1日9時間労働が違法になるのか知りたいと悩んでいませんか?
労働時間の上限などに関する規定は、会社の労働形態によって異なってくるため分かりづらいですよね。
結論から言うと、1日9時間労働は違法の可能性は低いですが、違法になる場合もあります。
なぜなら、労働時間の上限は労働基準法で1日8時間、週40時間までと定められていますが、36協定を締結することで時間外労働をすることができるようになるためです。
とはいえ、36協定を締結していなければ残業はできませんし、残業をさせた場合には残業代を支払う必要もあります。
そのため、変形労働時間制などの特殊な勤務形態を除いて、残業代を支払っていない場合などは違法の可能性があるのです。
このように残業代を十分に支給されていない場合には、未払い残業代を請求できる可能性があります。
実は、通常の勤務形態で1日9時間労働をさせているにも関わらず、残業代を支払われていないといったこともあるのです。
この記事を通して、1日9時間労働における未払い残業代の請求方法について知っていただければと思います。
今回は、1日9時間労働が違法になるケースと残業にならない可能性がある勤務形態を説明したうえで、未払い残業代の請求方法について解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、1日9時間労働が違法になるのかよくわかるはずです。
残業時間の平均や健康への影響については、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
1日9時間労働は違法?|労働時間の上限
結論から言うと、1日9時間労働は、違法の可能性は低いです。
労働時間の上限は労働基準法で定められていて、1日8時間、週40時間とされています。
労働基準法32条(労働時間)
1「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。」
2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
しかし、会社と労働者の間で事前に36協定というものを締結しておくことで、この上限を超えることができます。
これによって、月45時間、年360時間までの残業が許容されるようになります。
労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
4「……限度時間は、一箇月について四十五時間……とする。」
ほとんどの会社では残業をさせるために36協定を締結しているため、1日9時間労働が違法となる可能性は低いのです。
1日9時間労働が違法になるケース3つ
状況によっては、1日9時間労働で違法になるケースも存在します。
例えば、以下の3つのようなケースです。
ケース1:36協定を締結していない
ケース2:休憩時間を与えられていない
ケース3:残業代が支払われていない
それでは、違法になるケースについて順番に解説していきます。
ケース1:36協定を締結していない
違法になるケースの1つ目は、36協定を締結していない場合です。
そもそも36協定を締結していない場合、労働基準法の1日8時間、週40時間という労働時間の上限を超えることが許されません。
これは変形労働時間制やフレックスタイム制などの特殊な勤務形態であっても同様です。
36協定がなければ、1日の労働時間が8時間を超えることそれ自体が違法となるのです。
36協定に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
ケース2:休憩時間を与えられていない
違法となるケースの2つ目は、休憩時間を与えられていない場合です。
休憩時間は労働基準法で定められており、労働時間が6時間以上の場合には45分、8時間以上の場合には1時間以上の休憩時間を与えることとされています。
労働基準法34条
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
そのため、1日9時間労働をしているにも関わらず、休憩時間を与えられていない場合は、違法となるのです。
ケース3:残業代が支払われていない
違法となるケースの3つ目は、残業代を支払われていない場合です。
当然ではありますが、残業をすれば残業代が発生します。
労働基準法37条
……労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
稀に所定労働時間自体を9時間などに設定している会社もあるようですが、その場合でも同様です。
残業とは、法定時間外労働のことを指すため、1日8時間を超えた時間は残業という扱いになり、残業代を支払う必要があります。
そのため、残業をしているにも関わらず残業代を支払われていなければ、違法となるのです。
ただし、変形労働時間制などのような特殊な勤務形態においては、1日9時間労働が残業と扱われなくなることがあるため注意が必要です。
特殊な勤務形態に関しては、次の章で解説します。
勤務形態別!1日9時間労働が残業にならないケース3つ
勤務形態によっては、1日9時間労働をしても残業にならないケースもあります。
変則的な勤務形態の場合、労働時間の上限が単純に1日8時間、週40時間とならない場合があるためです。
例えば、以下のような勤務形態です。
勤務形態1:変形労働時間制
勤務形態2:裁量労働制
勤務形態3:フレックスタイム制
