管理職が深夜残業をした場合に手当をもらえるのかどうか知りたいと悩んでいませんか?
管理職になると残業代は出なくなると言われた方もいるかもしれませんが、深夜手当まで支払われなくなるのかどうか気になりますよね。
結論としても、管理職でも、深夜残業をすれば0.25倍の割増率により計算した手当をもらうことができます。
なぜなら、労働基準法上、管理監督者になると適用されないとされているのは、労働時間と休憩、休日に関する規定のみだからです。管理監督者になった後も深夜手当についての規定は適用されます。
しかし、会社によっては、管理職に対して深夜手当も支払わなくていいと誤った理解をしていることがあります。
更に、実際には、管理職であっても、法律上の管理監督者に該当しない名ばかり管理職にすぎない事例が非常に多くなっています。
このような事例では、管理職であっても、深夜手当だけではなく、時間外手当と休日手当も支払ってもらうことができます。
深夜手当や時間外手当、休日手当については、これまで支払ってもらうことができていなかった場合でも、時効にかかっていない部分については、遡って請求することができます。
この記事であなたが本当は深夜手当や時間外手当、休日手当を取り戻すことができるかについて確認していきましょう。
今回は、管理職も深夜残業をした場合には手当をもらえることについて、法律上の根拠や計算方法を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、管理職であることを理由に深夜残業の手当をもらえない場合にどうすればいいかがよくわかるはずです。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
管理職も深夜残業手当はもらえる|法律上の根拠は労働基準法
管理職も、深夜残業手当をもらうことができます。
なぜなら、労働基準法上、管理監督者への適用が除外されているのは、労働時間、休日、休憩に関する規定であり、深夜割増賃金に関する規定の適用は除外されていないためです。
詳しく説明すると、労働基準法上、管理監督者については以下の規定があります。
労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」
そのため、法定労働時間や法定休日を定めた以下の規定は管理監督者には適用されません。
労働基準法第32条(労働時間)
1「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」
2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
労働基準法第35条(休日)
1「使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。」
つまり、管理監督者の場合には、1日8時間、1週40時間を超えて働いた場合にも法定時間外労働にはならず、1週間休みなく働いたとしても法定休日に労働したとはいえません。したがって、時間外手当や休日手当は発生しません。
これに対して、深夜割増賃金について定めた以下の規定は、時間帯に着目した規定にすぎず、労働時間、休日、休憩について定めたものとはいえないので、管理監督者であっても適用されます。
労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
4「使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
つまり、管理監督者の場合得あっても、午後10時~午前5時までの間に働いた場合には、深夜割増賃金が発生します。
以上より、管理職も、労働基準法上、深夜残業手当を支払ってもらえるのです。
ただし、管理職に支払われている所定の賃金(基本給)等の中に、既に一定の深夜割増賃金が含まれている場合には、その限度においては深夜割増賃金の支払いが不要となります。
もっとも、所定賃金(基本給)等の中に既に一定の深夜割増賃金が含まれていると言えるためには、①就業規則や労働協約、雇用契約書等にその根拠があることの他、②その含まれている深夜割増賃金の金額が明確であることが必要でしょう。
固定残業代については以下の記事で詳しく解説しています。
判例(最二小判平21.12.18集民232号825頁[ことぶき事件])は、管理監督者に該当する労働者も、深夜割増賃金を請求できることについて、以下のように判示しています。
⑴ 深夜割増賃金の適用は除外されないこと
「労基法における労働時間に関する規定の多くは,その長さに関する規制について定めており,同法37条1項は,使用者が労働時間を延長した場合においては,延長された時間の労働について所定の割増賃金を支払わなければならないことなどを規定している。他方,同条3項は,使用者が原則として午後10時から午前5時までの間において労働させた場合においては,その時間の労働について所定の割増賃金を支払わなければならない旨を規定するが,同項は,労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で,労働時間に関する労基法中の他の規定とはその趣旨目的を異にすると解される。」
