未払残業代・給料請求

年間残業時間の上限は何時間?違法となるケース3つと上限超えの罰則

年間残業時間の上限は何時間?

残業が多すぎて年間残業時間の上限を超えているのではないかと悩んでいませんか?

年間残業時間の上限が何時間であるか」や「上限を超えたらどうなるのか」について気になりますよね。

結論から言うと、年間残業時間の上限は、原則として360時間とされています

ただし、臨時的な必要性のある場合ですと、例外的に720時間まで延長できることがあります

もっとも、管理監督者や一定の職種、変形労働時間制の場合には、それぞれ異なる規定がされていますので、通常のケースとは区別して検討する必要があります。

年間残業時間が上限を超えて違法となるケースとしては、例えば、以下の3つがあります。

ケース1:例外的な事情がないのに年間残業時間が360時間を超えるケース
ケース2:年間残業時間が720時間を超えるケース
ケース3:36協定で定めた年間残業時間を超えるケース

もしも、年間残業時間の上限に違反した場合には、労働基準法上、罰則が定められています。

また、会社は、年間残業時間の上限を超えている場合であっても、当然、その超えた部分について残業代を支払う義務を負います

会社によっては、年間残業時間の上限を超えていることを隠すために、上限を超えた部分について、残業時間として記録しないこともあるので注意が必要です

今回は、年間残業時間の上限について法律上のルールを説明したうえで、違法となるケースや罰則について解説していきます。

具体的には、以下の流れで説明します。

この記事を読めば、年間残業時間の上限についての疑問が解消するはずです。

 

 

 

 

年間残業時間の上限

会社は、36協定がある場合であっても、何時間でも労働者に残業を命じることができるわけではありません。

残業を命じることができる時間には上限があるためです。

以下では、

・年間残業時間の上限は原則360時間以内であること
・年間残業時間を例外的に延長できるのは720時間以内であること

の順で説明します。

~36協定がないと残業を命じることはできない~

会社は、36協定がない場合には、労働者に残業を命じること自体が違法となります。

36協定とは、労働者と会社との間で残業に関して必要な事項が定めた協定です。

会社は、残業を命じるには36協定で定めた事項を遵守する必要があります

36協定については、以下の記事で詳しく解説しています。

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年間残業時間の上限は原則360時間以内

年間残業時間の上限は、原則として、年間360時間以内とされています。年間360時間については、休日労働を含めず、時間外労働のみで数えます。

労働基準法では、36協定で定めることができる限度時間は、年間360時間までと規定されているためです。

労働基準法36条
4「前項の限度時間は、…一年について三百六十時間…とする。」

年間残業時間を例外的に延長できるのは720時間以内

会社は、予見することのできない業務量の大幅な増加がある場合には、例外的に、年間720時間以内の残業を命じることができる場合があります。年間720時間については、休日労働を含めず、時間外労働のみで数えます。

労働基準法は、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合に年間360時間を超えて労働時間を延長できることを認めているためです。

労働基準法36条(時間外及び休日の労働)
5「第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、…一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。…」

ただし、会社は、例外的に年間360時間を超えて、労働者に残業を命じるには、36協定に特別条項を定めておく必要があります

特別条項は、臨時的に限度時間を超えて労働時間を延長できる事由や時間等を定めた条項です。

~年間残業時間の起算日~
 

年間残業時間の上限を超えていないかを確認するには、どの時点から残業時間を数えるのかを確認する必要があります。

年間残業時間の起算日については、36協定に記載されているはずですので確認してみましょう。

年間残業時間の起算日

年間残業時間の上限に違反する3つのケース

年間残業時間が上限を超えて違法となるケースとしては、例えば、以下の3つがあります。

ケース1:例外的な事情がないのに年間残業時間が360時間を超えるケース
ケース2:年間残業時間が720時間を超えるケース
ケース3:36協定で定めた年間残業時間を超えるケース

それぞれのケースについて説明していきます。

ケース1:例外的な事情がないのに年間残業時間が360時間を超えるケース

年間残業時間が上限を超えて違法となるケースの1つ目は、例外的な事情がないのに年間残業時間が360時間を超えるケースです。

先ほど見たように、年間残業時間の上限は、原則として360時間とされており、これを超える残業が許されるのは、例外的な事情が必要です。

例えば、以下のように年間残業時間が360時間を超えているケースにおいて、36協定に特別条項が設けられていない場合や業務量の大幅な増加等の臨時的な必要性もない場合には、違法となります。