それでは、これらの勤務形態について、順番に解説していきます。
勤務形態1:変形労働時間制
変形労働時間制では、1日9時間労働が直ちに残業となるわけではありません。
変形労働時間制とは、1か月又は1年の期間において、1週間当たりの労働時間が40時間に収まっていればいいという制度です。
つまり、ある週において1日8時間、週40時間を超えていても、他の週の労働時間が少なく、平均して40時間になっていれば、法定労働時間を超えないことになります。
変形労働時間制に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
勤務形態2:裁量労働制
裁量労働制では、1日9時間労働が直ちに残業となるわけではありません。
裁量労働制とは、実際に働いた時間にかかわらず、一定の時間働いたとみなして給与を支払う制度です。
例えば、8時間労働したものとみなすとされている場合は、実際には12時間働いても、6時間しか働いても、どちらも同様に8時間働いたものとみなされます。
そのため、裁量労働制では、実際に1日9時間働いていたとしても、残業したことにはならないことがあるのです。
裁量労働制に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
勤務形態3:フレックスタイム制
フレックスタイム制では、1日9時間労働が直ちに残業となるわけではありません。
フレックスタイム制とは、清算期間内で定められた労働時間の範囲で、労働者が始業と終業を自由に決められる制度のことです。
清算期間を1~3か月から自由に設定し、清算期間内の週の労働時間の平均が40時間以内に収まっていればいいとされています。
例えば、清算期間内が1か月と設定されていたとして、その中で1日9時間労働を何日もしていたとしても、最終的な週あたりの平均労働時間が40時間以内であれば、残業をしたことにはならないのです。
そのため、フレックスタイム制のもとでは、1日9時間労働が直ちに残業となるわけではないのです。
残業にあたるか否かは、清算期間内の週当たりの平均労働時間から判断する必要があります。
1日9時間労働の残業代はいくら?大まかな月給別に紹介
通常の勤務形態で常態的に1日9時間労働をした場合の手取りと残業代について、大まかな月給ごとに解説していきます。
まず、残業代の計算方法は、以下の通りです。
基礎賃金÷所定労働時間×割増率×残業時間数
基礎賃金は、各種手当や臨時で支払われた賃金などを除いたものであり、基本給とは異なるため注意が必要です。
所定労働時間は、会社において定められている労働時間になります。
例えば、8時30分~17時30分までが労働時間だった場合、休憩時間を除いた8時間が所定労働時間になります。
割増率に関しては、以下の表のようになっています。
※これは最低限度の基準です。ここから会社が独自に増やすことは問題ありません。
※法定休日労働と法定時間外労働の割増率は重複しません。
残業時間は、時間外労働や法定休日などに働いた時間の合計となります。
残業代の計算については、以下の記事で詳しく解説しています。
それでは、常態的に1日9時間労働をしていた場合の、以下の月収における残業代と手取りについて計算していきます。
※手取りについては具体的な事案によって異なります。
・月給20万
・月給25万
・月給30万
・月給40万
この後計算も交えて解説しますが、具体的な金額は以下のようになります。
なお、所定労働時間を160時間と仮定し、手取りに関しては額面の75~85%で計算します。
また、週5日勤務の場合月によって20~22日程度出勤することになりますが、一律で月20日出勤として計算しているため、実際の金額よりも低くなっている可能性があります。
20万円
月収20万円の場合には、1か月あたりの残業代は、以下のとおりとなります。
20万円÷160時間×1.25倍×20時間
=
3万1250円
1か月の額面を23万1250円(20万+3万1250円)とすると、1か月のおおよその手取りは、以下のとおりになります。
23万1250円×75%~85%
=
17万3437円~19万6562円
そして、残業代の時効は3年のため、常態的に1日9時間労働をしていた場合の3年間の残業代を計算すると、以下のとおりになります。
3万1250円×3年(36か月)分
=
112万5000円
25万円
月収25万円の場合には、1か月あたりの残業代は、以下のとおりとなります。
25万円÷160時間×1.25倍×20時間
=
3万9062円
1か月の額面を28万9062円(25万+3万9062円)とすると、1か月のおおよその手取りは、以下のとおりになります。
28万9062円×75%~85%
=
21万6796円~24万5702円
そして、残業代の時効は3年のため、常態的に1日9時間労働をしていた場合の3年間の残業代を計算すると、以下のとおりになります。
3万9062円×3年(36か月)分
=
140万6232円
30万円
月収30万円の場合には、1か月あたりの残業代は、以下のとおりとなります。
30万円÷160時間×1.25倍×20時間
=
4万6875円
1か月の額面を34万6875円(30万+4万6875円)とすると、1か月のおおよその手取りは、以下のとおりになります。
34万6875円×75%~85%
=
26万0156円~29万4843円
