部長として働くようになり残業代が出なくなったとの悩みを抱えていませんか?
責任も労働時間も増えるのに残業代が出なくなってしまったので、年収が下がってしまったという方もいるでしょう。
結論から言うと、労働基準法では、部長だからといって、残業代を支払わなくていいとはされていません。
法律上は、管理監督者に対しては時間外手当と休日手当を支払わなくていいとされていますが、管理監督者かどうかは役職の名称に捉われずに判断されることになります。
具体的には、部長であっても、以下の3つの条件のどれか一つでも満たしていない場合には、管理監督者に該当しないことになり、残業代を請求できます。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
判例では、管理監督者の条件はとても厳格に解されているため、いわゆる管理職の方でも、法律上の管理監督者に該当する方はほんの一握りです。
実は、現在の日本において管理職として扱われている多くの方は、法律上は、3年の時効にかかっていない範囲で遡って会社に対して未払い残業代を請求できる可能性があるのです。これは退職した後の方も同様です。
しかし、部長職にあるほとんどの方は、管理職だから残業代は出ないとの会社の言い分を、十分に検討することなく信じてしまっています。
この記事をとおして、少しでも多くの部長職の方に正しい管理監督者の考え方を伝えていくことができればと思います。
今回は、部長職にある方の残業代請求について、確認事項や請求方法をわかりやすく解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、部長職にある「あなた」が残業代を請求できるかどうかがよくわかるはずです。
部長の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
部長だと残業代は出ない? 実はそんなことはない!
結論から言うと、労働基準法では、部長だからといって、残業代を支払わなくていいとはされていません。
法律上規定されているのは、管理監督者に対しては、労働時間や休日に関する規定が適用されないということです。
労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
部長職は、役職上の位置づけとしては、社長や役員に次ぐ地位となっており、課長や係長に比べると上位となります。
しかし、管理監督者かどうかは、役職の名称に捉われずに判断されます。
行政通達も、「監督又は管理の地位に存る者とは、一般的には局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべき」としています(昭和22年9月13日基発17号)。
つまり、部長という役職を与えられていても、それだけでは法律上の管理監督者には該当しません。
実態としても、労働基準法上の労働時間や休日の規制を適用しないことが許容されるような働き方をしていることが必要とされるのです。
そして、労働基準法は、労働者が人たるに値する生活を営むにあたっての労働条件の最低基準であり、部分的にであっても適用を排除することには慎重でなければなりません。
そのため、部長であっても、容易には管理監督者に該当するとはされないのです。
管理職の時間外労働については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職の休日労働については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職の深夜労働については、以下の記事で詳しく解説しています。
~部長の月間総労働時間数は平均175.6時間~
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると部長クラスの方の月間総労働時間数の平均は175.6時間となります。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査9頁)
法定労働時間である週40時間を基準に考えたとしても月平均所定労働時間は173.80時間であり、少なくともこれを超える時間は法定労働時間を超えた時間となります。
部長クラスの方ですと、月間総労働時間数170時間以上190時間未満が27.4%、月間総労働時間数190時間以上220時間未満が19.8%、220時間以上が8.2%存在しています。
そのため、少なくとも約55.4%以上の方は残業をしていることになります。
管理職の労働時間については、以下の記事で詳しく解説しています。
部長の管理監督者該当性の判断方法と傾向
部長が管理監督者に該当するためには、以下の3つの条件を満たすことが必要です。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
管理監督者の条件については以下の記事で詳しく解説しています。
管理監督者の条件については、以下の動画でも詳しく解説しています。
それでは部長職の方につき、各条件に関してどのように判断される傾向にあるのか順番に解説していきます。
条件1:経営者との一体性
部長が管理監督者に該当するための条件の1つ目は、経営者との一体性です。
経営者との一体性とは、会社の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を持っていることです。
経営や労務管理の一部のプロセスに関与している場合であっても、影響力や発言権が乏しい場合には、管理監督者には該当しないとされる傾向にあります。
経営や労務管理の決定権やプロセスへの関与の有無に関する管理職への調査結果は以下の通りとされています。
