懲戒解雇でも解雇予告手当をもらうことができないか悩んでいませんか?
会社から予告なしに突然解雇されてしまうと生活にも困ることになってしまいますよね。
結論としては、懲戒解雇の場合でも、解雇予告手当をもらえる可能性があります。
ただし、「労働者の責めに帰すべき事由」があるとされてしまった場合には、もらうことができません。
また、会社は、解雇予告手当を不支給とするには、労働基準監督署で除外認定を得る必要があります。
実際には、この除外認定を受けることなく解雇予告手当を不支給としている会社が非常に多いのです。
更に、そもそも懲戒解雇自体が濫用に当たるようなケースも多く、そのような場合には、解雇後の賃金や慰謝料を請求できる可能性があります。
労働者が解雇について十分な知識がないことをいいことに、無理な解雇が強行されている事案が散見されますので十分に注意しましょう。
今回は、懲戒解雇でも解雇予告手当をもらえる可能性があることについて解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、あなたが解雇予告手当をもらえる可能性があることがよくわかるはずです。
目次
懲戒解雇で解雇予告手当が支給されない理由
懲戒解雇では会社から解雇予告手当を支給してもらえないことがあります。
その理由は、労働基準法20条では、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には、解雇の予告ないしは解雇予告手当の支払いが不要とされているためです。
労働基準法20条(解雇の予告)
1「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、…労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。」
多くの会社は、懲戒解雇をする場合には、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に該当するものとして、解雇予告手当を支払わないとの対応をしてくるのです。
しかし、実際には、懲戒解雇の場合であれば、必ず「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に該当するというわけではありません。
つまり、懲戒解雇された場合であっても、解雇予告手当を請求できる可能性があるのです。
懲戒解雇で解雇予告手当が支給されない6つの例
それでは、懲戒解雇で解雇予告手当が支給されないのは、どのような場合かについて説明していきます。
先ほど記載したとおり、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には、解雇予告手当の支払いが不要とされています。
「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由のことをいいます。
具体的には、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、労働基準法20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、30日前に解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して均衡を失する場合かが総合的に判断されることになります。
行政通達では、懲戒解雇で解雇予告手当が支給されない「労働者の責に帰すべき事由に該当する場合」の例が挙げられています(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)。
具体的には、懲戒解雇で解雇予告手当が支給されない例としては、以下の6つがあります。
例1:盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
例2:賭博、風紀紊乱等による職場規律を乱す行為があった場合
例3:重要な経歴を詐称した場合
例4:他の会社に転職した場合
例5:2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
例6:出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合
盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
以下では、「事業場内における盗取等」と「事業場外における盗取等」に分けて説明します。
事業場内における盗取等
原則として、極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為のあった場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
また、極めて軽微な事案であっても、使用者があらかじめ不祥事件の防止について諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、しかもなお労働者が継続的に又は断続的に盗取、横領傷害等の刑法犯又はこれに類する行為を行った場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
事業場外における盗取等
事業場外で行われた盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為については、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
窃盗を理由とする懲戒解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
横領を理由とする懲戒解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
傷害を理由とする懲戒解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
賭博、風紀紊乱等による職場規律を乱す行為があった場合
以下では、「事業場内における賭博、風紀紊乱等」と「事業場外における賭博、風紀紊乱等」に分けて説明します。
事業場内における賭博、風紀紊乱等
賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
事業場外における賭博、風紀紊乱等