そして、残業代の時効は3年のため、常態的に1日9時間労働をしていた場合の3年間の残業代を計算すると、以下のとおりになります。
4万6875円×3年(36か月)分
=
168万7500円
40万円
月収40万円の場合には、1か月あたりの残業代は、以下のとおりとなります。
40万円÷160時間×1.25倍×20時間
=
6万2500円
1か月の額面を46万2500円(40万+6万2500円)とすると、1か月のおおよその手取りは、以下のとおりになります。
46万2500円×75%~85%
=
34万6875円~39万3125円
そして、残業代の時効は3年のため、常態的に1日9時間労働をしていた場合の3年間の残業代を計算すると、以下のとおりになります。
6万2500円×3年(36か月)分
=
225万0000円
1日9時間労働の未払い残業代を請求するステップ4つ
未払いの残業代を請求するためには、適切な手順を踏んでいく必要があります。
未払い残業代請求の適切な手順は、以下のとおりです。
STEP1:通知書の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判・訴訟
ただし、労働審判や訴訟には費用が掛かるため、請求する残業代の金額によっては労力と得られる金額が見合わない可能性もあります。
また、弁護士に依頼する場合には弁護士費用も必要となります。
費用倒れになる可能性もあるため、請求できる金額や必要な労力、弁護士に依頼するか否かなどを考慮した上で方針を決めることが重要となります。
それでは、未払い残業代請求の適切な手順について解説していきます。
残業代の請求方法については、以下の動画で詳しく解説しています。
STEP1:通知書の送付
未払い残業代を請求する手順の1つ目は、通知書を送付することです。
未払い残業代を請求することを決めたら、まず最初に内容証明郵便などを使って、会社に通知書を送付することになります。
最初に通知書を送付する理由は、以下の2つです。
・時効を一時的に止めるため
・資料の開示を請求するため
残業代には時効があり、3年経過すると請求することができなくなってしまいます。
しかし、残業代の時効は、残業代を請求する意思を示すことで一時的に止めることができるのです。
そのため、まず最初に通知書を送付し、残業代の計算などをしている間に時効になってしまう月が発生しないようにする必要があるのです。
残業代の時効に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
送付する通知書は、以下のようなものになります。
STEP2:残業代の計算
未払い残業代を請求する手順の2つ目は、残業代の計算です。
会社から通知書に対する返答があったら、開示された資料などをもとに残業代を計算していくことになります。
しかし、場合によっては資料を開示してもらえないこともあるでしょう。
そのような場合には、自分で記録しておいたタイムカードの写真などの出退勤の時間が分かる資料を用いて計算していきましょう。
残業代の計算については、以下の記事で詳しく解説しています。
STEP3:交渉
未払い残業代を請求する手順の3つ目は、交渉です。
残業代の計算が終わったら、その結果をもとにして、会社と残業代の支払いについて交渉していくことになります。
それに対して、会社からは通常、計算方法などについて、何らかの反論があります。
そのように会社と争うことになった箇所については、裁判例や法律と照らし合わせて、説得的に主張していくことになります。
STEP4:労働審判・訴訟
未払い残業代を請求する手順の4つ目は、労働審判・訴訟です。
交渉しても話がまとまらない場合は、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを取っていくことになります。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
残業代の訴訟については、以下の記事でも詳しく解説しています。
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まとめ
今回は、1日9時間労働が違法になるケースと残業にならない可能性がある勤務形態を説明したうえで、未払い残業代の請求方法について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると、以下の通りです。
・1日9時間労働は、それだけをもって違法となる可能性は低いです。
・1日9時間労働が違法になるケースは、以下の3つ
ケース1:36協定を締結していない
ケース2:休憩時間を与えられていない
ケース3:残業代が支払われていない
・勤務形態別の1日9時間労働が残業にならないケース3つ
勤務形態1:変形労働時間制
勤務形態2:裁量労働制
勤務形態3:フレックスタイム制
・1日9時間労働が常態化していた場合の月の残業代、手取り、3年間続けた場合の残業代の総額は、以下の通りです。
・1日9時間労働の未払い残業代を請求するステップは、以下の4つです。
STEP1:通知書の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判・訴訟
この記事が1日9時間労働は違法ではないのかと悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので、読んでみてください。