管理監督者と管理職の何が違うのかがよくわからずに悩んでいませんか?
日常生活ではこれらの言葉を区別して使うことはあまりありませんよね。
実際に、ほとんどの会社では、管理監督者という言葉は使われず、単に管理職という言葉が使われており、両者は区別されていません。
しかし、法律上において、「管理監督者」か「管理職」の違いは、とても重要な意味があります。
なぜなら、労働基準法は、管理監督者に対しては、労働時間や休日、休憩に関する規定の適用をしないこととしているためです。
つまり、単なる管理職ではなく、管理監督者であるとされる場合には、時間外手当や休日手当が支払われなくなってしまうのです。
ただし、実際に、単なる管理職ではなく、管理監督者と認定されるには、かなり高いハードルがあります。
係長や課長、マネージャーなどの役職さえつければ、管理監督者に該当するというものではありません。
実は、多くの会社において、管理職とされている方々のほとんどは、管理監督者ではない、名ばかり管理職に過ぎないというのが実情です。
この記事で、管理監督者と管理職の違いを一緒に確認していきましょう。
今回は、管理監督者と管理職の違いについて解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、管理監督者と管理職でどのような点が異なるのかがよくわかるはずです。
管理職の残業代については、以下の動画でも分かりやすく解説しています。
目次
管理監督者と管理職の違い
管理監督者と管理職は、違います。
なぜなら、管理職には、管理監督者と名ばかり管理職の双方がいるためです。
つまり、管理監督者と管理職の関係を整理すると、管理監督者という概念は、管理職という概念に包摂されていることになります。
そのため、管理職に該当するからといって、管理監督者に該当するとは限りません。
これに対して、管理監督者に該当する場合には、管理職にも該当することになります。
「管理職」、「管理監督者」、「名ばかり管理職」のそれぞれの意味を整理すると以下の通りです。
【管理職とは】
管理職とは、事実上の概念であり、企業内で一定の権限を持ち、部下や売上等の管理をする役職にある者をいいます。一般的に、会社ごとに異なりますが、一定の役職以上になると管理職と扱われる傾向にあります。
【管理管理職とは】
管理監督者とは、労働基準法上の概念であり、労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。役職のみに捉われず裁判所が実態的に判断します。
【名ばかり管理職とは】
名ばかり管理職とは、会社から管理職と扱われている方のうち、管理監督者に該当しない方をいいます。
そして、管理職として扱われている方が、管理監督者に該当するか、名ばかり管理職に該当するかによって、労働基準法上の取り扱いが大きく異なってきます。
そのため、管理職として扱われている方は、自分が本当に管理監督者に該当するのか理解することが非常に重要なのです。
管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
管理者と監督者との違いが問題として挙げられることが稀にあります。
労働基準法が管理監督者を「監督若しくは管理の地位にある者」と規定しているためです。
つまり、「監督の地位にある者」か「管理の地位にある者」かいずれかに該当すれば、管理監督者に該当すると読めるため、管理者と監督者に違いはあるのかが問題とされるのです。
実務上は、管理者と監督者は区別せずに、管理監督者として一体的に判断される傾向にあります。
【管理者と監督者を区別する考え方】
立法当時(昭和22年3月11日から同月20日までの第92回帝国議会における審議)における、厚生省労政局労働保護課作成の「労働基準法案解説及び質疑応答」では、「第96問 監督又は管理の地位にある者とはどのような者を意味するのか。」という質問に対して、「答 監督の地位にある者とは労働者に対する関係に於て使用者のために労働状況を観察し労働条件の履行を確保する地位にある者、管理の地位にある者とは労働者の採用、解雇、昇級、転勤等の人事管理の地位にある者を云ふ。」と回答されています。
裁判例としては、労働基準法41条2号の判断基準につき、「経営方針の決定に参画し、あるいは労務管理に関する指揮命令権限を有する等経営者と一体的な立場にあるか否か」と判示したものがあります(東京地判平成9年8月1日労判722号62頁[株式会社ほるぷ事件])。
つまり、立法担当者及び平成9年の上記裁判例は、管理者と監督者を区別して説明していました。
【管理者と監督者を区別しない考え方】
行政通達は、管理者と監督者をとくに区別することなく、「監督又は管理の地位に存る者とは、一般的には局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべきものであること。」としています(昭和22年9月13日基発17号)。
また、裁判例としては、「この点、被告は、管理監督者とは、使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい、その職務の内容が監督か管理の一方に分類できない者でも、労働時間の管理が困難で、職務の特質に適応した賃金が支払われていれば、管理監督者に当たると主張するが、当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば、経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは、上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず、これを採用することはできない。」と判示したものがあります(東京地判平成20年1月28日労判953号10頁[日本マクドナルド事件])。
つまり、行政通達及び平成20年の上記裁判例は、管理者と監督者を区別せずに説明しています。
管理監督者と名ばかり管理職の見分け方
管理職の方は、以下の3つの条件を満たした場合には、管理監督者に該当するとされています。
