。
次に、②労働基準監督署からの指導では、法的に争いがある事項などについては十分に指導してもらえないことがあります。会社は、この点を指摘して労働基準監督署からも、その点は問題とされていなかったなどと指摘してくることがあります。
更に、③不当解雇の前に退職勧奨が行われていた場合ですと、その際の会話が録音されていることがあります。例えば、会社が労働者に対して再就職の準備をするように促し、労働者に就職活動の状況を報告するように求めることで、退職自体には争いがないように見える状況が作られていくことがあります。このような場合には、退職すること自体には同意していたはずであるなどと指摘されます。
会社が上記のような交渉経過を指摘してきた場合であっても、基本的には、労働審判に至った以上は、以前の交渉を前提とすることはできないと対応すれば足ります。
ただし、事実認定で不利な証拠として使われることもありますので、交渉段階から弁護士に相談しておくことをおすすめします。
手口5:訴訟になれば他にも主張や証拠があることを強調してくる
会社は、訴訟になれば他にも主張や証拠があるなどと強調してくることがあります。
確かに、本当に会社側には主張や証拠まだ他にもある場合があります。第1回期日は申し立てから40日以内に開かれ、答弁書は期日の1週間前までに提出しなければいけないので、会社は準備に1か月程度しかかけることができないためです。
しかし、通常は、会社側も、労働審判委員会の心証や解決金額を左右するような重要な証拠については、期日までに提出してきます。そのため、実際には、それ以上有力な主張や証拠がないケースも多いのです。
そのため、基本的には主張や証拠が提出されていなければ、減額に応じる必要はないでしょう。
もしも、会社が他にも主張や証拠があることにこだわり、和解の話が進まない場合には、具体的な主張と証拠の内容、提出までに必要な期間を尋ねて、次回期日までに提出するように言うことも考えられます。
ただし、主張や証拠が多くなってくると労働審判には不向きな事件として、労働審判委員会から、これ以上は訴訟でやるように言われることがあります。
手口6:再就職していることを指摘される|不当解雇の事案
不当解雇の事案において、労働審判の段階で既に他の会社に再就職していると、再就職先から得た収入分を控除するように指摘されることがあります。
労働審判委員会からも、解雇に理由がないことが明らかであるような事案で労働者を説得する材料が少ないようなケースでは、会社側から指摘されていなくても、再就職しているのかを聞かれることがあります。
労働者は、これについて素直に答える必要がありますので、もしも再就職している場合にはその旨を答えることになります。
ただし、判例において、再就職先から得た収入分を控除できるのは、解雇後の賃金のうち6割を超える部分に限定されていますので、得た金額全額を控除する必要はないこともあります。
不当解雇と再就職については以下の記事で解説しています。
手口7:勤務期間が短いことを強調してくる|不当解雇の事案
会社は、不当解雇の事案では、勤務期間が短いことを理由に解決金を減額するように求めてくることがあります。
例えば、試用期間満了による本採用拒否や内定取り消しなどですと、この傾向が顕著です。
減額を求める理由は、「会社への貢献度が少ない」や「解雇による影響が小さい」などの趣旨であることが多い印象です。
JILPTの調査結果によると、労働審判における解決金額の分布は以下のとおりです。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
平均値は以下のとおりとなっており、勤続年数が長くなるにつれて解決金額が大きくなっています。
勤続1か月未満 3.0か月分
勤続1か月-1年未満 4.8か月分
勤続1-5年未満 4.9か月分
勤続5-10年未満 8.4か月分
勤続10年以上 11.2か月分
また、海外における立法では、解雇をする際に会社が支払う必要のある補償金は、労働者の勤続年数に比例して定められているのが通常です。
解雇における補償金の議論については以下の記事で詳しく解説しています。
しかし、日本では解雇の補償金という考え方は取られておらず、法律上の理屈としては、解雇が無効である場合には、会社はそれ以降の賃金を支払う義務を負うことになります。
これまでの勤務期間がどの程度かというのは、中心的な請求である解雇後の賃金の請求とは関係がない問題です。
そのため、勤務期間が短いことを理由とする減額の要請には基本的には応じる必要がないでしょう。
もしも、勤務期間が短いことが考慮されるとしても、①慰謝料金額の算定事情や②解雇の合理性・相当性を判断するための一事情とされる程度でしょう。
勤務期間が不当解雇の慰謝料の算定要素となることは、以下の記事を参考にしてください。
勤務期間が解雇の合理性に影響する場合があることは、以下の記事を参考にしてください。
手口8:他の社員があなたの復職を望んでいないと言ってくる|不当解雇の事案
会社は、他の社員があなたの復職を望んでいないなどと言うことで、労働者の復職の意思や争う気力を削ごうとしてくることがあります。
労働審判では、労働審判委員会が間に入る以上、直接的な言い方をされることは通常ありません。
しかし、大量の従業員の陳述書を証拠として提出して、その陳述書にあなたへの不満や復職を望んでいないことを記載してくることがあります。
このような陳述書を読んで弱気になってしまう方もいるかもしれませんが、それが会社の作戦である場合もあるのです。
会社の出してくる陳述書は、他の従業員が本心ばかりを書いているとは限らず、これからもその会社で働き続けなければならないためやむなく協力している方も多くいるはずです。
そのため、孤立しているように感じてしまったとしても、よくある手口の一つとして、あまり気にしないことが大切です。
労働審判委員会もあまり気にしないようにと励ましてくれることがあります。
手口9:残業代と解雇の解決金を混同してくる|残業代・不当解雇の事案