部長職にある者のうち、事業所の組織機構に関する決定について、決定権がある者は36.1%、プロセス関与がある者は86.7%となっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査68頁)
ビジネスプロセスに関する決定について、決定権がある者は41.7%、プロセス関与がある者は87.6%となっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査68頁)
採用(正社員)に関する決定について、決定権がある者は18.6%、プロセス関与がある者は78.9%となっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査69頁)
社員の解雇(正社員)に関する決定について、決定権がある者は9.2%、プロセス関与がある者は74.6%となっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査69頁)
職場における人員配置等(正社員)の決定について、決定権がある者は33.2%、プロセス関与がある者は86.1%となっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査71頁)
社員の人事評価等(正社員)の決定について、決定権がある者は32.5%、プロセス関与がある者は90.0%となっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査71頁)
部下の有無と管理監督者性については、以下の記事で詳しく解説しています。
条件2:労働時間の裁量
部長が管理監督者に該当するための条件の2つ目は、労働時間の裁量です。
労働時間の裁量とは、始業時間や終業時間がどの程度厳格に取り決められ、管理されていたかの問題です。
部長に対する労働時間の把握方法の多くは、タイムカード・ICカードもしくはWEB打刻となっており、これら合計すると75.8%となります。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査22頁)
ただし、現在では、管理監督者に対しても健康に配慮する観点から、会社にも労働時間を把握する義務があります。
そのため、タイムカードへの打刻等を求められているからといって、そのことから当然に労働時間の裁量が否定されるわけではありません。
例えば、タイムカードへの打刻を義務付けられているのみならず、以下のような様なケースにも該当する場合には、労働時間の裁量が否定される傾向にあります。
ケース1:長時間労働にもかかわらず是正措置を怠っているケース
ケース2:一部の管理職にのみ義務づけられているケース
ケース3:遅刻や欠勤による控除がなされているケース
ケース4:労働時間の承認又は決済が必要なケース
ケース5:虚偽の労働時間を打刻させられているケース
管理職とタイムカードについては、以下の記事で詳しく解説しています。
条件3:対価の正当性
部長が管理監督者に該当するための条件の3つ目は、対価の正当性です。
対価の正当性とは、基本給、その他の手当において、その地位にふさわしい待遇を受けているか、賞与等の一時金の支給率やその算定基礎において、一般労働者に比べて優遇されているかの問題です。
部長クラスでは、役職・役付手当の支給額は実際の労働時間を勘案しても一般社員よりも高い水準であるとの回答が84.6%となっています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構:調査シリーズNo.212管理職の働き方に関する調査21頁))
ただし、上記は事業所に対するアンケートの結果であり、実態を反映していない可能性があります。
私がこれまで相談を受けてきた経験からも、役職手当の支給額を考慮しても、実際の労働時間を勘案すると一般社員よりも低い水準であると感じている方が相当いるはずです。
管理職と役職手当については、以下の記事で詳しく解説しています。
~部長に残業代を支払わないとの規則~
部長に対して、残業代を支払わないと就業規則や給与規定、雇用契約書に記載があったとしても、それによって、残業代を支払わないことが正当化されるわけではありません。
なぜなら、労働者に対して、残業代を支払わなければいけないことについては労働基準法に定められており、労働基準法よりも労働者に不利益な労働条件は無効となるためです。
例えば、就業規則に部長以上の者は管理監督者とするとの規定があったとしても、あなたが先ほどの3つの条件を満たしていなければ、残業代を請求できることになります。
そのため、就業規則や給与規定、雇用契約書に管理監督者であるため残業代は請求できないと記載されていたとしても、それによって残業代の請求をあきらめる必要はありません。
部長の管理監督者性を否定した判例(=残業代請求を肯定した判例)
部長の管理監督者性を否定した判例については多数存在します。
その中でも著名な以下の2つの判例を紹介します。
判例1:東京高判平成17年3月30日労判905号72頁[神代学園ミューズ音楽院事件]
判例2:東京地判平成18年5月26日労判918号5頁[岡部製作所事件]
なお、管理監督者に関する判例については、以下の記事で詳しく解説しています。
東京高判平成17年3月30日労判905号72頁[神代学園ミューズ音楽院事件]
神代学園ミューズ音楽院事件は、「教務部長の地位にあった者」と「事業部長の地位にあった者」につき、管理監督者性を否定しました。
【経営者との一体性】
教務部長につき、従業員等の採用に関して面接をするなどの人選に関与していることは認めつつ、その裁量により部の業務を行っていたとは認めることはできないとしました。