これに対して、以下の3つの条件のいずれかを満たしていない場合には、名ばかり管理職にすぎないことになります。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
管理職とされている方であっても、これらの条件を全て満たしている方は、あまりいないのが実情です。
各条件を満たしているかについては、以下のチェックリストを利用して確認してみてください。
①経営者との一体性
☑経営会議に参加しているかどうか
☑経営会議に参加している場合には発言力
☑従業員の採用や配置についての決定権の有無
☑職務内容がマネージャー業務か現場業務課か
②労働時間の裁量
☑タイムカード登用により出退勤の管理がされているか
☑遅刻や欠勤等をした場合に給料が控除されるか
☑業務予定や結果の報告が求められているか
☑休日を自由に決められるか
③対価の正当性
☑その残業時間に比較して支給されている給料が著しく少ないか
☑他の労働者に比べて優遇されているといえるか
管理監督者の見分け方については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理監督者と名ばかり管理職の取り扱い5つを徹底比較
管理監督者には、労働基準法上の労働時間、休日、休憩の規定が適用されないと規定されています。
労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」
これによって管理職の方であっても、「管理監督者」と「名ばかり管理職」との間で労働基準法上の取り扱いに違いが生じてきます。
取り扱い事項5つを比較して整理すると以下の通りとなります。
それでは、各取り扱いについて順番に比較していきます。
比較1:労働時間
労働基準法32条では、労働時間は1日8時間、1週40時間までとされています。
労働基準法第32条(労働時間)
1「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」
2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
しかし、管理監督者には、この労働時間の規定は適用されません。
つまり、管理監督者には、1日8時間、1週40時間という労働時間の制限はないことになります。
これに対して、名ばかり管理職には、この労働時間の規定が適用されます。
つまり、名ばかり管理職には、1日8時間、1週40時間という労働時間の制限があることになります。
管理職の労働時間については、以下の記事で詳しく解説しています。
比較2:休日
労働基準法35条は、少なくとも週に1日の休日を与えなければならないとされています。
労働基準法35条(休日)
1 使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
しかし、管理監督者には、この休日の規定は適用されません。
つまり、管理監督者には、週に1日の休日を与えなければならないことにはなりません。
これに対して、名ばかり管理職には、この休日の規定が適用されます。
つまり、名ばかり管理職には、週に1日の休日を与えなければなりません。
管理職の休日については、以下の記事で詳しく解説しています。
比較3:有給休暇
労働基準法39条は、入社してから半年以上勤務した労働者に対して有給休暇を与えなければならないとしています。
労働基準法第39条(年次有給休暇)
1「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」
2「使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。…」以下略
この年次有給休暇の規定は、管理監督者にも、名ばかり管理職にも、いずれに対しても、適用されます。
管理監督者に適用が除外されるのは、労働時間、休日、休憩の規定だけであり、年次有給休暇の規定は除外されないためです。
比較4:休憩
労働基準法34条は、労働時間が6時間を超える場合には45分、8時間を超える場合には1時間の休憩を与えなければならないとしています。
労働基準法34条(休憩)
1「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」
しかし、管理監督者には、この休憩の規定は適用されません。
つまり、管理監督者には、労働時間が6時間を超える場合には45分、8時間を超える場合には1時間の休憩を与えなければならないことにはなりません。
これに対して、名ばかり管理職には、この休憩の規定が適用されます。
つまり、名ばかり管理職には、労働時間が6時間を超える場合には45分、8時間を超える場合には1時間の休憩を与えなければなりません。
比較5:残業代
残業代については、「時間外手当・休日手当」と「深夜手当」で、管理監督者と名ばかり管理職との間における取り扱いが異なります。
そのためこれらを区別して説明します。
時間外手当・休日手当
労働基準法37条1項は、時間外又は休日の労働について、時間外手当、休日手当を支払わなければならないとしています。
労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
しかし、管理監督者には、労働時間と休日の規定は適用されません。
そのため、管理監督者は、労働時間延長して時間外に労働したとされることも、休日に労働したとされることもないので、時間外手当と休日手当は発生しません。
これに対して、名ばかり管理職には、労働時間と休日の規定が適用されるためこの時間外手当と休日手当の規定も適用されます。
つまり、名ばかり管理職は、時間外又は休日の労働について、時間外手当、休日手当を支払われることになります。
深夜手当
労働基準法37条4項は、深夜(午後10時から午前5時まで)の労働について、深夜手当を支払わなければならないとしています。
労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