労働審判をする際には、残業代と不当解雇双方について争うケースがあります。
このようなケースですと、会社は、残業代の解決金と不当解雇の解決金を区別して算定せず、全体として賃金の〇か月分で解決したいなどと提案してくることがよくあります。
実際、JILPTの調査結果によると、労働審判と訴訟における事案別の解決金額の分布は以下のとおりとなっています。
(出典:JILPT「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」労働政策研究報告書No.174(2015))
労働審判の解決金額の平均は、全体の平均が賃金の6.3か月分であるのに対して、残業代請求を付加した事案では7.6か月分となっています。
訴訟上の和解における解決金額の平均は、全体の平均が11.3ヶ月分であるのに対して、残業代請求を付加した事案では11.7か月分となっています。
このことから、残業代と解雇の双方が問題となっている事案の解決金額は、単純に不当解雇の解決金額に残業代の解決金額を付加しているわけではないことが分かります。
しかし、理屈としては、残業代と不当解雇は全く別の問題なので不当解雇の解決金額に付加して、残業代の解決金額も支払われるべきです。
審判や判決になった場合と同等の金額を獲得していくという観点からは、「残業代」と「不当解雇」の解決金は区別して算定してほしいと伝えるべきでしょう。
手口10:社会保険料の労働者負担分や源泉徴収税を控除したいと言ってくる|残業代の事案
会社によっては、稀に、社会保険料や税金の労働者負担分を控除してほしいと言ってくることがあります。
確かに、未払い賃金という名目での支払いとなるのであれば、会社のこのような指摘も考慮に値します。
しかし、解決金名目で支給する場合において、「訴訟で判決になったら労働者も社会保険料や税金を負担しなければならないのだからその分を減額してほしい」という趣旨であれば、考慮する必要はないでしょう。
なぜなら、社会保険料については、解決金名目で支払われることにより、会社もその負担分を免れるはずです。会社だけがその利益を享受して、労働者にだけ譲歩を求めるのは間違っているでしょう。
また、税金については、解決金名目で支払われる場合であっても、源泉されないだけであり、労働者が確定申告をして自分で納める必要があります。厳密に計算すると、給与所得よりも、一時所得としての処理の方が税金が安くなることはありますが、このような点まで和解で考慮する必要はないでしょう。
解雇が無効な場合の税金や社会保険料については、以下の記事で解説しています。
残業代請求と税金や社会保険料については、以下の記事で解説しています。
労働審判はリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
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リバティ・ベル法律事務所は、労働審判事件について、以下の3つの強みを持っています。
・完全成功報酬制
・労働審判の経験が豊富な弁護士が担当
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労働審判では、短い期間で充実した準備を行う必要があるため弁護士と迅速なやり取りが可能かどうかは非常に重要な課題です。
まとめ
以上のとおり、今回は、労働審判の解決金相場と増額交渉のテクニック、会社の減額手口への対処法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・労働審判の解決金の相場は、全体としてみると50万円~300万円程度での解決が多くなっています。
・労働審判の解決金額が決まる流れは、以下のとおりです。
ステップ1:書面とヒアリングで労働審判委員会の心証が形成される
ステップ2:労働者と会社の意向の確認
ステップ3:すり合わせ
・解決金を増額する交渉方法の中でも、誰でも実践できそうなものを一部紹介していくと以下の12個が挙げられます。
【事件一般】
方法1:見通しが明るい場合には予想される審判や判決を強調する
方法2:可能であれば会社に先に解決金を提案してもらう
方法3:労働審判員の心証を確認しながら提案金額を検討する
方法4:金額の根拠を言えるようにする
方法5:会社が歩みよってこない場合には安易に金額を下げない
方法6:時に感情面を強調してみるのも有効
方法7:切りのいい数字に繰り上げてもらう
方法8:悩んだら譲歩せずに次回期日に持ち越す
【不当解雇の事案】
方法9:復職の意思がある場合にはこれを強調する
方法10:退職を前提とする和解の場合には退職金を忘れずに指摘する
方法11:会社の落ち度で雇用保険に加入していない場合は指摘する
【残業代の事案】
方法12:訴訟の判決になると遅延損害金や付加金が必要となることを指摘する
・労働審判でおすすめしない交渉方法の例を挙げると以下の3つがあります。
①関係のないコンプライアンス違反を指摘する
②他の従業員の問題も解決しようとする
③会社に謝罪を求める
・労働審判では会社側が解決金を減額してくる手口の一部を紹介すると、例えば以下の10個が挙げられます。
【事件一般】
手口1:お金がないと言ってくる
手口2:感情面を強調してくる
手口3:切りのいい数字に繰り下げてくる
手口4:労働者に弁護士が就く前の交渉経過を強調してくる
手口5:訴訟になれば他にも主張や証拠があることを強調してくる
【不当解雇の事案】
手口6:再就職していることを指摘される
手口7:勤務期間が短いことを強調してくる
手口8:他の社員があなたの復職を望んでいないと言ってくる
【残業代と不当解雇の事案】
手口9:残業代と解雇の解決金を混同してくる
【残業代の事案】
手口10:社会保険料の労働者負担分や源泉徴収税を控除したいと言ってくる
この記事が労働審判の解決金に悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。