「また,労基法41条は,同法第4章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,同条各号の一に該当する労働者については適用しないとし,これに該当する労働者として,同条2号は管理監督者等を,同条1号は同法別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者を定めている。一方,同法第6章中の規定であって年少者に係る深夜業の規制について定める61条をみると,同条4項は,上記各事業については同条1項ないし3項の深夜業の規制に関する規定を適用しない旨別途規定している。こうした定めは,同法41条にいう『労働時間,休憩及び休日に関する規定』には,深夜業の規制に関する規定は含まれていないことを前提とするものと解される。」
「以上によれば,労基法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく,管理監督者に該当する労働者は同項に基づく深夜割増賃金を請求することができるものと解するのが相当である。」
⑵ 所定賃金に深夜割増賃金が含まれている場合
「もっとも,管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はないところ,原審確定事実によれば,上告人の給与は平成16年3月までは月額43万4000円,同年4月以降退社までは月額39万0600円であって,別途店長手当として月額3万円を支給されており,同16年3月ころまでの賃金は他の店長の1.5倍程度あったというのである。したがって,上告人に対して支払われていたこれらの賃金の趣旨や労基法37条3項所定の方法により計算された深夜割増賃金の額について審理することなく,上告人の深夜割増賃金請求権の有無について判断することはできないというべきである。」
管理職に深夜残業手当を支給しない会社の間違った言い分3選
会社によって管理職に対して深夜残業手当を支給しないことがあります。
そのような会社の間違った言い分として、例えば以下の3つがあります。
間違った言い分1:管理職に残業代はないとの言い分
間違った言い分2:就業規則に支給規定がないとの言い分
間違った言い分3:基本給や役職手当に含まれているとの言い分
それでは、これらの言い分がなぜ間違っているのかについて、それぞれ説明していきます。
間違った言い分1:管理職に残業代はないとの言い分
管理職に深夜残業手当を支給しない会社の間違った言い分の1つ目は、管理職に残業代はないとの言い分です。
先ほど見たとおり、管理監督者は、時間外手当と休日手当は請求できませんが、深夜手当を請求することはできます。
そのため、管理職に残業代はないとの言い分は、深夜残業手当を支給しないことを正当化するものではありません。
間違った言い分2:就業規則に支給規定がないとの言い分
管理職に深夜残業手当を支給しない会社の間違った言い分の2つ目は、就業規則に支給規定がないとの言い分です。
深夜割増賃金は、労働基準法によりその支給が義務付けられたものです。
つまり、就業規則や賃金規程には、管理職への深夜割増賃金の支給が規定されていない場合であっても、労働基準法に基づき請求することができます。
そのため、就業規則に支給規定がないとの言い分は、深夜残業手当を支給しないことを正当化するものではありません。
間違った言い分3:基本給や役職手当に含まれているとの言い分
管理職に深夜残業手当を支給しない会社の間違った言い分の3つ目は、基本給や役職手当に含まれているとの言い分です。
基本給や役職手当等の賃金に深夜残業手当が含まれているというためには、①就業規則や労働協約、雇用契約書等にその根拠があることの他、②その含まれている深夜割増賃金の金額が明確であることが必要です。
確かに、上記①②を満たす場合には、会社側の言い分が間違っているとは言い切れない場合があります。
しかし、上記のように①就業規則や労働協約、雇用契約書上の根拠がない場合、又は、②根拠となる規定や記載があってもその含まれている金額が不明確である場合には、会社側の言い分は認められません。
そのため、基本給や役職手当に含まれているとの言い分は、一定の条件を満たしていない限り、深夜残業手当を支給しないことを正当化するものではありません。
会社によっては、残業をする場合には申請が必要であるところ、そのような申請がなかったので深夜残業手当を支払っていないとの言い分を出してくることもあります。
これについては深夜に業務を行った時間が客観的に会社の指揮監督下におかれていたかどうかという労働時間に関する論点となります。
残業申請に関する一般的な傾向としては、明示的な残業の許可がない場合であっても、会社側が残業が行われていることを知りつつ、これに対して異議を唱えなかったような場合には、黙示的な許可あったものとされる傾向にあります。
そのため、管理職が残業の申請をしていない場合であっても、会社側がそのような労働が行われていることを認識しつつ、異議を唱えない場合には黙示の許可があったものとして、深夜残業手当を支払う必要があります。
したがって、管理職であっても、深夜残業を行う場合には、タイムカードがないときには、会社に対して、メールや日報等でその報告を行うことが望ましいでしょう。
管理職の深夜残業手当の計算方法|割増率は1.50倍ではなく0.25倍
管理職(管理監督者)の深夜残業手当の計算方法は以下のとおりです。