年間残業時間の違反となるケース1

ケース2:年間残業時間が720時間を超えるケース

年間残業時間が上限を超えて違法となるケースの2つ目は、年間残業時間が720時間を超えるケースです。

先ほど説明したように、会社は、例外的に年間360時間を超えて残業を命じることができる場合であっても、年間720時間以内とされています。

例えば、以下のように年間残業時間が720時間を超えるケースでは違法となります。

ケース3:36協定で定めた年間残業時間を超えるケース

年間残業時間が上限を超えて違法となるケースの3つ目は、36協定で定めた年間残業時間を超えるケースです。

36協定で定めた年間残業時間の限度時間等は、法律で可能とされている原則360時間・例外720時間よりも短い可能性があります

例えば、年間残業時間の限度時間が原則250時間と記載されている場合には、これを超える残業を命じるには、36協定に特別条項があることや臨時的な必要が認められることが必要となります。

年間残業時間の違反となるケース3-1

例えば、特別条項により例外的に延長できる残業時間の上限が500時間と定められている場合には、年間500時間を超える残業を命じることは違法となります。

年間残業時間の違反となるケース3-2

 

 

変形労働時間制のもとでの年間残業時間の上限

1年単位の変形労働時間制が採用されている場合には、年間残業時間の上限は、原則として320時間までとされています。

変形労働時間制とは、あらかじめ法定労働時間を超えて労働させることができる日や週を定めておき、一定期間において平均して週の法定労働時間を超えなければ、残業とならないとする制度です。

1年単位の変形労働時間制が採用されている場合には、年間を通じて労働時間を調整することができるので、年間残業時間の上限が本来の360時間よりも短く設定されているのです。

変形労働時間制については、以下の記事で詳しく解説しています。

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年間残業時間の上限と管理職

管理監督者には、年間残業時間の上限は適用されません

管理監督者には、労働時間や休日に関する規定は適用されないためです。

労働基準法41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」
二「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」

ただし、管理職であれば、常に年間残業時間の上限に関する規定が適用されないわけではありません。

管理職であっても、「管理監督者」に該当しない「名ばかり管理職」には、通常どおり、年間残業時間の上限が適用されるためです。

「管理監督者」と「名ばかり管理職」は以下の基準により区別されており、以下の基準を満たさない場合には、「名ばかり管理職」にすぎないとされる傾向にあります。

①経営者との一体性
②労働時間の裁量
③対価の正当性

管理監督者と名ばかり管理職については、以下の記事で詳しく解説しています。

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管理監督者とは何かについては、以下の動画でも詳しく解説しています。

 

 

年間残業時間の上限の適用が猶予・除外される職種

職種によっては年間残業時間の規定の適用が猶予・除外されているものがあります。

まず、年間残業時間の上限については、2024年3月31日までの間、以下の業種には適用が猶予されています。

①建設事業
②自動車運転の業務
③医師

建設事業については、2024年4月1日以降は、通常どおり、年間残業時間の上限の規制が適用されます。

建設事業の残業時間については、以下の記事で詳しく解説しています。

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自動車運転の業務については、2024年4月1日以降は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の残業時間の上限が960時間となります。

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医師の残業時間の上限については、以下の記事で詳しく解説しています。

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また、年間残業時間の上限については、以下の業種には適用が除外されています。

④新技術・新商品等の研究開発の業務

年間残業時間の上限を超えた場合の罰則

年間残業時間の上限を超えた場合には、労働基準法32条に違反することになりますので、罰則が適用されることになります。

具体的には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するとされています。

労働基準法119条 
「次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。」
一「…第三十二条…の規定に違反した者」

36協定違反の罰則の対象は、「法律に違反した代表者や上司」と「会社」です。

両罰規定と言って、会社の従業員が労働基準法に違反した場合には、違反した者だけではなく会社にも罰金刑が科されることがあるのです。

 

 

