自分の勤めている会社の「残業」がブラックかどうか悩んでいませんか?
ブラック企業とは、一般に、労働者を酷使して劣悪な労働環境で働かせる企業との意味で用いられる傾向にあります。
それでは、「残業」に関して、どのような事情があるとブラック企業になるのでしょうか。
残業については、「ブラック企業」を議論するうえで中心的な問題ですが、実際に自分の会社がブラック企業かどうか自分では判断しにくい場合もありますよね。
この記事では、残業に関する「ブラック企業の基準」につき、以下の3つの事項から明確化していきます。
・残業時間
・年間休日日数
・残業代の支払いの有無
そして、あなたの勤めている会社がブラック企業である場合には、残業に対しては、以下の2つの対処を検討するべきです。
対処1:残業を減らすための対処
対処2:未払いの残業代を回収するための対処
日本の会社では、残業を軽視する会社が少なくありません。働き方改革により少しずつ改善が見られてきていますが、何ら問題意識を持っていない会社も未だ多いのです。
ブラック企業の過酷な残業を撲滅するためには、労働者一人一人が、残業に対する意識を変えていくことが大切です。
今回は、ブラック企業の残業時間の基準を説明した上で、あなたがするべき対処について解説します。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、自分の勤めている会社の残業に問題があるかどうか、どのように対処するのが適切かがわかるはずです。
残業時間の平均や生活、健康への影響については、以下の動画で詳しく解説しています。
ブラック企業の特徴や見分け方については、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次
ブラック企業の基準となる残業時間
残業時間は、ブラック企業の指標として大きな基準となります。
残業時間は、「法律を遵守する姿勢の有無」や「職場環境が健康に与える影響」を数字として見ることができるためです。
例えば、残業時間ごとの特徴を整理すると以下のとおりとなります。
これを踏まえて残業時間別のブラック度をまとめると以下のとおりです。
・月25時間以下【ホワイト】
・月25時間~月45時間【ブラック度:☆☆☆】
・月45時間~月80時間【ブラック度:★☆☆】
・月80時間~月100時間【ブラック度:★★☆】
・月100時間超【ブラック度:★★★】
それぞれの残業時間ごとのブラック度を順番に説明していきます。
月25時間以下【ホワイト】
残業時間が月25時間以下の会社は、比較的ホワイトな会社ということができます。
民間企業の調査結果によると残業時間の平均は、
とされているためです。
OpenWorks(旧VORKERS)が2007年7月~2014年5月に約6万8000人に行った調査では、平均残業時間は月47時間となっていました。
しかし、その後の調査結果によると、月の残業時間は2014年以降は減少傾向にあり、「2019年10月~12月」では、
となっています。
(出典:OpenWork 働きがい研究所「日本の残業時間 定点観測」 四半期速報)
1か月あたりの所定出勤日数が22日程度の方ですと、月に25時間の残業をすると1日あたりの残業時間は、1.13時間となります。
残業時間の平均については、以下の記事で詳しく解説しています。
月25時間~月45時間【ブラック度:☆☆☆】
残業時間が月25時間~月45時間の会社は、ブラックとも、ホワイトともいうことができません。
月25時間~月45時間の残業については、労働者と会社との間で36協定を締結して、その範囲内で命じる限りは、特に違法とはいえません。
36協定とは、労働者と会社との間で残業を命じるにあたり必要な事項を定めたものです。
36協定については、以下の記事で詳しく解説しています。
また、行政通達では、脳・心臓疾患発症と残業時間との関係について、発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性は弱いとされています。
他方で、平均的な残業時間よりも多くなっていますので、ホワイトとも言えないでしょう。
そのため、残業時間が月25時間~月45時間の会社は、ブラックとも、ホワイトともといえないのです。
残業30時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業40時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
月45時間~月80時間【ブラック度:★☆☆】
残業時間が月45時間~月80時間の会社は、恒常的にこのような残業時間が続くようであれば、ブラック企業といえるでしょう。
36協定を締結している場合であっても、残業を命じることができる時間の上限は、原則として、月45時間とされているためです。
ただし、例外的に、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等により、月45時間を超えて残業を命じることができるとされています。