これに対して、管理職(管理監督者)以外の場合には深夜残業手当の計算方法は以下のとおりです。
深夜残業というのは、時間外残業を深夜に行う場合のことを言います。
そのため、本来は、時間外残業手当(1.25倍)の他に、深夜手当(0.25倍)が加算され、合計1.50倍の手当が発生することになります。
しかし、管理職(管理監督者)の場合には、時間外残業手当(1.25倍)については発生しませんので、深夜手当(0.25倍)のみにより計算されます。
したがって、管理職の深夜残業手当の割増率は1.50倍ではなく、0.25倍となるのです。
深夜残業手当の計算方法は以下の記事により詳しく解説しています。
管理職が深夜残業手当を請求する手順
管理職でも深夜残業手当がつかない場合には、先ほど見たように未払い分の請求をすることができる可能性があります。
しかし、会社側は、管理職には深夜残業手当の支払いを不要と考えているケースもあり、これを取り戻すには、あなた自身が行動を起こしていく必要があります。
具体的には、管理職の方は深夜残業手当を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:残業代の支払いの催告をする
手順2:残業代の計算
手順3:交渉
手順4:労働審判・訴訟
それでは、順番に説明していきます。
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
手順1:残業代の支払いの催告をする
残業代を請求するには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・残業代の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順2:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
手順3:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
手順4:労働審判・訴訟
交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
名ばかり管理職なら時間外・休日手当も請求できる
実は、管理職でも、名ばかり管理職にすぎない場合には、深夜残業手当だけではなく、時間外手当と休日手当についても請求することができます。
管理職は、労働基準法上は、「管理監督者」と「名ばかり管理職」に分けることができます。
そして、管理監督者に該当するためには、以下の3つの条件を満たさなければならず、とても厳格に解されています。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
そして、これらを満たさない場合には、労働基準法上は、名ばかり管理職にすぎないとして、何らかの役職に付けられていたとしても、時間外手当や休日手当を支給しないといけないのです。
実際、管理職とされている方の多くは名ばかり管理職に過ぎないのが現状です。
もしも、あなたが会社に対して深夜残業手当を請求したいと考えている場合には、名ばかり管理職として時間外手当や休日手当についても請求することができないか確認してみるといいでしょう。
名ばかり管理職かどうかの判断基準については以下の記事で詳しく解説しています。
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
管理職の残業代請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
管理職の方の残業代請求については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
管理職の残業代請求については、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性について適切に主張を行っていく必要があります。
また、残業代請求については、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
リバティ・ベル法律事務所では、管理職の残業代請求について圧倒的な知識とノウハウを蓄積しておりますので、あなたの最善の解決をサポートします。
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まとめ
以上のとおり、今回は、管理職も深夜残業をした場合には手当をもらえることについて、法律上の根拠や計算方法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・管理職も、深夜残業手当をもらうことができます。
・管理職(管理監督者)の深夜残業手当の計算方法は、「基礎賃金÷所定労働時間×0.25倍×深夜残業時間」です。
・管理職の方は深夜残業手当を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:残業代の支払いの催告をする
手順2:残業代の計算
手順3:交渉
手順4:労働審判・訴訟
・管理職でも、名ばかり管理職にすぎない場合には、深夜残業手当だけではなく、時間外手当と休日手当についても請求することができます。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。