事業部長につき、経理に関する権限を一手に掌握し、多額の出費を自らの判断で行うなどの事実を認めることはできないとしました。
そのため、いずれについても、労働時間等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないといえるほどの重要な職務上の権限を付与されていたということは困難であるとしています。
【労働時間の裁量】
タイムカードにより出退勤が管理されていたことを認定したうえで、その勤務態様について自由にその裁量を働かせることができたとは考えにくいとしています。
【対価の正当性】
いずれも基本給30万円、役職手当10万円の支給を受けていたことが認定されていますが、かかる基本給と役職手当の支給だけで厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほど優遇措置が講じられていたとは言えないとしています。
東京地判平成18年5月26日労判918号5頁[岡部製作所事件]
岡部製作所事件は、工場の営業開発部長職につき、管理監督者性を否定しました。
【経営者との一体性】
部下がいないこと、経営会議のメンバーとなっているもののその会議では重要事項は決定されていないことから、経営参画状況は極めて限定的で、部下の人事権なり管理検証を掌握しているわけではないとされています。
職務内容が知識、経験、人脈等を動員して行う専門職的な色彩が強いものであるとことが認定されています。
【対価の正当性】
基本給として月額34万円、管理職手当として11万円を支給されていたことを考慮しても、管理監督者には当たらないとしています。
部長が未払い残業代を回収する方法
部長職の方が実際には管理監督者ではなく名ばかり管理職にすぎない場合には、時効(3年)にかかっていない範囲で遡って未払い残業代を請求することができます。
具体的には、部長職の方が未払い残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:時間外手当の支払いの催告をする
手順3:時間外手当の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
それでは、順番に説明していきます。
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
部長職の方が残業代を請求するには、まず名ばかり管理職の証拠を集めましょう。
名ばかり管理職としての証拠としては、例えば以下のものがあります。
①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。
手順2:時間外手当の支払いの催告をする
部長職の方が残業代を請求するには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・時間外手当の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:時間外手当の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに時間外手当を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
手順4:交渉
時間外手当の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
手順5:労働審判・訴訟
交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職の残業代請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
管理職の方の残業代請求については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
管理職の残業代請求については、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性について適切に主張を行っていく必要があります。
また、残業代請求については、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
リバティ・ベル法律事務所では、管理職の残業代請求について圧倒的な知識とノウハウを蓄積しておりますので、あなたの最善の解決をサポートします。
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残業に悩んでいる管理職の方は、一人で抱え込まずにお気軽にご相談ください。
まとめ
以上のとおり、今回は、部長職にある方の残業代請求について、確認事項や請求方法をわかりやすく解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・労働基準法では、部長だからといって、残業代を支払わなくていいとはされていません。
・部長が管理監督者に該当するためには、以下の3つの条件を満たすことが必要です。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
・部長職の方が未払い残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:時間外手当の支払いの催告をする
手順3:時間外手当の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
この記事が残業代が支払われずに困っている部長職の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
以下の動画も参考になるはずですので、是非、見てください。