また、これらの行為が事業場外で行われた場合であっても、それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失ついするもの、取引関係に悪影響を与えるもの又は労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合には、「労働者の責めに帰すべき事由」に該当します。
賭博を理由とする懲戒解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
重要な経歴を詐称した場合
雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合及び雇入れの際、使用者の行う調査に対し、不採用の原因となるような経歴を詐称した場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
経歴詐称を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
他の会社に転職した場合
他の事業場へ転職した場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
原則として、2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
無断欠勤を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合
出勤不良又は出勤常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合には、「労働者の責に帰すべき事由」に該当します。
出勤不良を理由とする解雇については、以下の記事で詳しく解説しています。
「労働者の責に帰すべき事由」に該当しない場合であっても、以下の事案では解雇予告手当を請求できません。
①解雇の予告がされている場合
②やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合
③労働者が一定の属性の場合
一般的な解雇予告手当の不支給の例については、以下の記事で詳しく解説しています。
懲戒解雇の解雇予告手当と除外認定
懲戒解雇をした際に解雇予告ないし解雇予告手当の支払いをしない場合には、労働基準法上、除外認定を受けることが必要とされています。
除外認定とは、解雇予告の除外事由があることについての労働基準監督署長の認定です。
労働基準法20条(解雇の予告)
3「前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。」
労働基準法19条(解雇制限)
2「前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。」
除外認定を受けずに、解雇予告ないし解雇予告手当の支払いをしない場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されることになります。
労働基準法第119条
「次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
一「…第二十条…の規定に違反した者」
ただし、行政官庁の除外認定を受けないでされた即時解雇も、認定を受けなかったことを理由に無効となるわけではありません。除外認定は、行政庁における事実の確認手続にすぎないためです(東京地判平成14年1月31日労判825号88頁[出雲商会事件])。
懲戒解雇で解雇予告手当を請求する方法
懲戒解雇された場合には、通常、会社は解雇予告手当の支払いをしてくれません。
もしも、解雇予告手当をもらいたいと考えた場合には、あなた自身がこれを請求するために行動していく必要があります。
具体的には、以下の手順で請求していくことがおすすめです。
手順1:解雇予告手当の計算
手順2:通知書の送付
手順3:交渉
手順4:労働審判・訴訟
それぞれの手順について順番に説明していきます。
手順1:解雇予告手当の計算
解雇予告手当を請求する手順の1つ目は、解雇予告手当の計算です。
解雇予告手当は、以下の方法により計算します。
算定期間の賃金総額÷算定期間の総日数×(30日-予告日の翌日から解雇日までの日数)
算定期間は、解雇日前日の以前3か月間です。賃金の締め切り日がある場合には、解雇日の前日に最も近い締切日の以前3か月間となります。
賃金総額は、算定期間に支払われた賃金の総額です。
算定期間の総日数は、算定期間の日数の合計です。
解雇予告がされていない場合には、予告日の翌日から解雇日までの日数は0日となります。
なお、賃金総額÷算定期間の総日数が最低金額を下回る場合には、最低金額により計算することになります。
手順2:通知書の送付
解雇予告手当を請求する手順の2つ目は、通知書の送付です。
解雇予告手当の金額を計算できたら、以下のような通知書を送付するのが通常です。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:交渉
解雇予告手当を請求する手順の3つ目は、交渉です。
通知書に会社からの回答があると、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうか協議をします。
手順4:労働審判・訴訟
解雇予告手当を請求する手順の4つ目は、労働審判・訴訟です。
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判は、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
60万円以下の請求の場合には、少額訴訟を利用することがおすすめです。少額訴訟では、原則として1回の期日で簡便な手続きにより解決することが可能です。
懲戒解雇での解雇予告手当の不支給は労働基準監督署にも相談できる
懲戒解雇での解雇予告手当の不支給は、労働基準監督署にも相談することができます。
労働基準監督署は、労働基準法等の法令に違反する事実を取り扱っています。
そして、先ほど見たように、解雇予告手当の支払いについては、労働基準法上の義務となりますので、これの不支給については労働基準法違反となります。
そのため、解雇予告手当の支払いをしていないことを労働基準監督署に相談することで、調査や指導をしてもらえる場合があるのです。
労働基準監督署への相談方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