4「使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
この深夜手当の規定は、管理監督者にも、名ばかり管理職にも、いずれに対しても、適用されます。
管理監督者に適用が除外されるのは、労働時間、休日、休憩の規定だけであり、深夜手当の規定は除外されないためです。
名ばかり管理職が残業代を請求する方法
名ばかり管理職であるにもかかわらず、残業代が支払われていない場合には、これまで支払ってもらえていなかった残業代を遡って請求することができます。
しかし、会社側は、あなたが管理監督者に該当すると主張している以上、あなた自身が行動をおこさなければ、これを獲得することはできません。
具体的には、名ばかり管理職の方が残業代を請求する手順は、以下のとおりです。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
手順2:残業代の支払いの催告をする
手順3:残業代の計算
手順4:交渉
手順5:労働審判・訴訟
それでは、順番に説明していきます。
残業代請求の方法・手順については、以下の動画でも詳しく解説しています。
手順1:名ばかり管理職の証拠を集める
残業代を請求するには、まず名ばかり管理職の証拠を集めましょう。
名ばかり管理職としての証拠としては、例えば以下のものがあります。
①始業時間や終業時間、休日を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→始業時間や終業時間、休日を指示されていれば、労働時間の裁量があったとはいえないため重要な証拠となります。
②営業ノルマなどを課せられている書面、メール、LINE、チャット
→営業ノルマなどを課されている場合には、実際の職務内容が経営者とは異なることになるため重要な証拠となります。
③経営会議に出席している場合にはその発言内容や会議内容の議事録又は議事録がない場合はメモ
→経営会議でどの程度発言力があるかは、経営に関与しているかどうかを示す重要な証拠となります。
④新人の採用や従業員の人事がどのように決まっているかが分かる書面、メール、LINE、チャット
→採用や人事に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性がないことを示す重要な証拠となります。
⑤店舗の経営方針、業務内容等を指示されている書面、メール、LINE、チャット
→経営方針や業務内容の決定に関与しておらず、社長が独断で決めているような場合には、経営者との一体性を示す重要な証拠となります。
手順2:残業代の支払いの催告をする
残業代を請求するには、内容証明郵便により、会社に通知書を送付することになります。
理由は以下の2つです。
・残業代の時効を一時的に止めるため
・労働条件や労働時間に関する資料の開示を請求するため
具体的には、以下のような通知書を送付することが多いです。
※御通知のダウンロードはこちら
※こちらのリンクをクリックしていただくと、御通知のテンプレが表示されます。
表示されたDocumentの「ファイル」→「コピーを作成」を選択していただくと編集できるようになりますので、ぜひご活用下さい。
手順3:残業代の計算
会社から資料が開示されたら、それをもとに残業代を計算することになります。
残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。
手順4:交渉
残業代の金額を計算したら、その金額を支払うように会社との間で交渉することになります。
交渉を行う方法については、文書でやり取りする方法、電話でやり取りする方法、直接会って話をする方法など様々です。相手方の対応等を踏まえて、どの方法が適切かを判断することになります。
残業代の計算方法や金額を会社に伝えると、会社から回答があり、争点が明確になりますので、折り合いがつくかどうかを協議することになります。
手順5:労働審判・訴訟
交渉による解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた手続きを行うことになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働審判とはどのような制度かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
残業代の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
管理職の残業代請求はリバティ・ベル法律事務所にお任せ
管理職の方の残業代請求については、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
管理職の残業代請求については、経営者との一体性や労働時間の裁量、対価の正当性について適切に主張を行っていく必要があります。
また、残業代請求については、交渉力の格差が獲得金額に大きく影響してきます。
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まとめ
以上のとおり、今回は、管理監督者と管理職の違いについて解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
・管理監督者と管理職は違います。管理監督者という概念は、管理職という概念に包摂されています。管理職とされていても、管理監督者に該当しないことがあります。
・管理職の方は、以下の3つの条件を満たした場合には、管理監督者に該当するとされています。
条件1:経営者との一体性
条件2:労働時間の裁量
条件3:対価の正当性
・「管理監督者」と「名ばかり管理職」の取り扱い事項5つを比較して整理すると以下の通りとなります。
この記事が管理監督者と管理職の違いが分からずに悩んでいる方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
以下の動画も参考になるはずですので、是非、見てください。