年間残業時間の上限を超えている場合の対処法

年間残業時間を超えている場合には、以下の手順で対処してみることがおすすめです。

手順1:上司に残業を減らしてほしいと相談する
手順2:残業を拒否する
手順3:労働基準監督署に通報する
手順4:転職する

年間残業時間の上限を超える場合の対処法

それでは、これらの手順について順番に説明していきます。

手順1:上司に残業を減らしてほしいと相談する

年間残業時間の上限を超えている場合の対処法の1つ目は、上司に残業を減らしてほしいと相談することです。

まず、長時間残業を改善するためには、会社にあなたの残業時間や困っている現状を認識してもらう必要があります。

あなたが現在どのくらいの残業をしていて、どのような支障が生じているのかについて、上司に伝えて改善を求めましょう。

例えば、「残業が月80時間を超える月が続いており、睡眠が十分とれず体調が悪い」など、具体的に伝えることで、上司もどのような対応するべきなのかを判断することができますので、配慮してもらいやすくなります。

手順2:残業を拒否する

年間残業時間の上限を超えている場合の対処法の2つ目は、残業を拒否することです。

年間残業時間の上限を超える残業を指示することは違法ですから、このような残業命令については、拒否することが考えられます。

例えば、「残業時間の上限を超えていますので、残業をすることはできません。」と明確に伝えましょう。

残業の拒否については、以下の記事で詳しく解説しています。

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手順3:労働基準監督署に通報する

年間残業時間の上限を超えている場合の対処法の3つ目は、労働基準監督署に通報することです。

年間残業時間の上限を超える場合には、労働時間の上限を規定した労働基準法32条に違反することになります。

そのため、労働基準監督署に通報することで、調査や指導をしてもらうことができる可能性があります。

ただし、労働基準監督署は、通報をすれば必ず調査や指導をしてくれるわけではありません

労働基準監督署に通報するには、直接労働基準監督署に面談に行き、自分の名前と会社の名前を伝えて行うことがおすすめです。信頼できる情報として動いてもらいやすくなるためです。

労働基準監督署へ通報する方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

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手順4:転職する

年間残業時間の上限を超えている場合の対処法の4つ目は、転職することです。

上記手順1~3を試しても残業時間が減らない場合には、会社に法令順守の意識が欠如している可能性があり、労働環境を改善することが容易ではないためです。

ブラック企業の特徴については、以下の記事で詳しく解説していますので、転職活動をする際の参考にしてください。

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年間残業時間の上限を超える場合も残業代は請求できる

会社は、年間残業時間の上限を超えている場合であっても、当然、その超えた部分について残業代を支払う義務を負います

残業代については、以下の方法により計算します。

残業代の計算式と5つのステップ

残業代早見表を作成しましたので、確認してみてください。

残業代早見表

また、以下のリンクから簡単に残業代チェッカーを利用することができます。

残業代の計算方法については、以下の記事で詳しく説明しています。

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残業代の未払いは弁護士に相談しよう!

残業代の未払いがあるのではないかと感じた場合には、弁護士に相談することがおすすめです。

弁護士に相談することで「未払い残業代の有無」や「残業時間の違法性」について、助言をしてもらうことができます

また、弁護士に依頼すれば、残業代の計算や会社との交渉を丸投げしてしまうことができます。

初回無料相談を利用すれば、費用をかけずに相談することができますので、これを利用するデメリットは特にありません。

そのため、残業代の未払いに悩んだら、まずは弁護士に相談してみるべきなのです。

まとめ

以上のとおり、今回は、年間残業時間の上限について法律上のルールを説明したうえで、違法となるケースや罰則について解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

・年間残業時間の上限は原則360時間以内(変形労働時間制のもとでは320時間以内)です。臨時的な必要がある場合に例外的に延長できる場合でも、年間720時間以内です。

・年間残業時間が上限を超えて違法となるケースとしては、例えば、以下の3つがあります。
ケース1:例外的な事情がないのに年間残業時間が360時間を超えるケース
ケース2:年間残業時間が720時間を超えるケース
ケース3:36協定で定めた年間残業時間を超えるケース

・管理監督者には年間残業時間の上限は適用されませんが、名ばかり管理職にすぎない場合には通常どおり年間残業時間の上限が適用されます。

・年間残業時間の上限については、2024年3月31日までの間、以下の業種には適用が猶予されています。
①建設事業
②自動車運転の業務
③医師

・年間残業時間の上限については、以下の業種には適用が除外されています。
④新技術・新商品等の研究開発の業務

この記事が長時間残業に悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日
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