解雇予告手当以外に請求できるお金5つ
労働者は、懲戒解雇をされた場合には、解雇予告手当以外にも以下のお金を請求できる可能性があります。
・失業保険
・退職金
・解雇後の賃金
・慰謝料
・未払い残業代
順番に説明していきます。
失業保険
解雇予告手当以外に請求できるお金の1つ目は、失業保険です。
懲戒解雇された場合であっても、あなたが失業したことに変わりはないため、失業保険を受給することが可能です。
ただし、重責解雇に該当する場合には、通常の解雇よりも以下の点で不利に扱われる可能性があります。
⑴ 受給するために必要な被保険者期間が長い
⑵ 3か月の給付制限がある(受給まで時間がかかる)
⑶ 失業保険の給付日数が短い
懲戒解雇と失業保険については、以下の記事で詳しく解説しています。
退職金
解雇予告手当以外に請求できる可能性のあるお金の2つ目は、退職金です。
懲戒解雇の場合には、会社は、退職金を支給しないとの対応をしてくることがあります。
これは退職金規程に、懲戒解雇の場合には退職金を支給しないとの条項が規定されていることがあるためです。
しかし、実際には、退職金規程に不支給の条項がある場合でも、常に退職金を支給しないことが許されるわけではありません。
裁判例は、退職金規程に不支給規定がある場合であっても、勤続の功を抹消してしまような強度の背信性があるとはいえない場合には、退職金を支給しなければならないとしています(東京高判平成15年12月11日労判867号5頁[小田急電鉄事件])。
懲戒解雇と退職金については、以下の記事で詳しく解説しています。
解雇後の賃金
解雇予告手当以外に請求できる可能性のあるお金の3つ目は、解雇後の賃金です。
懲戒解雇は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当といえない場合には、懲戒権の濫用として無効となります。
無効な懲戒解雇によってあなたが会社で働くことができなかった場合には、その原因は会社にあることになります。
そのため、懲戒解雇が無効とされた場合には、事後的に解雇日から解決までの賃金を支払ってもらうことができるのです。
例えば、令和3年6月1日懲戒解雇されて、解決までに1年間を要した場合には、その期間働くことができなかったとしても、1年分の賃金を後から支払ってもらうことができます。
バックペイ(解雇後の賃金)については、以下の動画でも詳しく解説しています。
ただし、解雇の無効を主張して解雇後の賃金を請求する場合には、解雇が有効であることを前提とする解雇予告手当や退職金の請求をしてしまうと矛盾するので注意しましょう。
解雇後の賃金については、以下の記事で詳しく解説しています。
慰謝料
解雇予告手当以外に請求できる可能性のあるお金の4つ目は、慰謝料です。
懲戒解雇が濫用にあたるにとどまらず、その悪質性が特に高いような場合には、慰謝料が認められることがあります。
不当解雇で慰謝料が認められる場合の相場は、50万円~100万円程度です。
不当解雇の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の慰謝料については、以下の動画でも詳しく解説しています。
未払い残業代
解雇予告手当以外に請求できる可能性のあるお金の5つ目は、未払い残業代です。
懲戒解雇が有効か無効かにかかわらず、未払い残業代がある場合には、これを請求することができます。
もしも、あなたが会社を退職することになっても、これまであなたが残業をしてきた事実がなくなるわけではないためです。
未払い残業代のおおよその金額については、以下の残業代チェッカーで簡単に確認することができます。
ただし、残業代請求には時効がありますので、早めに行動するように準備しましょう。
退職後の残業代請求については、以下の記事で詳しく解説しています。
実は濫用なことが多い!懲戒解雇は早めに弁護士に相談しよう!
懲戒解雇をされた場合には、早めに弁護士に相談することがおすすめです。
実は、懲戒解雇は、その条件を満たさず濫用となる場合がかなり多いためです。
弁護士に相談すれば、解雇予告手当だけではなく、懲戒解雇が有効かどうかや退職金の請求などについても相談することが可能ですので、より良い解決をできる可能性があります。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談をすることができますので、これを利用するデメリットは特にありません。
そのため、懲戒解雇をされた場合には、まずは弁護士に相談してみるべきなのです。
まとめ
以上のとおり、今回は、懲戒解雇でも解雇予告手当をもらえる可能性があることについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下の通りです。
・懲戒解雇で解雇予告手当が支給されない理由は、労働基準法20条では、「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」には、解雇の予告ないしは解雇予告手当の支払いが不要とされているためです。
・懲戒解雇で解雇予告手当が支給されない例としては、以下の6つがあります。
例1:盗取、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
例2:賭博、風紀紊乱等による職場規律を乱す行為があった場合
例3:重要な経歴を詐称した場合
例4:他の会社に転職した場合
例5:2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
例6:出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合
・懲戒解雇をした際に解雇予告ないし解雇予告手当の支払いをしない場合には、労働基準法上、除外認定を受けることが必要とされています。
・懲戒解雇をされた場合の解雇予告手当は、以下の手順で請求していくことがおすすめです。
手順1:解雇予告手当の計算
手順2:通知書の送付
手順3:交渉
手順4:労働審判・訴訟
・労働者は、懲戒解雇をされた場合には、解雇予告手当以外にも以下のお金を請求できる可能性があります。
①失業保険
②退職金
③解雇後の賃金
④慰謝料
⑤未払い残業代
この記事が懲戒解雇されてしまい解雇予告手当を支給されずに悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。