また、行政通達では、脳・心臓疾患発症と残業時間との関係について、発症前1か月間ないし6か月間にわたって、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できるとされています。
そのため、月45時間を超える残業が恒常的に行われている場合には、違法である可能性が高く、健康にも悪影響が生じ始めますので、ブラックといえるのです。
残業50時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業60時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
月80時間~月100時間【ブラック度:★★☆】
残業時間が月80時間~月100時間の会社は、2~6か月を平均してこのような残業時間を超えているのであれば、ブラック企業といえるでしょう。
労働基準法では、例外的に月45時間を超えて残業を命じることができる場合でも、2~6か月を平均して80時間以内にしなければならないとされています。
また、行政通達では、脳・心臓疾患発症と残業時間との関係について、発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされています。
そのため、2~6か月を平均して月80時間~月100時間の残業が行われている場合には、違法である可能性が高く、過労死ラインを超えていますので、ブラックといえるのです。
残業80時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
月100時間超【ブラック度:★★★】
残業時間が月100時間を超える会社は、1か月でもそのような月がある場合には、ブラック企業といえるでしょう。
労働基準法では、例外的に月45時間を超えて残業を命じることができる場合でも、月100時間までが限度とされています。
また、行政通達では、脳・心臓疾患発症と残業時間との関係について、発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとされています。
そのため、1か月でも月100時間を超える残業が行われている場合には、違法である可能性が高く、過労死ラインを超えていますので、ブラックと言えるのです。
残業100時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業200時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
残業300時間の場合の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。
ブラック企業の基準となる年間所定休日日数
次に、ブラック企業の基準となる年間所定休日日数を見ていきましょう。
どの程度休日をとることができるのかということも、勤務環境の過酷さの重要な指標となります。
結論から言うと、1日の所定労働時間にもよりますが、以下の日数が一つの基準となります。
・年間所定休日日数が125日以上【ホワイト】
・年間所定休日日数が105日以下【ブラック】
年間所定休日日数が125日以上【ホワイト】
年間所定休日日数が125日以上の会社は、比較的ホワイトな会社ということができます。
一般的な、土日、祝日、夏季5日、年末年始(12月29日~1月4日)を休日とする会社の場合には、年間所定休日日数は125日前後となるためです。
年間所定休日日数が105日未満【ブラック】
1日の所定労働時間が8時間の会社において、年間所定休日日数が105日未満の場合には、ブラック企業の可能性がありますので注意が必要です。
労働基準法では、1週間の法定労働時間は、40時間とされています。
1日の所定労働時間が8時間とされている会社では、週5日働くと、40時間の労働となります。
そのため、多くの会社では、1週間の内、所定休日が2日程度設けられることになります。
1年間は、365日÷7日=52.14週あります。そのため、1週の休日が2日あるとすると、年間の休日は105日程度となります。
したがって、1日の所定労働時間が8時間の会社において、年間所定休日日数が105日未満の場合には、ブラック企業の可能性が高いのです。
残業しても「残業代なし」はブラック企業
残業をしても残業代の出ない会社は、ブラック企業です。
残念ながら、サービス残業が行われている会社が少なくない現状からは、サービス残業を軽く考えてしまいがちな雰囲気があります。
しかし、サービス残業は、違法です。
労働基準法上、残業をした場合には、残業代を支払わなければならないと規定されているためです。
労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
「使用者が、…労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
残業代について、よく悩まれる方が多い問題として以下の2つがあります。
・管理職に残業代なしはブラック?
・固定残業代はブラック?
それぞれの問題について説明していきます。
管理職に残業代なしはブラック?
結論としては、管理職に残業代が支払われない場合でも、直ちにブラック企業と言えるわけではありません。
ただし、実際には、経営者と言えないような「名ばかり管理職」を利用して、残業代の支払いをしない企業は、ブラック企業と言えます。
労働基準法上、時間外残業代や休日残業代の支払いが不要とされている管理監督者に該当するには、以下の3つの条件を満たす必要があると言われています。
・経営者との一体性
・労働時間についての裁量
・対価の正当性
実際には、管理職と言われている方のほとんどは、「名ばかり管理職」にすぎないというのが現状です。
もしも、自分が名ばかり管理職に過ぎないのではないか感じている場合には、一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。
管理職の残業代については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
固定残業代はブラック?
結論としては、固定残業代制度がとられている場合でも、直ちにブラック企業と言うことはできません。
固定残業代は、本来は、会社が効率的な処理を可能とする一方で、労働者にも安定した賃金の支払いが行われる制度であるためです。
ただし、固定残業代制度を利用して、法律上、支払わなければいけないとされている残業代よりも少ない金額しか支払わない会社は、ブラック企業である可能性があります。
固定残業代の本来の目的と異なっていますし、固定残業代の条件を満たさずに違法である可能性があるためです。
具体的には、以下のいずれかに該当する場合には、ブラック企業である可能性があるので確認してみてください。
☑基本給に固定残業代が含まれている場合で、固定残業代の金額が不明であるケース
☑役職手当などの名称で支給されている場合で、その手当に残業代以外の性質が含まれているケース
☑固定残業代が想定している残業時間が月45時間を大きく上回っているケース
☑固定残業代が想定する残業時間を超えて残業しても、差額の残業代の支払いがされないケース
ブラック企業が残業をさせる手口3つ
ブラック企業が労働者に残業をさせる手口には、例えば以下の3つがあります。
・タイムカードをつけさせない
・労働者が自主的に残業をしたことにする
・残業代の上限などの独自ルールを設ける
それぞれの手口について一緒に見ていきましょう。
タイムカードをつけさせない
ブラック企業が労働者に残業をさせる手口の1つ目は、タイムカードをつけさせないことです。
ブラック企業では違法な長時間労働が恒常化していることがありますので、その証拠が残らないようにしているのです。
タイムカードがないと、会社が正確な残業時間を把握することも難しくなりますので、十分な残業代も支払ってもらえません。
もしも、会社にタイムカードがない場合には、始業時刻や終業時刻付近で送付した業務メールを保存しておいたり、自分で業務時間をメモしておいたりするようにしましょう。
労働者が自主的に残業をしたことにする
ブラック企業が労働者に残業をさせる手口の2つ目は、労働者が自主的に残業をしたことにすることです。
つまり、ブラック企業は、実際は残業をせざるを得ない環境を作りながら、「労働者が残業をしていたことを知らなかった」、「残業を指示したことはない」などと、反論してくることがあります。
ブラック企業にこのような反論をされないためにも、以下のような証拠を集めておきましょう。
・会社からの残業に関する業務指示のメールやチャット、録音
・会社への残業に関する業務報告のメールやチャット、録音
残業代の上限などの独自ルールを設ける
ブラック企業が労働者に残業をさせる手口の3つ目は、残業代の上限などの独自ルールを設けることです。
ブラック企業でよくある独自ルールには、例えば以下のようなものがあります。
・月30時間を超える残業については残業代を支給しない
・残業代は月5万円までしか支払わない
・1日30分未満の残業については残業代を支給しない
このようなブラック企業の独自ルールは無効です。会社は、労働基準法よりも不利な独自ルールを作ることはできないのです。
そのため、もしも会社が独自ルールを作って十分な残業代を支払わない場合には、弁護士に相談することを検討しましょう。
ブラック企業の残業に対する2つの対処
ブラック企業の残業に対しては、大きく分けて以下の2つの対処をすることが考えられます。
対処1:残業を減らすための対処
対処2:未払いの残業代を回収するための対処
それぞれの対処について説明していきます。
対処1:残業を減らすための対処
残業を減らすための対処については、どの程度の残業時間があるかによって変わってきます。
残業時間ごとに以下の対処法を試してみましょう。
①業務の効率化は、例えば繰り返し行う業務などの時間を短縮できないかを検討してみましょう。
②終業時刻後に予定を入れることで、定時までに仕事を終わらせるモチベーションをあげることができます。
③自分の力で解決できない場合には、上司に相談してみることも有用です。残業が多いことによりどのような支障が生じているのかを具体的に伝えるのがポイントです。
④これまでの未払い残業代を請求してみることも、会社が将来の人件費を抑えようとするきっかけになります。
⑤現在の会社の環境を改善することが難しい場合には、転職してしまった方が早いこともあります。特に、残業が100時間を超えるような会社では、その体質から環境の改善が困難なことが多いので、転職も積極的に検討しましょう。
残業が月45時間を超える場合には、違法となる可能性がありますので、⑥残業を拒否すること、⑦労働基準監督署に相談することも視野に入れるべきです。
残業が80時間を超える場合には、会社は労働者の求めに応じて、医師との面談を実施する義務がありますので、これも活用してみましょう。
対処2:未払いの残業代を回収するための対処
未払いの残業代を回収するための対処は、以下の順で行うことがおすすめです。
STEP1:通知の送付
STEP2:残業代の計算
STEP3:交渉
STEP4:労働審判
STEP5:訴訟
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
STEP1:通知の送付
残業代を請求するためには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・時効を一時的に止めるため
・資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
STEP2:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
STEP3:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
STEP4:労働審判
話し合いでの解決が難しい場合には、労働審判などの裁判所を用いた手続きを検討することになります。
労働審判というのは、全3回の期日で調停を目指すものであり、調停が成立しない場合には裁判所が一時的な判断を下すものです。
労働審判を経ずに訴訟を申し立てることもできます。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
STEP5:訴訟
交渉や労働審判での解決が難しい場合には、最終的に、訴訟を申し立てることになります。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の請求方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
ブラック企業への残業代請求は弁護士に任せよう
ブラック企業への残業代請求は、弁護士に任せることがおすすめです。
ブラック企業は、残業代の支払いを免れるために様々な反論をしてくることがあります。
あなたの未払い残業代をしっかりと回収するためには、法律や判例、法的手続の知識が必要不可欠です。
特に、残業時間ついては、例えば2年分の残業代を請求する場合ですと700日を超える労働時間を計算することが必要ですので、慣れていないと大きな負担となります。
弁護士に依頼すれば、会社との交渉や煩雑な手続きを丸投げしてしまうことができます。
初回無料相談を利用すれば費用をかけずに相談することができますので、まずは見通しやリスク、回収に必要な費用などを確認してみるといいでしょう。
まとめ
以上のとおり、今回は、ブラック企業の残業時間の基準を説明した上で、あなたがするべき対処について解説しました。
この記事の要点を簡単にまとめると以下のとおりです。
・残業時間別のブラック度をまとめる以下のとおりです。
月25時間以下【ホワイト】
月25時間~月45時間【ブラック度:☆☆☆】
月45時間~月80時間【ブラック度:★☆☆】
月80時間~月100時間【ブラック度:★★☆】
月100時間超【ブラック度:★★★】
・ブラック企業の基準となる年間所定休日日数は、1日の所定労働時間にもよりますが、以下のとおりです。
年間所定休日日数が125日以上:ホワイト
年間所定休日日数が105日以下:ブラック
・残業をしても残業代の出ない会社は、ブラック企業です。
・「管理職に残業代が出ない場合」「固定残業代制度がとられている場合」について、直ちにブラック企業と言うことはできません。しかし、名ばかり管理職なのに残業代が出ない場合、固定残業代が条件を満たしていない場合や想定時間を超える際の差額の支払いがされない場合には、ブラック企業と言えるでしょう。
この記事がブラック企業の残業に悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。